あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【マンガ書評】 15年遅れで高橋しん「最終兵器彼女」を一気読みした感想を書くよ

かるびです。

秋の夜長は読書・・・ですが、最近Kindleでマンガばかり読むようになりました。今日は、金曜日に全7巻一気読みした高橋しん「最終兵器彼女」のレビューを書いてみたいと思います。

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ビッグコミックスピリッツにて2000年1月~2001年7月まで連載と、すでに15年前の作品なので相当な後追いです。当時はかなりの人気だったらしいですが、当時マンガとかあまり読んでなかったので当時のことはよくわかりません。

デビュー作品「いいひと。」の時のほんわかとした雰囲気のラブコメ、ホームドラマを予想していましたが、いい意味で期待を裏切られました。絵柄はそのままですが、世紀末SF的な世界観で、かつ、恋愛の中でかなりの性的表現をストレートに描き込んで来たことに驚きました。青年誌ギリギリの表現かと。

以下、ネタバレですのでご注意を。まぁ15年も前の作品だからいいですよね。

あらすじ(思い切りネタバレ)

ストーリーのあらましとしては、いわゆるポストエヴァンゲリオン的なセカイ系SF恋愛ストーリーです。

何故か人間兵器となった、どじで「ごめんね」が口癖で気弱なクラスメイトのヒロイン「ちせ」とルックス的なスペックはイケメン寄りだが、ストレートに自分の気持ちを伝えることが苦手な主人公「しゅうじ」による二人のラブストーリー。

冒頭は、二人が付き合い始めた直後からスタート。

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世紀末的状況の北海道を舞台として、事態が徐々に絶望的になるにつれ二人が絆を強めていきます。

なぜ彼女が人間兵器となったのか、その背景や経緯、彼女の自衛隊との関係、地球を取り巻く戦況や地球の世紀末的な状況設定の具体的なディテールはぼかされたまま、しゅうじちせの非日常的な状況下で、終末に向けてストーリーが進んでいきます。

ちせは、自らに殺人兵器へと進化・成長していくことに悩み抜きますが、一方で人間としての等身大の17歳の女子として、しゅうじをどんどん好きになっていきます。

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大切な人と一緒にいたいけど、自分にはその資格がなく、また一緒にいると迷惑をかけてしまう、でも好きだから一緒にいたい・・・そんな切ない葛藤が最後まで続いていきます。

ストーリー中盤から、戦争のシーンは割と容赦なく残酷、詳細に描かれ、主人公の二人以外は、脇役、モブキャラを含め基本的にどんどん死んでいきます。
世界に不幸と悪夢をもたらす象徴であるちせが、「成長」して兵器へと近づいていく中、時折のしゅうじとの再会時には人間の心を取り戻し、安寧の時間を過ごす。
世界の破滅も、ちせの兵器化も後戻りできなくなった時、二人は駆け落ちするのですが、つかの間の二人だけの時間はあっという間に終わりを迎えます。
ストーリーはちせの兵器化=人間サイドとしての死を迎え、物語はクライマックスへ。そして性的表現も青年誌としては限界までクライマックスへ(笑)
そして、最終的には二人きりの世界へと移行してエンディングとなります。
ハッピーエンドだったのか、それともバッドエンドだったのかその解釈は読み手にゆだねられており、どっちともとれるようなエンディングでした。

感想

ストーリーの中でやたら性的表現が多いと批判があるようですが、その点は、以下の2点からむしろ良かったのではないかと思います。
1つは、逆にその生々しさが等身大の思春期の男女の恋愛をビビッドに描き出すことに成功していること。
もう1つは、人間の本能を描き出すことに成功しているからです。人間が自らの生存に危機が迫り来る極限的な状況では、本質的に「誰かとつながっていたい」「人のぬくもりが欲しい」感情が優勢になり生存本能欲求が亢進するのは自然なことだろうからです。(東日本大震災の直後、婚姻数が増加した統計データもありますよね)
むしろ、本作品が2011年の東日本大震災以前に描かれた作品であるにもかかわらず、地球の終末と悪化する戦時下にあっても何とか日常生活を営もうとする主人公の二人や庶民の様子などをリアルに描き出しており、非常に高い作者の洞察力に感嘆しました。

結論:お勧めの良作です。

絵柄が可愛くほのぼのしたタッチと、過酷な状況における心理描写のリアルさのギャップが妙に印象的だった良作。気持ちが落ち込んでいる時はダウナーな気分が加速する恐れはありますが(笑)、秋の夜長に何度も読み返したい、切なくて心動かされる作品です。全7巻と短めなのでまだ読んでない方は一気読み推奨です。
それではまた(*‘ω‘ *)
かるび