あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【書評】原晋「勝ち続ける理由」/青学が強くなった理由が惜しみなく公開された良書!

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【2016年12月28日更新】
かるび(@karub_imalive)です。

2016年も、箱根駅伝が近づくに連れ、駅伝の関連書籍が続々と発売されていますね。駅伝ファンの僕としては、駅伝レースそのものだけでなく、書籍をチェックするのも非常に楽しいのです。

今日は、青山学院大学陸上競技部監督の原晋氏最新著作「勝ち続ける理由」を取り上げて、感想や思う所を書いてみたいと思います。

初優勝後、たくさんの著作が発売された

2015年の箱根駅伝。原晋監督の率いる青山学院大学が初優勝をさらっていった時は、本当に驚きました。タイム的にも実力的にも、青学はダークホース的存在であり、今年も東洋と駒沢の一騎打ちかと思っていたら、5区で山の神、神野大地が驚異的なタイムで爆走します。そして、復路は5人中3人が区間賞、2人が区間2位と最高のパフォーマンスでぶっちぎりの優勝でした。

その数年くらい前から、年々、青山学院大学が箱根駅伝で成績が向上するにつれ、マスコミの前での軽妙なトークが取り上げられるようになってきていた原監督ですが、目立ちたがり屋だし、今年は原監督の書籍がたくさん本屋に並ぶんだろうなぁと思っていたら、案の定。瞬く間に4冊の著作が出版されました。

原監督曰く、2015年の初優勝後、約40社から書籍企画のオファーがあり、そのほとんどは断ったが、それでも食らいついてきた4社には根負けして出版を決めたとのこと。

僕も、昨年、結局そのうちの3冊を購入して読んでみました。ビジネスマン時代に仕事を通して学んだチームビルディングやコミュニケーションの方法論を、青学の駅伝チームづくりに応用し、苦節10年。途中、監督解任の危機とチームの低迷を乗り越え、11年目での初優勝となったのでした。3冊読んだうち、一番のオススメがこの本。

中国電力の陸上競技部を、入部半年後の不注意なねんざが原因となり、5年で退部。その後、親会社の中国電力でビジネスマンとして成長していく、「監督就任以前」の成功譚と、そこで得た知見をベースとして10年がかりで青学を箱根駅伝優勝に導いたストーリーは、非常に読み応えがあります。

2016年秋に出版された最新の著作「勝ち続ける理由」

ここでようやく本題に入るのですが、上記の祥伝社新書の続編として出版されたのが、今回のエントリで書評として紹介したい「勝ち続ける理由」です。

前作と同じく新書フォーマットで、200ページちょっとでサラッと読める内容。この本の一番の見どころは、「箱根駅伝初優勝後」の原監督と、成長した青山学院大学の駅伝チームの「その後」の状況です。

長距離陸上ファンなら御存知の通り、2015年新春の箱根駅伝に勝った青学は、2015年度の全日本大学駅伝を2位と取りこぼした以外、2015、2016シーズンを通じて3大駅伝を勝ち続け、好調を維持しています。(5戦4勝2位1回)

2015年の箱根初優勝後は、その後春先までテレビやマスコミに出ずっぱりとなり、「ちゃんと練習見れてんのかな?」と思ったものですが、ここまでの圧倒的な結果が示す通り、しっかり手綱を握ってマネジメントできていたということでしょう。

本書では、まさにタイトル通り、ここまで「勝ち続ける理由」を原監督が言いたい放題語り下ろした内容は、陸上マニア必見。陸上マニアではなくても、ビジネスマンや学生など幅広い層をインスパイアしてくれる良書でした。

以下、僕が特に感銘を受けた印象的だったポイントをピックアップしてみたいと思います。

前時代的で旧態依然としたトレーニング法からの脱却

青学が初優勝した時、非常に感銘を受けたのが、選手全員がのびのびしていて、自分の言葉できちんとマスコミに受け答えする余裕があったこと。選手の自主性、個性を認め、その上で高いレベルでチームワークを機能させていたチームビルディングができていたのだな、と受け止めました。

しかし、青学のようなチームは非常に珍しいのです。今も昔も、実業団チームであろうと大学、高校であろうと、長距離陸上のチームは禁欲的で軍隊のようなチームが散見されます。入部すると角刈りが必須で、TwitterなどSNSも禁止、トレーニング中の私語も禁止、監督には絶対服従、体罰でのペナルティ等々、入部した選手にはまるで修行僧のような生活が待っています。

前著、そして本書を通じて、原監督は一貫してこうした旧態依然とした前時代的なトレーニング法を完全に否定します。戦後しばらく厳しい時代を生き抜いてきた若者には通じたとしても、2016年現在、「走れ走れ!」といった根性論や軍隊式メソッドがフィットしていないのは、誰の目にも明らかです。ビッグマウスな原監督が、ストレートな文章で明快に言い切るのは読んでいて非常に痛快なのです。

「理詰め」で考え、チームをより良くしていく

軍隊式教育を否定する原監督が、代わりにチーム運営の核として大切にしているのが、「理詰め」で考え抜き、行動することです。根性論ではなく、科学的・理論的アプローチで常に新しい選手の育成方法を模索しつつ、上からではなく、コーチングのような目線で選手と対話を重ねることで、納得させた上でチームを率いる。

決して慢心せず、箱根駅伝優勝後も変わらずにチームの改善に取り組んでいることが本書からはよくわかります。

「青トレ」メソッドの凄さ

特に、目覚ましく成果を挙げているのが、2014年から取り入れた、中野・ジェームス・修一氏が監修する、体幹を鍛える「青トレ」メソッド。体幹を鍛えることにより、フォームの矯正による走力アップと、ケガの防止につながっています。

脚部に負担のかかる長距離走はケガによる故障が避けられないものですが、この「青トレ」が浸透してからは、レギュラーメンバー内での故障者率が1割を切ったとか。凄い成果です。

目標管理シートは、シートそのものより運用が優れている

さらに、前著でもクローズアップされていましたが、青学名物の「目標管理シート」の運用の徹底です。

青学では、選手一人一人の自主性・個性を大切にするため、チーム目標とは別に、個人目標を「目標管理シート」に細かく記載し、PDCAサイクルを回すようにしています。

本書には、こうあります。

目標管理シートの意味とは、目標管理ミーティングという手法を使って、自分が目標実現に向かってどのようなプロセスを歩んでいるかを「見える化」することであって、それだけのことである。  

個人個人が記入した「目標管理シート」は、選手が自分一人で書き入れて、自分で振り返って自己完結して終わりではありません。シートは、徹底的にチームで共有され、「見える化」されるのです。

提出された「目標管理シート」は、まずチームミーティングで上級生やチームメイトの目を通り、その目標が妥当なのか、実際の目標達成状況はどうだったのか、定期的に見直されます。PDCAサイクルが生きているのですね。こうして完成したシートは、さらに仕上げとして選手それぞれが自己採点した上で、廊下に貼り出され「見える化」されるのです。

さらに、原監督は選手寮で一緒に住み込んで選手一人一人の状態を徹底的に観察するとともに、この「目標管理シート」を起点に、さらに踏み込んだ個人指導や面談を行います。

「目標管理シート」的なシートは、どこにでも良くあるツールですが、得てしてその運用は尻すぼみになってしまうもの。青学が凄いのは、このシートの運用を、組織として、徹底的に、しかも長期間ずっと継続できていることです。

長距離陸上界への痛烈な提言

青山学院大学が長距離陸上で勝ち続け、原監督が実績を積み上げていくにつれて、監督の発言は、徐々に駅伝監督レベルから、より視野を広げた「世界」や「長距離陸上界」全体を念頭に置いた、より野心的なものに変わっていきました。

ビッグマウスな原監督らしい発言ですが、でも、これには非常に大きな意味があったと感じています。やっぱり、こういうのは勝っているうちにガンガン言わないとだめです。閉塞感ただよう長距離陸上界のために、どんどん言ってくれ!という感じ。

御存知の通り、2016年のリオ・オリンピックでは、体操、水泳や男子柔道など、ナショナルチームがしっかり機能した分野ではメダルや入賞選手が続出しました。それに対して、長距離陸上はどうだったのでしょうか?

女子の5000mで少し成果があった以外は、非常に厳しい結果となりました。特に、かつてのお家芸だったマラソンの惨敗ぶりが目立ちました。実業団・大学をまとめきれず、ナショナルチームが事実上崩壊した男女マラソンは、根本的に2020年、2024年を見据えた強化のやり直しが絶対に必要です。しかし、現状はまったくそういう動きが見えてきません。本当に大丈夫なのでしょうか?

本書の最終章では、絶「口」調の原監督が、長距離陸上界や、箱根駅伝のあり方について、ビジネスマン生活で鍛えた斬新なアイデアをたっぷり語っています。

その一部を紹介すると・・・

第100回の記念大会をめどに、箱根駅伝の全国化を実行せよ。東京一極集中の流れを変え、陸上界の発展と地域の再生の起爆剤になる。
・誰も突破できない形骸化した派遣設定標準(2時間6分30秒)を廃止し、代わりに「若手を育成する」という条項を選考要項に入れよ。
・真夏に開催されるオリンピックはタイム勝負ではなく、勝負強さが決め手となる。国内の選考会でペースメーカーを廃止せよ。
ナショナルチームや強化助成対象に学生を入れよ。東京マラソンで日本人2位、3位となった「学生」の一色、下田は強化対象から外されたのはおかしい。
・大学/実業団対抗駅伝を創設せよ。
・国内のマラソンレースを競馬のようにグレード制にせよ。

どれも良い提言で、実行もそれほど難しくないものばかりです。是非、陸連は原監督に嫉妬ばかりしてないで、2020年に向けて改革を進めていってほしいなぁと思います。

まとめ

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原監督の発信力が高いのは、意識的に業界の広告塔になろうとしてマスコミへのアピールを欠かさないこともありますが、その本質はサラリーマン時代にビジネスで培ったコミュニケーション力だと思います。

ビジネスや人生で培った経験を駅伝のチームビルディングに活かして大成功できるのなら、駅伝で大成功した数々のノウハウを、逆に仕事や人生に応用するのも有効なはず。

本書でも、非常にわかりやすく「箱根駅伝優勝後」の青学や監督自身の取り組みや、長距離陸上界への提言などがまとめられています。駅伝/マラソンマニアにはもちろん、それ以外の人にも幅広く普段の生活や仕事で応用できる内容が詰まった良書でした。

駅伝マニアもそうでない人にも非常におすすめの本です。是非目を通してみて下さい。

それではまた。
かるび