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あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して3ヶ月。無職または専業主夫で、ブログ書いてます。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【ネタバレ有】「恋妻家宮本」感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/心温まると同時に考えさせられる映画だった!

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【2017年2月8日更新】
かるび(@karub_imalive)です。

1月28日にリリースされた映画「恋妻家宮本」(こいさいかみやもと)を見てきました。TVドラマのオリジナル脚本で話題作を提供してきた脚本家、遊川和彦が満を持してメガホンを取ることになった初監督作品です。(恐妻家ではないです!/笑)

「家政婦のミタ」や「純と愛」のようにひねった展開ではなく、誰でも安心して見れるハートウォーミングで素直な作品へと仕上がりました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画「恋妻家宮本」の基本情報

<映画「恋妻家宮本」予告動画>

動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】遊川和彦(ドラマ「家政婦のミタ」「純と愛」脚本)
【配給】電通・東宝
【時間】162分
【原作】重松清「ファミレス

「現場に口を出す」脚本家として、良い意味で「めんどくさい」職人気質の遊川和彦。脚本家としてヒット作をたびたび世に送り出してきましたが、もともとこのTV業界に入ったのは、映画監督になるためだったそうです。

今回の映画「恋妻家宮本」でも、重松清の原作をベースに、作者の許可を得て大幅に内容にアレンジと自ら収集した体験談を踏まえ、遊川監督の強いこだわりを加えた作品に仕上げました。

2.映画「恋妻家宮本」主要登場人物とキャスト

一件イケメンなのにダメなオッサン役を演じさせたら、超適役とも言える、安定の阿部寛を主人公、宮本陽平に据えて、遊川脚本作品として高評価だった「女王の教室」で主役を演じた天海祐希や、遊川脚本作品に過去出演したことがある菅野美穂、相武紗季など、遊川監督の勝手知ったるメンツを揃えたデビュー作品となりました。

宮本陽平(阿部寛)
片えりがかならず飛び出ていて髪もボサボサで少しだらしなく、優柔不断で口下手な、いわゆる少し「ダメ」な中年男。11月公開の映画「疾風ロンド」でも、ダメサラリーマンを演じましたが、3枚目キャラは2作連続となります。端正な顔の作りとの落差で、コミカルに笑えてしまいます。

宮本美代子(天海祐希)
男勝りのリーダータイプの「強い女性」像役が多い天海祐希がヒロイン。今回の配役では、「芯の強さ」は持っているが、のんびりした専業主婦的な面や、人生の転機を迎えて少し自身のなさや不安も表情として覗かせる、難しい役をうまくこなしていた印象。しかし、大柄な天海祐希も、さらに大柄の阿部寛と並ぶと全く違和感がないですね。
五十嵐真珠(菅野美穂)
菅野美穂の出産後復帰第一作。撮影現場に子供同伴で、授乳等もこなしつつ臨んだ意欲作。毒舌で夫と始終喧嘩しっぱなしだが、わざと大げさな演技で、物語のコメディ要素部分を担当した大事なな役どころでした。
門倉すみれ(相武紗季)
料理教室で、菅野美穂演じる五十嵐とグループメンバーの役。新婚直前の花嫁修業として料理教室に通っていたが、マリッジブルーから破局へと向かうという、この映画の中で唯一不幸になっていくキャラ。不幸そうなキャリアウーマンの役が意外と板についていました。
井上礼子(富司純子)
昭和の銀幕で活躍した大女優。古い考え方に固執し、孫達とのコミュニケーションに行き詰まる姑役。般若のような鬼婆的な演技はさすが。

井上克也(浦上晟周)
陽平が担任を務めるクラスでのあだ名は通称「ドン」。父が海外赴任中に交通事故を起こし、同時に不倫が判明した母親に対してどう接していいのかわからない多感な時期をうまく表現できていました。オーディションでの出来が抜群だったのだそうです。

菊地原明美(紺野彩夏)
同じく陽平が担任を務めるクラスの優等生で、あだなは通称「メイミー」。プライベートで悩むドンを気遣い、洋平に何度もかけあう。ドラマの子役上がりで、今回が映画初出演でしたが、まっすぐな透明感ある雰囲気は、画面で埋没せずしっかり存在感を出せていました。今後要チェックの女優になりそうです。

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3.ラスト・結末までの詳しいあらすじ(※ネタバレ注意)

3-1.宮本陽平の平凡な毎日に突如降り掛かった危機ー離婚届ー

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宮本陽平50歳。中学校の教員で、どこにでもいるような善良で平凡な中年。サッパリした性格で、決断力のある妻の美代子とは反対に、優柔不断でハッキリ自分の意見を言えない性格は、この年になっても直らない。

今日も、行きつけのデニーズで、食事メニューを前に、決断できず注文に迷っていた。いつも通り、妻の美代子に促されてようやく決定する。

そう言えば、昔から陽平は、なぜか人生の大きな転機はみんなファミレスで迎えていたのだった。妻とは27年前に学生時代に結婚したが、出会いはファミレスの合コンで何となく目の前に座った美代子と親しくなったことがきっかけだった。

また、つきあってしばらくして、美代子から突然「子供ができた」と告白されたのも、ファミレスだった。それを聞いた陽平は、愛情というより責任感から、つい「お前の味噌汁を飲みたい」と妙なプロポーズをしたものだった。

ファミレスから帰宅すると、美代子はワインを冷蔵庫から取り出し、飲み直したいので、手早くツマミを作ってくれ、と陽平に頼んだ。一人息子の正が結婚し、東北へ移住して家を出た頃から、料理教室に通い始めた陽平は料理が肌にあっていたようで、新たな趣味として長続きしていた。

ボトルを1本と少し開けたあと、酔った美代子は、これからは二人暮らしなので、お互い昔のように下の名前で「陽平」「美代子」と呼び合おうと陽平に提案した。

妻が酔いつぶれてしまうと、陽平は寝室へ戻った。子育ても終わり、そろそろ昔のように読書でも始めようか、と、何気なく昔初デートの時に美代子に貸した志賀直哉の「暗夜行路」を開けて読み始めてみると・・・

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本の中に、美代子の署名捺印済みの「離婚届」が挟まれていた。

愕然として、しばらく動けない陽平。急いで美代子を起こして問い質そうとも考えたが、言い争いになりそうで、言い出せずにその日はそのまま寝ることにした。

3-2.宮本陽平の苦悩の日々と教え子・ドンの悩み

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翌日の朝、妻の様子を伺ったが、いつも通りで特に変わった様子がない。離婚届の件は切り出せず、陽平の職場である中学校へ向かった。

仕事中も、やはり離婚届のことが気になって仕方がない。動揺する気持ちを見透かされたのか、クラスの問題児、通称ドンこと井上克也に少し茶化される始末だ。ドンは、父親が単身赴任中で、母親、妹と暮らしていたが、母親が交通事故で入院中だった。しかも、それは不倫相手とのドライブ中の交通事故だった。気丈に振る舞うドンに対して、担任として有効なケアができていないことは気がかりだった。

その日、授業が全て終わった時、クラスの優等生、菊地原明美、通称メイミーから、ドンのフォローアップはどうなっているのか問いただされた。実直でピュアなメイミーから指摘され、陽平はドンのケアに本腰を入れなければ、と考えた。

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数日後、ちょうど家庭訪問の時期でもあり、ドンの家を訪問した陽平。入院中の母、尚子に代わり、厳格な祖母、礼子が対応してくれた。礼子の気難しく厳格なその口調は、まるで鬼婆、般若のようだった。

その晩は、料理教室だった。グループ別の実習形式で習っていくが、陽平は門倉、五十嵐といつも3人グループだった。既婚者で毒舌な五十嵐、結婚間近で花嫁修業中の門倉に、離婚届の話をする陽平。

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五十嵐からハッキリ「美代子が不倫をしているのでは」と指摘された陽平は、急に心配になり、帰宅後、美代子の入浴中に携帯を盗み見た。しかし、通話履歴には特に不倫相手と思しき記録は残っていなかった。。

翌日、授業中にドンが空腹で倒れた。保健室で話を聞くと、昨晩から祖母と喧嘩して、何も食べていないという。陽平は、現在自身が立ち上げ中の料理クラブ「サバイバル・クッキング・クラブ」で料理の作り方を教えてやると誘ったが、家庭科室にドンは会われれなかった。

仕方なく、レシピを書いたノートを井上家のポストに投函してその日も料理教室へと向かった。料理教室へ行くと、先日まで幸せそうだった門倉が、マリッジブルーで元気がなかった。

その日、寝室に戻って「暗夜行路」を開くと、まだ離婚届は挟まれたままだった。今日こそは問い質そうと、鏡の前で予行演習をしていたら、いつのまにか顔パックをした美代子が横に立っていた。

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慌てて、料理教室での五十嵐の離婚話にすり替えてその場をごまかした。すると、美代子は息子、正のいる福島へボランティアに行きたい、と言い出した。

翌日、学校に行くと、ポストに入れた卵料理のレシピの件でドンからありがとう、と言われ感謝された。再度料理クラブへの入部を誘ってみたが、ドンに相手にもされなかった。その一部始終を見ていたメイミーから、「先生って教師に向いてないかも」と痛烈に批判されて落ち込むのだった。

その晩、自宅で「暗夜行路」を開いてみると、挟んであったはずの離婚届が消えていた。美代子が持ち出したのだ。その時、福島の正から電話があった。美代子が、長期滞在したいと言い出したので、夫婦仲に問題がないのか探りを入れてきたのだった。

しばらくした日の料理教室。門倉は来なかった。やがて、遅れて来たかと思うと、今日限りで料理教室をやめると言って、去っていった。結婚前に破局したので、花嫁修業をやる意味がなくなったのだ。あっけにとられていたら、五十嵐から、「飲みに行きません?」と誘われ、応じることにした。

教室が終わって居酒屋で五十嵐と話をする陽平。互いの状況を情報交換しあい、五十嵐は唐突に「体の相性が良くないのかも?宮本さんも確かめてあげますから」と言われ、強引にホテルへと連れて行かれた。

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強引な五十嵐のリードに、しぶしぶホテルへ入ろうとしたその矢先、五十嵐の夫が急に倒れた、と入院先の病院から五十嵐に電話が入った。急いで病院へ急行する宮本と五十嵐。五十嵐の夫が入院している部屋へ着くと、単なる脱水症状だったことがわかり、急に言い争いを始める五十嵐夫妻。ある意味、仲の良さを羨ましくも感じつつ、陽平は部屋を出た。

病院から帰ろうとしたその時、ちょうどドンと病院ですれ違った。ドンの母親、尚子もこの病院に入院していたのだ。しかし、ドンは母親の部屋の前まで来ながら、母親に会わずに帰ってしまった。勇気を出せないドンに対して、陽平は「いつもお前のことが好きだぞ」と声をかけて元気づけてやるのが精一杯だった。

3-3.美代子の家出と洋平の決意

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自宅に帰ると、美代子が東北から帰宅していた。美代子は、正がから取り返した吉田拓郎のCD「今日までそして明日から」をかけ、学生時代の思い出話を始めるのだった。

しかし、離婚届の件でそんな気分になれない陽平は、CDを消し、離婚届の件をようやく美代子に問い質した。美代子は、「話すと長くなる。不満はないけど、不安はあるの」と言って、きちんと説明しようとしない。さらに、妻に「自分に酔ってるのではないか、結婚生活に向いてないのでは?」と切り返され、激高した洋平は、その場の勢いで離婚届にサインをして美代子に突きつけた。

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美代子は、「言いたいことはそれだけ?」と言い残して、離婚届を持って再び家を飛び出していった。

翌日、陽平はドンに対して、ドンの妹ともにファミレスでの食事に誘ってみた。喜んだドンをファミレスでご飯を食べながら勇気づけ、「手伝ってやるから母親に弁当を作って持っていけ」と提案した。先日病室でみかけたドンの母、尚子は、病院食を食べていない様子だったからだ。

翌日の夕方、陽平は約束通り、井上家でドンと弁当作りを行った。すると、夜まで詩吟教室で帰ってこないはずの祖母、礼子が、喉の調子が悪いので急遽帰宅してきた。礼子から問いただされたが、必死で説得し、ドンの弁当作りをサポートした。

そして、ドンと病院へ。しかし、やはり母親に渡すのは恥ずかしいと言い出すドン。仕方なく、陽平が代わりにドンの手弁当を尚子に届けた。自らの罪悪感から、子供達に顔向けもできないと思っていた尚子は、涙を流して喜び、陽平に「ドンを病室に呼んで来てくれ」と懇願した。ドンと妹は、陽平に促されて母親の病室へ向かった。

ドンのフォローアップはこれにて一件落着となったが、問題は自分自身の状況だ。正から再度電話があった。自宅を出た美代子は、再び正の家に転がり込み、正に離婚届を見せたのだという。

陽平は、自宅に帰り、一心不乱に料理に取り組んだ。料理をしているときは、不思議と心が落ち着くのだ。料理を作りながら、やはり美代子に会いに行こうと決心して、新幹線に飛び乗って東北ヘ向かった。

新幹線に乗りながら陽平は美代子とのこれまでの結婚生活について思いを馳せた。27年間の結婚生活の中で、色々な選択をしてきたが、果たしてそれは正しかったのだろうか?

3-4.駅ホームでの対面~妻への告白

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正の家に着くと、間が悪く、ちょうど美代子は正の家を出て、東京に向かったばかりで入れ違いだった。美代子が離婚届を出しに行く前に、なんとしても終電で東京へ帰り、止めねばならないー。陽平は、正に最寄り駅まで送ってもらい、電車に飛び乗ろうとしたが、階段でこけてタッチの差で終電を逃してしまった。

しかたなく、メールで美代子に思いを伝えようとしたが、うまく言葉にならなかった。情けなくて、泣きそうになる陽平。

と、その時、ふと反対側のホームを見ると、美代子が立っていた。ホームを挟んで会話すると、美代子は、なぜ離婚届を持っていたのか語ってくれた。
子育てが終わるまでは、家族のために生きることを最優先して考えてきたため、自分自身のやりたいことや今後の人生について考えもしなかった。だが、子供が独り立ちし、陽平も料理教室に通いだして、自分の立ち位置や存在意義について不安になったのだという。料理をマスターした陽平から、「別れてくれ」と言われた時に対抗できるよう、離婚届を「切り札=ジョーカーとして」持っておこう、と決めたのだと。

美代子の真意を知り、自分の思い込みの誤りに気づいた陽平は、妻への思いを改めて伝えようとした。「俺は、お前のー」と言いかけた時、電車が通り、声はかき消された。美代子がこちら側のホームへと走ってきて、もう一度伝えようとした時、今度は、停電で駅のホームが真っ暗となった。

仕方なく、駅ホームの待合室で電気が復旧するまで電車を待つことにした二人。陽平は、妻の好物を作って持ってきた弁当を妻に渡した。こけたとき、ぐちゃぐちゃになってしまったが、構わず美代子は嬉しそうに食べた。そして、ローソクの明かりを頼りに、それまで語り尽くせなかったお互いの気持を、しっかり伝えあったふたりだった。

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それからしばらくしたある日。二人はいつも行きつけのファミレスで昼食を摂っていた。妻と和解も果たし、幸せな陽平だったが、相変わらず片方の襟はだらしなく出た服装で、ファミレスのメニュー選びにもいちいち迷ってしまう優柔不断な性格は全く変わらなかった。

ちょうどそこへ料理教室で最後に会って以来、門倉が入ってきた。「もう一生結婚しないと思います」と語る硬い表情の門倉に対して、周りが引くくらい大きな声で、自分自身の結婚生活の近況を熱く語る陽平だった。

そして、今日のメニューは二人でシェアして食べることにした。周りを見ると、別の関には退院した母親と祖母、そしてドンと妹の4人が仲良く食事をしているのだった。

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4.感想や評価(※ネタバレ有注意)

4-1.50代の男女が人生の転機で二人の関係を見つめ直すという、実在感のあるストーリーは非常に良かった

就職、結婚、出産など、人生において、自分自身の社会や家庭における役割、存在意義が大きく変化する、「人生の節目」ともいえる大きな転機というものが誰しもあると思います。映画の陽平・美代子のように、夫婦において「子供が独立して子育てが終わった」段階も、まさにそんな人生の大きな節目の一つだと思います。

それまで、家族や子育てへの責任感のため、家庭ではお互い「父」「母」という確固たる役割を演じてきた夫婦は、子供が独立した時に、「父」「母」ではなくなり、各自のアイデンティティや夫婦の関係性が大きく変わらざるを得ません。

そういった転機において、時には離婚という形で関係性を終わらせたり、別居、あるいは籍は残すけれど、残りの人生は自分自身のやりたいことにお互い没頭する生き方(「卒婚」と言われているらしい)など、様々な選択肢があるのです。

この映画では、主人公の宮本は、自分と妻の関係性を突き詰めた結果、妻への思いに改めて気が付き、50歳にして再度妻に「恋する」という、ストーリー的に一番安心して見ていられるハッピーエンドが描かれます。
でも、恐らくこうしたハッピーエンドに至るケースは、思ったほど多くはないのかもしれません。

映画では省略されましたが、実際、陽平をはじめ、3組のアラフィフカップルを描いた重松清の原作「ファミレス」では、宮本家以外の2組は二人の関係を発展解消させる、前向きな「離婚」や別の女性との「再婚」を選びました。

本作は、物語としては、非常にわかりやすい形で決着しましたが、子育てを終えた壮年・熟年カップルの目の前には、それ以外にも、想像以上に多種多様な選択肢があるわけです。自分もいずれ宮本の年代になったらこういった人生の転機があるのではないのかなと、考えさせられた映画でした。

4-2.良くも悪くもテレビ的演出が目立った本作

物語の序盤とクライマックス直前で、画面にテロップを出したり、エンディングでキャスト一同が全員デニーズに集まって、リレーで吉田拓郎の劇中歌「今日までそして明日から」を歌い継ぐ演出など、遊川監督が得意としてきた「良い意味で」のテレビドラマ的な雰囲気も感じられて良かったです。

その反面、ストーリーが動き出す後半以降は、クサいセリフが多すぎ(笑)テレビ的で説明過多なセリフ回しは、終わった後の余韻を確実に少しずつ損ねていたように思います。

例えば、「正しさと正しさはぶつかるけれど、優しさと優しさがぶつかってもさらに優しさは大きくなるんです」・・・なんて歯の浮くようなセリフ、現実的には言わないですし、このあたりを鑑賞者に感じさせ、自由に考えさせるのが映画の良いところだと思うのですが・・・。(ちなみに原作では、このあと「優しさ」の定義について、痛みや怒りを抱えたままそれを飲み込んで包み込むことが、本当の優しさなんだ、と陽平が畳み掛けるが、どうせならクサいキメ台詞だけじゃなくて、ここまで言い切ってほしかった)

4-3.雰囲気を残しつつ、原作を大胆にアレンジして製作された作品

原作に大きく手が入っていたことは確かですが、原作の良い部分はエッセンスとしてきっちり残っていたことは非常に評価できました。特に、陽平が「男でもできる簡単で美味しい手料理」を、料理番組のように解説しながら作るシーン。ここは、映画の雰囲気を壊さず、うまく映像化できていました。

また、宮本が美代子を福島へ迎えに行く前に、美代子に弁当を作るシーンは、「手料理」を通じて人間同士の絆を深めていくという原作のコンセプトをリスペクトしつつ、原作にはないオリジナルの劇的な演出で非常に良かったです。

さらに、プロットが単純化されて、陽平視点だけに絞られたのは、思い切った調整でしたが妥当な判断だと思います。「ファミレス」文庫2巻分800ページを2時間に収めるなら、思い切った内容の削減は不可避でした。

4-4.どころで、電通のロゴは外せなかったのだろうか?

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本作品は、電通と東宝の共同企画作品ということで、いつもはエンドロールの製作委員会欄などでひっそり出てくる電通という社名が、どどーんとオープニングで出てきました。これはなんとかならなかったのかなと思います。

僕自身はなんとも思いませんが、映画スタート前にこれを見せられた一定の鑑賞者は、必ず電通の最近の労災事件と結びつけて、映画本編とは関係ない所で悪印象を持つでしょうから。実際に、FilmarksやYahoo映画などの感想欄を見ると、しばしば「電通が云々」と、内容以外の批判を書いている人がいました。

僕がプロデューサーなら映画オープニングの字幕は削除し、あとで円盤になった時にこっそり追加すると思います(笑)

4-5.「俺は美代子の作った味噌汁が飲みたい」は味わい深いプロポーズだった。

古典的で、お世辞にも気の利いたフレーズとはいえない「俺はお前が作った味噌汁が飲みたい」というテンプレ的プロポーズ。クライマックスで、こいつま駅で美代子と対面した陽平は、よりによって、27年前、ファミレスでプロポーズした言葉をもう一度駅のホームで美代子に伝えます。

最初聞いたときは、「えっ、妻を引き止めるのによりによってこれ?俺はお前が好きだ!じゃないの?!」とイラッとしたのですが、あとで考え直したら、やはりこれは陽平の渾身の一言だったのだと思います。

家を出ていく直前に美代子が言った「不満はないけど、不安はあるの」という言葉。この「不安」とは、子育てが終わり、夫も料理教室に通いだし、誰からも必要とされなくなる時が来るんじゃないか、という美代子自らの存在意義に対する不安でした。

そして、陽平が「食」に対してドンに語りかけた内容。「食べることは生きることなんだ」。陽平にとって、料理とは、趣味でもあり、生きることそのものだったのです。

下手したら美代子よりも料理スキルが高くなってしまった陽平が、それでも敢えて「味噌汁=料理」を美代子に作って欲しい、と27年前と同じ言葉を重ねたのは、美代子と共に生きたいという陽平の希望であり、「必要とされたい」と願う美代子の願いに答える国語教師らしい変化球の利いたメッセージだったのだな、と合点がいきました。

5.伏線や設定などの解説

5-1.恋妻家宮本(こいさいかみやもと)の由来

「恋妻家」(こいさいか)の定義は、もちろん今回映画での造語です。意味は大体想像できますが、パンフレットによると、「恋妻家」とは、

妻への思いに気がついた夫のこと。言葉にすると新しいけれど、世界中の夫のなかに必ず眠っている気持ち。

と定義されています。あとから考えると、「恐妻家」「愛妻家」ではなく、「恋」を当てた段階で、すでに内容的にはハッピーエンドを志向していたことがよくわかります。

5-2.こいづまえきは実在するの?

映画最後でホームを挟んで対面した時、「こいづま」駅という駅名表示がちらちらっと映っていました。まさか、こんな駅があったんだ?!と調べてみましたが、残念ながら架空の駅だったようです。

ロケで使用された駅は、関東鉄道常総線の新守谷駅。終電が終わった後、ロケで借用したそうです。それにしても、結構寒そうでした。(撮影は2016年3月)

5-3.ロケに使用されたファミレスは「デニーズ」

全面的に「デニーズ」の撮影協力の元、実店舗を借り切り、メニューや食べ物もデニーズで実際に作られているものが出されていました。面白かったのは、過去の回想シーンで、ちゃんと店員が昔の制服を着ていたこと。そして、CGかもしれませんが、若い陽平と美代子が載っていた車は、今は亡き、80年代一世を風靡したホンダ「シティ」でした。

6.宮本が授業中黒板で取り上げた題材

恋妻家宮本の劇中で取り上げられた劇中歌や、陽平の国語授業中で紹介された文士たちの詩、名言は、すべて、人生の岐路に立つ陽平自身の境遇や、今後の指針をわかりやすく指し示す演出でした。以下、紹介しておきます。

志賀直哉「暗夜行路」

父の不倫と、妻の不倫を相次いで知った主人公、謙作が山にこもり、苦悩を乗り越えて山を降りてくる、というあらすじ。映画内も陽平が言ってましたが、たしかにつきあい始めに彼女に渡す本の内容ではないですね(笑)

しかも、よりによってそんな本に離婚届を挟んであるとは、面白い設定だなと思います。小説内容が(陽平にとっての)危機を暗示していたわけですね。

高村光太郎「道程」

有名な、「僕の前に道はない~」という高村光太郎の代表作ですが、ちょうど人生の岐路に差し掛かり、夫婦関係やこれからの自分の人生を見直すべき時期で思い悩む陽平の立場を暗示した詩の内容でした。

夏目漱石「真面目に考えよ。誠実に語れ。摯実に行え。」

美代子と大喧嘩した翌日、思い詰めた陽平が危機迫る形相で黒板で書いた言葉。黒板では、「考えろ、語れ、行え」と省略されていましたが、これは、おそらく夏目漱石が日記に書きつけた名言「真面目に考えよ。誠実に語れ。摯実に行なえ。」から取られています。

この後、陽平は漱石の名言通り行動し、物語はハッピーエンドへと向かいます。必死に考えた結果、離婚危機を打開する妻への言葉を語り、そして手料理に誠意を込めて福島へ行ったことで、望んだ結果を得た陽平。さすがは夏目漱石です。

7.原作版との相違点まとめ

7-1.登場人物の違い

原作「ファミレス」では、陽平の料理教室仲間は、女性ではなく、ともにアラフィフの男性、一博と康平の二人です。一博は、別居中の妻と「卒婚」に向けて話が進み、康平は物語のスタート時点から15年以上年下の妻と再婚しているなど、陽平も含め、人生の転機において三者三様の波乱含みの展開が描かれます。陽平が主役、一博と康平が準主役として、ドンのいる井上家を巻き込んでストーリーが展開します。

また、そこにアラフィフの料理教室の先生や、その娘、娘婿まで絡んでくるなど、映画に比べて展開がより複雑で入り組んでいきます。最後は映画同様、読者も納得できるそれなりのハッピーエンドへと伏線が収束していきますが、重松清の鮮やかなストーリーテリングに脱帽でした。

7-2.陽平にとってのファミレスの捉え方の違い

原作「ファミレス」では、ファミリーレストランの存在が、陽平にとっては面白くないイベントが発生する場所であり、家族の断絶の象徴でもあります。「Family less」だから「ファミレス」なのです。原作「ファミレス」での陽平は、無味乾燥なファミレスでの食事ではなく、手料理こそが家族を再び結びつけ、家族同士の温かい交流を復活させる切り札として考えているのです。

対して、映画「恋妻家宮本」では、陽平にとってファミレスという場所は特にネガティブな意味合いはなく、それどころか、人生の各節目となったイベントが発生する大事な場所でもありました。それは、美代子との絆、信頼を取り戻した陽平が、再びファミレスに戻ってきて、彼の世界で登場した人物全員と吉田拓郎の歌を歌って大団円を迎えたことからもわかります。

7-3.扱うテーマの違い

原作「ファミレス」では、陽平やドン(井上家)が「Family less」状態から、再び家族としての形を取り戻すプロセスを描きましたが、「恋妻家宮本」は、陽平が妻との関係を見直し、自分の気持を伝えられるようになるまでを扱っています。共に鑑賞後「温かい」気持ちになれるところは同じですが、扱うテーマは原作のほうが包括的ではありました。 

8.まとめ

 ネット等を見ていると、恋妻家宮本は、「温かい気持ちになれる映画」という感想が非常に多かったですが、僕にとって、この映画はそれ以上に色々と「考えさせられる」機会を与えてくれました。

ライフステージの転換期に、人は多かれ少なかれ陽平や、美代子のような悩みを抱えるわけです。僕自身、陽平のようなアラフィフまではまだ約10年ありますが、陽平のように自分自身と向き合い、大事な人に自分の気持をしっかりと伝えることが、まず何よりも大切なのだという素朴な学びを得た、そんな映画でした。

映画館の来場者は、映画の主人公の年代に沿って40代以上が目立ちましたが、何歳であっても楽しめる普遍的なテーマを扱った映画でした。笑って、泣ける要素もある、良い作品でした。
それではまた。
かるび

他にもレビュー書いてます!
【映画レビュー】2017年2月現在上映中映画の感想記事一覧

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説、重松清「ファミレス」

ブログ本編で書いたとおり、登場人物の多彩さやストーリーの複雑さ、テーマの深さでは映画に勝る部分がある。料理小説+ホームドラマを組み合わせた意欲作で、ストーリーを追う中で、頻繁に挟まれる料理シーンやそのうんちく、こだわりから、重松清の料理へのハマりっぷりがよくわかりました。

それにしても、これだけの登場人物たちを、有機的に意味のある絡み方をさせて、ラストに向かって少しずつもつれた糸をほどくように収束させるその構想力と筆致には感心させられました。映画とは違う味わい、楽しみ方ができるすぐれた原作作品です。

ドラマ「結婚できない男」

才能は豊かだが、偏屈でコミュニケーションに難がある個性的な中年男(人間関係においては、かなりダメダメ)を演じた作品。特に物語前半では、「そりゃ、結婚できないよな~」と思わされるほど、傲慢で鈍感な阿部寛が楽しめます(笑)

ドラマ「アットホーム・ダッド」

阿部寛と宮迫博之が隣同士の自宅でそれぞれ「専業主夫」を演じるコメディ。主演の阿部寛演じる山村和之が、慣れない家事に悪銭苦闘しつつ、自分の人生のあり方を模索する姿を描く佳作でした。阿部寛のコミカルな3枚目演技が魅力的な一作!