あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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「東郷青児展」は幻想的な女性像の不思議な魅力が素晴らしかった!【展覧会レビュー・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

戦前から戦後の日本を代表する洋画家、東郷青児の生誕120周年を記念した回顧展、「東郷青児展」が、広島、東京、福岡、大阪の全国4箇所で巡回中です。

東郷青児の作品は、新宿の「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」で企画展があるたびに、出口近くの常設展コーナーで数点ずつ展示されています。このコーナーを割りと気付かず通り過ぎてしまう人が多いのですが、なんとなく前から不思議な絵を描く画家だな~と好意的な印象がありました。

そんな中、9月16日から、ちょうどお膝元である東京会場「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」で展示が始まりました。例によって運良くブロガー内覧会に参加することができたので、早速行ってきました。

生涯を通して、様々な技法を使って、理想の女性像を描き続けた東郷青児。調べれば調べるほど、割りとプレイボーイで、スキャンダラスな一面もあって面白い人物だったんだな~ということがわかってきました。早速ですが、簡単に展覧会の内容を中心にまとめてみたいと思います。

※本エントリで掲載した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承下さい。 

1.東郷青児展の概要やみどころについて

イケメン画家、東郷青児

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写真右側が東郷青児

東郷青児(1897-1978)は、大正時代から昭和の高度成長期まで、日本の西洋画壇の第一線で活躍し続けた画家です。彼は、工藤静香など芸能人アーティスト御用達(?)であることでも有名な、二科展(二科会)初期からのエース格の洋画家でした。

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しかしどうですか?結構イケメンですよね?!若い時はモテたんでしょうね・・・。1920年代のフランス留学時代は、すでに既婚者の身で、奥さんを伴ってパリへ画家修行に出かけているのですが、その後帰国して別の女性と心中未遂を起こしたり、美人作家・宇野千代と付き合ったり、わりとやりたい放題(笑)

当時は、今でいう週刊文春みたいな雑誌に色々と書かれたりもして、その芸術性だけでなく、派手目な私生活や女性遍歴が騒がれた文化人として一般層にも知名度があったようです。が、今みたいに一斉に不倫が叩かれる時代とは違い、当時はそれほど風当たりも強くなく、不倫や奔放な恋愛スタイルは、なぜか芸の肥やしとして許されている感じです・・・。

ちょうど、Youtubeで簡単に東郷青児について説明をしてくれているわかりやすい5分弱の動画を見つけましたので、紹介しておきますね。最近、アート関係でも、こうした有志やブロガーさんが積極的に解説動画をアップするようになりましたね。

今回の「東郷青児展」は、画風の変遷がよく分かる展覧会!

今回の展覧会は、東郷青児が生誕120周年を迎えたことを記念して、彼の画業全般を時系列で振り返る回顧展形式の展覧会です。

特に、東郷青児の場合は「何が変わったのか」「何が変わらなかったのか」が非常にわかりやすい作家なので、今回のような回顧展形式の展覧会にフィットしますね。

東郷は、10代の尖っていた頃から、70代の円熟期まで一貫して「女性像」ばっかり描き続けたように、画題を大きく変えることはありませんでした。しかし、作風は初期の前衛絵画風から徐々に装飾性・大衆性を増して、イラスト的な唯一無二の作風へと徐々に変わっていきます。

このあたりは、回顧展ならではの時系列で並べたオーソドックスな比較展示が非常に活きていると思います。

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10代の「未来派」と呼ばれた頃の初期作品

注目したいのは、10代で「未来派」と呼ばれた前衛的な近代絵画を手掛けた若い時から、戦後、「東郷様式」と呼ばれる独自の美人画スタイルを確立した晩年まで、時代の節目や空気感に呼応して、東郷の作風もゆっくり段階的にその作風が変化していくところです。

評論家植村鷹千代は、最終的に彼が確立した独自の絵画様式を、「東郷様式」と定義付け、以下の3つが特徴であると説明しています。

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特に、この「職人的な完璧さと装飾性」は、晩年の作品を見ると一目瞭然です。全く筆触の跡が残っていない、卓越した職人芸でなめらかな色彩のグラデーションを作り出しています。実物を目の当たりにすると、超絶技巧ぶりが良くわかります。

絵画以外の作品紹介も充実!

また、今回の展覧会では、特に戦後を中心として、東郷青児が手がけてきた「絵画」以外の画業の紹介が非常に充実していました。

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戦後、すでに二科展への年2回の出品だけでは食べていける時代でもなくなったため、東郷は雑誌の表紙画・挿絵・デザインから、ビルの壁画まで、画家として「食べていく」ために積極的に手掛けていきました。

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晩年の作品群が特にハイクオリティ!

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左:「平和と団結」(1952)
右:「渇」(1953)

そして、本当に素晴らしいのは1950年代になってからのキャリア後半~晩年の作品群です。画業としての集大成として、筆触や派手な色使いを抑えた幻想的・叙情的なトーンの中、可憐な女性像を描いた作品は、まるでコンピューター・グラフィックスで作ったような未来的な味わいもあります。

常設展示や記念撮影コーナーもあります!

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館では、必ず出口手前の1区画が、同美術館の所蔵作品の常設展示コーナーになっています。中でも、目玉展示なのがゴッホ「ひまわり」、セザンヌ「りんごとナプキン」、ゴーギャン「アリス館の並木路、アルル」の3枚です。(※撮影不可)

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引用:コレクション | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

特に、バブル期に安田グループが威信をかけて(?)数十億円で購入した「ひまわり」は本当に貴重な作品です。しっかり目に焼き付けておいてくださいね。

▼グランマ・モーゼスの作品群もお見逃しなくf:id:hisatsugu79:20170922144700j:plain

あとは、素朴なアメリカの田園風景が和むグランマ・モーゼスの作品なども必ず数点あります。こってりした展示を見た後、出口を出る前にグランマ・モーゼスの絵を見ると、こってりした油モノを食べた後のお茶漬けみたいで、なんとなくホッとするんですよね、、、

また、今回は入口に記念撮影コーナーもありますよ。館内は撮影禁止なので、こちらで思い出の一枚を撮ってみてくださいね。

▼フォトスポット(企画展限定)
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ちなみに、ゴッホの「ひまわり」複製画と記念写真を撮影できるフォトスポットもあります。こちらは、通年で設置されていますよ。

▼フォトスポット(通年で撮影可能)f:id:hisatsugu79:20170922151802j:plain

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2.特に気に入った作品を幾つか紹介します

未来派時代の初期作品群も良い味を出してます!

▼女性像が隠されている?!味わい深い初期作品f:id:hisatsugu79:20170922150006j:plain
左:「彼女のすべて」(1917)
右:「パラソルさせる女)(1916)

キュビスムに影響を受けたようなスタイルをいち早く採り入れ「未来派」と呼ばれていた留学前の10代の頃の絵画です。よく見ると、ピカソやブラックほど混沌としておらず、幾何学形の図形はどちらかというとデザイン的な安定感を感じます。

そして、この2枚の絵画の中には、それぞれちゃんと女性像が隠れているんです。完全な擬態ぶりに思わず笑ってしまいました^_^;

留学から帰国後、キャリア中期~後期の作品群

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左:「窓」(1929)
右:「ギターを持つ女」(1929)

キュビスムというより、ル・コルヴィジェの「ピュリスム」に近いようなイメージです。少しずつ具象的・装飾的なスタイルへ傾いてきている過渡期の作品群ですが、色使いをぐっと地味な色合いに抑え、見ていて飽きの来ない作風へと変化してきています。ちなみに、上記2点は、前年に愛人女性と心中未遂を起こした翌年の作品ですが、特に絵画上はこれといって動揺が見られないですね・・・。

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左:「扇」(1934)
右:「テニスコート」(1934)

上記は、ちょうどパリ留学時代で仲の良かった藤田嗣治と一緒に壁画やデザインなどの仕事をしていた時代の作品です。(これといって藤田の影響は受けていないようには見えますが)この時期の作品は、昭和初期のファッションデザインに身を包んだモデルのような女性像が多くなっていきます。

キャリア終盤の最高傑作!

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左:「若き日の思い出」(1968)
右:「レダ」(1968)

1950年代後半になると、雑誌の表紙・挿絵ではイラスト的なカジュアルさで描く一方、本気で取り組んだ油絵では、より叙情的・幻想的なスタイルへと変化していきます。

タッチも非常にソフトなものになり、筆触を全く残さない超絶技巧ぶりが目立ちます。とこかの絵師が「パソコンで描いた」と説明されても思わず納得しそうなほど滑らかなグラデーションと、どこか人工的・近未来的な美しさを備えた女性像は非常に個性的で、ここに「東郷様式」が完成するに至ります。

60代、70代でもさらに腕を磨き、進化し続けた大器晩成の作家でした。時間がなければ、是非、出口付近の最後の数枚だけでもいいのでじっくり味わってみてくださいね。

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3.グッズ類も充実しています!

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今回の展覧会では、グッズ類も充実しています。公式図録をはじめ、東郷や、彼が影響を受けたアーティストの書籍もずらっと並んでいますし、レターセットや絵葉書など定番グッズもたっぷり用意されています。

▼展覧会の公式図録
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▼老舗「タカセ」のレトロなクッキー詰合せ!f:id:hisatsugu79:20170922152222j:plain

▼「愛人」宇野千代や影響を受けた竹久夢二などの本も!f:id:hisatsugu79:20170922152303j:plain

▼絵葉書は過去の企画展分も含め大量にあります!f:id:hisatsugu79:20170922152555j:plain

▼マグネット、クリアファイルなど定番文具類は完備!f:id:hisatsugu79:20170922152620j:plain

4.混雑状況と所要時間目安

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前回の吉田博展は、損保ジャパン日本興亜美術館では屈指の大混雑となった展覧会でした。いつも快適に見れるので、適当に平日14時頃にフラッと立ち寄ったら、物凄い熱気にびっくりしたのですが、今回は多分大丈夫でしょう(笑)

会期前半ならば、土日を含めて快適に回ることができると思います。所要時間は、およそ60分~90分見ておけばOKですね。

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秋~冬にかけて、閉館間際は夜景ショットの狙い目!

ちなみに、閉館間際の17時頃に入館すると、ちょうど夜景がきれいに撮れる季節になってきました。美術館から撮影できる夜景としては、東京都内では六本木森アーツセンターとここぐらいのものでしょう!

5.まとめ

大正から昭和高度経済成長時代にかけて、長く活躍した東郷青児。回顧展での各展示を見ていると、芸術性と大衆性の両方を兼ね備えた彼の作品は、存命中の頃にはかなりファンも多く、人気もあったようです。

残念ながら、現在では一部の熱心なアートファン以外には忘れ去られてしまった感はありますが、すでに終了した広島会場では、来場者が1万人を突破するなどかなり動員が好調だった様子。今回の回顧展をきっかけに、新たなファンの獲得と再評価が進むのではないでしょうか?

個性的ですが、決してわかりにくくはなく、むしろ初心者から幅広く楽しめる作家だと思います。是非展覧会で味わってみて下さい。

それではまた。
かるび

東郷青児展に関連する書籍や資料等を紹介!

唯一の初級者向け解説ムック本「東郷青児」

東郷青児について簡潔にまとめたアート系の解説本は、過去に散発的に出版されているものの、残念ながらほとんど全て絶版になっています。現状で、初心者から抵抗なく読める書籍で、書店に在庫があるのは事実上この1冊となるようです。

展覧会開催情報

「東郷青児展」は、東京展のあと、福岡・大阪と国内2箇所を巡回予定です。(広島会場はすでに展示終了)

◯美術館・所在地
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
損保ジャパン日本興亜本社ビル42F
◯最寄り駅
JR新宿駅地下構内からビル出口へ直結
アクセスマップ(地下から) | 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
◯会期・開館時間・休館日
2017年9月16日~11月12日(月曜日休館)
※ただし、9月18日、10月9日は開館、翌火曜日も開館)
10時00分~18時00分(入場は30分前まで)
◯公式HP
http://www.sjnk-museum.org/
◯Twitter
生誕120年 東郷青児展 (@togoseiji120) | Twitter
◯今後の美術展巡回先

■久留米市美術館
2017年11月23日(木・祝)~2018年2月4日(日)
■あべのハルカス美術館
2018年2月16日(土)~4月15日(日)