あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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中高年の再就職支援の現場に立ち会って感じる、大企業早期退職者の優秀さ

【2016年7月19日更新】

かるび(@karub_imalive)です。 

僕の前職はIT企業での採用担当でした。その中で非常に力を入れていたのが、大企業を早期退職したベテラン中高年の採用でした。

リーマン・ショック以降、大企業での事業整理やM&Aに伴う人員整理が盛んになったためか、定期的に中高年が採用市場に出てくるようになっています。

特に、中小企業で人材が欲しい採用関係者の間では、先日台湾の鴻海精密工業に買収された「シャープの人材を狙おう!」というのが合言葉になっています。

上記記事を見ると、断続的に輩出されたシャープからの希望退職者3,000人のうち、1年たっても20%弱がまだ次の仕事が見つからない、という内容です。こういった時、新聞やマスコミの論調は非常に悲観的なものになりますよね。

でも、僕がこれを一読した時に思ったのは、「さすがシャープ。みんな優秀だ。1年以内に80%は再就職できているよね。」という感想でした。

世の中の再就職率よりもよほど優秀な数値

ちょっと単純比較するのは乱暴かもしれませんが、2015年度の日本の全人口の失職者の1年以内の再就職率が50%を切っている、という統計データがあります。それに対して、シャープ出身者は、1年以内の再就職率は80%以上。単純な数値比較だけで見ると、やはり優秀な成績です。

大企業を希望退職/肩たたきされる中高年は、決して無能ではない

僕の前職は、都内の300名程度の中堅規模のITシステム開発企業で、これから上場を目指して会社の業容拡大中でした。業種・職種的に決して人気がある方でもないので、とにかく優秀な方であれば、多様な働き方を許容した上で、女性・中高齢者・障害者人材の採用拡大を図っているところでした。 

特に中高年層を採用する際は、プロジェクトを回せる技術系のプロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャーとしての経験豊富な人材をターゲットに、再就職支援会社や産業雇用安定センターなんかに相談しに行きます。 

そうすると、例えば日本を代表するような製造業の会社(Pナソニック、N◯C、H立、F士通等々)から次から次へとターゲット人材を紹介して頂けます。そして、実際に彼らと採用担当としてお会いすると、これが結構良い人材であることが多いんです。 

僕も、大企業を早期退職した(あるいはせざるを得なかった)人たちを採用しませんか?と再就職支援該社から一番初めに提案を受けた時、正直な所少し懐疑的な気持ちを持っていました。「会社で余った人たちだから、きっと人間性に問題があったり、能力が低かったり、コミュニケーションに難があったりするんだろうな~」と。

今から思えば本当に偏見に満ちていて申し訳なかったと思うのですが、世間で「リストラされた人」のステレオタイプに毒されていたと思います。

しかし、一人ひとりお会いしてみると、これがいい意味で期待を裏切られたのでした。お会いして、一人ひとりの話を聞いていく内に、「意外に良い人材がいっぱいいるじゃないか?」と感じるようになります。その理由とは・・・

大企業の中高年早期退職者が世間のイメージとは違い、「良い人材」である3つの理由

理由1:コミュニケーション能力の高さ

まず、コミュニケーション能力の観点から見ると、ほぼ全員がまず面接の場でしっかりと自分の経歴や職歴をきちんと説明できます。普段若手転職希望者との面接では、20代男子の半分以上がまともに面接で話せないのとは大違いで、お話しを伺っていても安心感・安定感があります。 

理由2:プロジェクト管理能力

次に、やはり産業ピラミッドの頂点である大企業で働いていた人材はなんといってもプロジェクト管理には長けている人材が多いのです。さすがに外注管理ばっかりしてて、技術は空洞化している嫌いはあるものの、プロジェクトの結節点として下請会社や自社人員をまとめ上げてプロジェクトを動かした経験がある人が非常に多い。

そもそも中小企業では、大規模なプロジェクトのリーダーとなって、プロジェクト全体をマネジメントする機会などほぼ皆無ですから、彼らの経験は非常に魅力的です。今後さらに成長を目指していく中小企業側から見ると、こうしたノウハウを持っている人材を外部から入れていくことは非常に重要であります。 

理由3:温厚で組織に馴染みやすい人が多い

3点目として、性格が温厚でいい人が多いということです。僕も一時期大企業で勤務していたからわかりますが、大企業というところは、やはり40代以降はどうしても生き残りをかけた出世競争の場となっていくわけです。課長、部長と昇進していくにつれて、その椅子は少なくなっていきますから。

したがって、会社が厳しい局面を迎えると、まず大企業内で生き残れるのは、要領がいい人です。仕事のできるできないよりも、社内人脈を上手くおさえていたり、上司から可愛がられていたりする、そんな「抜け目なさ」が案外利いてくるものです。

再就職支援での面接において感じる印象は、「実直・素直・温厚・一途」といったイメージなのです。それは、いわゆる世渡り上手な抜け目なさ、とはどちらかというと対極的な印象なのですよね。

「仕事ができなかった」「コミュニケーションが苦手だった」のではなく、実直で社内政治や抜け目なさがなかったため、大企業内での出世競争を勝ち抜くことができず、希望退職やリストラ候補に上がらざるを得なかったんだなと。

実際、彼らと面談で話をしていると、その多くは新卒で入社し、しばらく途中までは順調にキャリアを築いてきているのですが、どこかしらで社内政治をうまく立ち回れず閑職に追われた、とか社内で傍流になってしまった製品開発プロジェクトに配属され、製品の開発中止と共に自分も再就職支援対象になってしまった・・・とか、運が悪かったり社内の立ち回りで出世組に遅れを取ってしまっているのです。

再就職を阻む最大のボトルネックは収入の減少

冒頭のシャープの「退職1年後でも再就職率は80%」の記事に戻ります。

こうして見てきたように、基本的には優秀であり、かなりひっぱりだことなる大企業の早期退職者ですが、それでは、残り20%が再就職できなかった理由はどこにあるのでしょうか?

これは「能力不足」ではなく、「給与待遇面でのギャップ」にあると考えられます。大企業と中小企業の賃金差は、思ったよりも大きいのです。

例えば、大企業の場合、ラインから少し外れた閑職であっても、40代後半~50代くらいの人材は普通に年収800万~1200万程度は確保できている。一方で、彼らを受け入れる中小企業側の実情はどうなのか?というと、会社の経営層であっても社長以外はみんな500万、600万、平社員クラスだと300万~400万程度です。

正直、これは非常に大きいギャップです。

だから、たとえ受入面接結果はOKであったとしても、その後の条件交渉の段階で賃金面で折り合えず、入社NGとなってしまうわけです。 

大企業でこれまで勤めてきた人たちは、妻子等、扶養家族がいることが多いです。奥さんは専業主婦や安いパート位程度にとどまり、実質上収入源が本人の給与収入のみである場合が多いです。大企業に勤める際に、ある意味最適化されたフォーメーションとも言えます。また、ちょうど子供が教育にお金のかかる時期に差し掛かっていることがよくあります。したがって、現在の生活水準や家族状況から、賃金を落としたくても落とせない状況にあるのです。

受け入れ側の採用担当としては、彼らが、例えば今年俸800万円もらっていたとしても、「希望給与は現状維持ですね。しかしまずは試用期間ということもあるので、申し訳ありませんが、400万円くらいではどうでしょうか?」と言わざるを得ない。それだけしか原資がないからです。

ここが、中高年の再就職における最大のボトルネックとなるでしょう。

もちろん、対策としては失業給付を受給できるうちに、生活水準を下げる、奥さんも収入を確保する、自分自身も副業を検討する、などいろいろと手はあるとは思います。ここは何とかしないといけないポイントですが、今回は紙面がつきましたので、分析のみにとどめておきますね。

まとめ

中小企業側の採用担当側から見ると、こういった大企業をリストラされた中高年者層の求職者リストは、実際に宝の山のように見えます。沢山の利害関係を整理し、自身の業務をマネジメントしなければならない大企業でのマネジメント経験というのは、中小企業にいては絶対に身につかないもの。

こういった、大企業特有の管理能力を持った人材やそのノウハウは、今後組織を拡大させ、大企業へと成長する志向を持った会社にはのどから手が出るほど欲しいものです。

しかし、そういった採用受け入れ側の熱意や採用意欲は、悲観的なストーリーを描き出したいマスコミにはあまり届かないのですよね。だから、このエントリーでは、中小企業がわからみた景色や温度感を書いてみたかったのです。

たった今、こうしてブログを読んでいる人の中にも、まさに当事者のような求職中の方もいらっしゃるかと思いますが、是非、今までの自分の業務経験やノウハウに自信を持って再就職に臨んで頂ければと思います。

それではまた。

かるび