あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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映画「セザンヌと過ごした時間」 ダニエル・トンプソン監督へのインタビューをさせて頂きました!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月2日から全国に先駆けて渋谷のBunkamuraル・シネマにて公開された映画「セザンヌと過ごした時間」初日から満員御礼となるなど、絶好調の滑り出しだそうです。映画で「セザンヌ」を扱う!ということで、早くから、熱心なアートファンの間で話題になっていただけのことはありますね。

そんな本作「セザンヌと過ごした時間」ですが、なんと!先輩ブロガーと映画会社の方のご厚意で、つい先日フランス映画祭が東京で開催された際、来日していたダニエル・トンプソン監督にインタビューする機会をいただくことができました!!

早速ですが、そのインタビュー内容を以下紹介したいと思います!

映画「セザンヌと過ごした時間」について

インタビュー記事の前に、簡単に映画「セザンヌと過ごした時間」について簡単に紹介しておきますね。

本作は、ピカソやマティスら、近現代絵画の巨匠たちに多大な影響を与えたポール・セザンヌと、19世紀フランス文学の代表格、エミール・ゾラの、生涯に渡る二人の偉大な芸術家の心の交流を描いた伝記映画です。

ゾラとセザンヌが同郷、エクス・アン・プロヴァンス出身であることや、二人の長年に渡る友情関係についてはわりとよく知られています。若くして小説家として大成功を収めたゾラに対して、最晩年になるまでその先進的な作風が評価されなかったセザンヌ。二人の対照的なキャリアと、その「格差」が生み出した葛藤・軋轢はドラマ性があり、映画向きの格好の題材です。

そんな本作を映画化したのは、恋愛コメディ映画で実績を積んできた、フランス映画界の巨匠、ダニエル・トンプソン監督。これまでの作風とは全く違うジャンルへの挑戦となりました。

僕も、事前に試写会で見ることができたのですが、映画内で映し出された南仏の美しい風景美や、セザンヌ・ゾラの生涯に渡る交流は見応え十分でした。二人が生前にやり取りした書簡の内容や、各種資料を丹念に読み解いたダニエル・トンプソン監督が、自らの想像力も交えて情感豊かに描き出した伝記映画は、熱心な映画ファンだけでなく、アートファンが見ても楽しめる仕掛けが用意されています。

ダニエル・トンプソン監督へのインタビュー

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インタビューの聞き手は、僕と、もう一人の先輩アートブロガー「青い日記帳」のTakさんの2人です。「ブロガー枠」として、わざわざ30分ほど時間を空けて下さいました。(※なお、一部質問事項は、映画の重大なネタバレ部分を含みますので、現時点では割愛させていただきました。映画公開から十分な日数が経過してから、当該部分を追記する予定です)

大きく変わった作風について


過去作「モンテーニュ通りのカフェ」

---今回、「セザンヌと過ごした時間」を見る前に、未見だった監督の過去作を見返してみたのですが、どの作品も、どことなくアートの香りがする映画ですよね?
ダニエル・トンプソン監督:そうなんですよ。日本でもアメリカでも、映画のティーチインをした時に、映画に出てくるロケ地が魅力的なので、実際に行ってみたい、という声をよく聞きましたね。

---今回、長年パートナーとしてきた撮影監督も代わりましたし、何よりも扱っているジャンルも代わりましたよね。
監督:私にとってもチャレンジでした。これまでは、現代社会を題材にしたコメディが多かったのですが、今回は時代物で深いテーマを扱っていますし、自分でもかなり力が入りました。

---ずっとこういった作品を撮りたかったのでしょうか?
監督:ずっとコメディをやってきたので、一度全然違うものをやりたいっていう要求は以前からあったんです。でも、確固たる計画があったわけではないんですよね。前回作品を撮ったところで、自然とそういう欲求が生まれてきたんです。

綿密に行った下調べの上に、イマジネーションを重ねていく楽しさもあった

---今回、初めて挑戦された「伝記映画」というジャンルで、特に力を入れたポイントはありますか?
監督:今回の作品を作り上げるには、3つのポイントがありました。1つ目は、リアリティを突き詰めた時、浮かび上がってくる事実を大切にすること。2つ目は、ゾラの問題作「制作」を読むことで得られたイマジネーション、インスピレーションです。「制作」で私が得た感覚を膨らませて脚本を作りました。そして、3つ目は私の想像です。これらをどのようにミックスして、一つの物語を作り上げていくのか、非常に工夫を要しました。でも、一方で、見えないオムレツを作るような感じで、わくわくしながら作り上げていきました。

---ラストシーンは、まるで二人を象徴するシーンでしたね。
監督:事実に基づいた、二人の仲を表す象徴的なシーンです。事実のないところで創作するのではなく、あくまで事実に基づいて、ひょっとしたら?という形でストーリーを作っていくのが非常にエキサイティングな作業だと思うんです。監督業としての醍醐味ですね。例えば、この映画の中盤で、セザンヌとマネが接触するシーンがあります。握手をしようと手を出したマネに対して、セザンヌが「私はしばらく手を洗っていませんから」という口実で握手を拒否するフレーズがありますが、あれは、どの伝記を見ても出てくる史実なんですよね。

印象派絵画のような、光があふれた美しい映像を作り上げた秘密とは?

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---ここから少しアートの話になりますが、キャスティングで苦労した点はありますか?
監督:ゾラもセザンヌも、若い時の写真を見ていますから、そのイメージに合った俳優を選びましたが、それほど苦労はしませんでした。なぜなら、現代のフランスの若者は、ひげをはやすのが流行しているからです。(※劇中で、ギヨーム・カネ扮するゾラ、ギヨーム・ガリエンヌ扮するセザンヌ、両者とも髭をしっかり伸ばしている)
だから、簡単にキャスティングできました。例えば、ファンタン・ラトゥールら昔の画家のファッションなんかは、今の若者にそっくりです。信じられないほど、今の若者と、19世紀後半の若者のファッションには類似性があるんですよね。
1860年代は、個人主義が爆発した時代だったんですね。1世紀後の1960年代も、やはり非常に若者たちが主張をし始めている。そういう意味で、歴史というものは100年毎に繰り返すものなんだと思います。同じことはアート面でも言えることで、アートの流行も100年毎に繰り返す傾向があるのかもしれませんね。

---作品の中に、絵画のワンシーンのような場面がありました。マネの「草上の昼食」やモネの「散歩、日傘をさす女性」など、印象派作家の有名作品を意識しながらシーンを作りあげていったのでしょうか?
監督:セザンヌの絵画を直接想起させるような風景は、描きたくなかったんです。なぜかというと、セザンヌっぽいイメージは映画には求めていなかったから。その代わり、印象派の画家の作品を通してあの時代の雰囲気を作り出そうとしていたんです。
クランクインする2年ほど前の準備期間、アメリカやフランスの美術館に行って、印象派の作品をくまなくチェックしました。気になった作品は、自分自身でも写真にとって持ち帰りました。結果として、分厚いフォトアルバムができあがるまでになりましたが、そういった資料は、美術チーフや衣装チーフといった制作陣に見せて、美術や衣装を考えてもらいました。
主に参考にした絵画は、モネ、マネ、カイユボットなどです。アメリカの印象派作家にも良い作品はたくさんありましたね。特にベルト・モリゾの「赤い帽子」は意識的に採り入れました。印象派の絵画の中でも、この「赤い帽子」はかなりの頻度で出てくるモチーフだからです。
色づくりでも楽しめましたし、美術考証や衣装を考えるのも楽しい作業でしたね。ピクニックシーンがありましたけど、あそこはモネのピクニックの絵画を参考にしました。マネではないんです。彼らは、そこでどんなものを食べていたんだろう。田舎風のパテとかパイ包みとかローストチキンとかそういうものを、今風のスタイルではなく、わざと昔のままで画面に登場させたりしました。本当に楽しくエキサイティングな体験となりました。

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---パリの暗い風景に対して、エクス・アン・プロヴァンスのシーン、ピクニックのシーンは明るく光があふれていましたが、それは印象派の絵画を意識しての画面づくりだったのでしょうか?
監督:あの時代の画家たちは、みんな光を求めて南仏に出かけて作品を描いているんですね。だから、どちらかと言うと彼らが惹かれた南仏の光を再現しようと思って意識しました。本当に素晴らしいですから、南仏の光っていうのは!

締めくくりに好きな作品を監督に聞いたところ、貴重なこぼれ話も?!

---ところで、監督の好きな絵画作品はなんですか?
監督:私の場合、タイミングによって、好きな作品や圧倒されるような作品って変わっていくんです。例えば、先日フランスのヴィトン美術館の企画展で見た、ロシアのシチューキンコレクションは素晴らしかったですね。モスクワやサンクトペテルブルグなど、海外に流出していた傑作が、フランスに里帰りしていたのですが、本当に素晴らしかったです。そこで見たゴーギャンの作品も、初見だったので新鮮でしたね。また、ピカソはどの時代の作品も好きです。

---最後の質問になりますが、日本の絵画作品では、どんな作品が好きですか?
監督:フジタ(藤田嗣治)です。実は、私の祖母が一時期彼と恋愛関係にあったので、彼の作品はよく知っているんです。

---!!!えっ!?これは凄いスクープですね!記事にしても大丈夫でしょうか?!(笑)
監督:いいですよ。数ヶ月前のニューヨーク・タイムズでもインタビューでそう答えていますから。私の祖母は、当時パリで画家たちと交流があったんですよね。もちろん、全部が恋愛じゃないですが、ラウル・デュフィとも恋愛関係にあったようです。

---!!!!ええっ!!?(驚きまくり)
監督:祖母は、フジタがパリに住んでいた時、ちょうど恋愛関係にあったのです。2ショットの写真もありますよ。若くてハンサムだったんですよね。彼は、今の私達が知っている通り、茶髪でメガネ姿。服装の着方もちょっと違っていました。彼が祖母に書いたフランス語の手紙もいっぱいあります。1920年台のパリの中でも、目立ってオリジナリティがありました。

---お祖母様も綺麗な方だったんですね。
魅力的で、セクシーな人でした(笑)そして、愉快で才気煥発な感じの人だったんです。いいボディしてました(笑)

---今日は、お忙しい中、ありがとうございました。最新作の核心部分や、映画作りに対する考え方、そして最後に驚愕の新事実まで、本当に中身の濃いインタビューをさせて頂き、本当に充実したセッションを持てたことに感謝いたします。

まとめ:インタビューを終えて 

最後は、監督のお祖母様がまさかのフジタの恋人だった・・・なんていうスクープも聞くことが出来て、気がついたら予定していた30分を軽くオーバーしていました。来日してから、連日インタビュー漬けでお疲れだったと思いますが、本当に最後までユーモアを持って気さくに対応していただいたのが印象的でした。

そして、やっぱり何よりも腑に落ちたのは、ダニエル・トンプソン監督のアートに対する本物の情熱ですね。過去作でも、アートに関連する様々なモチーフが映画中で描かれるなど、きっと造詣が深いのだろう、、と思っていましたが、アメリカの抽象表現主義作家から、印象派まで幅広く西洋絵画を愛していらっしゃいました。

これまで、ダニエル・トンプソン監督は、パリを舞台にしたお洒落でポップなラブコメ路線で、脚本家・監督家として、フランス映画界で確かな実績を残してきました。しかし、どの作品からもそこはかとない上品でアートな香りがするんですよね。祖母はフジタを始め、芸術家との交流があり、父が国内有数のアートコレクターだったダニエル・トンプソン監督にとって、本作は、いわば自分自身のルーツに原点回帰する節目の機会だったのかもしれません。

是非、南仏の美しい風景の中で、ゾラとセザンヌが歩んだ二人だけの友情の形の、その結末を映画館で味わっていただければと思います。

それではまた。
かるび

作品紹介:映画「セザンヌと過ごした時間」

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【監督】ダニエル・トンプソン(「モンテーニュ通りのカフェ」他)
【脚本】ダニエル・トンプソン(「ラ・ブーム」「王妃マルゴ他)
【配給】セテラ・インターナショナル
【時間】114分
【俳優】
ギョーム・ガリエンヌ/ポール・セザンヌ
ギョーム・カネ/エミール・ゾラ
アリス・ポル/アレクサンドリーヌ・ゾラ
デボラ・フランソワ/オルタンス・セザンヌ
フレイア・メーバー/ジャンヌ
サビーヌ・アゼマ/アンヌ=エリザベート・セザンヌ
【公開】2017年9月2日
【映画館】bunkamuraラ・シネマ他