あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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映画以上の迫力!映画「散り椿」に合わせ、山種美術館で名作《名樹散椿》が特別公開!

かるび(@karub_imalive)です。

9月28日(金)に「散り椿」という注目の日本映画が公開されます。江戸中期における地方の弱小藩を舞台に、器用ながら誠実に生き、周りから愛された浪人剣士・瓜生新兵衛の生き様をケレン味や詩情たっぷりに描いた本格派時代劇映画です。

すでに原作も早々に読了し、あとは映画館に行ってブログに感想を書くだけとなっており、公開が非常に待ち遠しい今日このごろ。そんな中、映画の原作小説の表紙を飾る速水御舟の名画《名樹散椿》が、映画上映中に山種美術館の企画展「日本画の挑戦者達」で特別展示されることが決まりました。

今日は、簡単ですがこのタイアップ企画についてアートファンの立場からまとめてみたいと思います。(映画レビューは公開後に別途書きます!)

映画「散り椿」とは?

映画「散り椿」は、時代小説の名手、葉室麟が2012年に発表した同名の原作小説を元に、映画界のレジェンド・木村大作監督が映画化した作品です。

映画の主要スタッフ・キャスト陣は、ざっとこんな感じ。
うーん、豪華です。

監督・撮影:木村大作
脚本:小泉堯史
音楽:加古隆
キャスト:岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子他

木村監督の前作「春を背負って」は、良い映画でしたが、残念ながら「ヒット」の目安となる興収10億円を若干下回ってしまいました。なので、今回は絶対に負けられない戦いとなります。(これがコケたら、次の映画企画が通りづらくなるからですね)

なんとしても10億円以上のスマッシュヒットを達成するんだ、という東宝以下制作陣の本作にかける並々ならぬ意気込みが、スタッフやキャスト陣を見るだけで一目瞭然です。日本映画界のレジェンド”キャメラマン”、木村大作監督の顔に泥を塗るわけにはいかないと!

巨匠・木村大作監督もまさかのインスタアカウント開設!

 

もちろん、木村監督自身も、物凄い気合いの入りよう。なんと、映画公開1ヶ月前に合わせて、Instagramのアカウントを開設してくれました!御年79歳になろうとする方ですよ・・・^_^;

まぁキャメラマンですから、スマホの操作も余裕・・・ということでしょうか(笑)でも、意気込みはしっかり伝わってきました。日本映画の黄金時代を知る数少ないレジェンドでも、映画ヒットのためにここまで頑張ってるんですね!

しかしこの木村監督、映画監督としてはまだキャリア3本目ですが、撮影”キャメラマン”としては、主に降旗康男監督とのタッグで、日本アカデミー賞優秀撮影賞を21回受賞、そのうち最優秀撮影性を5回受賞するなど、圧倒的な実績を打ち立ててきました。

その作風の最大の特徴は、徹底的にロケ地にこだわり、雄大な自然描写によるドラマチックな演出です。今回も、山の上のお寺での緊迫したシーンや、雪がしんしんと降る中殺陣をこなすシーンなど、少し予告映像を観るだけでも、木村監督らしい詩情あふれる風景美を感じ取ることができました。

今作でもその風景美へのこだわりは健在。なんと今作では、時代劇なのに、映画村などの舞台セットを一切使わず、全シーン富山・滋賀・長野など、オールロケで撮影されました。これはすごい!

映画内で特に注目したいのは「椿」

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映画の鍵となるモチーフ「椿」
引用:「散り椿」予告 - YouTube

そんな中、映画内でぜひ注目してみたいモチーフがあります。それが、映画タイトルでもある「椿」です。

作品内での「椿」は岡田准一さん扮する主人公、瓜生新兵衛と、亡き妻・篠の強い絆の象徴であり、新兵衛の生き様を体現したメタファーでありと、登場人物たちの運命や思いなど様々な意味がこめられているからです。

映画での見どころも、どのようなシーンで椿の木が登場しているのか、今から見に行くのが非常に楽しみであります。

ちなみに、上記の画面内に写っている大きな椿の木は、スタッフ総出で手間隙をかけて苦労して探し出したとのこと。撮影時期は椿が咲く2月~4月ではなかったため、わざわざ花びらを1枚1枚上向きにして撮影時に手動でとりつけるというスタッフの涙ぐましい努力があったそうです。

原作小説の表紙に速水御舟《名樹散椿》が使われている!

さて、映画内での演出された「椿」の他に、本作ではもう一つ注目して欲しい「椿」があります。それが、原作小説(文庫本)の表紙に使われている椿の絵です。 

実はこのイラスト風の椿の絵は、明治~昭和初期にかけて活躍した日本画家、速水御舟の《名樹散椿》(めいじゅちりつばき)という二曲一双の屏風絵の一部なんです。

全体像は、こんな感じ。 

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速水御舟《名樹散椿》1929年 山種美術館蔵

御舟が二曲一双の大画面に描いたこの椿は、原作小説と同じく、京都・地蔵院の境内に咲く五色の八重散椿をモデルとしています。速水御舟が描いた時、なんと樹齢約400年だったのだとか。映画内で使われている椿は、せいぜい100年程度なので、御舟の絵のほうが圧勝ですね(笑)

《名樹散椿》の見どころは?

この椿の木は、少し見て頂くとわかりますが、美しく描かれているものの、写実的というより、どこかデザイン的ですよね。老木ゆえに、葉や椿の花の重みからなのか、描かれた椿の枝は今にも地面につきそうなほど扇形にしなっており、屏風いっぱいに椿の木を収めようと、図像的なデフォルメが施されています。

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速水御舟《名樹散椿》1929年 山種美術館蔵(再掲)

これは、本作制作にあたって、御舟が俵屋宗達や、尾形光琳といった、「琳派」の作風を意識して、デザイン性を高めて製作したからなのです。

そして、椿といえば、ぼとっと花ごと落ちることがよくありますが、映画同様、こちらも白~赤まで色とりどりの花びらが上品に舞い落ちた様子を描いています。

また、この屏風絵の背景の金地部分にも注目してみて下さい。「撒きつぶし」技法という、通常より手間がかかる緻密な金箔の塗り方により、均一でしっとりした上品な輝きを生むよう絶妙に計算されています。

この作品は、昭和52年に、昭和以降に制作された作品としては、初めて国の重要文化財に指定されました。誰もが認める傑作だからこその快挙です。

山種美術館の次回企画展「日本画の挑戦者たち」での特別展示が決定!

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この《名樹散椿》は、明治期以降の日本画では日本一の大コレクションを保有する山種美術館が所蔵する作品です。なんと今回、映画上映を記念して、山種美術館の次回企画展「日本画の挑戦者たち」の後期日程で特別展示されることになりました!

展示期間は、10月16日(火)から11月11日(日)まで。ちょうど映画が公開されて3週目なので、まだまだ絶賛上映中の段階での満を持しての特別公開ですね。

僕も、以前2016年に山種美術館で開催された回顧展で初めて生で間近で見たのですが、ネット上のJpeg画像で見るのとは大違いでした。やっぱり直接「生」で見ると、美しさと迫力のレベルが違います!その時の様子は、以下の過去ログでレポートしていますので、もしよろしければ御覧くださいね。 

余談ですが岡田准一さんは、大の美術ファンだと聞きます。公開されたら、絶対お忍びで見に来ると予想しているのですが、果たしてどうなのでしょう?展覧会が終わったら、学芸員さんに岡田さんを見かけたかどうか、聞いてみたいと思います!

まとめ

御舟が残した約600点の作品中、実に120点もの作品を所蔵する山種美術館。別名「御舟美術館」と呼ぶコアな日本画ファンもいるほどです。だから、山種美術館の所蔵品展では、頻繁に御舟の作品が取り上げられますが、今回特別展示される《名樹散椿》は、その中でも特に人気が高い作品なのです。

ぜひ、映画制作陣が「椿」のイメージを固めるため、インスピレーションを得たであろう速水御舟《名樹散椿》を特別展示期間中に「ナマ」で味わってみて下さい!グッズコーナーには、この《名樹散椿》の図柄がプリントされた色々な記念グッズが発売されていますので、そちらも見てみると面白いですよ。

それではまた。
かるび

《名樹散椿》が特別展示される展覧会情報

◯《名樹散椿》が展示される展覧会名
日本美術院創立120周年記念
企画展「日本画の挑戦者達ー大観・春草・古径・御舟ー」
◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
 2018年9月15日(土)~11月11日(日)
*会期中、一部展示替えあり
《名樹散椿》の展示期間
2018年10月16日(火)~11月11日(日)まで
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※9/17(月)、24(月)、10/8(月)は開館
※9/18(火)、25(火)、10/9(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum