あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【小説感想】ビートたけし「アナログ」は北野映画を観ているような味わいの恋愛小説!

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かるび(@karub_imalive)です。

ここ1年ほど、集中的に映画を見て、その感想をブログにアップするようになりました。その過程で、小説を読む機会が随分増えました。といっても、手に取る小説は、映画原作モノやノベライズ作品がメインなのですが・・。映画が「主」で、小説が「従」といった感じで、今度公開される映画のために、予習・復習として、関連作品を読む、といったスタイルで小説に触れることが多いです。

先月、個人的に楽しみにしていた北野武監督の最新作「アウトレイジ最終章」が公開されました。そのレビュー記事を書くために、各種メディアで北野監督のインタビューをチェックしている時出会ったのが、この北野武監督が手がけた(ビートたけし名義)恋愛小説「アナログ」です。

▼小説「アナログ」の帯(オビ)f:id:hisatsugu79:20171016014100j:plain

書店の店頭で見て、帯に書かれたメッセージ「愛するって、こういうことじゃないか?凶暴なまでにピュア、初の書下ろし恋愛小説」とあったので、映画を見た後の勢いもあって、思わず衝動的に購入しちゃいました。 

早速ですが、簡単にレビューを書いてみたいと思います。(なお、レビューでは、軽く内容部分のネタバレにも触れています。何卒ご了承下さい)

1.ビートたけしは、なぜ初めての恋愛小説を書こうと思ったのか?

北野武に恋愛小説?という組み合わせ、非常に斬新だなぁと思います。もちろん、バイオレンス描写が主体の北野監督のこれまでの映画にも、恋愛要素はそれなりに含まれてはいました。「アキレスと亀」では、不器用な芸術家とその妻の、奇妙だけど純愛な関係が微笑ましかったですし、「HANA-BI」では、どこまでも寡黙な二人は海辺で美しく散っていきました。

でも、やっぱり北野武監督と言えば、「バカヤローコノヤロー」と怒号飛び交うヤクザ映画のイメージなんですよね。ここ最近は海外の映画賞に作品を持っていく度に、海外メディアから「キタノはもうバイオレンス映画しか興味が無いのか」と聞かれることが多くなってきたのだとか。

さすがに北野監督もこの状況に反骨精神が疼いたのか(?)「だったら、別の分野もちゃんとやれるんだってところを見せてやろう」ということで挑戦したのが、将来の映画化を念頭に、ゼロから自分で書き上げた恋愛小説「アナログ」だったそうです。

しかも、今回はなんと自分自身が初めて手書きで書き上げた事実上の処女小説だったそうです。これまでも、「少年」「菊次郎とさき」など、いくつか小説は出版していますが、口述筆記によってゴーストライター主体で仕上げたものだったそうです。(それをインタビューで堂々とばらしちゃうのも凄いけど・・・)

何でも映画では数秒で終わる情景描写も、ゼロから文章で説明しようとすると、数行に及ぶ説明文が必要で、今までとの勝手の違いにも苦労したのだとか。

2.感想:「キタノブルー」が漂う映画的な情景描写がたまりません!

小説は、ハードカバーの単行本ですが、170ページ弱と短めで、2時間もあれば読了できます。文体も口語体に近く、簡潔で非常に読みやすい印象。純愛小説として文学的な志向はあるものの、割りと文学的な凝った表現を多用する又吉直樹とは対照的でした。

そして、まず何よりも強く感じたのは、やっぱりキタノ映画の特徴が小説にもそのまんま出ているよなぁということ。北野武監督作品の独特の「キタノブルー」が好きな人は、絶対読んだ方がいいです!クライマックス~ラストにかけての描写は、まさに映画化されるために用意されたような、ゾクゾクするような情景美がシンプルな言葉で綴られていますから。

▼「キタノブルー」全開な表紙f:id:hisatsugu79:20171016014141j:plain

まず、表紙からしていきなり「キタノブルー」全開です。窓枠に写った雨粒の背景には、ちょっとくすんだ柔らかみのある「シアンブルー」の空が映っています。そして、自身の映画でもたびたび手がけるように、タイトルの「アナログ」の字は、ビートたけし本人のものです。

▼カバーを外してもやっぱりブルーでした(笑)f:id:hisatsugu79:20171016014342j:plain

もう、最初からこれを見た時から、期待がぐぐっと膨らんできたのですが、読み進めるとさらに納得です。

本作は、主人公の「悟」とヒロインの「みゆき」がアナログな出会いを重ねることで、純愛を深めていくストーリーなのですが、その重要な場面が、やっぱり「ブルー」に彩られた空間なんですよね。

たとえば、二人の出会いのシーン。建築デザイナーの悟が内装・デザインを手掛けたカフェレストラン「ピアノ」、二人は偶然出会うのですが、このレストランの内装が、ブルー系なんですよね。この後も、二人は週に1度、「木曜日の夜」だけ、ここでデートを重ねていくのですが、映画化されたらきっと北野映画らしい情景美が広がることでしょう。

また、悟の最愛の母が亡くなった翌日、二人は海辺が見える東京湾の港へドライブデートし、よるの海辺での夜景の中、悟はみゆきに顔を埋めて泣き崩れます。この描写を見た時、「そうそう、海辺のシーンこそ北野映画だよな!」と、映画化されたら屈指の名シーンになりそうな情景を頭に浮かべて一人ニヤニヤしてしまいました。

そして、クライマックス。ネタバレになるので詳細は割愛しますが、それこそ、「ソナチネ」「菊次郎の夏」「HANA-BI」・・・「アウトレイジ最終章」と何度となく使われてきた「海」を効果的に使った「キタノブルー」全開の描写が待っています!たまらん!!

3.小説のテーマ「アナログ」とはどういう意味なのか?

小説のタイトルでもある「アナログ」という言葉。本作では、行動やコミュニケーションの取り方、恋愛観などが、この「アナログ」という一言に集約されるような登場人物たちがストーリーを彩ります。

例えば、主人公の水島悟は、今時珍しいデジタル機器嫌いです。悟の仕事はデザイナーなのですが、コンピュータでの支援ソフトを使ったデザイン検討やプレゼンテーションを嫌い、時間がかかっても、手作りのミニチュア模型の作成にこだわって、イメージを膨らませていきます。また、携帯電話は持ってはいますが、シンプルな通話以外ではLINEやSNSなどを使う場面はなく、たまに鳴ったと思ったら、着信音は三波春夫の「東京五輪音頭」だったりと、妙におっさん臭いのです(笑)

ヒロインのみゆきも同様で、主人公の悟に対して出会った時から好意は持っていたにもかかわらず、電話番号やLINEアドレスなどの連絡先を決して悟に教えようとはしません。その代わり、ふたりは木曜日の夜に「ピアノ」で毎週「思いが強ければ会えるよね」と非常にあいまいな口約束一つで、デートを重ねていきます。(それがまた、ミステリアスな女っぽくて物語的にもプラスなのです)

連絡先も教えあっていないので、当然、仕事の都合などもあって、二人が会えるかどうかも当日にならないとわからない。会える日はいいですが、会えなかった日は、どちらかがすっぽかされた形になるわけです。そんな日は少し「ピアノ」で待ってから、そのまま帰宅するというデートスタイル・・・。なんという古風さ、不器用さなのでしょうか。

しかし、よく考えたら、これって、つい20年くらい前には当たり前のことでした。携帯電話もパソコンも日常風景の中に存在しなかった1990年代以前は、皆がこの小説「アナログ」で描かれたようなスタイルに近い仕事の仕方だったり、コミュニケーションの取り方だったりで、日常を楽しんでいたのですよね。

木曜日の夜になってみないと、ちゃんと会えるかどうかもわからないというこのハラハラ感。また、日常的にLINEやSNSでやり取りができるわけではないので、主人公の悟は、デート当日まで頭のなかでぐるぐる考えたり、期待感をつのらせたりして、テンションを上げていきます。好きな人と会えるかどうかわからないという不安感や、早く会いたいという飢餓感。これこそが、インスタントな便利さと引き換えに、今の私達が失ってしまった「アナログ」なコミュニケーションスタイルのもたらす一種の「豊かさ」だったのかもしれないな、と思いました。

4.脇役たちとの漫才のような掛け合いや緩急のついた場面転換も非常に特徴的でした

また、緩急のついた場面転換や、悲劇と笑いが同居するような描写が小説の中で描かれているのも、北野映画ゆずりな一面を持っています。緊迫したシリアスなシーンにも、独特のユーモアが込められていたり、風刺の利いたブラック・コメディが場面場面でちょっとずつ入ってきたりするのは北野武監督の18番ですが、小説「アナログ」でもそんな作家性が大爆発します(笑)

全編を通して、悟には、山下と高木という腐れ縁の親友が二人いるのですが、この二人と悟の掛け合いは、ほぼ100%下ネタや風俗ネタか、ハゲ・ヅラ弄りといったビートたけしの漫談ネタばっかりで、まるで漫才を見ているようです。

また、作品中、田舎の老人ホームに入っている最愛の母が積年の過労から弱っていき、物語中盤で他界してしまうまでの流れはひとつのハイライトです。この一連の流れが、本当に泣けるのです。見舞いに行く度に、悟を女手一つで育ててくれた母親が弱っていくのがわかるのに、何もしてあげられないつらさ・・・。

・・・が、しかし、ずっとこのしんみりした調子が続かず、次の瞬間にこの場面がぐっと転換して、この3人のバカ話が始まってトーンが一気に変わるところなんかも、北野映画作品を見ているようでした。このあたりの描写も、著者独特の味わいかもしれません。

5.まとめ

2017年10月現在、映画「アウトレイジ最終章」が絶好調な北野武監督。次回作は、この小説「アナログ」の映画化となりますが、原作小説・脚本・監督・出演・編集まで自分で全部こなしてしまうマルチな才能、本当に凄いと思います。

多忙な中、大学ノート4冊分に書き溜めてきたアイデアを元に、初めて最初から最後まで自分の手で書き下ろしたという本作。北野映画を強く想起させる、切なくてピュアで、小ネタも満載な、作家性全開の小説でした。北野映画ファンには絶対のオススメです。映画化が待ち遠しくなりました!
それではまた。
かるび

小説「アナログ」と関連作品の紹介

発売後即重版で人気沸騰中?!小説「アナログ」

2017年9月22日に発売されて以来、文芸書ではベストセラーとなって、早くも話題沸騰中まずこれを一読してから、この後発表される映画と合わせて、北野武監督の描く「純愛」をいろいろな角度から味わいつくしたいですね。読み応えのある恋愛小説でした。

これ1冊で北野映画がわかる?!「映画監督、北野武。」

映画監督としてデビューして30年、これまで18作品を残してきた映画監督・北野武を誌上で総力特集した評論集。北野武監督本人や、長年の盟友、森プロデューサー、北野武作品の常連俳優などへのロング・インタビューを始め、映画評論家・文化人が北野作品を様々な角度から語り尽くした、力の入った硬派なつくりでした。分厚い本なのに、Amazonでベストセラーとなっており、本作のクオリティの高さがよくわかります。映画ファンにも大好評!

いつもの毒舌評論炸裂!「バカ論」

ビートたけし名義での書籍最新作は、いつもの毒舌全開の語り下ろし新著「バカ論」。ビートたけしが、政治家から芸人など古今東西の「バカ」な有名人をぶった切り!ここ最近、TVでは、自粛・忖度が進み、気の利いた毒舌も全て編集段階でカットされてしまっているようですが、新書では打って変わって元気(笑)まさに言いたい放題です!物事の本質に、ブラックユーモアたっぷりにズバッと切り込む語り口は未だ衰えず!痛快な読み物でした!