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東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「関ヶ原」 感想・考察と11の疑問点を徹底解説!/予習必須!写実的で面白いけど、難解さもある映画でした!

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【2018年3月2日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

2017年に夏休みは、大型時代劇映画が、「忍びの国」「関ヶ原」と2本上映されました。時代劇映画の退潮がハッキリしてきた中、2017年の夏は久々に邦画大作で2本も時代劇ジャンルがヒットしました。

本作は歴史小説のレジェンド、司馬遼太郎の代表作「関ヶ原」を原作とした、戦国大河ドラマです。過去、NHK大河ドラマや数々の展覧会、時代劇小説等で何度も取り上げられ、人気コンテンツとなってきた、日本の歴史を変えたといってもいい「関ヶ原の戦い」に、もう一度真正面から「映画作品として」取り組んだ意欲作でした。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「関ヶ原」の予告動画・基本情報

▶映画「関ヶ原」予告動画
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【監督】原田眞人(「金融腐食列島呪縛」「日本の一番長い日」他)
【配給】東宝
【時間】149分
【原作】司馬遼太郎「関ヶ原」

本作で監督を務めたのは史実モノをベースとしたドキュメンタリータッチの群像劇を得意とする原田眞人監督。今回が時代劇初挑戦となりますが、なんと映画化が実現するまで、本作の構想に25年をかけたそうです。

その間、脚本も何度も変わりました。想定していた主人公も、構想当初の徳川家康から、小早川秀秋に変わり、最終的には本作の通り石田三成に変わったそうです。「義を重んじる三成の魅力に、60歳を超えてから気づいた」とのこと。また、意外なことに彼が関ヶ原を撮りたい!と強く思うようになったのは、原田監督自身が出演したハリウッド映画「ラストサムライ」がきっかけだったのだとか。

原田眞人監督自身、様々な歴史資料を当たる中、最終的に映画化のベースとしたのは、歴史小説の大御所、司馬遼太郎版の小説「関ヶ原」でした。しかし、司馬遼太郎の歴史観に依拠しつつも、後半では原田監督自身の歴史解釈も織り込まれ、主役たちの人物像は新しいタッチで描かれています。

ただし、本作を見る前には、少しでもいいので戦国時代や「関ヶ原の戦い」に関する事前知識を仕入れておいたほうが良いでしょう。史実に忠実に描かれてはいますが、初心者にわかりやすいテロップや説明的なナレーションが最小限に抑えられ、ぼやっとしてると何が起こっているのか理解できないまま進んでいくからです。予習・復習には、公式サイトで用意されたもう一つの解説動画が理解を助けてくれます。是非チェックしてみて下さい!

▶映画「関ヶ原」公式解説動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「関ヶ原」人物相関図・主要登場人物・キャスト

人物相関図も絶対押さえておきたい!

行く前に是非少しでもいいので眺めておきたいのが、この人物相関図。映画本編はかなりのハイペースな上、字幕等を援用した説明もほとんどありません。特に、脇役陣については、気がついたら誰が誰なのかわからなくなります^_^;  

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主要登場人物

石田三成(岡田准一)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
本作の主役。従来の「小賢しい小役人」的なイメージで描かれがちだった三成像が一新されました。誰もが利害関係で動いた戦国の世にありながら、一人不器用ながら「義」を重んじる生き方を貫いた新しい三成を演じました。(若干いい人過ぎたような気も・・・)「海賊とよばれた男」「追憶」など、重厚な人間ドラマでの起用が続き、ますますハクがついてきましたね。

徳川家康(役所広司)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
原田組といえば、役所広司。これまで数々の原田監督作品で主演を務めてきましたが、今作では、特に相性の良さがばっちり生きた素晴らしい演技。老獪で狡猾、権力闘争に長けた古狸のような「悪役」としての家康像をきっちり演じています。風呂場で「今日の伽は誰にするかのうフフフ」と笑うシーンが個人的には一番好き(笑)

初芽(有村架純)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
戦国歴史モノは女性成分がどうしても足りなくなる中、ヒロイン役の初芽は、原作の武家の「間者」という設定が変更されて、伊賀「忍び」としてフィールドでのアクションシーンもこなすアクティブな役柄に。ちょうどNHK連ドラ「ひよっこ」の役作りで増量中だったのか(?)、いつにも増してアップだと童顔が目立ち、忍者にしては可愛すぎるような感じはありました。

小早川秀秋(東出昌大)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
「関ヶ原の戦い」では、合戦の帰趨を決定づけた重要人物として位置づけられる小早川秀秋。中途半端な裏切り者、頭の弱いお坊ちゃまキャラとして、大抵の物語中ではダメキャラとして描かれますが、今作では少し描かれ方が変わっていました。東出昌大といえば、キャラとの相性がハッキリ出てしまう棒気味の演技が特徴ですが、今回は映画「聖の青春」に引き続き、絶妙にフィットしていました。

島左近(平岳大)
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
最近ますます父・平幹二朗に似てきた感のある平岳大が、特殊メイクを施して猛将・島左近を演じました。眼光の鋭さ、立ち振舞いの威圧感が伝わる圧巻の風格。「真田丸」の武田勝頼に引き続き、素晴らしい演技でした。

3.中盤までの簡単なあらすじ

 戦国時代末期。ストーリーは、石田三成が、後に「本能寺の変」で謀反に倒れた織田信長に変わって天下統一を成し遂げる豊臣秀吉と最初に知り合う場面から始まる。三成が働く寺に、偶然に鷹狩りの休憩で訪れた秀吉。秀吉は、茶のもてなしにおける三成の気配りを高く評価し、彼を家来に取り立てた。

それ以来、三成は秀吉の懐刀として活躍を続け、豊臣政権随一の行政官として出世を果たす。一方、有能だが融通の利かない頑固な文官として、武士たちの間で好かれてはいなかった。

1595年、秀吉に側室淀君との間に跡継ぎとして秀頼が生まれると、秀吉は跡継ぎとして予定していた養子である関白秀次を謀反の罪で切腹させ、その妻子達も連座させ、処刑した。

京の六条河原で秀次の妻子たちの処刑に立ち会った三成は、この時生涯に渡り大切な二人の人物と出会う。一人は、最上家の駒姫お付きの忍び、初芽だった。もう一人は、島左近だった。たまたま処刑場に姿を見せた左近を追いかけ、三顧の礼で迎え、第一の家臣として取り立てた。

その後、朝鮮半島出兵を巡って石田三成ら文官と、福島正則ら武断派たちの対立が激化していった。1598年、秀吉と、豊臣政権でNo.2だった前田利家が相次いで死去すると、邪魔者がいなくなった徳川家康が野心をむき出しにして豊臣政権を壟断し始める。

家康と対立した三成は、様々な対抗措置を打ち出すも、家康に近い武断派七人衆は、直接三成に対して軍事行動を起こした。そんな中、盟友・大谷吉継の元へ使いに出した初芽は、その帰り道、家康側の忍びに襲撃され、三成の元に帰れなくなった。

三成は、この危機をライバルである家康の仲裁により切り抜けると、故郷の佐和山城へと蟄居し、遠方の上杉家や毛利家と計り、家康と直接対決する天下を二分する大戦の計画を始めた。

そして、1600年夏。家康が上杉征伐に乗り出し、東北へと兵を進めたそのスキをついて、三成は京都・伏見で兵を上げた。その知らせを受けた家康は、上杉征伐を中止し、急ぎ引き返す。そして、三成と家康は、互いの盟友達を引き連れて、1600年9月15日、両軍合わせて15万人を超える東西両陣営がついに関ヶ原の地で激突するのだったー。

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4.映画「関ヶ原」の感想・評価

これは忍者映画なのか?主役同様にクローズアップされた忍びたちの活躍

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作「関が原」原田監督が想定した主人公は、石田三成、徳川家康と、彼らを取り巻く重要人物たちです。しかし、ユニークなのは、彼らの周辺で暗躍する忍者たちがストーリーの中で大きくクローズアップされたこと。原作にはない特色です。

戦いが始まる前段階の情報戦、忍者同士が情報交換する「忍び市」の存在、忍者同士の戦い、そして戦闘が始まってからも伝令・物見から暗殺を企図するシーンまで、忍者の動きが徹底的に掘り下げられて描かれました。さらに、三成・家康ともにお気に入りの女忍者を側に置き、側女どころか、側室のような扱いで厚遇します。

この忍者偏重描写は、明らかに全体の尺を圧迫しています。これにより「伏見城の戦い」や「岐阜城攻防戦」「小山評定」など、「関が原の戦い」で節目となる重要シーンがカットされざるを得なくなったと思われます。また、主要な戦国武将についての人物描写も限られたものにならざるを得ませんでした。

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七人衆も黒田・清正・福島以外は描写する余裕なし
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

今回、大幅に時間を割いて忍者を大きくクローズアップさせたことで否応なく気付かされるのは、今も昔も戦争における戦略・戦術を支えるのは「情報力」だったということ。

電話やネットがない戦国時代は、飛脚や忍びの機動力が、大名たちの情報戦を支えました。例えば、家康は「関が原の戦い」の前に、実に120通以上の密書を書き、忍びや飛脚を使って各大名へ届けさせたといいます。

特に、「関ヶ原の戦い」は単独の大名vs大名の戦いではありません。諸大名がバラバラで指揮命令系統を整えるのが難しい「連合軍」同士の戦いでした。だからこそ、情報戦を制することが何よりも肝だったはずです。家康率いる東軍が、情報戦を制した結果、島津や毛利の動きを抑え、小早川を内通させることに成功して戦略レベルで揺るがぬ勝利を手にすることができたのです。

そういう意味で、僕個人としては「情報」の運び手としての裏方である「忍者」を大きくクローズアップさせた本作の取り組みは、評価されてしかるべきではないかな、と思います。

歴史上級者向けの不親切設計がたまらない~不明瞭なセリフ、説明不足なストーリー

しかし、忍者以外の部分で、日本の歴史事実にそれほど詳しくない映画ファンにとっては、かなり不親切な作りになっていたのは残念でした。過去作「金融腐食列島呪縛」などでもやはり同様の説明不足感を感じますが、原田監督は鑑賞者の歴史リテラシーに期待しすぎなんじゃないでしょうか。すでに日本の歴史について教養として十分身についている熟年者層はともかく、若い人向けにはこれではちょっと足りない気もします。

前哨戦から含めると数年間にわたる歴史イベントを、わずか2時間あまりで凝縮するため、どうしても短いカット割りで画面がどんどん切り替わるスピーディな作りになるのに、ナレーションやテロップはほとんどありません。

だから、各登場人物のセリフからそれぞれの人間関係、起こっているイベントの意味を読み取るしかないのですが、そのセリフが全然聞き取れないのです。早口な上、他の音と被っていて、聞き取りが難しい箇所が多すぎるのです。

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合戦の詳細描写は写実的で迫力があったが・・・
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

また、合戦が始まってからの描写も今ひとつわかりづらかったです。合戦での戦闘は写実的で素晴らしいのですが、肝心の合戦の全体像が良くわかりません。どの部隊が何をしているのか?全く理解できないのです。

もちろん、シーンを細切れに撮影し、編集でつなげているので引きの大画面を映し出すのは難しいとは思うのですが、せめて、戦闘開始前~終了までの間、局面の節目節目で「陣地図」を入れてほしかったかなと。マニアックな事を言うなら、東軍の背後、南宮山に配置された毛利秀元、吉川広家、安国寺恵瓊の存在を全部省略するのはいかがなものでしょうか?

僕も、ある程度予習をした上で本作に臨んだのですが、1回目は理解が追いつかず意味がわからない箇所が数か所ありました、悔しいので2度目を見てようやくストーリー詳細・各イベントの内容を理解するに至りましたが、それでも登場人物たちが何を言っているのかわからないシーンはかなり残りました。字幕上映が欲しかった・・・

「忍者」やトリビアを丁寧に描きすぎて、重要なシーンが抜け落ちた

また、上述した通り、「忍者」や監督好みのトリビア・逸話を盛り込みすぎて、「関が原の戦い」の本質を理解するために必要なイベントが抜け落ちてしまったのも残念でした。「忍者」にフォーカスするなら、それ以外のトリビアは思い切って捨てたほうがよかったかと。

後半で持て余してしまった初芽の冗長な描写や、物語にほぼ関係ない柳生・島のエピソード、福島正則・加藤清正の仲直り場面など、悪くはないんですが、それはあとでDVDを出した時コンプリート・エディションの秘蔵シーンとして取っておけば良かったんじゃない?と思うようなシーンが多かったです。

家康と三成の人間観の違いの対比は明確で面白かった

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悪役が最高にハマっていた役所広司の名演
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

このように、全体の構成やストーリーテリングにはやや不満点が多かったですが、家康と三成の対比が鮮やかに描かれたのは良かったです。「義」VS「利」、「理想」VS「現実」、「中小企業」VS「大企業」など、様々な言葉で比喩的に対比することができますが、「全国統一」という大目的に対する二人の武将の対照的なアプローチがわかりやすく描かれました。

例えば、人材に対する考え方。三成は初芽の志に惹かれ、最後まで身分の違いも関係なく愛そうとします。まさに理想やロマンに生きる男ですよね。しかし、家康は、自らの身に危険が及ぶと、かわいがって側に置いていた側女の阿茶ごと暗殺者を斬り殺して自らの身の安全を図ります。家康にとって部下はあくまで目的達成のための駒にすぎず、このあたりの割り切り方は、合理的で現実主義的です。

しかし、二人の志はあくまで「全国統一を成し遂げて戦乱の世を終わらせること」であり、共通していました。それは、映画冒頭とラストで、二人ともが戦場の道祖神に対して手を合わせ、祈りを捧げていたシーンからわかります。(道祖神は、いわば「平和」のメタファーとして機能している)

ただ、そのやり方が見事に違っていたのですよね。

大義や理念を掲げ、人心を結集させようとした理想主義的な三成に対し、利害関係をベースに人間関係の機微を最重要視した現実主義的な家康。僕は、どちらにも賞賛すべき点、学ぶべき点があると感じました。

「関が原」では家康が圧倒的な勝利を収めましたが、僕自身が感じたのは、おそらく三成と家康のちょうど中庸あたりがベストな解なのではないかということ。三成と家康のそれぞれの良いところを学びとして、ビジネスや実生活に活かしていけば良いのではないかなと思います。

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5.映画「関ヶ原」をより深く理解するための11のポイント~伏線・設定を徹底考察!~

ポイント1:映画のナレーション(語り手)は誰をイメージしているのか

映画の冒頭のナレーションは、映画「関ヶ原」の原作者である司馬遼太郎が、実際に小説「関ヶ原」上巻の語りだしで書いた一節そのものです。小説の地の文に、作者の感想をたんたんと書き綴るのは司馬遼太郎作品の特徴です。

「いま、関ヶ原という、とほうもない人間喜劇もしくは「悲劇」をかくにあたって、どこから手をつけてよいものか、ぼんやり苦慮していると、私の少年のころのこういう情景が、昼寝の夢のようにうかびあがった。ヘンリー・ミラーは、「いま君はなにか思っている。その思いついたところから書き出すとよい」

三成と秀吉の場面に切り替わる前、寺で老人と話す少年のシーンがありましたが、この少年は司馬遼太郎を表していたのですね。

ポイント2:三成と秀吉の出会いのエピソード「三献の茶」とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画冒頭で、秀吉39歳、三成15歳の時、鷹狩の帰りに観音寺を訪れ、茶を所望した秀吉に対して、三成は「一杯目はぬるい茶をたっぷり、二杯目は少し熱い茶を半分くらい、三杯目は熱い茶を少しだけ」献上しました。

三成の利発さと気配りに感服した秀吉は、その場で三成を侍に取り立てたとされます。三成と秀吉に纏わるこのエピソードを、通称「三献の茶」といいます。これを記載した歴史資料がいずれも江戸期のものであるから、後世の創作という分析もありますね。

ポイント3:島左近と柳生一族の関係性は?

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家康の前で武芸を披露する柳生石舟斎の息子たち
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内で島左近と柳生石舟斎が雨が降る中、粗末な草庵で対面するシーンがありました。彼らは、元々筒井家に仕えた大和国の同士であり、両家は家族ぐるみで付き合いがありました。例えば、島左近の娘は柳生利厳と結婚しています。

このシーンでは、島左近が石田三成についた報告をしたことで、柳生石舟斎は二人の息子を徳川家へ仕えさせる決心を固めます。最終的に息子の一人、4男宗章は小早川秀秋へ仕えることになりました。

これは、同じ主君に仕えた同士や、親兄弟が東西陣営に分かれて戦った戦国時代を象徴するようなエピソードでしたね。

ポイント4:初芽、蛇白、赤耳のそれぞれの人物詳細は?

映画中では、戦国時代の諜報機関として重宝された「伊賀忍者」が大きくクローズアップされました。本作で、特に描かれた初芽、蛇白、赤耳はすべて架空の創作キャラですが、それぞれの出自や顛末をまとめておきますね。

初芽
父亡き後、諸地域を流浪した後、母、姉と3人で最上家へ仕える。東国一の美女と名高かった駒姫が、当時の関白だった豊臣秀次の側室になる直前に秀次が失脚。連座して処刑された六条河原で立ち回りを演じ、その時三成に拾われる。三成に恋心を抱く中、使いに出た越前敦賀の大谷家からの帰りに、赤耳たちに襲われる。

蛇白
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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw
女忍者として家康に仕える。茶道や政治にも長け、家康に見初められた結果、「阿茶」という名前を賜る。関が原の戦いでは伝令役を務めたが、家康を暗殺しようとした赤耳と戦う中、後ろから赤耳と一緒に家康に斬り殺された。

赤耳
一里先の会話も聞き取れるという特技を持ち、越後の上杉家に仕えていた。老齢になり寒さが応えるため、上京。京で家康に仕えた後、蛇白との一件に懲りて、反家康陣営である石田家に仕えることになった。最後は家康を暗殺しようとするが、蛇白に阻まれる。

ポイント5:初芽はストーリー後半、何をしていたのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

1599年、越前敦賀の大谷吉継への密使として面会を終えた後、初芽は、蛇白の命で山伏の一行に扮した赤耳に襲撃されます。顔と足を斬られ重傷を負った初芽は、その後奴婢として売られます。1600年9月14日には琵琶湖畔から移動する道中で、逃亡に成功しますが、合戦の現場には間に合わず、関が原では三成に会えませんでした。結局、初芽が三成と対面できたのは、初芽の傷が癒えたラストシーンとなります。

ポイント6:小早川秀秋の裏切りのシーンはどう解釈したらいいのか?彼は本当に裏切ったのか?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

本作で、開戦後3時間を過ぎてもどう動くか悩んでいた小早川秀秋は、島信勝(島左近の息子)が決死の思いで出陣要請に来た時、部下たちに「三成に味方するんじゃー」と騒ぎましたが、部下たちは秀秋を無視し、勝手に大谷吉継へと襲いかかってしまいました。つまり、彼自身は最後の最後で三成の説得に心動かされ、西軍として動こうと決断したが、配下がついてこなかったという描写なのでしょう。

史実でも、秀秋の筆頭家老、稲葉正成と平岡頼勝は東軍と通じており、開戦と同時に裏切る密約も部下主導で進んでいたこともあるので、映画で描かれた「なし崩し的な裏切り」シナリオはあり得たかもしれません。

ポイント7:島津義弘はなぜ合戦中動こうとしなかったのか?

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合戦が始まっても全く動かなかった島津義弘
引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

映画内では、合戦が始まってからも島津軍は一切陣地を動こうとせず、三成が直接出向いての出陣要請にも一切応えようとしませんでした。

映画内では、前日の作戦会議で、島津義弘は家康本陣への奇襲攻撃を三成に提言しますが、三成は頭ごなしに否定します。島津はこれを不服として、機嫌を損ねたと解釈出来るシーンがありました。それ以外の歴史資料によると、本当は前哨戦で東軍として伏見城へ入城しようとした所、徳川家康の部下、鳥居元忠から入城を拒否され、行き場がなくなったため消極的に西軍についたのだ、という説もありますね。

ポイント8:大一大万大吉とは?

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=rY2XJJYjDAw

「一人が万民のために、万民が一人のために尽くせば、天下の人々は幸福になれる」という意味です。大義のために私欲を捨てて生き抜いた三成の人柄をよく表すスローガンだと思います。映画内では、1598年の秀次事件の後、三成自ら旗印の図案を考案しているシーンがありました。なお、このデザインはあくまで「旗印」であり、「家紋」ではありません。

ポイント9:ラストシーンの解釈は?なぜ三成は自害せず、処刑されたのか

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小早川秀秋と死ぬ前に対面する三成
引用:https://www.youtube.com/watch?v=HTqGWAbHmh0

関が原の戦い後、三成は一人戦場を離脱し、近くの農夫に匿われました。三成は、その後自首して最後は六条河原で処刑されました。大谷吉継は、戦場で自害して果てましたが、三成は最後まで生きようとしました。なぜ、彼は最後まで生きることに執着したのでしょうか。

この解釈として、原作では「最後まであきらめず生の機会を伺い、チャンスを貪欲に待つ」とされてましたが、本作では、「死ぬまでに、最後に見届けたい大切な人に会うため」とされています。

その大切な人とは、徳川家康、小早川秀秋、そして彼の想い人、初芽でした。家康とは無言の対面を済ませ、秀秋を許し、そして最後に「大一大万大吉」とつぶやく初芽と出会えたことで、彼は今生に未練がなくなり、最後まで姿勢を正したまま死んでいけたのでしょうね。

ポイント10:石田三成やその親族はその後どうなったのか?

石田三成は六条河原で処刑されて死亡しました。また、彼の父・兄と妻や側近たちは、1600年9月18日に佐和山城が陥落した際、城と運命をともにしています。しかし、劇中で北政所が「三成の血は残したほうがええ」とつぶやいたように、史実でも三成の5人の子どもたちは処刑されていません。僧侶になった者、名前を変えて別の大名に仕えた者など、様々な顛末が知られています。

それどころか、紆余曲折を経て、次女の孫(三成の曾孫)が徳川家光の側室となり、家光の長女千代姫を産むなど、わずか数十年後には、三成の天敵、徳川家に石田家の血が入っているのです!

ポイント11:描写が省略された「関ヶ原の戦い」の主要イベントとは?

本作は、忍者や逸話・トリビアに時間を割きすぎたため、「関ヶ原の戦い」での一連のイベントのいくつかが、バッサリ省略されています。正直なところ、「えっ?これも省略するの?」というくらい、前後のストーリーをつなぎ、歴史上節目とされるイベントまで切られていました。そこで、ここでは以下、本作で描写が省略された主要イベントをいくつか列挙してみます。

「直江状」
秀吉没後、家康への恭順の意を示さず、反抗的だった上杉家を再三問いただした家康に対して、上杉景勝の家臣、直江兼続が家康へ送った返答の書状。この書状を読んだ家康は怒り、会津征伐を決意したと言われている。

「小山評定」
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引用:開運のまち おやま 小山市ホームページ

京都・伏見での三成挙兵の一報を受けた家康が、会津征伐を続行するか、京へ引き返すか決めるため、諸将を集めて開催した会議。歴史を決定づけた意思決定として見逃せないイベント。
「伏見城の戦い」
三成挙兵後、初戦となった戦い。家康の忠臣、鳥居元忠率いる守備兵1800に対して西軍が宇喜多・小早川ら40000の圧倒的兵力で取り囲み、焼き討ちにした上落城させた。この戦いの最中、島津義弘が鳥居元忠に加勢しようとして拒否され、これにより最初東軍に付く予定だった島津は西軍に加わることになったとされる。

「島津の退き口」
関ヶ原の戦いで動かなかった島津氏だが、戦いが終わり、逃げ場がなくなったため、東軍のど真ん中を、捨て身で正面突破して戦線離脱した。1500人いた将兵は、領国薩摩へと帰着したとき、わずか80名程度に減っていたという。なお、井伊直政はこの時受けた重傷が癒え切らず、1602年に死亡したとされる。

このあたりは、関が原の戦いの屈指の「見どころ」でもあり、ストーリーのターニングポイントでもあるため、一瞬でもいいので描いてほしかったかなと思います。

6.まとめ

映画「関ヶ原」は、若干総集編的な粗い作りも目立ちましたが、それでも戦後、日本映画の巨匠たちが手がけなかった戦国屈指の大テーマに正面から臨んだ気合いは素晴らしかったと思います。

進行が早く、難解なパートもかなりありますが、予習復習をしっかりやって、2度目3度めと見返せば確実に新しい発見もある映画です。そして、忍者好きならマストです!

それではまた。
かるび

7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画「関ヶ原」ブルーレイディスク・豪華版

本作は、ジャニーズ事務所所属・岡田准一が主演なので、基本的にはHuluやNetflixでは配信される見込みはありません。ツタヤで借りるか、思い切って買うか!です。もし購入を検討するなら、様々な映像・資料特典がついてくる豪華版が絶対におすすめ!

★★豪華版の特典まとめ★★

(本編ディスク音声特典)
■本編オーディオ・コメンタリー
原田眞人監督+岡田准一+平岳大ほかによる裏話満載の必聴コメンタリー!
(特典ディスク2枚!)
■メイキング
■イベント映像集
完成披露イベント・舞台挨拶、滋賀特別課外授業イベント、大ヒット祈願イベント、初日舞台挨拶、大ヒット記念イベント
■公開記念特番
■特番「映画関ヶ原の全て」
■インタビュー集・鼎談映像
インタビュー:岡田准一、役所広司、有村架純、原田監督
鼎談:岡田准一、平岳大、東出昌大
(外装・封入特典)
■特製アウターケース
■20Pの限定版ブックレット付き

 

司馬遼太郎原作「関ヶ原」

映画「関ヶ原」のベースとして使用された、累計500万部以上を売り上げた司馬遼太郎の名作。1966年の刊行ですが、決して古さを感じさせない名作です。司馬遼太郎らしい武骨な描かれ方ですが、映画では省略された初芽と三成の恋愛描写が気に入りました^_^ 関が原の戦いを巡って描かれた作品は多々ありますが、本作が決定版だと思います。映画で省略された主要イベントもしっかり網羅した大作!

決戦!関ヶ原

「関が原の戦い」でのキーマンたち一人ひとりにフォーカスし、作家たちが「関ヶ原の戦い」当日の各武将の行動から、心境を読み解き、それぞれの個性で描写した連作短編集。吉川広家、小早川秀秋、安国寺恵瓊、福島正則、島津義弘など、バイプレーヤーたちそれぞれの目線から「関ヶ原」を捉え直した素晴らしい企画。映画「関ヶ原」をより立体的に楽しむなら、外せない1冊です!

コンパクトな新書「関ケ原合戦の謎99」

映画「関ヶ原」を記念して、ムック本や新書、関連する小説などが刊行されていますが、関ヶ原の戦いの本質を理解し、なおかつ周辺知識・トリビアまでバランスよく学びたい人には、入門編となる1冊。読んで非常にためになりました!

石田三成が悪役として登場!映画「のぼうの城」

豊臣秀吉の命令で、石田三成が水攻めで落とそうとした弱小戦国武将・成田氏の居城、忍城の攻防を描く群像劇。成田市のうつけ若殿「のぼう様」が、奇想天外な作戦で三成を退けるまでのストーリーを劇的に描いた快作。悪役として戦いに負けはしますが、短期間で巨大な堤を建造してしまう三成の実務能力の凄さが伝わります。

原田眞人監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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歴史的な史実・事件を、多数の登場人物が交錯する中で写実的な群像劇として描くのが得意な原田監督。特に2000年以降の作品は大掛かりな大作志向になっていき、過去作も非常に見応えがある作品が多いです。

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