あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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「怖い絵展」徹底解説!新しい絵の見方を楽しめるユニークな美術展でした!【展覧会レビュー・感想・混雑対策】

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【2017年10月17日更新】

10月14日より土曜日9:00~20:00、日曜日9:00~18:00に開館時間が延長されました!詳しくは、下記「混雑対策」のコーナーで!

かるび(@karub_imalive)です。

10月7日から、上野の森美術館で始まった「怖い絵」展。西洋絵画から、選りすぐりの「怖い絵」を集めて展示するという、ユニークな企画展です。

実は、今年の夏に関西の実家に帰省した際、大混雑の中、頑張って並んで見てきたのですが、非常に印象的な展覧会でした。東京展が始まったら、絶対もう1回見たい!と思っていました。今回、プレス向け内覧会で取材することができましたので、写真付きで展覧会の感想・解説などをレポートしてみたいと思います!

※本展覧会の写真は、予めプレス向け内覧会にて主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承下さい。

1.怖い絵展とは

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2007年、西洋文化史に詳しい文学研究者・文筆家の中野京子氏が「怖い絵」というユニークなアート書籍を出版しました。

ルネサンス期以降の15世紀~20世紀前半までの西洋絵画の中から、いろいろな意味で「怖い」絵を、徹底的に解説した教養書です。そのユニークなアプローチや読み応えのある文章は評判を呼び、アートファンだけでなく、一般教養書として幅広い読者に支持されました。

現在、中野京子氏による「怖い絵」シリーズは、全部で5冊刊行されていますが、今回の展覧会は、書籍だけでなく、実際に「怖い絵」の実物を鑑賞して、中野京子氏の言う「怖い絵」の世界を楽しんでしまおう!というコンセプトで企画されました。すでにNHKの特集番組で映像化されているので、今回の展覧会が、いわばメディアミックスの最終型なのでしょうね。

しかし、着想は良かったものの、実際に展覧会を企画するとなると、思うように絵画の貸出が叶わなかったり、そもそも展覧会のコンセプトが関係者に理解されなかったりで、実現までは苦労の連続だったようです。

実際に一番最初に展覧会が企画・構想されたのは、2009年頃だったという話なので、実に8年越しでの企画実現となったわけです。担当者の本展にかける根性と情熱に脱帽です。

すでに2017年7月~9月にかけて、25万人以上を集めた関西展が兵庫県立美術館で開催されましたが、口コミで人気となり、最盛期は数十分待ちとなったようです。よりによってお盆のクソ暑い時期に、ガッツリ並んで見てきた、その時の僕の感想です。

2.怖い絵展の何が画期的で新しいのか?

▶怖い絵展 中野京子氏コメント
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

 中野京子氏の「怖い絵」が従来のアート解説書と大きく違う最大のポイントは、「絵画をどう読み解くのか?」新しいアプローチを示した点です。

伝統的な西洋絵画の楽しみ方と言えば、以下の2つのどちらかでした。

1)絵画の色彩や技法、クオリティを美術史の文脈に即して評価する
2)心に感じるままに絵画と向き合う

しかし、「怖い絵」では、絵画を楽しむための新しい「第3のアプローチ」を提示したのですね。

それは、

3)絵画に込められたメッセージやストーリーを積極的に読み解く

ということです。

つまり、絵画を鑑賞することで、その作品が「いかに優れているか」「なぜ、すばらしいのか」を見るのではなく、絵画に秘められたストーリーをもっと楽しもうよ?!というアプローチが新しいんですよね。

中野氏の手にかかれば、絵画鑑賞は、小難しい美術の勉強ではなく、誰もが味わえる、娯楽的な楽しみに変わるのです。いわば、知的な教養エンタテイメントといったところでしょうか。

3.「怖い絵」展を120%楽しむためにやっておきたい3つのポイント

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今回の展覧会は、見た瞬間に「これは怖い!」と感じられる作品も中にはあります。(関西展は、わかりやすい作品も多かったです)

しかし、展示された大半の絵画に含まれる「怖さ」は、絵の「背景に隠されたストーリー」を読み取ることで、じわじわと染み渡るような種類の恐怖感なのです。だから、私たちは中野京子氏のような視点で、絵画を丹念に読み解いて行く必要があります。

でも、この「ストーリーを読み解く」作業って、やっぱりそんなに簡単な作業ではないんですよね。特に、中世~近代までの西洋絵画には、キリスト教やギリシャ神話によるメタファーや、画家と依頼主の関係性、作品が制作された時代の歴史的な背景などが複雑に絡み合い、「いざ、さぁ読み解くぞ!」と意気込んでも、なかなか難しいのです。

そこで、助けになるのが、作品の横にあるキャプションや解説パネル、そして音声ガイドです。(というか、それらを使わないと絵画の簡単な意味さえわからない作品も結構あります)

ポイント1:解説パネルは極力全部読む!

今回の「怖い絵展」では、絵と一緒にしっかりした解説パネルもついています。特に、メインとなる作品では、下記のように「中野京子's eye」という、中野京子氏の描き下ろした特別解説もついています。

▼しっかり読み込みたい「中野京子's eye」
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「中野京子's eye」が出てきたら、最低限この解説パネルだけでもしっかり読んでおくと良いと思います。

ポイント2:音声ガイドを借りる!

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また、今回は音声ガイドが絶対におすすめです!吉田羊独特の、やや陰のある感じの落ち着いたナレーションが怖さを掻き立ててくれるとともに、解説パネルやキャプションには書かれていない、より深い解説が聞けるのです!

端的にいうと、今回の「怖い絵展」は絵のクオリティではなく、ストーリーを楽しむ展覧会です。情報はあればあるほど、楽しめますので、絶対におすすめ!実際、前回の兵庫県立美術館での「神戸展」でも、音声ガイドを借りる人が非常に多かったです。

ポイント3:「怖い絵」展のガイドブックを読み込む

「怖い絵」展の究極の予習・復習は、中野京子氏の「怖い絵」過去作全5冊を何度も読み込むことなのですが、ちょっとこれは時間もかかるし、ハードルも高め。

そこで、オススメは、今回展に合わせ企画・出版された「怖い絵を楽しむ」というミニ・ムック本。事実上、展覧会の副読本・ガイドブックとも言える書籍で、今回の展覧会に出展された作品から20点ほどピックアップして、中野京子氏がガッツリ解説を加えています。これを先に読んでおけば、バッチリ楽しめるはず!

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4.個人的に印象的だった「怖い」展示作品を幾つか紹介!

4-1.ベッキーそっくり?!「飽食のセイレーン」

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引用:「怖い絵展」オリジナル絵葉書より

これは、ギュスターヴ・アドルフ・モッサによる、「飽食のセイレーン」という作品ですが、7月の兵庫展が始まるやいなや、ネット上で「ベッキーにそっくり」と話題になっていた1枚。「怖い」というより、あまりにベッキーに似ているので、忘れられない一枚になった作品です。

もちろん、絵そのものもなかなかの怖さを醸し出しています。作者の生まれ故郷、ニースが海に水没する非現実的なモチーフ、遠近法を半分無視したような2次元的構図。強烈なインパクトがある作品でした。

ちなみに、このモッサの作品は、もう1枚割とエロいのがあるのですが、そちらもお顔がベッキーでした。きっと、モッサにとって理想の女性像がベッキーのような顔立ちの女性だったのでしょうね。展示前半に2枚ともありますので、ある意味前半のハイライトであります!

4-2.ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

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展覧会チラシの表紙としておなじみとなった、本展のメイン作品。縦2.5m×横3mの特大サイズで写実的に描かれた美しい作品です。年間600万人の入場者数を誇るイギリスのロンドン・ナショナル・ギャラリーで最も人気のある一枚でもあります。

ここで描かれた少女は、イギリス女王に即位してわずか9日後に、一転して処刑されることになった悲劇の女性「ジェーン・グレイ」です。自らが処刑される処刑台を手探りで探す、わずか16歳の目隠しをされた清楚な少女。その横には、大きな鎌を手に持った処刑人が無表情で控えています。鑑賞者は、直後に少女に起こるであろう悲劇を思い起こさずにはいられませんよね。よく計算された、怖い絵だと感じました。

なお、本作品の貸出交渉は数年がかりとなったそうで、交渉担当者の粘り腰で、ようやく貸出に成功したとの逸話付き。監修者の中野京子氏もこれが借りられなかったらもう展覧会はやめよう、と覚悟していたそうです。

4-3.有名画家の心の闇が投影された?!セザンヌ「殺人」

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暗い雲が垂れ込める夜の海で、二人がかりで押さえ込んで金髪女性を殺そうとする、とんでもない絵画。本作は、セザンヌがゾラと一緒にパリの屋根裏部屋で売れない画家修行時代に描かれた作品で、一見、彼のよく手掛けたサント・ヴィクトワール山や静物画のイメージとは相容れない作風のように思えます。

図録の中野京子氏の説明によると、セザンヌは20代後半~30代前半にかけて、こうした暴力的な残酷な絵をいくつか描いていたが、後世の美術評論家が、意図的に触れるのを忌避してきた経緯があるのだそうです。(扱いに困るので)最も、後年、セザンヌ自らこの時代に描いた暗く狂気の宿った絵画を廃棄していますので、こうした怖い絵は若き日の迷いが描かせたのかもしれませんね。

4-4.ハニートラップで騙される男の哀れ「不釣り合いなカップル」

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ルネサンス期以降、こういった「美女に籠絡される間抜けな中年男」系の絵画は、繰り返し描かれてきた典型的な教訓画だそうです。実際、2016年のクラーナハ展やカラヴァッジョ展でも似たような構図の作品を目にしました。

しかし、この絵ほどマンガチックでわかりやすい構図の絵画はないですね・・・。ハゲちらかした不細工な中年男が、明らかに悪そうな女に引っかかり、その後ろから別の女が財布からお金を抜いている・・・という。

男も男ですが、女二人も気持ち悪い顔つきで描かれており、それをじっと楽しそうに傍観する左上の男性達も含め、人間の醜悪さが凝縮されたような一枚。全体的に、絵画全体にあふれるそこはかとないB級感も逆に印象的で良かったかなと思います。

4-5.画家の将来を暗示?!オクターブ・タサエール「不幸な家族(自殺)」

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引用:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Octave_Tassaert-An_Unfortunate_Family_aka_Suicide_1852.jpg

19世紀頃、地方からパリに出てきた貧しい労働者階級が、華やかなパリの街の中で、こうしたアパートの狭い屋根裏部屋にひっそり住んでいたという逸話は良く聞きます。貧しいワーキングプアの母子家庭が、絶望のあまり練炭自殺・・・って、この構図、そのまんま現代にもあてはまってしまうというこの恐ろしさ。

娘はすでに死亡し、母も顔面は蒼白で、もうすぐ・・・っていう状況ですよね。さらに怖いのは、この作品を描いたタサエール自身も、これを描いた22年後に貧困が原因で自殺してしまうのです・・・。自らの死を予言した作品だったのでしょうか。

4-6.ギュスターヴ・モローの2枚は幽霊画みたいでした!

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引用:Wikipediaより

フランス象徴主義の巨匠、ギュスターヴ・モロー。彼の作品は、薄ら寒い「怖さ」をわかりやすく提供してくれました。

本作は旧約聖書に登場する悪徳の町「ソドム」に遣わされた天使が、ソドムの街を業火で焼き払う図です。煙がモクモク立ち上る中、まるで幽霊画のように、荒涼とした背景に不気味に浮かび上がる二人の天使は、どう見ても悪霊にしか見えません・・・

ちなみに、ギュスターヴ・モローの隣の絵「トロイアの城壁に立つヘレネー」もこれまた幽霊画のようでした。神話の世界を不気味に切り取ったモロー独特の「怖い絵」、インパクトがありました。

4-7.ジャック=エドゥアール・ジャビオ「メデューズ号の筏」

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ロマン派絵画の代表作の一つ、ジェリコー「メデューズ号の筏」の模写作品。1816年、遠くアフリカの植民地から母国へと帰還する途中、座礁したメデューズ号。救命ボートに乗れなかった150人が、急造の筏で漂流しますが、13日後、別の船に救出された時はわずか15名に減っていたそうです。その筏の上では、殺し合いや人肉食などが繰り広げられたそうです・・・。

この凄惨な事件を世間に告発するため、ジェリコーは劇的なタッチで事件を描いたそうです。絵を見ると、助けを求める男たちの下では、筏の上に何体もの死体が転がっています・・・

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5.グッズコーナーが充実!センスの良い商品が凄い!

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今回の展覧会は、とにかくグッズコーナーの充実ぶりが半端ない!どれも展覧会のコンセプトにぴったりあったグッズばかりで、よく考えられたクオリティの高い商品が多かったです。

▼白い恋人・・・ではなく「黒い恋人」
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最初、「これ、いいのかな?」と思ってみていましたが、実際はパクリでもなんでもなく、北海道に実際に「黒い恋人」という商品があり、それとタイアップしているので、ヘンに商標権とか気にせず、堂々とお土産にお買い求め下さい(笑)

▼おみやげには必ず中野京子氏の解説付き!f:id:hisatsugu79:20171007123448j:plain

今回のグッズコーナーで販売されている商品には、商品とタイアップされている作品の解説文がきっちりグッズに書かれています。買ってから、使う前にもう一度作品の復習も自動的にできてしまうのです!

▼ビアズリーの「怖い挿絵」を12点集めたハンカチ!f:id:hisatsugu79:20171007123737j:plain

▼怖い絵展の美女を集めた缶バッジ型の鏡f:id:hisatsugu79:20171007123934j:plain

▼めくるたびに絵柄が違うビアズリーの一筆箋f:id:hisatsugu79:20171007122931j:plain

このように、どの商品も一手間、一工夫かけられているのもよかったです。

▼Tシャツのデザインも良かった!f:id:hisatsugu79:20171008041419j:plain

中でも、若干ゴシックテイストが入ったTシャツのデザインが素晴らしかった!衝動的に2枚購入しちゃいました! 

▼中野京子氏の「怖い絵」関連書籍も多数!f:id:hisatsugu79:20171008041531j:plain

2007年の処女作「怖い絵」以来、10年以上その旺盛な文筆活動で次々にアート系の解説本をリリースし続けてきた中野京子氏。今回も、会場内で主な作品を買うことができますよ!

6.混雑状況と所要時間目安

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なんと、開幕した初日、10月7日からいきなり60分待ち、翌日はMAX80分待ちと、大行列が発生!上野の森美術館は館内も狭く、すぐにキャパオーバーになりやすいのですが、それにしてもこれは凄い状況です・・・。

下記の通り、「怖い絵展」公式Twitterアカウントで、かなり詳細に混雑状況をつぶやいてくれます。お出かけの前に、これで混雑状況を確認するといいですね。

主催者側も、さすがに慌てたのか、会期中は10月14日より土曜日9:00~20:00、日曜日9:00~18:00に開館時間が延長されました。 

さて、混雑対策ですが、来館者が若い人主体なので、朝の開館時が一番空いており、そこから午後15時のピークまで込み続け、閉館時間にかけて人が退いていく、という混雑パターンになっています。また、混雑度は休日>>>平日となるため、混雑を避けるための有効な作戦は・・・

・とにかく朝一に来る
・休日を避けて平日に来る

のが良さそう。また、他の美術館と違い、会期中は「無休」となります。したがって、上野地区の他の美術館が一斉に休業する「月曜日」が絶対的な狙い目となります。従って、最強の混雑対策は、

・平日月曜日の朝10時に来る

となるでしょう。

7.関連書籍・資料などの紹介

全てはここから始まった!「怖い絵」

2007年に出版され、その年のアート本ではダントツNo.1の売上を誇ったベストセラー。この本の凄いところは西洋の歴史・宗教・文学など、あらゆる文脈から精緻な解説が加えられているのですが、ウィットに富んだアグレッシブな文体によって痛快な読後感燃得られることです。絵をパラパラ見ながら、一気読みされるほど引き込まれます!

最新刊!展覧会のガイドブック「怖い絵の秘密」

展覧会で出展されている作品を中心に、新たに中野京子氏が解説を描き下ろした最新の「怖い絵」本。事実上、展覧会のガイドブック・副読本であります。これに加え、後半では中野京子氏と宮部みゆき氏の対談によって、西洋絵画に秘められたストーリーを読み解く面白さも語り尽くされます。展覧会を掘り下げて楽しみたい人は、これで予習復習するとはかどります!

8.まとめ

西洋絵画に対する新しい楽しみ方を提示してくれた「怖い絵」展。一枚の絵画の裏側に込められた寓意や、背景知識を丹念に読み解くことで、より深く絵画を味わえるだけでなく、知らず知らずのうちに教養も合わせて身についていくのですよね。

混雑状況は厳しそうですが、並んでも見ておきたい素晴らしい展覧会です。
それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
◯最寄り駅
JR・地下鉄上野駅
◯会期・開館時間・休館日
2017年10月7日~12月17日(会期中無休
10月14日より土曜日9:00~20:00、日曜日9:00~18:00に
開館時間を延長決定!
開館時間:午前10時~午後5時
*最終入場閉館30分前まで
◯公式HP
http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=214
◯Twitter
「怖い絵」展 (@kowaie_ten) | Twitter