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あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【ネタバレ有】「彼らが本気で編むときは、」感想とあらすじ・伏線の徹底解説/真正面からLGBTを扱った荻上直子監督の新境地!

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【2017年3月2日更新】
かるび(@karub_imalive)です。

2月25日に封切りされたLGBTと向き合った荻上直子監督の最新作「彼らが本気で編むときは、」を見てきました。事前にノベライズで予習していた段階から、今回は「かもめ食堂」や「めがね」みたいなフワフワした癒し系とはぜんぜん違うよね?と期待していたのですが、予想通り作風が一新された意欲作でした。

正直、荻上作品で泣かされることになるとは思いませんでした。本当に良かった!!

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「彼らが本気で編む時は、」の基本情報

<映画「彼らが本気で編むときは、」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督・脚本】荻上直子(「かもめ食堂」「めがね」「レンタネコ」他)
【配給】スールキートス
【時間】127分
【原作】「彼らが本気で編むときは、」ノベライズ

自身の出産・育児によるブランクを含め、2012年の「レンタネコ」以来、実に5年ぶりとなる作品は、本人も「荻上直子第2章」と宣言する通り、気分一心、新境地で製作された意欲作です。従来の「癒やし」路線は、置いてけぼりになる観客も多く好き嫌いがハッキリ分かれましたが、今作は従来のアンチ荻上な人こそ見て欲しい作品に仕上がりました。

2.映画「彼らが本気で編むときは、」主要登場人物とキャスト

今回、もたいまさこや小林聡美、市川実日子ら、いつもの荻上組オールスターズは出演していません。新しい俳優陣と仕事をしたかった、と荻上直子監督が言う通り、フレッシュで豪華な俳優陣が揃いました。しかしよく生田斗真受けたな・・・。ジャニーズってこういう仕事しなさそうなのに、意外です。

そういえば、荻上直子作品はみなそうですが、メインの登場人物は下の名前だけで呼ばれ、かつカタカナであることがほとんどですね。

リンコ(生田斗真)
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中学生の時に自身の「女性」性に目覚め、大人になってから性転換手術もすませたトランスジェンダーの主人公。非常に難しい役どころだと思いますが、見事な熱演でした。この映画撮影終了後、すぐにその後「土竜の唄」でバリバリ男になって弾ける役を普通にこなせるあたり、やはり並の俳優ではないなと思いました。

マキオ(桐谷健太)
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直近に紅白歌合戦で見た印象と全く違い、温和でどこにでもいそうなおとなしい青年になりきっていい人オーラを全開に放っていました。LGBTの女性と結婚する難しい役どころでしたが、こちらも素晴らしい演技でした。

トモ(柿原りんか)
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トモに扮する子役の柿原りんかは、これが映画初デビューだそうですが、こちらも非常に熱演でした。口数が少なく、言葉より表情や動作で心情を表現する難しい役柄でしたが、子供とは思えない見事な演技でした。オーディションで見事トモ役を勝ち取ったそうですが、これからが楽しみな子役です。

ヒロミ(ミムラ)
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育児放棄をするトモの母を演じていました。役作りのため、トモ役の柿原りんかとは、撮影期間中わざと仲良くせず、口を聞かなかったのだとか。こわ・・・。それにしても、吉田羊と見分けがつきません、、、。

ナオミ(小池栄子)
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保守的な教育ママといった役柄は意外とフィットしていました。昔はよく青年誌のグラビアの常連だった小池栄子も、もうお母さん役が似合う年頃なのですね・・・。

サユリ(りりィ)
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ヒロミの母、トモの祖母。サユリ演じるりりィは、2016年末に亡くなったそうです。ご冥福をお祈りします。

フミコ(田中美佐子)
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リンコの母親役。何があっても100%娘を無条件に受け入れ、娘の心強い味方として描かれました。

カイ(込江海翔)
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トモの幼馴染の男の子。ゲイなのかトランスジェンダーなのかは不明だが、ハッキリ男子に興味があるところが描かれていました。これもトモ同様難しい役柄でしたが、上手にこなせています。

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3.「彼らが本気で編む時は、」結末までのあらすじ(※ネタバレ)

3-1.ヒロミの育児放棄、トモとリンコの出会い

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トモは母親、ヒロミと二人暮らしの母子家庭。最近、ヒロミの帰宅が遅く、朝帰りになることもしばしばだ。洗い物や洗濯物も溜まっており、家の中は雑然と荒れていた。今日も夜は帰らないらしく、いつものようにトモの夕飯はコンビニのおにぎりだった。

その日、結局ヒロミは朝方になってベロベロに酔って帰宅してきた。そして、トモの小学校登校時間になっても起きて来なかった。母親を置いて学校に到着すると、黒板には幼馴染のカイの悪口が書き込まれていた。カイは、昔からおとなしく、女子みたいな言葉遣いをするので男子からしばしばいじめの対象になっていた。

小学校低学年までは、しょっちゅうトモはカイと遊んでいたが、高学年になると他の女子の目もあるので、距離を置くようになっていた。

帰宅すると、やはり母親はいなかった。そして、トモは机の上に現金2万円と母親の書き置きを見つけ、読んで絶句した。またかー。

ヒロミは、勤めていた会社も退社し、どこか知らない男を追いかけて家を出てしまったのだ。その間、ヒロミの弟、マキオの家にお世話になることになった。小学校3年生の時と同じように。

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マキオは読書家が高じて、現在大手書店に勤務中だった。その日、定時退社してマキオはトモを自宅へと連れて帰った。マキオの自宅に着くと、前回とは違い、マキオの同居人で、リンコという女性がいた。トモはリンコに挨拶したが、女性離れしたその風貌に戸惑った。リンコはトランスジェンダーで、マキオと付き合ってから同居しているのだという。観察していると食事は上手だしその立ち振舞は完全に女性そのものだった。

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そして、その日から約2ヶ月間のマキオ、リンコ、トモの共同生活が始まった。

3-2.リンコ、トモ、マキオの幸せな共同生活

翌日、トモは、生活必需品や学校道具などをマキオの家に運びこむため、学校を休むことにした。朝起きるとすでにリンコ、マキオは仕事に出てしまっていたが、朝ごはんと弁当がおいてあった。朝ごはんを食べ終わると、トモは自宅への帰り際、公園で弁当を明けてみた。すると、そこにはタコさんウインナーなどが入った、見たこともない素敵なキャラ弁だった。

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おもわず感嘆し、もったいなくて食べずにいたが、後から時間が経ってから食べてお腹を壊してしまった。マキオの家で唸っている時、リンコが優しく抱きしめてくれたが、トモは驚いてトイレにふたたび篭ってしまった。

翌日、トモが図書室で「体と性」という本を見つけたので、トランスジェンダーについて調べてみたが、欲しい情報は特に得られなかった。そこへカイがやってきた。カイは、上級生の大野くんという男子が好きなのだという。こんな近くにリンコと同じような人間がいるんだ、と思った。

トモが帰宅してマキオの部屋でWiiをやっていると、突然見知らぬ男女が部屋に入ってきた。リンコの母、フミコとヨシオだった。リンコとマキオが両方共残業で遅くなるため、代わりにトモの面倒を見に来たのだ。

トモは、フミコたちと外食に出かけた。そこで、フミコからリンコの性同一性障害について話を聞き、フミコのリンコに対する愛情の深さを思い知らされるのだった。

フミコがリンコを本格的に「女子」として接するようになったのは、リンコが中学2年制になった頃からだった。体育の授業を毎回不自然に欠席するリンコの生活態度について、担任から呼び出されたのがきっかけだった。それまでも、リンコの持ち物が女の子っぽいものだったり、言葉遣いの節々からその兆候を感じていたが、はっきりフミコはこの時リンコを「女の子」として扱い、しっかり守ってやろう、とそれまでと変わらずリンコに愛情を注いでいった。最初にフミコがリンコにプレゼントしたのは、ブラジャーと、詰め物として毛糸で編んだ「おっぱい」の詰め物だった。

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マキオとヒロミの母、サユリは現在老人ホームに入居中だった。その老人ホームに勤務するリンコにも立ち会ってもらい、認知症が進んだサユリに久々にトモを引き合わせた。面会が終わり、老人ホームの中庭でマキオはトモにリンコとの馴れ初めや、リンコと付き合うようになったきっかけについて話した。

マキオは、サユリをかいがいしく世話するリンコに一目惚れしてしまい、何度も交際を申し出てようやくOKをもらったのだという。付き合った当初は、リンコの性同一性障害が気になったマキオだったが、好きになったら男でも女でもそんな小さなことはどうでもいい、と度量の大きい心をもつマキオだった。

その日、コンビニのおにぎりを口にして吐いてしまったトモは、マキオの家に帰宅してから、お気に入りのネコ柄のタオルを握りしめて臥せっていた。それを見つけたリンコは、「まだまだ赤ちゃんだな」と言って、やさしくトモを胸の中に抱きしめた。トモは、リンコのおっぱいを触ってみたが、リンコの言うとおりやや硬かった。

その日以来、リンコとの距離がなくなったトモは、家で快活に振る舞うようになっていった。リンコ、マキオとトモの不思議な共同生活は、トモにとってもリンコにとっても幸せな時間だった。

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中でも、桜が満開になった日に、3人で河川敷で食べた弁当は忘れられない思い出になった。トモの大好きなシジミの醤油漬けと切り干し大根も入っていた。

3-3.厳しい現実、彼ら3人をつなぐ「編み物」

しかし、数日後の夕方、トモとリンコがスーパーで夕食の食材を買い出しに出た時、トラブルが起こった。カイとカイの母、ナオミもスーパーに居合わせ、リンコを見たナオミが、トモに話しかけてきたのだった。リンコのことを悪く言われたトモは、衝動が抑えられなくなり、その場でナオミに食器用液体洗剤をぶちまけてしまった。

それは警察沙汰になってしまい、その場はリンコが散々謝罪して収まったのだが、家に帰ってから、リンコはトモに怒りを抑え、我慢すること、そして、我慢するための秘訣として、編み物を勧めた。編み物に没頭しているうちに、気持ちが落ち着いてくるのだという。

そして、リンコは、自身の「男根供養」として、108本の男根の形をした編み物をつくり、完成後燃やして供養したあと、戸籍を「女性」へと変更するのだと言った。リンコはその編み物を「ボンノウ」だと言った。トモは、「ボンノウ」作りを手伝いたくなって、その日からリンコに編み物を教えてもらうことにした。

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リンコは、マキオにトモを養子に迎えられないか本気で相談した。それは、マキオと入籍するということを意味していたが、マキオは真剣に受け止め、検討してくれることになった。

翌日、トモが学校に行くと、クラスでトモの悪口が黒板に書かれていた。先日まで仲のよかった友人たちからも悪意ある目で見られ、トモはそのまま学校を後にした。自宅近くで、母親、ヒロミの姿を見かけたような気がして急ぎ家に帰ったが、家には誰もいなかった。トモは号泣してしまった。

その日、トモは夜遅く帰宅した。連絡なく遅くなったトモを心配したリンコが強い口調でたしなめると、「ママでもないくせに」とトモは押し入れの中に入ってしまった。

リンコは、翌日勤務先の中庭で、一心不乱に編み物に向かっていた。トモの一言が答えたのだ。すると、横にサユリが来ていた。サユリもまた、亡くなった夫に浮気された時、編み物で心を落ち着かせたのだという。子供であるヒロミは、なぜか編み物を嫌がったので、ダンボール数箱分たまった編み物を夫の葬儀で棺桶に全部いれてやったのだという。

リンコが帰宅すると、トモはまだ押し入れに隠れていた。襖越しに、糸電話で仲直りをしようとしたが、トモが「昨日ママを見かけた」と話すと、リンコは続きが聞きたくなくて、家を出た。その途中で交通事故に遭ってしまい、急遽検査入院するという時に、一悶着あった。リンコは女性と認められず、男性用ベッドで夜を過ごすことになったのだ。

慌てて病院へ見舞いのため訪れたマキオが珍しく声を荒げて病院側に掛け合うも、リンコへの配慮は認められなかった。

リンコの検査結果は特に問題なく、すぐに退院となった。別の日、彼らはリンコの同僚、佑香の結婚式に参列した帰り道、3人で川べりでゆっくりした。マキオも、編み物を教えてほしいとねだったので、今度はトモがリンコのかわりにマキオに手ほどきをしてやった。

別の日、リンコとマキオの結婚を祝して、リンコ、マキオ、トモと、マキオの両親の家で鍋をつつく機会があったが、そこで改めてトモはフミコのリンコへの愛情の深さを思い知らされるのだった。

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トモの中で、完全にトランスジェンダーへの偏見はなくなっていた。カイとふたたび一緒に遊ぶようになったり、学校でもリンコの「ボンノウ」づくりを手伝うようになっていた。

3-4.共同生活の終わり

しかし、カイとトモが一緒にリンコと喫茶店で遊ぶところを目撃したカイの母、ナオミは、密かに児童相談所に通報していた。ある日、突然マキオの家に立入検査が入ったのだった。一通り聞き取り調査が終わり、児童相談所の職員は帰っていったが、このことはリンコ、トモ、マキオの3人に深い心の傷を残した。

一方、カイは自殺未遂を起こしていた。大野くんに当てた書きかけのラブレターを母親、ナオミに読まれ、知らない間に破り捨てられていたのだ。ナオミから、「罪深い」と言われ、母親の睡眠薬を一気に飲んで病院に運び込まれていた。見舞いに行ったトモは、彼女なりのやり方でカイを気遣うのだった。

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 そして、とうとう3人で編み続けた「ボンノウ」が108個になり完成したので、海でお焚きあげをするのだった。

数日後、マキオの元にトモの母、ヒロミが突然顔を出した。マキオの家で正式にトモを引き取りたいと申し出たマキオとリンコだったが、トモはヒロミと戻りたいと泣いてすがった。トモは、リンコの愛情に感謝しつつ、リンコと最後の夜を過ごすのだった。

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リンコは徹夜で編み物をして喪失感に耐え、翌朝、無言でトモを送り出すのだった。トモは、リンコの部屋に最愛の猫柄のハンドタオルを残していった。トモが自宅に着いて、リンコから渡されたプレゼントを明けてみると、手編みのおっぱいの編み物が中に入っていた。

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4.「彼らが本気で編むときは、」感想・評価(※ネタバレ)

4-1.強く、優しいリンコに深く感動した

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作品中で描かれたトランスジェンダーの主人公、リンコは作品中どの女性よりも「母性」と「強さ」を兼ね備えたキャラクターとして描かれました。母親からの愛に飢えたトモをしっかり受け止め、心の支えになるとともに、様々な周りの無理解や偏見に対して、一度も怒りを表に出してキレることなく、飲み込める本物の「心の強さ」が印象的でした。

この作品で良かったのは、そんな強くて優しいリンコがどうやって形作られて来たのか、その背景、経緯をもしっかり描いていたこと。

リンコの違和感が頂点に達し、性同一性障害が周りに発覚した中学2年生の時、友人や学校の無策・無理解がはびこる中、母のフミコだけは、無条件にリンコを受け入れ、変わらぬ愛情でリンコと接していきました。初対面のトモに向かって、「リンコを悪くいうなら、たとえ子供であっても容赦しない」と言い切り、「我が子が一番可愛い」とリンコの前で言い切るフミコ。

この母親からの無条件の包み込むような愛情があって、初めてリンコという存在が出来上がっていったのでしょうね。

4-2.母親との関係性の大切さ

本作品では、LGBTを取り巻く学校や生活、職場でのトランスジェンダーへの偏見や無知を明らかにするだけでなく、親子間、特に母親と子供との関係性にフォーカスして描かれています。(父親は敢えて描かれず省略されている)

愛情に溢れたフミコーリンコの関係が、リンコを、逆境にも負けない、強く優しい大人へと成長させたのとは対照的に、「ナオミーカイ」「サユリーヒロミ(マキオ)」「ヒロミートモ」では、子供への理解不足やコミュニケーション不全により、その母からの愛情がいびつに伝わった結果、子供の精神も不安定となりました。カイは自殺未遂を起こし、ヒロミは育児放棄、そしてトモもリンコと出会う前は、愛情に飢えた不安定な精神状態にありました。

このように、リンコとそれ以外を鮮やかに対比させる形で、親から子供へ無条件に「愛情」を与えることの大切さが提示されていました。

僕も現在、1児の父として小学生の子供を育てる立場にありますが、改めて子供への愛情を絶やさないようにしなくてはと、この映画を見て強く実感しました。

4-3.無条件の愛は周囲へ確実に伝播するし、障害を乗り越える

母親から100%精神的に守られ、いっぱいの愛を受けて育ったリンコは、自らが愛を与える存在へと成長していきました。その愛は確実に周囲にも伝わっていきます。職場では老人たちを愛情深くケアし、それを見ていたマキオを魅了し、さらに愛情に飢えていたトモを癒やし、成長させていきました。物語前半で、マキオに語らせていた一言が、本当に忘れられません。

「リンコさんのような心の人に惚れちゃったらね、もうあとのいろいろなことは、どうでもいいんだよ。男とか、女とか、そういうことも、もはやカンケーないんだ。」

フミコから受け継いだ深い愛情が、今度はリンコから周囲へと伝播していく中で、リンコ自身もマキオという得難いパートナーを手に入れ、世間の厳しい風当たりはあるものの、幸せな生活を手に入れていたのが印象的でした。

4-4.温かい食卓は見ているだけでホッとする

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映画全体に始終「温かさ」が漂っていたのは、リンコやフミコ、マキオといった愛情あふれる人物表現や、荻上監督の映像表現手法もありますが、彼らを結びつける「食事」のシーンが素晴らしかったことも大きく寄与していると思います。

「かもめ食堂」以来、荻上作品では、いつもフードスタイリストの飯島奈美氏による彩り鮮やかな食卓のシーンが見どころですが、今回も、

・トモとリンコ、マキオの最初の食事シーン
・リンコとマキオの結婚を記念したナオミ宅での鍋パーティ
・リンコがトモに最初に作ったキャラ弁
・桜が満開の日に川沿いでのピクニックで食べた昼食

など、ストーリーの要所要所で、暖かく家庭的な食事のシーンがしっかり演出されており、彩り豊かに盛り付けられた家庭的なメニューが、この映画の「温かさ」を決定的に象徴していたと思います。飯島奈美さん、今回も本当にいい仕事しています。 

4-5.荻上直子作品の新境地!~従来の作品と変わった点は?

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(引用:「彼らが本気で編むときは、」映画公式HPより)

映画パンフレットに荻上監督のコメントが掲載されています。

「癒し系、スローライフなどが、私の過去の映画のイメージと言われてきました。しかし、もはや、癒してなるものか!この映画は、人生においても映画監督としても、荻上直子、第二章の始まりです。

5年ぶりに映画製作に戻ってきた荻上監督ですが、本作では作風が大きく変わった印象を受けました。「かもめ食堂」「めがね」などに代表される「ファンタジックな癒やし路線」では、熱狂的なファンを獲得するとともに、アンチも非常に多かったです。

実在感に乏しい人物造形や因果関係がぼかされたあやふやなストーリー、「おままごと」と揶揄された、余りにもスローライフ的な職業観に閉口した人も多かったと思います。言い方を替えると、監督自身が分かる人だけわかればいいと割り切って、「見る人を選んでいた」フシもあったのかも。

しかし、今作では「LGBT」という題材こそやや特殊性はあるものの、映画内で表現されたドラマ、ストーリーは非常にわかりやすく、老若男女幅広いファンにアピールできる作品になりました。

まず、荻上作品では初めてと言っていいほど、わかりやすい「悪役」的キャラが描きこまれたこと。育児放棄を正当化するヒロミや、自らの価値観に固執し、トモやカイを追い詰めるナオミは、痛々しいほど「悪役」的でした。

また、物事の因果関係が「誰にでもわかるよう」セリフや情景描写でしっかり説明され、ストーリーラインがハッキリしたこと。左脳的に映画を解釈、理解する人たちにも受け入れられそうです。

さらに、映画中で描かれたキャラクターも非常に実在感がありました。学校での生々しい子供達のストレートな偏見や、その言葉遣い、マキオやリンコの職場のリアルな描写は、最後までみんな何者なのかわからない(特にもたいまさこの役柄!)「かもめ食堂」「めがね」とは大違い。

なんだ、やればできるじゃん!と、目の肥えたファンからも、ネット上で再評価する声もちらほらありましたね。

4-6.荻上作品の良いところはそのまま生かされている

それでも、荻上監督が従来の映画作品で表現されてきたものが全部捨てられたわけではなく、彼女の良さが「いい形で」生かされていたと感じました。

例えば、なんだかんだ言って「自由」でゆるいキャラクター達は健在でした。

 ・鯉の餌あげ禁止を採算無視して餌を上げ続ける老人達
 ・学校を簡単に休んでゆっくりしちゃうトモ
 ・職場から定時退社で必ず帰宅するマキオ
 ・自己顕示欲が強く、俺が俺が、というキャラが不在であること

このあたりは、リベラルで良い意味での荻上監督の「ゆるさ」がきちんと作品中に散りばめられていてよかったかなと思います。

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さらに、大事なシーンでの大胆な長回し、海や川など「水場」の風景シーンの多様、セリフより情景描写でテーマを丁寧に描き込む姿勢なども従来作品同様、非常に良かったと思います。

5.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

5-1.「ひとつひよこが~だいろくねんね」とは

劇中で、サユリーヒロミートモの3人は、それぞれ別々のシチュエーションでフッと無意識に「ひとつひよこが~だいろくねんね」と口ずさんでいました。この童謡は、日本に口承で伝わる代表的な「数え歌」です。発祥地等は不明で、全国に驚くほど多彩なバリエーションがあるようです。

ひとつひよこが あちこちで ( その他音楽 ) - ひとひら風信 風のいろ 雲のうた - Yahoo!ブログ

本作では、幼少時から繰り返し聞かされてきたであろうわらべうたが、ふとした瞬間に無意識に口を伝って出てしまう様子が描かれました。サユリーヒロミ、ヒロミートモの親子関係は、理想からは程遠い状況ではありますが、たとえどういう形であったとしても親子というのは切っても切り離せないものなんだな、と感じさせられるエピソードでした。

5-2.児童相談所の立ち入り検査について

作品後半部分で、突然マキオの家に児童相談所の職員が押しかけてくるシーンがありました。これは、言うまでもなくカイの母、ナオミの「通報」による嫌がらせですが、こうした立入検査は、実際にかなりの件数行われています。

厚労省のHPを見ると、2000年11月に「児童虐待の防止等に関する法律」(通称「児童虐待防止法」)の施行後、児童相談所に報告される児童虐待の数は、この20年で50倍以上にまで拡大しています。なんと、平成27年度で全国208か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、103,260件(速報値)で、これまでで最多の件数となっています。

児童虐待防止法では、児童相談所に通告があった場合、24~48時間以内(自治体によって違う)に安否確認をすることになっています。また、必要に応じてこうした立入検査も行われ、実際に対象児童の「腕」や「顔」のチェックと現地でのヒアリングを行うそうです。かなり後味の悪いリアルなシーンでした。

5-3.荻上作品における「編み物」の位置づけとは?

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荻上作品では、今作だけでなく、例えば「めがね」でもやることがなくなってヒマな主人公が海辺で編み物をするシーンが描かれるなど、頻繁に「編み物」が映画内に出てきます。

これに対する答えが、荻上監督自身のインタビューで明らかにされていました。

荻上直子監督インタビュー前編|『かもめ食堂』から11年。監督自身が第二章と公言する『彼らが本気で編むときは、』への想いとは。|箱庭 haconiwa|女子クリエーターのためのライフスタイル作りマガジン

自分が28歳くらいの頃に、将来が見えなくて、お金もなくて、映画監督になれるかどうか不安だった時期があったんです。その時に、ふと編み物をやってみたんですよね。立て続けに3本くらいのマフラーを編んでいたんですが、無心になれる感じがあったし、不安みたいなものを取り除く作用があると思ったんです。その経験から、悔しいときとかに、編み物をやることで、その気持ちが浄化されたりするのかなと思いました。作品の中でも言っていますが、男性が女性になる手術をするというのは、みんな大変な想いや、ある種の覚悟を持って挑んでいると思うんですよ。それで単純に、どうやって気持ちの整理をしてるのかなと思って。その気持ちの整理の仕方の表現として、編み物につながったんです。

上記から、編み物は荻上監督の映画人としてのキャリアの中で一番苦しい時に、彼女を支える大切な活動だったことがわかります。編み物への特別な思い入れが、今作のストーリーへの着想につながっていたのですね。

5-4.映像に込められたメッセージを読み解く楽しみ

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今作は、荻上監督の過去作に比較すると、それなりにストーリーのポイントを「セリフ」として語ってくれていますが、やはり映像表現の中に登場人物の心情や作品のテーマをかなり織り込まれています。

個人的に特に秀逸だなと感じたのは、季節を感じさせるモチーフを上手く使って彼らの心情の移り変わりを巧みに表現していたことです。例えば、マキオ、リンコ、トモの共同生活における幸せ度やそのテンションは、ちょうど桜が満開になる時にピークを迎え、桜が散っていくとともに、彼らの共同生活は終わりに向かっていきました。

また、桜が満開になった一番幸せな時期に、ピクニックの弁当の中にリンコが作って入れた3匹の鯉のぼりに対して、トモが去っていく当日朝にリンコがマンションのベランダから見た、遠くにはためく鯉のぼりは、彼らの共同生活の終わりを暗示していました。

探せばまだまだ読み解けそうな場面はありますが、繰り返しじっくり鑑賞できる映像表現の面白さがある映画だったと思います。

6.まとめ

前作「レンタネコ」から5年ブランクが空き、作風を一新して製作されたこの映画は監督本人もハッキリ明言しているように、勝負作でした。

LGBTを真正面から扱った作品なので、興収的には厳しそうではありますが、映画館で見る価値がある素晴らしい作品だと思います。上映期間が短そうなので、興味がある方はお早めに!

それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

ノベライズ「彼らが本気で編むときは、」

荻上直子が描き下ろした脚本に沿って、忠実にノベライズ化された作品。映画中、頑ななトモは無口で心情が読みづらいシーンもありますが、小説版では、トモを中心として各キャラクター達が各場面でどう考えていたのか、どう感じていたのか、詳細に描写されています。本編同様、かなり涙腺が危なくなります・・・。素晴らしいノベライズでした。

荻上直子監督作品は、まとめてHuluで!

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Huluでは、荻上直子監督作品のうち、自身の出世作・代表作とされる「かもめ食堂」「めがね」に加え、「トイレット」が見放題!

「彼らが本気で編むときは。」では新境地を開拓した荻上直子監督ですが、そのゆるゆるでファンタジックな癒やし路線は、この上記3作で確立したと言っても過言ではありません。好き嫌いがはっきり出るとは思いますが、まだ未見であれば、見ておいて損はないと思います!

現在、僕はU-NEXTHulu、AmazonPrimeとオンデマンドサービスに3社加入しているのですが、荻上監督作品は、Huluが一番品ぞろえが良いです。

月会費は933円ですが、加入後2週間は無料。無料期間中にまとめて見てしまえば、お金は一切かかりません!

荻上監督の他の作品も見たくなったら、お金を節約できるHuluがおすすめです!

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