あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【詳細レビュー】フィリップス・コレクション展はハイレベルな西洋美術展!捨て作品なしのオール巨匠勢揃いでした!【展覧会感想・解説】

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【2018年11月29日最終更新】

こんにちは、かるび(@karub_imalive)です。
2018年も秋本番を迎え、各地では美術展が花盛り。僕が主戦場としている首都圏では、今年の秋は上野地区を中心に西洋美術の大型展覧会がどこも大好評。

そんな中、また一つ絶対に見ておきたいハイクオリティな西洋美術展がはじまりました。それが、三菱一号館美術館で開催中の「フィリップス・コレクション展」。1920年代~1930年代を中心に、西洋美術の世界的なコレクターとして名を馳せたダンカン・フィリップスが残した大コレクションの「いちばんおいしいところ」を選んで展示する展覧会です。

少し遅くなりましたが、2回見てきましたので感想レポートにまとめてみました!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
※エントリ中、全ての作品はフィリップス・コレクションの所蔵作品です。

1.フィリップス・コレクション展とは

展覧会の概要

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本展は、1920年台~40年台を中心に、西洋絵画の世界的な大コレクターとして名を馳せたダンカン・フィリップスの個人コレクションを収蔵・展示する美術館、フィリップス・コレクションの名品約70点を厳選し、展示する展覧会です。

その内訳は、マネ・モネ・ドガ・シスレーといった印象派を中心に、クールベやコローなどのバルビゾン派、ブラックやピカソなどのキュビスムの作家たち、マティスやデュフィ、ボナールなど彼と同世代のフランスの巨匠たち、カンディンスキーやフランツ・マルクなどドイツ表現主義のメンバーなど、近代西洋絵画のほぼ全てのジャンルを網羅する充実ぶり。

パンフレットに謳われている通り、まさに「全員巨匠」なので、最初から最後まで捨て作品一切なしのクオリティの高い展覧会なのです。

稀代の大コレクター、ダンカン・フィリップスとは?

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会場写真より引用

ダンカン・フィリップスは、1886年、鉄鋼業の一大中心地だったピッツバーグの裕福な家に生まれました。学生時代はパリやロンドン、マドリードなどを頻繁に訪れ、ルーヴル美術館をはじめ、画商や画廊を頻繁に訪問していたといいます。

1910年代頃から批評家として美術界で活動するようになり、1920年代からは批評活動に加え、画家のパトロンとなるべくアートコレクターとして活動を開始。コレクターとしての活動当初は、印象派以前の定評ある作品を手堅く購入するスタイルでしたが、年を経るとともに趣味嗜好の幅を広げ、時代を象徴する様々な作家たちのパトロンとなっていきました。

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会場写真より引用

一方、彼は一般大衆への美術の啓蒙活動にも熱心でした。1921年には、自らのコレクション約240点(当時)を公開・披露するためのフィリップス・メモリアル・アート・ギャラリー(現:フィリップス・コレクション)を開設。また、作品を購入するだけでなく、彼のお気に入りの画家たちの個展開催をバックアップしました。

ダンカン・フィリップスは1966年に亡くなりました。彼が最終的に残したコレクションは、そのまま家庭的な雰囲気の中、フィリップス・コレクションで現在も楽しむことができます。

2.注目したいユニークな展示方法

今回のフィリップス・コレクション展の展示の特徴は、ジャンル別や時代別、様式別に分類整理されているのではなく、ダンカン・フィリップスが収集した順番に作品が並べられているのです。

▼解説パネル上で目立つよう強調された収集順f:id:hisatsugu79:20181110170606j:plain

 

このように丹念に展示を見ていくと、ダンカン・フィリップスがどのような思いで作品を収集し、彼の嗜好がどのように変わっていったのか見えてくるのですよね。

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アルフレッド・シスレー《ルーヴシエンヌの雪》1874年

展示の最初の方はモネやシスレーなど、比較的わかりやすい作品が並びますが、最後の部屋はジャコメッティやピカソなど、現代アートに片足をつっこんだような作品へと代わっていきます。このように、展覧会を巡りながら、ダンカン・フィリップスのアートに対する嗜好の変化がしっかり感じられるように計算されているのです。

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必見!「ダンカン・フィリップスの言葉」

また、当初どのように各作品がダンカン・フィリップスのギャラリーで展示されていたのか、当時の展示風景写真と比較しながら展示を楽しむことができるのも、面白い工夫です。

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さらに、「ダンカン・フィリップスの言葉」と書かれた短評も是非読み込んでみてください。ダンカン・フィリップスは稀代の大コレクターでしたが、同時にバリバリの批評家でもありました。単なる人のいいタニマチ的な存在ではないんです!購入した作品と徹底的に向き合い、味わい尽くしてきたプロコレクターが紡ぎ出した言葉には重みが感じられるはず!

3.お気に入りの1枚を見つけよう!

全員巨匠。クオリティは保証付き

今回並んでいる約70作品は、当時屈指の目利きでもあったダンカン・フィリップスが厳選し、日々の生活の中で愛でていたものばかり。いわば、クオリティは保証されているのです。どれもしっかりした作品ばかり・・・ということなら、自分の好きな作家や作品を発掘してみるのもいいかもしれませんね。

実際、僕自身も1回目に行った時は見るだけで精一杯だったのですが、3週間後、2回目に再訪した時は、「これはいいかも」と思えた、興味の持てた作家や作品がいくつか出てきました!

僕の発掘した名作

やっぱり実物を目の当たりにすると、2次元の画像とは全く印象が変わる作品って多いですよね。ここでは、2回の鑑賞を通して僕がいいなと思った作品をいくつか紹介してみたいと思います。

スーティン《嵐の後の下校》

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シャイム・スーティン《嵐の後の下校》1939年頃

スーティンといえば、藤田嗣治やモディリアーニのようにエコール・ド・パリの人かな・・・っていう知識くらいしかなくてほとんどノーマークだったのですが、今回出展されている2作品ともに、異常なほどの迫力を感じ、強く印象に残りました。

特に《嵐の後の下校》は、絵に近づくと何を描いているのかわからないのに、少し後ろに下がって見てみると、タイトルにある情景が見えてくるという不思議な面白さ。

かなり荒っぽいタッチで描かれているため、絵に近づいていくとそれぞれのオブジェクトはもはや色の塊にしか見えないんです。でも少し引いてみると、確かにそこには《嵐の後の下校》風景が出現!嵐が過ぎ去ってまだ風が収まりきっていないような雲の流れや、ざわめく森、そしてそこから画面手前に駆け抜けてくる二人の子どもたちの疾走感などがまるでマジックのように立ち現れました。

この恐るべき才能に、思わず圧倒されました。自宅で定期的に公式図録を眺めては、この独特のイリュージョンのような筆使いに見とれています。

フランツ・マルク《森の中の鹿 Ⅰ》

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フランツ・マルク《森の中の鹿 Ⅰ》1913年

ドイツ表現主義の画家で、1911年に結成された絵画グループ「青騎士」の中心メンバーとして活躍したフランツ・マルク。でもブリュッケや青騎士といったドイツ表現主義の作家たちの作品って、カンディンスキー以外はほとんど日本の展覧会で見ないような気がします。

今回、マルクの作品を初めてしっかり見たのですが、ひと目見て動物たちのかわいさに一目惚れしました!子供の絵本の挿絵のような柔らかさと、そして、画面を覆い尽くす赤・青・黄色・緑・紫といった神秘的な美しさ。これ以外にも、もっとマルクの作品を生で見てみたいなぁと強く思いました。この人の作品が退廃芸術としてやり玉に上がってしまうとは、ナチスもまるで見る目がないですね!

カンペンドンク《村の大通り》

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ハインリヒ・カンペンドンク《村の大通り》1919年頃

青騎士からもうひとり。公式ブログでも「埋もれてしまった巨匠」として紹介されていますが、この人の作品もマルク同様味わい深くて素敵です。マルクの鹿に対して、こちらは牛。おとぎ話の中に出てくる風景のような、牧歌的・幻想的な色使いはやっぱり絵本の挿絵を見ているよう。癒やされます。もうマルクとカンペンドンクは自分の中でしばらく最重要作家として追いかけることが決定しました!

アドルフ・モンティセリ《花束》

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アドルフ・モンティセリ《花束》1875年頃

以前別の美術館でも何点か見た時に非常に印象に残っていた作家。印象派よりも少し前に活躍した画家なのですが、約30年先に流行するフォーヴィスムを先取りしたかのような派手な色彩、キャンバスにべちゃーっと力強く盛り付けられた大盛の絵の具がクセになります。静物画なのに、野性味120%の圧倒的なパワーに引き込まれました。こちらもカンペンドンク同様、19世紀の隠れた巨匠なのでしょうね。

ゴッホ《アルルの公園の入り口》

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ヴィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの公園の入り口》1888年

有名なゴーギャンとの共同生活を迎える直前、アルルの地に画家たちの理想郷を建設しようとゴッホが夢に燃えていた時期に描かれた作品。アルルの公園の入り口のちょうど内側に描かれた、こちらを向いている男性がゴッホ自身であると言われていますが、「さあ僕の理想郷においでよ」とゴッホが出迎えてくれているようで、非常に感慨深い1枚でした。

ドガ《稽古する踊り子》

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エドガー・ドガ《稽古する踊り子》1880年代初め~1900年頃

くすんだオレンジ色の壁に水色の稽古着の色の派手な組み合わせは印象派というよりフォーヴィスムの作家を連想させました。しかも、部分的に黒の輪郭線で線描ぽい表現も、初期作品とはテイストの違いがハッキリ感じられ、思わず見入ってしまいました。 

4.展示の人気ランキングは?

本展では、ほぼ全ての展示作品に対してポストカードが用意されています。三菱一号館美術館でブロガー内覧会のホストを務められたアートブロガー・Takさんが「いまトピ」でポストカードの売上人気ベスト10を発表してくれています。このポストカードの売上ランキングを見ることで、展示作品の人気がわかりますよね。

それぞれの作品詳細については、Takさんの上記エントリをじっくり読んでいただくとして、10月31日までの売上実績で集計したベスト10はこちらとなっています!(上記エントリより引用)

★ベスト10
1位:モネ《ヴェトゥイユへの道》

2位:ゴッホ《アルルの公園の入り口》
3位:ドガ《リハーサル室での踊りの稽古》
4位:デュフィ《画家のアトリエ》
5位:ドガ《稽古する踊り子》
6位:カンディンスキー《連続》
7位:ルソー《ノートル・ダム》
8位:シスレー《ルーヴシエンヌの雪》
9位:クレー《養樹園》
10位:カンペンドンク《村の大通り》

どうですか?1位から3位は納得の印象派勢。でも4位のデュフィとか、10位のカンペンドンクとか、上位に意外な作品が来ているような気もしますよね。

今後定期的に集計を行い、中間発表、最終発表など定期的に人気ランキングが発表されるようなので、いまトピをチェックしておきましょう!

5.見どころ満載のグッズコーナー!

三菱一号館美術館のグッズコーナー「STORE1894」で今回の展覧会のグッズ制作を請け負うのは圧倒的なクオリティの高さがアートファンから絶賛されているEast社。今回も非常に楽しみにしていましたが、数々のサプライズ演出で楽しませてくれています。いくつか、個人的に良かったなと思ったグッズを順番に紹介してみたいと思います。

図版のクオリティが高い公式図録

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今回は迷ったら公式図録は「買い」でいいと思います。なぜなら、図版のクオリティが非常に高いからです。

先日ツイートしたとおり、僕も図録入手しましたが、何度か時間のある時にパラパラ眺めて楽しんでます!

全64種類!驚異的な品揃えのポストカード

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全64種類のポストカード。圧倒されるディスプレイ

上述したとおり、展示されている作品の大半となる全64種類がポストカード化されました。まさにファン心理を突いたやりすぎ好企画であります。

さらに、11月からは全64種類をまとめたお買い得なコンプリートセットが5,000円で発売されていますね。これもいい企画だ!

また、ポストカードよりももう少し大きなサイズが欲しい!という人のためにA4サイズのミニプリントも用意されています。本当にかゆいところに手が届きますよね。

▼全6種類用意されたミニプリントf:id:hisatsugu79:20181111015728j:plain

精巧な出来栄え!ミニチュア・アートが面白い

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そして、今回のグッズコーナーで一番目を引いたのが、10種類用意された「ミニチュア・アート」。原寸大の1/12のサイズで、額縁も含めて精巧に製作されたミニチュア絵画です。

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いかがでしょうか?少し解像度を落としたスマホ上で見た画像だと、本物と違いがほとんどわからないほどの細密な出来栄えですね。

今回、このミニチュア絵画を展示するため、フィリップス・コレクションの当時のギャラリーの一部屋を再現した特別ジオラマまで制作されていました。

▼フィリップス・コレクションのギャラリー内を再現f:id:hisatsugu79:20181110164426j:plain

再現された部屋の中に架けられているのが、ミニチュアアートなのですが・・・

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こうやって写真で見てみると、部屋の調度品や室内の塗装なども含め、本物そっくりですよね。残念ながらこのジオラマは非売品のようですが、1/12のスケールで精巧に制作されたミニチュアアートの出来の良さがしっかり体感できますよ。

クリアファイル

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最近どの展覧会でも、展示作品が小さく多数プリントされたデザインのダブルクリアファイルが良く売れているようですが、本展で用意されたのもこのタイプ。ほぼすべての作品が網羅されている、非常にお得感のあるクリアファイルでした。

オリジナルTシャツ

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Tシャツ

各種展覧会では定番グッズでもある展覧会限定Tシャツ。本展では、Tシャツのデザインも少し変わっていました。なにやら胸元には沢山の文字が書かれていますが、、、、

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これをよーく見てみると、本展に展示されている巨匠たちの名前と、生没年が【生まれた順番で】上から書かれているんですよね。

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実際に店員さんが着ていたので写真を撮らせていただいたのですが、結構渋い感じ。普段着として使っても違和感なく着れそうですね。 

5.混雑状況と所要時間目安

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気になる混雑状況ですが、現状のところはそこまで混雑していません。ただし、三菱一号館美術館は、展覧会終盤になると、一気に大混雑することがよくあります。(前回のショーメ展は大変でしたよね・・・)上野のブロックバスター展覧会の賑わいが一段落したら混雑が始まりそう。是非、早めにおでかけください!

所要時間は、60分~90分程度あれば大丈夫そうです。ですが、本展ではかなり1つ1つの絵を丹念に見ている人が多い印象でした。じっくり鑑賞したい!という人は少し多めに2時間ほど見積もっておくといいかもしれませんね。

6.まとめ・感想

生涯にわたって、近代西洋絵画の巨匠たちの名品を収集し続けたダンカン・フィリップス。4000点以上もの大コレクションの中から、特に人気・クオリティとも高い主力作品ばかり75点が惜しげもなく選ばれ、展示した贅沢な展覧会です。

元々入り組んだ三菱一号館美術館で、一見ランダムに並んでいる絵画作品を見て歩くのは、ちょっとした宝探し気分も味わえました。是非お気に入りの作家や作品を見つけてみてくださいね。

それではまた。
かるび 

展覧会開催情報

全員巨匠!フィリップス・コレクション展
◯美術館・所在地
三菱一号館美術館
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
◯アクセス
● JR「東京」駅(丸の内南口)徒歩5分
● JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)徒歩6分
● 都営三田線「日比谷」駅(B7出口)徒歩3分
● 東京メトロ千代田線「二重橋前」駅(1番出口)徒歩3分
● 東京メトロ有楽町線「有楽町」駅(D3/D5出口)徒歩6分
● 東京メトロ丸ノ内線「東京」駅(地下道直結)徒歩6分
◯会期・開館時間
2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)
10:00〜18:00
※入館は閉館の30分前まで
※祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで
◯休館日
毎週月曜日
※祝日・振替休日の場合は開館
※会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館
※年末年始(12/31、1/1)
◯観覧料金(当日)
一般1700円、大高生1000円、小中学生500円
アフター5女子割:第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円
◯関連Webサイト
・三菱一号館美術館
https://mimt.jp/pc/
・三菱一号館美術館公式Twitter
https://twitter.com/ichigokan_PR