あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「アウトレイジ最終章」 感想・レビューと11の疑問点を徹底解説!/北野映画の集大成として見ておくべき作品でした!

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2017年10月31日最終更新

かるび(@karub_imalive)です。

10月7日に公開された北野武監督の新作「アウトレイジ最終章」を見てきました。北野作品の中でも、エンタメ的要素が強い「アウトレイジ」シリーズの最終作です。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分にてストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「アウトレイジ最終章」の予告動画・基本情報

▶アウトレイジ最終章-公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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【監督】北野武(「アウトレイジ」シリーズ、他15作)
【配給】ワーナー・ブラザーズ
【時間】104分

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引用:北野武 - 映画.com

1989年、映画「その男、凶暴につき」で深作欣二監督のピンチヒッターとして監督デビューして以来、今作「アウトレイジ最終章」で18作目となった北野武作品。

21世紀に入り、押しも押されぬ「世界のキタノ」となった巨匠ですが、自ら監督を務めるだけでなく、作品のほとんど全てに自ら出演し、脚本・編集まで自分でこなします。

映画だけでなく、多数のTVのレギュラーシリーズや27時間TVのプロデュース、さらに最近では手がけた初の恋愛小説「アナログ」も発売即ベストセラーになるなど、70歳の大台になってもなお、クリエイターとしての活動はとどまるところを知りません。

小説「アナログ」の感想は、こちらに書きました。もしよければどうぞ! 

さて、そんな中制作された本作「アウトレイジ最終章」は、北野監督が作家性を極力抑え、エンターテイメントに徹して作り上げたヤクザ映画シリーズ「アウトレイジ」3部作の最終作となります。

そのため、今作は過去作「アウトレイジ」「アウトレイジビヨンド」の直接の続編となっています。しかし、映画本編では、もともとセリフ等の状況説明が少ない北野映画らしく、過去2作についてのフォローアップはほとんどありません!過去作を見ていない人かなりの勢いで置き去りになりますので、「最終章」を見る前に、あらすじを少しでもいいので頭に入れておいた方が良いでしょう。ちょうど公式サイトで、「3分でわかるアウトレイジシリーズ」というおさらい動画がアップされていますので、紹介しておきますね。これは必見です!

▶アウトレイジおさらい動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「アウトレイジ最終章」人物相関図・主要登場人物・キャスト

人物相関図

シリーズを通しての主人公、大友を中心としたヤクザ社会の群像劇を描く「アウトレイジ」シリーズ。今作も、豪華キャスト陣が入れ替わり立ち替わり目まぐるしく登場します。劇場に見に行く前に、誰がどの組織に所属しているのか・・・程度には人物相関図を頭に入れておくと、より楽しめますよ!

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引用:『アウトレイジ 最終章』公式サイトより

主要登場人物

個人的に、今作で特に印象に残ったキャスト陣を個別に紹介したいと思います。

西野:花菱会若頭(西田敏行)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
前作「アウトレイジビヨンド」では、いかにもヤクザが言いそうな、ウィットに富んだ絶妙の台詞回しでヤクザ映画ファンを魅了した西田敏行。今作は、頚椎手術明けでの登場となったため、不自然に座っているシーンが多用されているのですが、言葉芸・顔芸は引き続き鮮烈でした。今作の、「迷惑もハローワークもあるかい!」は屈指の名セリフ?!

中田:花菱会若頭補佐(塩見三省)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
西田敏行同様、脳梗塞で病み上がりからの復帰。武闘派の若頭補佐として、めちゃくちゃ怖かった前作に比べると、まだちゃんとろれつが回っていない感じや言い回しでのテンポの悪さが目立ちました。重要な配役だったので、もう少し頑張ってほしかった・・・。

大友(ビートたけし)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
御年70歳で、さすがに老いが隠せない感じはありました。武闘派ヤクザとしての狂気や凶暴性よりも、枯れて死に場所を探している老兵・・・という感じの乾いた演技は好感。ただやっぱり滑舌が悪すぎるのは何とかならなかったのかと・・・。

張大成:張グループ会長(金田時生)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
前作「アウトレイジビヨンド」以来の連続出演。セリフは少ないものの、スクリーン上で圧倒的な存在感を放っています。彼のオフィスにかかるハングルの掛け軸は「仁は義なり、義は仁なり」と書かれているそうです。仁義なき戦いを繰り広げる、私利私欲にまみれた日本のヤクザとは対照的に、一糸乱れぬ強固な組織として描かれた張グループの結束は非常に印象的でした。

花田:花菱会直参幹部(ピエール瀧)f:id:hisatsugu79:20171011083048j:plain
引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
若手の鉄砲玉的強面キャラかと思いきや、後半になるに従ってコメディ・リリーフ的に笑えるキャラへと成り下がっていく花田。北野映画初登場です。中年らしい絶妙のお腹のたるみもリアルで良かったです。顔の面積が広いので?!「顔芸」という意味では一番のインパクトがありました。

森島:花菱会会長付若頭補佐(岸部一徳)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
「この男、凶暴につき」「座頭市」以来、北野映画では3度目の起用。個人的に「最終章」で一番見たかった俳優。期待通り、クライマックスで強烈な裏切りをかましてくれました(笑)しかし年を取るたびにかわいくなっていきますねこの人・・・。「ドクターX」でのアキラ役も最高ですし。

野村:花菱会会長(大杉漣)
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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube
北野映画では実に8度目の起用となりましたが、今作では珍しくたけし(主人公)側のサイドキックではなく、敵役のボスとしての起用となりました。花菱会の老人達の中にあって、いちばんドスの利いた声で気を吐いていました。  

3.途中までの簡単なあらすじ

日本の二大勢力だった「山王会」と「花菱会」の抗争終結後、激情のままに旧知のマル暴刑事・片岡を殺害してしまった大友(ビートたけし)は、旧知のフィクサー、チャン会長(金田時男)の庇護の下、済州島へ身を隠していた。

ある日、大友が取り仕切るガールズバーで、花菱会の直参幹部、花田(ピエール瀧)が女を殴りいざこざを起こした。花田は、大友から請求された200万を支払わず、逆に大友の部下を殺害して日本へ帰国したが、これが花菱会と張グループの間での抗争の火種となるのだった。

花田は、花菱会の若頭補佐の中田(塩見三省)と張の元へ詫びへ行くが、相手にされない。一方、花菱会では先代会長の娘婿で、元証券マンの野村(大杉漣)と、生え抜きヤクザである若頭の西野(西田敏行)の間で内部抗争が激化していた。野村は、張とのトラブルを利用して中田と西野を反目させて両者を潰そうと画策したが、西野は隠遁して野村の裏をかくのだった。

内部抗争のさ中、野村は、遂に張に対してヒットマンを差し向けたが、未遂に終わった。この一連の動きに激怒した大友は、配下の市川(大森南朋)を連れて来日した。花菱会の内部抗争が激化する中、大友は死に場所を求めて最後に大暴走するのだったー。 

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4.映画「アウトレイジ最終章」の感想・評価

3作通じて、徹底的に人間の弱さ・ずるさ・醜さを描き続けたシリーズだった

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

「アウトレイジ」シリーズ3作を通じて、僕が一番興味を持って見ていたのが、群像劇を通して見えてくる組織の栄枯盛衰です。

どんなに強大で、巨大な組織であっても、集団としてのまとまりを支えているのは「誠意」や「信頼」に基づいた良好な人間関係なんですよね。個人のエゴ丸出しな裏切り・駆け引き・騙し合いによって、組織が内部から瓦解していく様子を、ヤクザの群像劇と言う形でわかりやすく提示したのが、「アウトレイジ」シリーズでした。

「アウトレイジ」シリーズ3作を通して共通するのは、ストーリーの展開の仕方です。最初は他愛もない小競り合いから物語がスタートしますが、メンツや意地を優先するヤクザ社会特有のロジックや、関係者の思惑によって、騒ぎがどんどん大きくなり、登場人物全体を巻き込む大抗争へと発展していきます。そして、主人公の大友やその一派以外は見事に「仁義・任侠」といったヤクザ社会の理想とは程遠い俗物ばかり。

一旦抗争に入ると、誰しもが「自分第一」で利己的に生き残ろうとします。その過程で、生き残りに失敗した者は死んでいき、上手く立ち回った者は、一時的に命を永らえる。今作でも運良く生き残ったメンバーは花菱会で好位置を獲得しますが、所詮「裏切り」と「駆け引き」によって一時的につかんだ地位。仮に、もし続編があればきっと彼らもまた別の機会に凶弾に倒れることになるのでしょう・・・。

ヤクザ組織の場合、ヤクザ特有の意地の張り合いから、最後は強引に命の取り合いと言うかたちで決着するので、政治家や医者といった他の組織よりも結論が非常に分かり易いのですよね。このご時世、テレビでは扱うことが難しいヤクザ同士の生々しい抗争を題材として、圧倒的に豪華なキャスト陣で大作映画シリーズを作り上げた北野武監督。他の映画監督や、TVドラマでは絶対に実現できない、今、見るべき価値のある大作映画に仕上がったなという印象です。

1作ごとに微妙に作風が違っている「アウトレイジ」シリーズ

各種インタビューでも北野監督自身が認めていることですが、本作シリーズは、各作品で製作期間が開いていることもあり、1作目、2作目、そしてこの最終章でそれぞれの作品の性格が微妙に違っています。

1作目は、生々しい直接的なバイオレンス描写が特徴的でした。画面を見ていて思わず目をそむけたくなるような痛々しさは忘れられません。2作目は、一転してヤクザの幹部同士の抗争劇を描いたため、暴力の応酬は控えめになり、変わって丁々発止の言葉による応酬・心理戦が最大の見どころでした。

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3作目前半はヤクザの顔アップシーン多し!
引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

そして、今作の3作目。病み上がりで物理的に動けないメインキャスト陣の「老い」もあって、前半は特に顔面にフォーカスされた「顔芸」がメインでした。しかし、抗争が激化した物語後半では、諦めの心境を通り越して、死に場所を求めて最後に大暴走を始めた大友オンステージ。

ただ、機関銃や一撃必殺の暗殺シーンには、不思議と生々しさは薄く、どこか夢のような描かれ方をします。クライマックスにかけて、1作目・2作目で徹底されていたエンタメ路線が鳴りを潜め、諦念や虚無感の漂う「キタノブルー」が復活していきました。

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古き良き北野映画らしさが復活?!
引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

前半はエンタメ路線、後半はアート的な香りのする初期北野作品的な味わいへと変化した本作は、これまでの北野武監督作品のすべてのエッセンスを統合した、記念碑的な集大成になったのではないかな、と思いました。特に、デビュー作「この男、凶暴につき」のラストシーンで対決したビートたけしと白竜が、再び本作のクライマックスで命のやり取りをするクライマックスシーンや、北野作品がブレイクスルーした4作目「ソナチネ」を想起させる様々なシーンが、北野武監督の本作にかける思いを表していたような気がします。

最低限、「アウトレイジビヨンド」は見てから映画館へ行きましょう!

極端にセリフが少なく、時には何が起こっているのか解釈に困るようなシーンもあった初期作と違い、今作は特に状況説明的なセリフが多く、各登場人物は非常に饒舌です。

だから、注意深く見ていれば、基本的な筋書きは全て劇中の登場人物が「セリフ」として語ってくれています。ですが、前作から引き継いだ設定・伏線の細かい所は説明が省かれており、事実上前作「アウトレイジビヨンド」を見ていないと、100%楽しめない作りになっていました。

極力、前作「アウトレイジビヨンド」、1作目「アウトレイジ」をもう一度復習してから劇場に見に行くことをオススメします。

キャストの演技を中心に若干の不満点も・・・

作品全体としては満足度は高かったのですが、全盛期を過ぎ、老いたキャスト陣の演技については若干の不満が残りました。もうちょっとなんとかならなかったのかという・・・。

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病み上がりで台詞回しが怪しかった塩見三省
引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

まず残念だったのは、やっぱり主役として抜擢された塩見三省と西田敏行の両者が病み上がりで、本来の役者としての凄みを100%出し切れていたとはいい難いこと。5年前の「アウトレイジビヨンド」で2人が見せたキレキレの演技は一体どこに・・・。

また、ビートたけしも滑舌の悪さが年々厳しくなっていきますね。2017年4月に公開された「ゴーストインザシェル」でも、発音が不明瞭で何を言っているのかきちんと聞き取れなかったのですが、今作もやっぱりなんだか苦しそうでした。

本作で一番声を張り上げ、凄みを聞かせていたのが素人上がり(という設定)の野村を演じる大杉漣だったのが、残念といえば残念でした。 

あと、やっぱり違和感を感じるのは(頑張ってるし、面白いんだけど)西田敏行の関西弁。関西出身者ならすぐわかるのですが、イントネーションが結構違うんですよね~。花菱会のキャスト陣には、関西ネイティブなベテランをあと2,3人入れて欲しかったかなという気もします。

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5.映画「アウトレイジ最終章」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

「アウトレイジ」シリーズは、主人公・大友を中心とする群像劇ですが、非常に複雑に入り組んだ人間関係、ヤクザ特有のロジックや、前作から引き継いだ設定など、ストーリーを理解するにあたりわかりづらい点も結構ありました。ここでは、ストーリーの要点になる11個の疑問点をピックアップして解説を試みてみたいと思います。なお、ここからはネタバレ要素が強くなりますので、何卒ご了承下さい。

疑問点1:なぜ大友は済州島にいたのか?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

前作「アウトレイジビヨンド」で、日本のヤクザ組織の二大勢力だった関東の「山王会」と関西の「花菱会」の抗争の中で、兄弟盃を交わした木村組の組長、木村が暗殺されました。木村の葬儀で、大友はマル暴担当刑事・片岡が黒幕であることを察知し、激情にかられて片岡を撃ち殺してしまいます。そのため、大友は日本にいられなくなり、日韓を牛耳るフィクサーであるチャン会長の後ろ盾で、済州島へと渡って身を隠していたのでした。

疑問点2:花菱会の「野村会長」とは誰なの?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

野村は、花菱会の前会長・布施の娘婿で元証券マンでした。布施は、組織生え抜きの若頭・西野ではなく、経済的センスに長けた「外様」野村を強引に後継に指名し、引退したのでした。(生死は不明)この身内びいきな人事が、今作での「野村VS西野」という花菱会内紛につながっていきます。

疑問点3:チャン会長を演じる金田時男って誰なの?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

前作「アウトレイジビヨンド」、今作「アウトレイジ最終章」と2作続けて、張グループの総帥、張大成を演じた金田時男氏。豪華キャスト陣の中に入って、「ん・・・誰?」って感じでしたが、それもそのはず。この人は本職の俳優ではなく、一般人から起用された人です。しかし、有名俳優たちに負けず劣らず、ハングルもペラペラで物凄いオーラを放っていましたよね。

調べてみると、この人は在日韓国人の実業家で、日本で発行されるハングルの新聞「統一日報」の会長であり、日韓実業界の大物なんだそうです。実はリアルでもあまり映画内での立場と変わらないのではないでしょうか(笑)

北野監督とは古くからの知り合いで、前作「アウトレイジビヨンド」でチョイ役でもいいから出演させてくれ、と北野監督が頼まれたのだそうです。だから、前作では、セリフはわずか1箇所のみ。しかし、起用してみたらこれが凄い迫力だったので、好評につき出演枠を拡大しての連続起用となったのでした。

疑問点4:吉岡とは誰なのか?なぜ大友に殺されたのか?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

山王会との抗争に勝利し、事実上山王会を傘下に納めた花菱会。山王会配下だった木村組の組長・木村がヒットマンの凶弾に倒れてから、花菱会は新たに木村組の組長に吉岡を送り込み、木村組の島と組織を維持していたのでした。

花菱会の内部抗争のさなか、野村は吉岡たちにチャン会長の襲撃を指揮させますが、失敗します。チャン会長に恩義がある大友は、吉岡を狙ったのでした。 

疑問点5:海辺でのワゴン車の撃ち合いで、大友に何が起こったのか?

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引用:アウトレイジ最終章「パンフレット」より

非常に分かりづらかった海辺のワゴン車のシーン。海辺で停車中だった大友たちの乗ったワゴン車に、韓国系の若手ヤクザが近づいてきて、銃撃戦になった場面がありました。チャン会長に近い人物しか知り得ない質問に答えられなかったため、大友はこのヤクザをチャン会長の援軍を装った野村が大友襲撃に送り込んだ韓国系のヒットマンであると見破り、その場で銃撃戦になります。

しかし、その時大友は手元を誤り、運転手である身内(チャン会長の若手部下/冒頭の済州島の桟橋シーンで銃を誤射した若手)まで射殺してしまいました。これは従来の大友では考えられないミスであり、大友が「老い」を感じさせる描写でしたね。

疑問点6:なぜ大友は、最後に鉄工業者を殺しに行ったのか?

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引用:アウトレイジ最終章「パンフレット」より

この二人は、大友が兄弟盃を交わした木村組組長を襲撃し、殺害したヒットマンだったからです。(前作「アウトレイジビヨンド」ラストシーン参照)この二人は、山王会元組長・加藤のボディガードでしたが、マル暴刑事・片岡にそそのかされ、木村を殺害しました。木村殺害後は加藤同様、引退して堅気に戻っていましたが、暴走した大友に最後のケジメとして殺害されてしまいます。

疑問点7:李(白竜)は、なぜ大友に銃を向けたのか?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

チャン会長は、花菱会との抗争を穏便に済ませたい意向でした。チャン会長が襲撃されてから、来日した大友に対して、チャン会長は腹心の李を目付役として見張らせます。しかし、大友はチャン会長の意向に背いて暴走を続けたため、大友に最後の警告として銃を向けたのでした。(ここで殺害しようとしたかどうかは不明)

白竜とビートたけしの対決シーンは、「この男、凶暴につき」ラストシーンを想起させる展開であり、アウトレイジシリーズを締めくくるにふさわしい、北野ヤクザ映画の集大成的なシーンとなりました。

疑問点8:大友は、なぜ最後に自決したのか?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

数年前の山王会内部抗争にて、自分以外の組員が全員死亡し、大友組が壊滅した時から、「俺だけが生きているわけには行かない」(「アウトレイジ」)と大友はどこか死に場所を探していたフシがあります。チャン会長襲撃と兄弟盃を交わした木村のケジメを取り終わった時、生きることへの未練が無くなった大友は、チャン会長にこれ以上迷惑をかけないため、自ら死を選んだのでした。

もっとも、北野映画においては、「HANA-BI」「ソナチネ」「その男、凶暴につき」など、ビートたけし演じる主人公が自死を選ぶ結末は定番と言っても良いほどです。

疑問点9:映画「ソナチネ」との類似点が多数あった作品


引用:Amazon.co.jp

本作は、北野武監督が名声を高めるきっかけとなった4作目「ソナチネ」と内容・描写においてかなりの点で類似点がありました。例えば、以下のような点です。

・やることのない主人公が子分と海辺で遊んでいる
・主人公が海辺で魚釣りをしているシーンがある
・機関銃で敵に向けて無差別発砲するシーンがある
・主人公がラストで自決して話が終わる

北野監督も、なんとなく「ソナチネ」との類似点を自ら認めており、意図的に相違点を作ろうとしていたようですね。見比べてみるのも面白いと思います。

疑問点10:ラストシーン~エンドロールの意味するものとは?ひょっとして夢オチ?

ラストシーンでは、済州島に一人帰った市川が、平穏な日常に戻っていつもの桟橋で釣りをするシーンで終わっていました。大友と市川が二人で釣りをしていたオープニングと呼応するシーンでしたが、こちらは2作目「3-4×10月」の「夢オチ」エンディングを強く連想させました。

「3-4×10月」では、柳ユーレイ演じる堅気の主人公がヤクザの事務所にダンプカーで突っ込んで大炎上する場面で終わりますが、次のシーンで、主人公は河川敷で草野球の試合中、仮設トイレの中で目が醒め、オープニングのシーンへと戻ってきます。 

これで「夢オチ」だったことが判明するのですが、今作もひょっとしたら市川か大友が見ていた夢だったのか?と思わされるエンディングでした。パンフレットやインタビュー記事では「夢オチ」を示唆するような話はありませんが、続編が企画されるのであれば、ひょっとしたら「夢オチ」解釈もありなのかもしれませんね。 

疑問点11:「アウトレイジ」シリーズの続編はあるの?

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引用:映画『アウトレイジ 最終章』本予告 YouTube

古くは、名作「仁義なき戦い」が、新シリーズやリブートを繰り返したように、「アウトレイジ」シリーズも長く続くシリーズになるのかもしれません。一応、大友が死んで本編は3部作で終了となりましたが、北野監督の構想では、大友の青年時代を描くスピンオフのアイデアがあるようです。

次回作は自らが書きおろした初の恋愛小説「アナログ」をベースとした恋愛映画になる見込みですが、それが終わったら、ひょっとしたら4作目に着手するのかもしれませんんね。

6.映画パンフレットの出来が秀逸!

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本作は、映画パンフレットが非常に良い出来です。是非、劇場へ足を運んだ際は購入してみて下さい!

パンフレットの見どころは、「アウトレイジ」シリーズの過去2作を含めて、3作を通した作品解説が非常に充実していたことです。特に、「HISTORY OF OUTRAGE」と銘打って、全3作品での見どころである「暴力シーン」のハイライト一気紹介や、裏切りの歴史・手口などを一覧でまとめた解説は必見!

▼「暴力シーン」「裏切りの歴史」などを総まとめ!f:id:hisatsugu79:20171011115648j:plain

その他、メインキャスト全員のコメントが丁寧に記載され、プロデューサーや北野監督へのロングインタビュー、さらには北野組の座談会など、掲載されたテキスト量はかなりの充実度でした。

▼文字密度が濃い!読み応え抜群!!f:id:hisatsugu79:20171011115717j:plain

一応、Amazonなどでもパンフレットを購入できるようになっているようなので、リンクを置いておきますね。

7.まとめ

脚本をきっちり作り込み、豪華キャスト陣を起用して話題を呼んだ「アウトレイジ」シリーズの最終作となった本作は、北野武監督作品の集大成的な、アート性とエンタメ性のバランスが取れた作品となりました。キャスト陣のパフォーマンスには若干の不満は残りますが、現在の日本でこれだけの完成度・規模でバイオレンス映画を撮れる監督は他にいないと思います。

70歳を過ぎてもまだまだ新作映画への意欲が衰えない北野監督ですが、今後も「アウトレイジ」シリーズを超える作品を是非作って欲しいなと思いました。
それではまた。
かるび

【参考】映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍を紹介!

エンタメに特化した1作目!「アウトレイジ」

シリーズ第1作。従来のキタノ映画らしさを封印し、エンタメ路線に特化してヒットを狙った意欲作。ヤクザ映画史上、最高クラスの残虐な暴力シーンが特徴でした。ガンアクションだけでなくナイフや凶器など様々な「痛々しい」場面が満載。次に何が起こるのかわからないハラハラする展開も非常に新鮮でした。ラストシーンの幕切れも秀逸。

シリーズ第2弾!「アウトレイジビヨンド」

暴力シーンは第1作に譲るものの、2作目ではまるで漫才の掛け合いのように丁々発止なヤクザ同士の言質の取り合い、激しい言葉の応酬が新たな見どころとなりました。花菱会本部での大友・木村VS中田・西野の対決は名シーンです。 

映画「ソナチネ」

「キタノブルー」「破滅願望を持つ主人公」「渇いた質感の描写」など、北野武の映画制作における基本形が完成した、初期作品群で最重要作品とされる傑作。「アウトレイジ最終章」では、映画「ソナチネ」のセルフ・オマージュとも取れるような類似シーンが多く見られました。アウトレイジシリーズの次に見る北野作品としてはこれが一番だと思います!

最強の副読本「映画監督、北野武」

キャリア約30年で、日本映画界の歴史を作ってきた数々の名作を振り返りながら、様々な識者・評論家達が北野映画について語り尽くす最強の副読本。「アウトレイジ」シリーズをきっかけに、北野映画を味わい尽くすのであれば、オススメの一冊です!