あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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巨大祭壇画が圧巻!ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち@国立新美術館の感想

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かるび(@karub_imalive)です。

7月13日から、ヴェネツィア・ルネサンス展が始まりました。今年の日伊友好通商150周年を記念したイタリア関連美術展のフィナーレを飾る大型展です。混雑する前にじっくり見たかったので、開催初日に行ってきました。以下、感想をまとめてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

今回のヴェネツィア・ルネサンス展は、国立新美術館にて開催。会期は7月13日~10月10日まで約3ヶ月間。ついで、10月から大阪国立近代美術館に巡回する予定です。東京・大阪で約半年間じっくり見られるのは嬉しいところ。

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さて、さすがに初日だけあって、空いています。1Fはルノワール展が開催中ですので、エスカレーターで2Fへ。展示規模は60点ちょっとの展示ですが、大型の絵が多く、展示スペースが広いため、ゆっくり見れます。普通に回れば1時間ちょっとで回れるでしょう。僕は、メモを取りながらゆっくり見て回りましたので、所要時間は2時間でした。

そうそう、国立新美術館は特に冷房がキツいですから、上に羽織るものを持って行ったほうが良いと思います。僕は、今回Tシャツ1枚で行ったのですが、最後は凍えました・・・。

2.音声ガイド、おすすめです!

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今回の音声ガイドは、石坂浩二が担当していましたが、特に今回の目玉であるティツィアーノ「受胎告知」の解説が非常に充実。通常の解説に加え、音声ガイドの画面で聖堂内での展示風景についての動画解説もあります。また、今回の音声ガイドの仕事が決まってから、石坂浩二は個人的にヴェネツィア現地視察へ行ったそうで、この「受胎告知」を現地サン・サルバドール聖堂内で見てきたレポートも入っていました。

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(引用:http://www.tbs.co.jp/venice2016/info/theme.html

音楽担当は、辻井伸行。今回展示のための公式テーマ曲「ヴェネツィアの輝き」を制作し、ガイド内で聴くことができます。一聴してすぐわかる優しい辻井節の音色。安心して絵画に没入できました。展示会を回りながら何度もリピートしちゃいました。

音声ガイドのポテンシャルを生かし切った良いコンテンツでした。550円と通常のガイド機より1割程度割高ですが、これは借りておいて損なしです。

3.ヴェネツィア・ルネサンス展とは

3-1:美術展のコンセプト

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冒頭でも書きましたが、今回は、日伊修好150周年を記念して、2016年の上半期に集中的に開催されたイタリア関連美術展の最終回を飾る展示会です。年始からボッティチェリ展ダ・ヴィンチ展カラヴァッジョ展ポンペイ壁画展、メディチ家の至宝展、ミケランジェロ展など良い展示会が沢山開催され、この間ルネサンス期のイタリア芸術を浴びるほど見させてもらいました。今回が一旦の見納めということです。

3-2:作品の大半は、アカデミア美術館収蔵品から

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副題に「アカデミア美術館所蔵」とある通り、今回展示されている大半の展示品は、ヴェネツィアの観光地でもある、アカデミア美術館から来ています。なお、フィレンツェにも同名の美術館がありますが、全く別物ですよ。

アカデミア美術館では主にルネサンス初期の14世紀から18世紀あたりまでの、西洋美術として一番分かりやすい時期の絵画を収蔵しています。展示会では、中間の休憩所と最後の出口前の映像でアカデミア美術館の内部の様子などが紹介されています。

3-3:ヴェネツィア・ルネサンスとは

西洋芸術・文化は、15世紀~16世紀前半にかけたルネサンス期に大きく花開くことになります。長らく停滞した中世から近代へ移り変わるその先駆けとなったこの時代、各地で立て続けに歴史に名を残す巨匠たちが現れました。

その発祥の地は、中部イタリアのフィレンツェとローマでした。15世紀中期には、彫刻家ドナテッロ、建築家ブルネレスキ、そして画家マザッチオらが初期ルネサンス美術を牽引します。特にマザッチオは、幾何学的遠近法やスフマート技法など新たな絵画技術を開発し、表現方法にブレークスルーをもたらしました。

また、フランドル地方から油絵の具が伝来し、それまで顔料を卵に溶かして描いていたテンペラ画から、塗り直しが自由でタッチが自在に表現できる油絵へと進化していきました。

15世紀後半になると、ルネサンス芸術が全盛期を迎えます。ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの3大巨匠がローマ/フィレンツェで腕を競い合いました。

やがて、ローマが戦争で荒廃すると、後期ルネサンスではティツィアーノに代表されるヴェネツィア派が隆盛を見ました。以後、ルネサンス終焉まで、ヴェネツィアはルネサンス絵画芸術の中心地としてローマ、フィレンツェと並び栄えます。

3-4:ヴェネツィアでのルネサンス期の巨匠たちを振り返る

正直、フィレンツェやローマで活躍した同時期の巨匠たちに比べると、知名度や注目度がぐっと下がってしまうヴェネツィア派ですが、展示会を機に、キーマンをざっくりおさえてしまうと良いと思います。こんな感じでしょうか。

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また、ヴェネツィア・ルネサンスの3代巨匠として、通期でティツィアーノ、バッサーノ(父)、ティントレット(父)があげられることもあります。

今回の展示会では、彼らの代表作がしっかり展示されていますよ。

4.ヴェネツィアのルネサンス絵画の特徴

4-1:絵画の背景には荒涼とした原野が広がる

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肖像画、宗教画、祭壇画を問わず、ヴェネツィア・ルネサンス絵画では、たいてい人物の後ろの背景についてもしっかりと描かれます。必ずと言っていいほど、寒々とした原野が描かれます。モナ・リザもそうでしたが、当時はそれがイケていたんでしょうか。。。

4-2:宗教画・肖像画が全盛

ヴェネツィアでは、王侯や貴族、それから宗教の同信会などのオーダーで、躍動感ある劇的なタッチの宗教画が描かれた時代でした。マリア、キリスト、キリストの弟子たち、後世の聖人たちなどが繰り返し繰り返しモチーフとして使われます。また、肖像画も貴族たちから好まれました。有名画家たちは彼らを若干美化しつつも、表情豊かに描きこんだと言われます。

4-3:女性の裸体画

ティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」(※今回展示外)f:id:hisatsugu79:20160715012539j:plain

ギリシャ・ローマ文化へのリスペクトから、ティツィアーノ以降の画家は女性の裸体画を多数手掛けるようになりました。今回の展示会の後半部分=ルネサンス後期では、急速に女性の裸体画比率が高くなっていきます。そこは裸じゃなくてもいいんじゃない?というところでもなぜか積極的にはだけているのが少し気になりました(笑)

5.一番の目玉はティツィアーノ「受胎告知」

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サン・サルヴァドール聖堂の右側廊を飾る巨大な祭壇画、ティツィアーノ「受胎告知」が、日本初上陸です。ティツィアーノが70代の時に描かれた大作。晩年の作風を反映し、荒々しいタッチは、後世の印象派を先取りしたような作品です。長身の人物達が描かれるなど、マニエリスムの影響もほのかに感じられました。

そして、なにより、でかいです!縦が8メートルくらいあり、遠路はるばる搬入するだけでも大変だったでしょうね。展示会中盤にどーんと設置されています。圧倒的な存在感。じっくり堪能してください。

6.その他、印象に残った作品たち

6-1.ティツィアーノ「聖母子」

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僕みたいな素人から見ても、なんだかんだでティツィアーノの実力は他のヴェネツィア派の画家に比べて頭一つ抜けています。この「聖母子」の、イタリア人顔の物憂げな、慈愛に満ちた、静謐で優しいマリアの表情を見ていると癒やされます。今回出展されているティツィアーノの作品の中では、これが一番印象に残りました。祭壇画の対面に飾られています。

6-2.ヴェロネーゼ「レパントの海戦」

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世界史でも有名な世紀の大海戦を描いた1枚。キリスト教国連合軍VSオスマン・トルコで、キリスト教国連合軍が勝利を収めるのですが、描き方が露骨です。オスマン・トルコ軍側には暗雲が立ち込め、影になっている上、雲の上から天使が矢を打ち込んでいるという、なんとも理不尽な構図(?)が面白かった1枚。下界は船がギュウギュウ詰めになっていますが、雲の上も神様たちが定員オーバー気味に盛り込まれていて、画面の密度がすごいことになっています。

6-3.ヤコポ・ティントレット「動物の創造」

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ティントレットがヴェネツィアのトリニタ同信会の発注を受け、「創世記」の5日目、6日目の情景を描いた大作。イエスではなく「神様」が光臨しております。動きやスピードが感じられる躍動感のある構図もいいのですが、面白かったのは動物が沢山描かれているところ。馬、牛、白鳥、魚類、ねこ、ウサギ、カメなど、ちょっと他の西洋絵画でみたことのない位描きこまれています。結構リアルで、地道にデッサンを重ねたのでしょうね。

6-4.バッサーノ「改悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」

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(引用:http://www.cinra.net/news/gallery/100406/12

ヴェネツィア郊外のヴィチェンツァ北東の田舎町、バッサーノ・デル・グラッパで活躍した画家、バッサーノの作品。とにかくごちゃごちゃと人が一杯出てくるマニエリスム的な絵画を描いた人なのですが、この作品は例外的にスッキリ(笑)

荒野で修行する聖ヒエロニムスのストイックな姿を描いています。左端のライオンが可愛かったり、ヒエロニムスがムキムキでどんだけ鍛えてるんだ・・・と見どころ一杯の迫力ある作品でした。

6-5.ドメニコ・ティントレット「キリストの復活」

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ヤコポ・ティントレットの次男。父ヤコポの工房を継ぎ、ルネサンス期終期に活躍しました。画面全体が青系の寒色基調で統一されているのが印象的。劇的だけどどことなくクールで、この世のものでないような超越した感じが良く表現されています。周りの兵士たちが疲れきって寝ていたり、意味不明の動作をしている中、画面真ん中で静かに復活したキリストが対照的で、上手い!と唸ってしまいました。

7.合わせてチェックするのがおすすめの展示会など

7-1:映画「フィレンツェ、メティチ家の至宝 ウフィツィ美術館」

詳しくは上記レポートを是非見てください。上映館数は限られていますが、フィレンツェでのルネサンス芸術全般について、映画ならではの迫力ある表現で、90分間現地の美術館へ本当に行ってきたかのような疑似体験ができます。試写会に行ってきたのですが、非常に良かった。

7-2:ルノワール展

厳密にはルネサンスとは違いますが、同じ国立新美術館で展示中なので、一服してからはしごするのも楽しいと思います。このルノワール展は、展示数も多く、国宝級の「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が出展されています。 

7-3:ボストン美術館 ヴェネツィア展

これは関西方面在住の人だけになりますが、ボストン美術館所蔵のヴェネツィアにゆかりのある作品をあつめた展示会もあります。こっちは、イタリア人作家だけでなく、モネやブーダンなど、国外の画家の作品も出ていますね。

8.まとめ

今回のヴェネツィア・ルネサンス展は、とにかく一つ一つの絵画が大きいのです。そして、現代美術とも違いテーマも宗教画・肖像画などいわゆる「ザ・西洋絵画」的な作品が多く、安心して見ていられます。

特に初期ルネサンス~ルネサンス終焉に至るまで、絵具の進歩、絵画表現の発達に伴いこの時期にぐぐっと作品のレベルが高まったのだなというのがよくわかる、非常に勉強になる展示会でもありました。ティツィアーノ「受胎告知」だけでも見ものだと思います。おすすめの展示会です。

それではまた。
かるび

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

カラヴァッジョ展でも、著書「カラヴァッジョ巡礼」からそのマニアぶりがわかるイタリア美術の著名研究家が、今回展示に合わせて書き下ろしました。岩波新書らしく、読み応え十分なヴェネツィアの美術・歴史・建造物等についての正統派的な解説本です。僕も絶賛これを使って現在復習中です!