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あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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日本企業のインターンシップでは、なぜ実務を学べないのか

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かるび(@karub_imalive)です。

つい少し前に、MTRL社というベンチャー企業でのインターンシップの顛末を巡っての記事がはてなブックマークで注目を集め、話題になっていましたね。

インターンを雇って失敗した話。
インターンとして失敗例になってしまった話

それぞれブコメでは「搾取するな」とか「5時間も会議で拘束するなんて」など、やや感情的な意見が優勢でした。一連のエントリを興味深く熟読しましたが、元採用担当でいろいろな業界・会社のインターンシップを見てきた限りで言うと、MTRL社の社長さんは、それなりに頑張ってインターンシップに取り組んでいたと思われます。

本文を読むと、本格的なインターンシップとして、「実習」レベルを超え、実質上「労働」として、実務に深く参画させています。これに対して、きちんと労働の対価として給与を出しているため、法律的にはほぼ問題なし。(5時間も会議をやるのはアレですが)また、社員でもないのに3ヶ月間我慢して、スペック外の人材育成にも取り組んでいる。

そして、学生さんの満足度もそんなに低くないのですよね。中にいるインターン生側からの擁護エントリもあるし。(ひょっとしたらこのエントリ作成自体、インターンシップの課題であり、会社の半強制かもしれませんけどね?)

もちろん、この会社にも、1)社長さんのインターン生に対する要求水準が高すぎる、2)出来ない学生を3ヶ月間我慢して使うのはお互いに非効率だった、3)受け入れた学生を公の場で批判するのはイメージ戦略上損である

といった問題点はありました。

ただ、インターンシップにおける本来の社会的意義である「学生が社会人になる前に実務を経験する機会を提供する」という点では、しっかりとできていました。ベンチャーなので色々そのマネジメントにはアラはあったでしょうけど、それも含め、あけすけに学生と交流し、共に濃い時間を共有して実務に当たった姿勢は、間違っていなかったと思います。マッチングのプロセスや管理手法、契約期間を整理・改善すれば、次年度からはもっと良いプログラムになりそう。

では、他の大手企業や中小企業は、このMTRL社より、もっと高付加価値で意義あるインターンシップが運営できているのでしょうか?

結論からいうと、日本企業のインターンシップでは、「学生に実務経験を積ませる機会を提供する」ことがほとんどできていません。

では、なぜ学生は日本企業のインターンシップで実務を効果的・効率的に学べないのか、今日はそのあたりを少し考えてみたいと思います。

日本企業ではなぜインターンシップで実務をやらせないのか

その理由は、主に以下の4点が考えられます。

理由①:目的が「採用青田買い」へと変質してしまったから

数年前までは、「インターンシップ」は、企業側の社会貢献の一貫として学生や大学に対して無償で提供される社会活動であり、その副産物として学生とのマッチングがあるよね、という構造が、すくなくとも建前としてはしっかり根付いていました。

しかし、ここ数年、新卒採用市場がバブル期(1988年~1991年頃)を超える異常な「学生側売り手市場」へと傾いたことと、それを好機と見た「就職情報産業」各社による「インターンシップ市場でのマッチング」の商品化が加速していきました。倫理憲章強化により、学生の就活時期が後ろ倒しにズレた分、ビジネスチャンスを失った「就職情報企業」が考えだした、この苦肉の策は、超売手市場に苦しむ採用企業側のニーズにぴったり合致。結果として、ここ2,3年で大学3年生以下を対象とした「インターンシップ」ビジネスが立ち上がりました。

これにより、完全にインターンシップは「倫理憲章に抵触しない、合法的に学生へ早期接触ができる青田買いの機会」と変質してしまったのです。

例えば、経団連で取り決めた2016年度の'17新卒採用は、「2016年6月1日」採用解禁ですから、通常は、4年生の夏まではコンタクトできないわけです。それが、「インターンシップ」として接触するのであれば、その1年前から自由にコンタクトができますから、その間にツバをつけておけばいい。

実際、インターンシップを実施した4社に3社(73.7%の企業)は、インターンシップ生に声がけをして、積極的に内定出しをしている最新統計データもあります

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学情レポート【COMPASS】2015.11『企業・大学アンケート結果に見る 2017年卒採用の展望・2016年卒学生の状況』

したがって、日本企業は各社とも、インターンシップ自体はかつてない規模で熱心に取り組むようになったものの、あくまで第一義には「採用目的である」ため、「実務」にはそれほど取り組ませないのです。

理由②:泥臭い実務を見せると学生に引かれてしまうから

社会人になるとわかりますが、一部のベンチャー企業を除いて、若手社員の実際の仕事の現場っていうのは全く華やかなものではないですよね。一日中集金活動したり、ひたすら電話のアポ取りをしたり、Excelで集計作業をしてたり。

特に、大企業の場合は、華やかな仕事やプロジェクトは、予算規模も大きく、職種横断的な総合的なスキルが必要とされます。また、社内外の多数の利害関係者が複雑に絡み合う中、人脈や高度なコミュニケーションも要求される。そんな高度な業務が、未経験者にできるわけがありません。

したがって、インターンシップでも、まったく未経験の学生に回せる仕事といったら、地味な集計業務や電話とり、議事録作成といった初歩的なものしかなくなってしまいます。

しかし、若手が地味な下積み業務についているところを学生に見せてしまうと、「あぁ、この会社やばいよね?」と短絡的に勘違いされてしまうこともあるわけです。

実際、ある企業では、あえて泥臭い実務に学生を携わらせ、その企業の本質的な仕事を見せたら、失望の声がネット上や口コミで噂が広まり、翌年の応募者が減少してしまったケースも実例としてあるんです。

だから、泥臭い現場はできるだけ見せずに、無難に「擬似プロジェクト運営」だったり、「マネジメントゲーム」をやらせたり、本当に汚い裏側はみせないスマートな「工場見学」に終止したりするわけです。

理由③:コンプライアンス上見せられない業務が多すぎる

日本は、世界一情報セキュリティに過敏で、コンプライアンスにうるさい企業風土になってしまいました。

指紋認証やフラッパーゲート等での多重入退室管理に始まり、各種情報源・情報資産へのアクセス制限、GPSでの位置情報把握は当たり前。厳しい金融系企業に至っては、PCのキーストローク1つに至るまでログを取り、そのログを分析・監視する部署まで別にある始末ですから。

また、それら内部統制を規定する就業規則や、ISO9001、ISO27001といった企業資格により、しつこい内部監査と、そのチェック成績に連動する査定ポイントもあわせて導入されていたりするはずです。

そんながんじがらめの状況下、見ず知らずの学生に、顧客の重要情報や個人情報を取り扱う仕事には入らせるわけにはいきません。万が一インターンシップに来た学生がコンプライアンス違反を故意/過失にかかわらず起こしてしまった時、誰も責任を取れないからです。(誓約書等で学生側に責任を負担させるのは不可能ではないが、道義的には得策ではない)

ではそれら、機密情報を触らないような周辺業務の中に、単純作業の範疇を超える実務って何か残ってるでしょうか?・・・あまり、残ってなさそうですね。

理由④:新卒として入ってきてから教えたほうが合理的

学生側は、意識の上では「インターンシップはインターンシップ」「就活は就活」と割り切って考えています。基本的にはインターンシップ先へ入社するために実習を受けに来るわけではありません。企業側はその前提があるからこそ、あまり深く学生側への教育にコミットするメリットがないのです。

したがって、インターンシップは「入社前教育」ではなく、「社会貢献」や「学生との早期コンタクト」という位置づけにならざるを得ないのが現状です。

逆に、4月に新入社員として大量入社してくる新卒社員は、インターンシップで実務経験済みの欧米の学生と違い、全く実務をやっていないまっさらな状態で入ってくるため、全力で育成しなければ使える状態になりません。したがって、この段階で入社後の教育に一気にカネ・時間を投下することは必須となりますし、タイミング的にも一番合理的な選択肢となるわけです。

このような状況なので、インターンシップ中は会社説明・仕事説明に毛が生えた程度でお茶をにごしつつ、「この先はうちの会社を是非受けてね。続きは入社してご縁があったら教えてあげるね?」といったような感じになっちゃうわけですね。

実務を学ぶならベンチャー企業や中小企業がおすすめ

では、学生側が在学中に、純粋に「業務を学び、実務経験を積む」にはどのような会社をインターンシップ先として選べばいいのでしょうか?

僕の考えでは、本当に実務を学ぶなら、以下のどちらかがいいと思います。

おすすめ1:設立したばっかりの「ベンチャー企業」

ベンチャー企業の場合は、純粋に猫の手でも借りたい多忙な状況だったり、コンプライアンスに厳しくない会社が多く、社員も学生も一緒になってインターンシップ期間中は一緒に仕事をやる。本来のインターンシップに非常に近いわけです。

ただし、ベンチャー企業の場合は社長さんの労働法に対する理解が今ひとつだったり、無給にも関わらず成果物責任を押し付けてきたりする実質「ブラックバイト」状態な会社もあるようなので、そのあたりの見極めは絶対必要ですが。

したがって、事前に情報サイトや学校のキャリアセンター、先輩の体験談など、口コミで情報収集は絶対欠かさないようにしてください。

おすすめ2:地元密着中小企業

昔からインターンシップをやっている地元の中小企業には、良い実習先が多いです。こういった会社の場合、社長さんの善意で長年「地域社会貢献」の一環として細々と取り組んでおり、大学のキャリアセンターとパイプがガッチリ出来上がっているケースが多いです。あるいは、社長さんがその大学出身で、「大学への恩返し」という意味合いで継続しているケースもあります。

こういう会社でも、実務をたっぷりと学べるケースが多いですし、何年も学生を受け入れており、扱いにも慣れているので地味におすすめなのです。また、地味な故に、学生側の人気もなく、応募したらすんなり通ることも多いです。

問題点は、「枯れた」業種業態が多く、最先端の職業分野ではないことが多いことです。昔から、細々と地場で中小企業でやっており、新規性・発展性はあまりなさそうです。そのため、とにかく華やかな業態で働きたい!という人には、あまり向かないかもしれません。

まとめ

日本のインターンシップは、良くも悪くも長年の日本型「新卒一括採用」慣行に大きく影響を受けており、実務よりも型式先行で普及しました。そのため、近年は本来の目的である「学生への実務を通した職場体験」の提供という意義を見失いつつあります。

ただし、今後は東京大学でスタートした「秋季卒業」生が出てきたり、新卒枠が既卒5年以内まで拡大する動きが出たりと、ますます新卒一括採用以外に採用チャネルが多様化してくる流れにはなってくると予想されます。

そんな中、欧米型のインターンシップのように、3か月みっちり実務をこなした後、そのままその会社に入社する、といった形態もぼちぼち出てきてもいいんじゃないのか?と思います。

日本の各企業も、インターンシップをいつまでも青田買いとしてでなく、実務をきちんと見極めて相思相愛で入社させる、そんな中身のある取り組みに近づけていってほしいものですね。

それではまた。
かるび