あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【見どころ徹底解説】醍醐寺展は主力の寺宝が勢揃い!仏像好きなら絶対外せない展覧会!【展覧会レビュー・感想】

かるび(@karub_imalive)です。

2018年秋、首都圏で開催される展覧会は、仏教美術展が大当たりです。東京国立博物館で開催中の特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」 、三井記念美術館で開催中の特別展「仏教の姿」など、美しい仏像をしっかりしたディスプレイで魅せてくれる展覧会が目白押しです。

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そんな中、今回紹介させて頂くサントリー美術館で開催中の「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」は、約15万点の文化財を所蔵する醍醐寺が、その寺宝の中から仏像・仏画・経典・書跡など、代表的なアイテムを選りすぐって展観する、力の入った仏教美術展となりました。

仏像好きならマストとも言える素晴らしい展覧会です。内容について取材させて頂きましたので、僕の感想を交えてまとめてみたいと思います。

※なお、本エントリーで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.醍醐寺展とは?(正式名称:「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」)

近年の醍醐寺は、「生かされてこそ文化財」というスローガンを掲げるなど、日本の有力な寺社の中でも、所蔵する文化財の保存・研究・公開に対して、非常に積極的なお寺のうちの一つです。

今回の展覧会「京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー」は、2016年に中国の2都市(上海・西安)にて開催され、合計約80万人の来場を記録して大好評のうち終了した中国巡回展での構成をベースに、日本での凱旋展的な位置づけとして開催される展覧会です。

2018年秋に東京(サントリー美術館)、2019年春に福岡(九州国立博物館)と2会場で開催されます。東京展での出展点数は、国宝34件、重要文化財43件を含む約100件。醍醐寺の主力となる国宝・重文級の仏像や仏画を中心に、平安時代から江戸時代まで、醍醐寺にかかわる貴重な史料・作品のいちばんおいしいところをたっぷり味わえる展覧会です。

2.醍醐寺について(簡単な基礎知識)

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引用:Wikipediaより

醍醐寺は、京都駅からタクシーで10kmほど西へと走った、山科盆地の西の外れの山の麓にある非常に大きな真言宗の密教寺院です。

醍醐寺が開かれたのは874年。開祖は、空海の孫弟子で、真言密教と修験道を学んだ理源大師聖宝です。

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聖宝坐像 吉野右京種久作 醍醐寺蔵

醍醐寺は、その後10世紀前半には醍醐天皇の手厚い庇護の下、上醍醐、下醍醐と敷地の拡大と建物の造営が進み、大寺院として発展していきました。

途中、応仁の乱で一旦没落しますが、16世紀末には豊臣秀吉が中興の祖・義演の復興事業を強力にバックアップし、見事に復興。塔頭・三宝院の整備や境内での歴史上名高いイベント「醍醐の花見」が開催されるなど、再び往年の賑わいを取り戻します。

現在は真言宗醍醐派の総本山、修験道当山派の本山として発展を続けており、1994年には、「古都京都の文化財」として世界遺産にも登録されました。

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醍醐寺三宝院庭園(2018年9月末撮影)

また、境内の土塀脇に植えられた優美なしだれ桜は非常に有名で、日本画の巨匠・奥村土牛が晩年に描いた《醍醐》は山種美術館の人気作品となっています。

3.音声ガイドは「見仏記」コンビのみうらじゅん、いとうせいこう!

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今回、音声ガイドのパーソナリティを担当したのは、仏像紀行番組「見仏記」シリーズを足かけ25年以上務める仏像マニアのコンビ、いとうせいこうとみうらじゅんのお二人。通常の音声解説に加え、要所要所で二人の軽妙な仏像トークを聞くことができます。その掛け合いは、「TV見仏記」でのお寺巡りのシーンそのまんま。臨場感たっぷりに収録されている音声ガイド、おすすめです。

ちなみに、みうらじゅんといとうせいこうの普段のテレビでの掛け合いはこんな感じです。まったりとした、力が抜けた二人のトークは、妙な中毒性があります。

実はこの日、音声ガイドを聴きながら作品を見て回っていたら、ちょうど記者会見前のおふたりが、僕の目の前に(笑)

▼みうらじゅん、いとうせいこうの両名、快慶を鑑賞中f:id:hisatsugu79:20181003121916j:plain

「あー、これ僕らが収録したやつだよね」「やっぱり快慶は凄いよね」とか、TVカメラが回っていないところでも、全く変わらない雰囲気で談笑しながら楽しそうに仏像を見ていらっしゃいました。お二人の音声ガイドを聴きながら、その本人たちが僕の目の前にいるという貴重な(?)体験をさせて頂きました^_^;

4.展覧会の3つのみどころと感想

本展は、どれを見ても凄い寺宝ばかりが並んでいて目移りするのですが、僕が展覧会を見てきて特に見どころだと感じたポイントを3つに絞ってみました。特に見てよかった作品の感想と合わせて、見どころを紹介します。

見どころ1:特に見ておきたいのは仏像!

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重要文化財 如意輪観音坐像 醍醐寺蔵

まず、入り口で出迎えてくれるのが、展覧会パンフレットでクローズアップされた「如意輪観音坐像」。開祖・理源大師聖宝がお寺を開いた際、まず最初に祀ったのが如意輪観音でした。ネット上の評判で「セクシーな仏像」との感想をちょくちょく見かけますが、優美さと妖しさが同居した不思議な雰囲気のある仏像です。

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重要文化財 如意輪観音坐像 醍醐寺蔵

こちらは、裏側まで回り込んでいろいろな角度から鑑賞が可能です。 

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重要文化財 不動明王坐像 快慶作 醍醐寺蔵

左手の縄、右手の剣、下唇を噛みしめるポーズは、いわゆる「不動明王」図像の「儀軌」に忠実に則ったオーソドックスなデザインです。しかしそこは快慶作品、真っ赤な瞳の玉眼や、人間に近いお顔立ち、光背部の立体的な表現など、細部までしっかり作り込まれており、大きさ以上に強い存在感を感じました。ちなみに光背の焔に、「迦楼羅」(火の鳥)の形をした焔が混じっています。探してみてくださいね。 

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国宝 虚空蔵菩薩立像 醍醐寺蔵

正面から見るとすらっとしたイメージですが、横から見ると意外にも寸胴で、お腹が出てがっしりした体型。お顔も含めて、平安初期の仏像っぽさを湛えています。よく見ると、さすが国宝らしく、衣紋のひだなど、非常に丁寧に細部まで作り込まれていて、制作に関わった仏師のレベルの高さがよくわかります。ぜひ、近寄ってじっくり見ていって下さい。小さいお像ですが、「さすが国宝!」と唸らされます。

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重要文化財 五大明王像 醍醐寺蔵

みうらじゅんさん&いとうせいこうさんもガイドで話していましたが、5体とも非常に目がでかい!!写実的というよりは、劇画タッチにデフォルメされ、激しさを全面的に表現した個性的な明王たちが、台座の上から巨大な眼力で「ぐわっ」とこちらを睨みつけてきます。この大きな眼で見据えられると、心の中まで見通されてしまうような気分になります。この迫力満点の五大明王の前で、昔の人々は崇敬の念を新たにしたのでしょうね。

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国宝 薬師如来および両脇侍像 醍醐寺蔵

上醍醐薬師堂の御本尊・薬師如来坐像と、その両脇に控える日光菩薩立像・月光菩薩立像です。真ん中の薬師如来坐像は、座った状態で像高が176.1cmあるので、正面に立つと非常に大きく感じます。どっしりした丸い顔立ちは、平安初期の仏像という趣があります。

見どころ2:仏画や障壁画なども、主力の寺宝がほぼ全部出展!

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国宝 五大尊像 醍醐寺蔵(展示期間:9月19日~10月15日)

不動明王を中心に、降三世・大威徳・軍荼利・金剛夜叉明王と揃うと圧巻ですが、驚いたのは状態の良さです。12~13世紀に制作されて以来、何度も国家鎮護・息災・増益等の儀式で本尊として使われてきたと思われますが、線描で描き込まれた確かな腕前がはっきり見て取れますし、光背の焔も真っ赤で非常に良い発色。鎌倉初期の大傑作だと思います。

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国宝 五重塔初重壁画両界曼荼羅図 旧連子窓羽目板断片
醍醐寺蔵(※会期中、面替えあり)

こちらも凄い!951年に完成して以来、五重塔は醍醐寺で唯一現存する創建当初の建築であり、京都で一番古い木造建築として有名ですが、これは、その中に収まっていた板絵壁画のうちの一つ。しっかりした形で健在です!よくぞ残ってくれたと思います。

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国宝 訶梨帝母像 醍醐寺蔵(展示期間:9月19日~10月15日)

こちらは、訶梨帝母像(かりていもぞう)といい、またの名を鬼子母神(きしもじん)といいます。元々は他人の子供を食べる鬼女でしたが、釈迦の働きかけにより改心し、一転して子供の守り神となりました。12世紀に描かれ、安産祈願のための修法で御本尊として祀られてきました。これも状態良く、細部までしっかり鑑賞できます。 

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松桜幔幕図屏風 生駒等寿筆 醍醐寺蔵

こちらは江戸時代の屏風絵。室内・野外を問わず、宴席の場で活用された可能性が指摘されています。パッと連想されるのは、醍醐寺を強力にバックアップした豊臣秀吉が開催した大イベント「醍醐の花見」です。本作は江戸時代に入ってから制作されましたが、生駒等寿は、「醍醐の花見」の伝承を念頭において制作したのでしょうね。

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三宝院内の障壁画 画・浜田泰介(2018年9月末撮影)
※本展には出展されていません

そういえば、三宝院にも、日本画家・浜田泰介氏が描いた「醍醐の花見」を連想させるだまし絵的趣向の障壁画が描かれていました。上記の生駒等寿の屏風絵とまさに同じ趣向で、伝承へのリスペクトを込めて描かれたと思われます。

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重要文化財 三宝院障壁画 竹林花鳥図(勅使之間)醍醐寺蔵
(展示期間:9月19日~10月15日)

こちらは、三宝院内で重文指定されている「勅使之間」に描かれていたオリジナルの襖絵です。普段、三宝院内で公開されているのはレプリカですが、結構直射日光が差し込んでいるせいか、先日僕が9月末に観に行った際は、レプリカでさえ劣化していました。展覧会で見たオリジナルのほうが状態が良いような気がします(笑) 

見どころ3:国宝連発!書跡や仏具も面白い!

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国宝 織田信長黒印状 醍醐寺蔵
(展示期間:9月19日~10月15日)

歴史上有名な武士たちの書状は、博物館・美術館に通い詰めるとそこそこ頻繁に観ることができますが、その中でもやっぱり信長の直筆書跡は格別な気がします。何が書いてあるのかは残念ながらわからなくても、何となく観るだけで気が引き締まりました。

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重要文化財 金剛五鈷鈴(一番左)醍醐寺蔵
重要文化財 金剛九鈷杵(真ん中)醍醐寺蔵
重要文化財 金銅輪宝羯磨文戒体箱(一番右)醍醐寺蔵
(一番右:展示期間:9月19日~10月15日)

こういった修法で使用される密教法具類も、細部まで非常に丁寧に制作されており、見どころ抜群。当時一流の仏師たちが日々の修行や法要で大切に守りついできたアイテムですね。

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金天目および金天目台 醍醐寺蔵

ちょっと珍しかったのが、こちらの「金」の天目茶碗。やはり連想されるのは、黄金の茶室を造った豊臣秀吉です。お寺の伝承によると、義演が秀吉の病気平癒のための加持祈祷を行った際、秀吉より褒美として与えられた天目茶碗なのだとか。醍醐寺の秀吉との強力な「縁」を感じさせる面白いアイテムでした。

5.混雑状況と所要時間目安

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さて、サントリー美術館の展覧会といえば、会期前半の落ち着きに対して、会期後半はうって変わって大混雑することがしばしばあります。今回は、展示アイテムも非常に秀逸なので、口コミで評判が広がりそう。場合によっては、会期後半は混雑するかも知れません。会期中、細かく展示替えも予定されていますので、できるだけ会期前半中にまず1回目を見ておくと良いでしょう。

所要時間は、60分~90分程度あればOKですが、本展を楽しみ尽くすなら、2回、3回と展示替えのタイミングで複数回足を運ばれることを強くおすすめします!

6.まとめ

9世紀の創建以降、その激動の歴史を刻んできた醍醐寺が、所蔵する国宝・重要文化財をはじめ、保有する貴重な寺宝は実に約15万点。その中から、絶対に見ておきたい寺宝約100件が厳選展示された今回の醍醐寺展。主力となる寺宝を惜しげもなく展示してくれた醍醐寺の本展にかける思いがよく伝わってくる強力な展覧会でした。

仏像や仏画といった仏教美術が好きな人は、絶対に観ておきたいこの秋オススメの仏教美術展です。是非、複数回足を運んでみてくださいね。

それではまた。
かるび

関連書籍・資料などの紹介

「週刊ニッポンの国宝100」第30号 醍醐寺特集

全40Pのうち、前半の20Pで醍醐寺の国宝建築や、「国宝」指定されている代表的な寺宝を高精細画像で一挙紹介。「醍醐寺展」で出展されている国宝仏像・国宝仏画のほとんどが掲載され、誌面で詳しく解説されています。

展覧会とのタイアップが明示されているわけではありませんが、掲載画像がほぼすべて展覧会に出展されているので、「醍醐寺展」の副読本としておすすめです。

新板 古寺巡礼京都「醍醐寺」

カラー写真で京都の有名な寺社を紹介するシリーズ書籍としてはベストセラーの1冊。広大な敷地を持つ醍醐寺や、寺宝、庭園などの見どころを紹介しつつ、醍醐寺の成り立ちから今日に至るまでの激動の歴史も学ぶことができます。

みうらじゅん いとうせいこう TV見仏記3

みうらじゅん、いとうせいこうが京都のお寺を訪問した回をまとめて円盤にした永久保存版DVD。このTV見仏記3で、醍醐寺に立ち寄っています。仏像を見る楽しさを教えてくれる、カジュアルな仏像紀行の決定版です。

展覧会開催情報

展覧会詳細:京都・醍醐寺ー真言密教の宇宙ー

◯展覧会開催場所・所在地
サントリー美術館
〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4
東京ミッドタウン ガレリア3階
◯アクセス(東京ミッドタウンまで)
・都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結
・東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路で直結
・東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
◯会期・開館時間
開催中~2018年11月11日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
10時00分~18時00分(入館は閉館30分前まで)
※毎週金・土曜日は
20時00分まで開館(入館は閉館30分前まで)
◯休館日
毎週火曜日(ただし11月6日は18時00分まで開館)
◯入館料
一般1500円/大学・高校生1000円
※中学生以下無料
◯公式HP
・サントリー美術館
 http://suntory.jp/SMA/
・展覧会公式サイト
http://daigoji.exhn.jp/

◯Twitter
https://twitter.com/sun_SMA

◯美術展巡回先
■九州国立博物館
2019年1月29日(火)~3月24日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。