あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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かわいすぎる禅画?!の決定版!大仙厓展@出光美術館の感想

【2016年12月10日更新】
かるび(@karub_imalive)です。

10月1日から開催中の「大仙厓展」に行ってきました。

ここ数年、ゆるふわでかわいい禅画の決定版として仙厓(せんがい)が書籍や雑誌などで取り上げられることが増えてきました。展覧会でも、毎年、全国どこかの美術館で特集が組まれていますが、今回の「大仙厓展」は文字通りその決定版。

また、開催期間が重なってはいませんでしたが、12月10日には、仙厓をこよなく愛した出光美術館の創立者、出光佐三の生涯を描いた感動の大作映画「海賊とよばれた男」が公開されています。(レポートは下記から) 

「大仙厓展」は、仙厓が生涯で残した禅画の数々を一堂に集めた素晴らしい展覧会となりました。以下、感想を書きたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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僕が行ってきたのは、会期初日となる10月1日(土)午後15時頃。これまで出光美術館に行ってきた中では、一番の混雑でした。ただし、作品の前に人が鈴なりになって入れない、ということはありません。

出展点数が多く、中身の濃い展覧会ですので、90分~120分は空けておいたほうがいいかもしれません。

2.大仙厓展のコンセプト

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「仙厓」といえば、出光美術館のエース級コンテンツ。今回の「大仙厓展」は、出光美術館開館50周年を記念し、江戸時代後期に活躍した仙厓和尚が描いた禅画の数々を最大規模で展示した総合回顧展です。出光美術館、福岡市美術館、九州大学文学部から仙厓の代表作を厳選し、展示替えも含めると全部で約150点の作品が出展されます。

3.仙厓と禅画について

仙厓義梵(せんがいぎぼん/1750~1837)は、臨済宗古月派に属する僧侶でした。19歳で僧門へ入り、禅修行の傍ら、40代後半頃から狩野派の絵師について習うなど、絵を描き始めます。

仙厓 自画像
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(引用:かわいい禅画

江戸時代の「禅画」といえば、同じく臨済宗中興の祖とも言われる、白隠慧鶴(はくいんえかく)も有名ですね。近年は、白隠、仙厓をセットで「禅画」の大家として紹介されることが増えました。仙厓と白隠は同じ臨済宗で活躍した時期も重なりますが、二人の所属する派が違っていたため、二人の直接の交流はなかったようです。

ただ、ふたりとも「アート」として絵画を描いていたわけではなく、庶民に幅広く仏教の教えを広めるための助けとなるようなイラスト感覚で、人々から請われるままに「禅画」を描いたという点は共通しています。

仙厓が本格的に禅画を量産しはじめたのは60代以降でした。40歳の時から第123代住持(要するにお寺の責任者)を務めていた聖福寺を引退し、虚白院に隠居してからペースアップします。そこから、88歳で亡くなるまで、庶民と交流し、わかりやすく仏教の教えを広めるために絵を描き続けました。

仙厓の「禅画」は現存する作品のほとんどが黒墨一色で描かれた水墨画です。若い時は、狩野派にならい、詳細まで技巧的に描いた山水画等を描いていました。老境に入るにしたがって、画風はだんだんと簡略化され、「かわいい」と言われるマンガ的・即興的な禅画が増えていきます。特に顕著に変化したのが、60代に入り、隠居したあたりからでした。本展覧会では、仙厓の年代別の作風変化がわかりやすく比較できる一覧展示もみどころです。

4.展覧会の見どころ

4-1:かわいい禅画の決定版

あまりに最近「かわいい」「ゆるい」と言われすぎてコアなファンはすでに食傷気味になっている人も多そうですが、でも、確かにこれは「かわいい」です。白隠もコミカルで「かわいい」ですが、仙厓はそれを越えていますね。今風に言うなら「かわいすぎる禅画」を描かせたら江戸時代No.1の絵師かもしれません。

試しに仙厓のことを全く知らず、美術展に普段行かない妻に仙厓の絵を見せたら、瞬時に帰ってきた感想が「わー、かわいい~」でした(笑)反応、わかりやすっ。

仙厓ならではのやりすぎと思えるほどコミカルで幸せ感あふれるな人物・動物は、安心して見ていられますし、時代を超えて私たちを幸せな気持ちにさせてくれます。江戸時代当時でも人気があったのもよくわかります。(安くタダで描いてくれるし)

4-2:禅画は画賛もみどころ!

「禅画」の多くでは、絵画本体の余白スペースに、絵の内容と連動して仏教の教えに基づいた詩歌や文章が描かれています。これを、「画賛」といいます。現代人の我々には訓練なしで全く読めるような書体ではないので、解説パネルを参照しながらの鑑賞になりますが、これらをじっくり味わってみるのも今回の展覧会のポイントです。

一円層画賛f:id:hisatsugu79:20161005171741j:plain

画賛のみどころについては、こちらのエントリですごく丁寧にまとめてくれています。行く前にチェックしておくと、理解が進むと思います。

4-3:バラエティに富んだ様々な作品達

仙厓は、年を重ねるに連れて、絵の巧さを追求することをやめ、より即興的で簡略な画風になっていきます。布教活動の一方で、絵を通して自分と向き合い続けた仙厓は、悟りへの最後のカベを突破したかのように、73歳の時「厓画無法」を宣言しました。

現代風に意訳すると、「これ以降、ワシは自由に絵を描くのじゃ。ワシの絵には縛りやルールは一切ない!」・・・みたいな感じでしょうか。

今回の展覧会でも、山水画や花鳥画、禅にまつわるテーマだけでなく、筑前名所を回った際の旅行記や来訪者への人生訓など、ありとあらゆるモチーフの禅画が並んでいます。

5.特に面白かった絵(かわいい系以外で)

5-1:「絶筆の碑」

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(引用:出光美術館HP)

仙厓が虚白院に隠棲してから、仙厓に絵をもらいにくる客人が日増しに増えていったといいます。老いと体力の低下から、さすがに応対しきれず疲れてしまった仙厓は、83歳の時に「絶筆宣言」として、記念碑まで作って「絵はもう描かない!」と宣言します。

展覧会では、その時の心境を詠んだ歌までこう残されていました。

「うらめしや 我が隠れ家は 雪隠か 来る人ごとに 紙置いていく」

当時、有名な禅画絵師として名前が知られていた仙厓の絶筆宣言は、遠く京まで伝わったといいます。しかし、記念碑まで建てて絶筆宣言をしたのに、結局は頼みを断ることはできず、以前にも増して、88歳で亡くなるまでハイペースで絵を描き続けたとのことでした。

5-3:「堪忍柳画賛」

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(引用:出光美術館HP)

「堪忍」と力強く書かれた「画賛」の横に、風にしなる柳の木の絵を配した作品。艱難辛苦に対して、柳の木のように柔軟に耐え忍ぶことの大切さを描いています。僕の実家の和室にもこの「堪忍」の複製画がかかっていて、個人的には仙厓の絵の中では一番慣れ親しんでいる作品なので、ピックアップしてみました。(※もっとも、これが仙厓の作であるとわかるまでは、ヘタクソな絵だなぁとずっと思っていましたが・・・)

5-4:「◯△□図」

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(引用:Wikipedia)

楽しくかわいい絵が多い中、仙厓にしては珍しく何の説明もない謎の抽象絵画。この、江戸時代を代表するコンセプチュアル・アート「◯△□図」については、仙厓自身が制作意図を明らかにしていません。この絵の解釈を巡っては、昔から諸説入り乱れてきました。

禅画の世界では、「◯」は悟りの象徴として描かれるため、仙厓自身が□→◯へと悟りに至るプロセスを表現しているという説が有力なようです。その他には、こんな説もあります。

・□は「地」、△は「火」、◯は「水」を表している。
□は「天台」、△は「真言」、◯は「禅」を表している。

展覧会の場で、作品と向き合って自分なりの解釈を考えてみるのも面白いかもしれませんね。

6.仙厓のかわいすぎる禅画!!

指月布袋図
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(引用:出光美術館HPより)

「海賊とよばれた男」出光美術館の初代館長、出光佐三が、19歳の時初めて父親に購入してもらった仙厓の絵画がこの「指月布袋図」でした。布袋さんが画面の外に存在する「月」を指差しているほのぼのとした絵画。繰り返しあっちこっちの展覧会や書籍・雑誌で紹介されていますが、展覧会でも抜群にかわいさが目立っています。「かわいい仙厓」を代表するような作品です。 

トド図
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(引用:かわいい禅画

なかなか江戸時代の日本画で「トド」を描いた絵にはお目にかかれません。これは珍しいモチーフ。あらゆる画題をこなした雑食系アーティストならではの一枚ですね。

指月布袋図(石村コレクション)
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(引用:かわいい禅画

指月布袋図はいくつかありますが、子供のプリプリしたおしりがなんともかわいい一枚。「かわいい禅画」では、「プリケツ」とか書かれてます(笑)

狛子画賛
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(引用:かわいい禅画

円山応挙や伊藤若冲ら、仙厓と同時代のプロの絵師たちもしばしば犬をモチーフに取り上げ、可愛く描く事が多かったですが、仙厓は画賛にまでかわいさをぶっこんできます。「きゃんきゃん」と書かれた画賛。すでに禅とは何の関係もないような(^_^;)

凧あげ
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(引用:出光美術館HP)

仙厓は子供を可愛く描く名手でしたが、この凧あげ図は特に印象深い代表作。ほのぼのとします。

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(引用:出光美術館HP)

どちらかというと「キモかわいい」感じのカエルであります。一気に一筆で描いたような、極度にデフォルメされた妖怪画のようなカエル。これ、30秒位でサラサラっと描いたんでしょうね・・・。

7.まとめ

自由闊達で、良い意味で緊張感のないゆるい禅画が見ていて癒される仙厓ですが、そんな仙厓について画業のほぼすべてを網羅した力の入った回顧展でした。「禅」といえば、”厳しい修行”や”座禅”が思い浮かびますが、そんな固定概念を打ち壊してくれる仙厓ワールドを堪能できる展覧会です。オススメ。

展覧会開催情報

展覧会名:「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」
会期: 2016年10月1日~11月13日
会場:出光美術館(東京)
公式HP:http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/exhibition/present/index.html
他展との相互割引あり(全部回りたい!)

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

白隠と仙厓の大量に残した禅画の中から、かわいい書画をピックアップして写真で紹介した本です。仙厓パートで紹介されている大半の「かわいい禅画」が、今回の大仙厓展で出展されています。わかりやすいしポップな仕上がりでオススメ。

2001年に芥川賞を受賞した臨済宗の僧侶にして小説家、玄侑宗久氏による仙厓の一生や教えをやさしく解説した本。難解なパートもなく、仙厓の人となりを理解するための入門本としてオススメ。