あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

MENU

今年の速水御舟展は最強だからとにかく見て欲しい!早逝した天才日本画家を振り返る必見の回顧展!(山種美術館)

スポンサーリンク

かるび(@karub_imalive)です。

この秋は、特に土日は連日美術展に行ってはブログを書き、という生活スタイルになっています。さすがに、連日行きまくっているので当たり外れの波は結構でてきます。

そんな中、これはヤバい!最強だ!と思ったのが、「速水御舟の全貌」展。10月22日(土)の閉館後、美術ブログ「青い日記帳」のTakさんと山種美術館のコラボで企画されたブロガー内覧会に参加させて頂いたのですが、素晴らしい作品達と出会えました。

f:id:hisatsugu79:20161025220353j:plain

こんなに良いのであれば、ブロガー内覧会を待たずに、別途初日からガッツリ見ておけばよかった、と大後悔しております。それほど良かったのです。

今回の回顧展では、速水御舟の代表作や晩年の傑作がまとめて紹介されていて、見どころ満載でした。今日は、この速水御舟展の感想を書いてみたいと思います。

1.天才、速水御舟と今回の展覧会

さて、「速水御舟」といっても、残念ながら熱心なアートファン以外には、その存在は馴染みが薄いと思われます。展覧会後、帰宅して妻に「速水御舟って最高だわやっぱ。」と感想を言っても、残念ながら「ふーん。で、誰それ」という醒めた答えが返ってきました(笑)残念ながら、日本画はやっぱりまだまだマイナーなんでしょうね。

ということで、速水御舟について、まずは軽く触れておきたいと思います。

f:id:hisatsugu79:20161025220231j:plain

速水御舟(1894-1935)は、明治末期~昭和初期にかけて活躍した日本画家です。その代表作「炎舞」「名樹散椿」は、昭和期の美術作品では数少ない重要文化財に指定された銘品中の銘品。特に、「炎舞」は中学校や高校の美術の教科書に掲載されていることも多く、速水御舟はこの作品で歴史に名前を遺したといえます。

速水御舟「炎舞」
f:id:hisatsugu79:20161025220456j:plain

御舟は、江戸・明治期から連なる日本画の伝統をしっかり受け継ぎつつ、緻密かつ大胆な画風で、新しい日本画のあり方を目指して日本画界を引っ張りました。

わずか14歳で日本画の勉強を始め、1917年、23歳で第4回院展に出品した「洛北六題」が、日本画の巨匠、横山大観から激賞され、一気にメジャーな存在へと駆け上がります。早熟な天才でした。その後、40歳という短い生涯を通して作風を激しく変化させながら、その都度名作を生み出していきました。

ちょうど、2016年の春に大回顧展が開催された、「卑弥呼」「額田王」の絵で有名な安田靫彦とは盟友であり良きライバルであったといいますね。

さて、速水御舟と言えば、山種美術館です。保有する御舟のコレクションは、2点の重要文化財を含む120点以上。山種美術館を創始した故・山崎種二氏は、近代日本絵画の中でも、特に熱心に速水御舟を集めたこともあり、山種美術館では、毎年のように御舟を主軸に据えた企画展が開催されています。

今回の「速水御舟の全貌」展では、まず山種美術館所蔵の約60点をベースに、各地の美術館から借用した作品をあわせ、全部で81点が出展されています。速水御舟が画家としてデビューした10代のころから、絶筆となった40歳の時の作品まで、もれなく網羅された大回顧展といって良いでしょう。

2.速水御舟の人気作品がほぼすべて集結

f:id:hisatsugu79:20161025220741j:plain

ブロガー内覧会の質疑応答タイムで、山崎妙子館長(写真左)から速水御舟作品の歴代人気No.1~No.3を教えて頂きましたが、基本的には今回の展覧会に来れば、ほぼ全部の人気作品を見ることができます。

まず、人気ダントツ1位はもちろん、前述した「炎舞」。山種美術館の特別展示室で、照明を落として雰囲気を作り、「炎舞」シフト体制でゴージャスに飾られています。

f:id:hisatsugu79:20161025220456j:plain

本作品は、花鳥画や風景画といった伝統的な日本絵画のモチーフではなく、闇夜の中、炎に蛾が集まって乱舞するという妖しさ満点の画題と構図です。仏画のような様式美で彩られた炎に、全てこちらを向き、精密に描かれた蛾達が螺旋状に乱舞するさまは、写実性と抽象性が同居したような不思議な構図です。

そして、続いて人気No.2の「名樹散椿」f:id:hisatsugu79:20161025221127j:plain

琳派的な美しさを追求した屏風絵。ブロガー内覧会での山崎氏の解説で印象的だったのが、この屏風絵の背景の金地部分。「撒きつぶし」技法という、通常より手間がかかる緻密な金箔の塗り方により、しっとりとした均一で控えめな輝きが生み出されており、これも独特の魅力を生み出しています。

同じく、人気が高いのは屏風絵の力作「翠苔緑芝」f:id:hisatsugu79:20161025221450p:plain

(引用:http://www.haizara.net/~shimirin/nuc/OoazaHyo.php?itemid=5213

空間の余白を多めに残し、琳派的な装飾性を全面に出して描かれた花鳥画です。速水御舟の奥さんの実家に自生していた植物類などを全部描きこんで制作されました。とりわけ、右隻のあじさいの絵の具の表現方法が他では見ないオリジナルな技法を使っており、御舟は、その技法について誰にも話そうとはしなかったそうです。

そして、衝撃の問題作「京の舞妓」がこちら。

京の舞妓(展示は11月22日~12月4日)
f:id:hisatsugu79:20161025221915p:plain

1920年に発表された、暗く不気味な顔つきが不気味な衝撃の作品。早逝した師匠、今村紫紅の遺志を受け継ぎ、徹底的な写実性を追求し日本画の伝統を打ち壊そうとした意欲作でした。

しかし、3年前に激賞された横山大観からは、「見当違いの努力」と手のひらを返したような痛烈な批判を浴び、全く評価されませんでした。さらに、怒った大観から、危うく日本美術院を除名されそうになります。(最終的には盟友・安田靫彦らの尽力により回避されました)

京都で舞妓の元に1年以上通いつめて「人間の浅ましさを顔の表情に表現しようとした」意欲作でしたが、作品が酷評され、半ばトラウマとなったため、それ以後、約10年ほど人物画は御舟にとって唯一の苦手分野となりました。

3.時代とともに大きく変わった作風

御舟にとって、絵画は自己探求そのものでした。彼は、その短い生涯の中で、晩年まで作風を変え続けました。その分類は諸説ありますが、僕がピンときたのは、予備校講師・タレントの林修がTV番組「林先生の痛快!生きざま大辞典」2014年12月の放送で御舟を取り上げた際に分類した4区分。明快で良いと思います。

・第1期:南画風の青年時代
・第2期:写実を追求した時代
・第3期:装飾的構成主義の時代
・第4期:院体画風の時代

ただ、実際に展覧会で作品を見てみると、実際は、第◯期と、明確に区分できるわけではなく、作風は行ったり来たりを繰り返しました。本エントリでは、林修の区分を、作品のタイプとして分類するために活用し、便宜的にこの4つのタイプ別に、展覧会に出品されていた作品を順番に紹介していきたいと思います。

3-1.南画風の若年時代の作品

山科秋
f:id:hisatsugu79:20161025222718j:plain

御舟23歳の時、京都は山科の秋の風景を文人画風に描いた作品。初期の作品では、この作品が一番気に入りました。常緑樹の青さとすすきや柿の鮮やかなオレンジがマッチした秋らしいわびしい風景に見入ってしまいました。初期の作品では、この作品が一番お気に入りです。

洛北修学院村
f:id:hisatsugu79:20161025223404j:plain
(引用:Flickrより)

京都の洛北、修学院近辺の風景を「青」を全面に出して描いた作品。内覧会では、Takさんより「御舟、青の時代」とピカソの若年期「青の時代」にちなんで話されていましたが、御舟は、一時期狂ったように青に魅せられて描きこんだ時期がありました。この1枚だけ、まるで東山魁夷のようで、他の作品と作風が大きく違っているので面白かったです。

3-2.写実的な作品

白芙蓉
f:id:hisatsugu79:20161025224615j:plain

墨で描かれた枝葉に、芙蓉の花のみ着色され、ほんのり赤くクローズアップされた写実的な作品。葉や茎の質感の表現も見事ですし、達人の技でした。晩年の力作。

鍋島の皿に柘榴
f:id:hisatsugu79:20161025225001j:plain
(引用:http://www.art-information.ne.jp/artwiki/images/view/237

まるで洋画の静物画のようですが、ちゃんと絹本に普通に岩絵具主体で彩色された日本画なのです。洋画家も舌を巻く観察力と写実性。しかも、絵画の質感を重視したからなのか、よく絵を見ると上からの目線と、やや下からの目線、両方の視点が入っているのが面白いです。(上から見ると、皿の足は通常見えないが、あえて描きこまれている)

3-3.装飾的構成が目立つ作品

代表作「炎舞」「名樹散椿」などもこのカテゴリですが、もう一つ紹介しておくと、「京の舞妓」での酷評から12年後、再び人物画を模索していた御舟が取り組んだ大判の美人画は、構図の妙が心地よい作品でした。歌舞伎座が所蔵する作品。劇場で年中公開されているようです。

花の傍
f:id:hisatsugu79:20161025225718j:plain

実際には有りえなそうな犬の足の曲がり方、犬のボディの輪郭のところだけ朦朧体のように輪郭がぼかされているところ、女の頭上に咲くようにして広がった花など、優美さを全面に出して描かれた作品。12年後の進化、確かに感じます。

3-4.院体画風の作品

紅梅・白梅
f:id:hisatsugu79:20161025230658j:plain

西洋画の技法も取り入れ、日本画を壊す勢いで攻めていたと思ったら、一転して伝統的な中国南宋からの伝統的な院体画風の落ち着いた作品も手がけたり、本当にくるくると作風が変わるのが面白かったです。

4.神がかっていた晩年期の作品

速水御舟は、40歳にして腸チフスで惜しくも夭逝してしまいますが、30代後半~40歳絶筆までの数年間は、本当にハイレベルで神がかった作品を多数描いていました。展示後半部分で、その秀作が余すことなく展示されていますので、いくつか気に入ったものをピックアップしてみたいと思います。

4-1.牡丹花(墨牡丹)

f:id:hisatsugu79:20161025231155j:plain

葉や茎には着色し、牡丹の花の部分をあえて墨一色の濃淡、筆遣いで表現した傑作。幽玄な枯れた美しさが素晴らしかったです。この作品も、山種美術館での人気作品だそうです。

4-2.あけぼの・春の宵

2点ワンセットの作品。スマホ写真で、撮り方が拙いため曲がっていたり色合いがいまいちですが、ぜひ作品を見てもらえれば素晴らしさがわかります。ほれぼれするような幻想的な春の夜の情景を切り取った作品。

あけぼのf:id:hisatsugu79:20161025231937j:plain

春の宵f:id:hisatsugu79:20161025231940j:plain

4-3.円かなる月

御舟の最後の作品となった「円かなる月」。画像よりも実物が本当に素晴らしく、松の葉の質感やおぼろげな月の表情などは、美術館に足を運んで頂くのが一番です。松の木は脇に追いやられ、枝が左右から画面全体に伸びてきて、月が左下に配置してある構図も斬新で面白かったです。一つだけ赤くなっている葉も渋い趣向です。

円かなる月(絶筆)
f:id:hisatsugu79:20161025232520j:plain

(引用:http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/91/7ecf8a4d4e33b1dcfc023becf221db4a.jpg

5.まとめ

戦前を代表する洋画家、岸田劉生から「僕に君の技術があったなら、僕は世界一の画家になれたのに」と言わしめた早熟の天才、速水御舟。

写実を追求した技巧と、突き詰めた様式美は専門家やコレクターの審美眼にもかなうし、初心者が見てもその美しさや素晴らしさは解りやすく伝わる、すごい画家です。

後期の展示替えは11月5日から。入れ替えの目玉「京の舞妓」は11月22日から。僕も、もう一度今度はカメラなしで、じっくり作品と向き合ってきたいと考えています。最高の日本画展覧会でした。超おすすめ!!
かるび

展覧会開催情報

展覧会名:「速水御舟の全貌-日本画の破壊と創造」
会期:2016年10月8日~2016年12月4日
会場:山種美術館
公式HP:http://www.yamatane-museum.jp/
Twitter:https://twitter.com/yamatanemuseum

関連書籍など

一番は図録を購入するのが良いと思いますが、この東京美術の速水御舟ムック本も文句なくお勧め。代表作をもれなく美麗なカラーでコンパクトにまとめており、しかも手頃な価格で楽しめるのでイチオシです。