あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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ロマン溢れる歴史画が集結!安田靫彦展の感想(東京国立近代美術館)

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かるび(@karub_imalive)です。
当初どうしよっかなと思っていたのですが、友人が「これは行くべき!」と強く勧めるのと、この土日は両日とも外出予定がなかったので、ちょうどいいや、ってことで、急遽参戦してきました。結論としては非常に良かったので、感想を書いてみたいと思います。

1,混雑度と所要時間について

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写真を見て頂いたとおり、ガラガラです。土曜日なので少し混雑しているかな?と思いましたが、まだ朝10時台だったこともあり、全く混雑していませんでした。順路も広めに取ってあるので、ゆったり見れる展示会だと思います。いつもよりきちんとした身なりの人が多かったイメージでした。(土曜日なのにスーツのおじいさんとか)

作品数が100点以上なので、メモを取ったり、音声ガイドを活用してじっくり見ようと思ったら、2時間程度は必要かな?とは思います。僕も10時過ぎに入って、出てきたのは12時30分頃でした。

2,音声ガイドのメインナビゲーターは高橋英樹

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声も渋くてなかなかの好キャストだと思いました。日本画だと、やっぱりこういう時代劇系や歌舞伎系の俳優がやってくれると世界観を壊すことなく、スッと絵画には向き合えるのでいいですね。

また、中身についても、安田靫彦本人の生前の講演会やインタビュー等での実際の肉声をところどころで聞けるようにオプショントラックが用意されており、粋なはからいだと思いました。

これはお金に余裕があれば、借りる価値は大きいと思います。

3,安田靫彦の作風について

デビューは15歳と早熟だった

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安田靫彦(やすだゆきひこ、1884-1978)は、明治時代から昭和の戦後高度成長時代までを生き抜いた、いわゆる近代~現代の日本画における代表的な画家の一人です。明治期の少し先輩格である横山大観や菱田春草、下村観山らの作風にインスパイアされ、日本画を志します。若干15歳で日本画壇にデビューした天才肌の画家でした。

画風は優雅で気品漂う大人の日本画

画風は、伝統的な日本画の描き方を基本としています。ムダの無い構図、美しい線に加え、植物や風景、衣装などの細密で写実的な描写が特徴です。誰もが感じる「日本画らしい」特徴を備えた王道の画風でした。ロマンと気品溢れる柔和なタッチは、同時代のライバルにして盟友、速水御舟にして、気品が”匂い立つ”と評されています。

安田さんの芸術については事新しく述べるまでもないが、一言にして尽すと、安田さんの芸術の特色はあの馥郁(ふくいく)たる匂ひにあると思ふ。梅の花か何の花か非常にいい匂ひが漂ってくる。それはどこに咲いているのか、ハッキリ所在はわからないが実に馥郁としている。安田さんの人格にもさういふ感じがあるが、作品には特にその感が深い。[・・・]ああいう芳香を放つ芸術は現代はもとより古人のうちにも極めて稀れであらう。*1

いやほんとその通り。下にもいくつか絵を貼りましたが、各絵画からは、独特のやわらかで上品なオーラを放っています。現場で是非その「匂い立つ」絵画群を見てきてほしいです。

歴史画にこだわりがあった

また、デビューしてから亡くなるまで一貫して、日本や中国の歴史や古典に題材を得て着想した歴史画を多く手がけました。靫彦曰く、

えらい前人の仕事には、芸術の生命を支配する法則が示されている。*2

現実には見られぬ美しい世界を組み立ててみたい。高い完成された美を求めて今の我々の解釈で表現してみたい。*3

とのことで、自然と同じくらい古典芸術に学び、現代の感覚で捉え直した、品格あふれる普遍的な造形を作ろうとしたといいます。

4,今回の展示会の位置づけについて

そんな安田靫彦ですが、生前は最晩年に同じく東京国立近代美術館で1976年に大回顧展を行っています。今回は、それ以来40年ぶりとなる2度目の回顧展となりました。日本中の博物館・美術館から作品が集結し、15歳でデビューするところから、亡くなる直前の絶筆まで100点以上の作品が展示されています。絵画だけでなく、絵巻物や屏風絵なども展示されており、ものすごいボリューム感ですよ。

見どころは、昭和戦前期のナショナリズムが高揚した時期~戦後高度成長時代で価値観が激変する中、この歴史の大きな流れの中で、何をどう描いてきたのか、作風はどう変化してきたのかということです。これら作風・画風の変遷がわかりやすいように、各作品が時系列で追って行けるような展示になっています。

5,感想

まず、入場して最初に驚くのが、安田靫彦が少年時代に描いた作品群です。入口付近に展示されていますが、若干15歳、16歳の時から、目の覚めるような写実的な歴史画を描いており、天才ぶりにいきなり度肝を抜かれます。

『守屋大連』

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靫彦24歳の時の作品。飛鳥時代、聖徳太子と蘇我氏と激しく対立し、仏教の国教化に反対した物部守屋を描いています。守屋の不穏な表情が、もうすぐ一触即発な事件の前触れを暗示しているようです。聖徳太子じゃなくて物部氏にスポットライトを当てて描かれた題材の絵画はあまり見たことがなかったので新鮮でした。(※聖徳太子の絵もそれ以上に沢山描いています)

『五合庵の春』

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靫彦は、体が弱く、キャリアの途中で何度か大病にかかりますが、そのたびに作風を変化させていきました。作風が落ち着いたのは、30代も半ばを過ぎてから。初期の写実的な描き方から、背景等を大胆にデフォルメした柔軟な描き方も取り入れ、繊細で柔和な色使いで独特の作風を確立します。

これは、初期の写実主義的な絵画から、少し作風をチェンジした中年期に差し掛かる際の代表作品。良寛が長年住んだと言われる国上寺の五合庵という離れを描き出したものです。霧深く神秘的な雰囲気の山中の庵にて悠々自適にくつろぐ良寛がいい味を出していました。

『黄瀬川陣』(重要文化財)

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これは、平氏打倒の挙兵を行った際、弟義経が初めて兄頼朝の陣中に馳せ参じて数年ぶりの対面を果たした際の有名なシーンです。源頼朝の顔が歴史の教科書等に載っていそうな顔つきですね。兄頼朝の余裕のある表情に比べ、弟義経の緊張感と、どこかしら悲壮感の漂う顔つきが、将来の兄弟の運命を暗示しているようでした。

『伏見の茶亭』

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もう、解説も何もなくてもすぐにわかりますね。豊臣秀吉です。歴史の教科書で見た通りの顔つきで、歴史資料に忠実に描いた安田靫彦ならではのわかりやすさ。この展示会でも若い時から老年期まで、たびたび秀吉をモチーフとした作品を好んで描いています。この派手な衣装とバブリーな金色の茶室は、伏見城内での茶会の一コマだと言われます。

『出陣の舞』

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(引用元:http://atelierrusses.jugem.jp/?eid=369

これもまぁ見た瞬間にわかりますね。桶狭間に出陣する直前に「敦盛」を舞っている場面の信長です。ド派手な着物に西洋風の燭台など、時代考証と歴史資料に基づいた細かい描き込みが見事でした。

そして、靫彦晩年の作品では、こちら。

『卑弥呼』(九州バージョン)

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(引用元:http://d.hatena.ne.jp/shiga-kinbi/20100925/1285371002

派手に噴火している阿蘇山をバックに、堂々たる統治者としての厳しい表情を浮かべた卑弥呼を描いています。日本古代の独特の奇抜な?高貴なファッション(帽子のようなもの)と、体から滲み出るオーラが印象深かったです。なお、展示会には出展されていませんでしたが、バックが近畿地方版の卑弥呼像も残しています。未だ邪馬台国がどこにあったのか、決着がついていないですしね。

まとめ

これまで、僕は日本画といえば江戸時代末期までしか知りませんでした。明治以降で名前だけでも知っていた日本画家は、せいぜい、昔永谷園のお茶漬けカードに入っていた横山大観や竹久夢二ぐらいのものでした。

この安田靫彦のことも、恥ずかしながら友人が「絶対行っとけ」というのでチェックしてみて初めて知ったレベルです。そんな素人ですが、最初の数枚の展示を見ただけで、その実力は素人目にも本物であることはすぐにわかりました。

構図、色彩、人物、テーマ設定、どれを取っても高い技術・品格を持って丁寧に作りこまれており、間違いなくこのあとも後世に語り継がれていく芸術家であると思います。本当に充実した回顧展でした。最後は単純な感想ですが、行ってよかった。こういうのがあるから美術展回りは癖になるんだよな~。ほんとおすすめです。開催は、5月15日まで。

それではまた。
かるび

PS 同じ日本画では、浮世絵の大家「歌川国芳・歌川国貞」をフィーチャーした展示会も6月まで開催されています。これも良かったですよ!

blog.imalive7799.com

 

*1:速水御舟「安田靫彦論」『美術評論 四巻一号 1935年1月』

*2:「古画雑感-日本画とは何か-」『美術評論 1939年9月』

*3:『読売新聞 1941年10月11日』