かるび(@karub_imalive)です。
最近、アート関連の映画が本当に増えていますね。昨日、2017年1月28日から封切りとなる、ダヴィンチのアート・科学における業績を特集・解説したドキュメンタリー映画「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」の試写会に行ってきました。
さっそくですが、以下感想を書いてみたいと思います。
1.映画の基本情報
本映画は、イタリアで開催された、あるい展覧会をベースに製作されたアート・ドキュメンタリー映画です。
ベースになった展覧会とは、イタリア、ミラノで開催されたEXPO2015期間中に、2015年4月16日~7月16日までミラノ王宮内にて開催されたレオナルド・ダ・ヴィンチの大回顧展です。
ダ・ヴィンチが大活躍した時代を過ごしたミラノの王宮内で開催された回顧展ということで、イタリア国内のダ・ヴィンチ作品だけでなく、ルーブル美術館をはじめ、世界中の美術館・博物館からダヴィンチの絵画・彫刻・書簡・手記等々が集められました。
映画「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」では、このイタリアの展覧会で紹介されたダ・ヴィンチの数々の名画、科学的発見や功績について、映画ならではの美麗な画像と専門家のインタビュー、解説を聞くことができます。
なお、映画の公式予告は、日本版と海外版で結構違いがあるので、映画に出かける前に両方見ておくとより参考になると思います。2つとも紹介しておきますね。
<日本版公式動画を見る!>
そして、こちらが海外版公式動画。
<海外版公式動画を見る!>
ちなみに、こちらがミラノ王宮で開催されたダ・ヴィンチ展の公式HPとFacebookページです。英語/イタリア語のみですが、なんとなく雰囲気がわかるかもしれません。
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2.映画のみどころ
(映画公式予告動画より)
2-1.ダヴィンチのほぼ全ての絵画を網羅している
レオナルド・ダ・ヴィンチは、7,000点を超える大量の素描や手記を遺していますが、生涯を通してちゃんと「完成させた」絵画は、わずか15点ほど。寡作だったフェルメールでさえ、30点以上の作品が残っていることと比較しても、非常に少ないといえます。
今回の映画では、「モナ・リザ」「最後の晩餐」「岩窟の聖母」「洗礼者ヨハネ」などの超有名作品をはじめ、ややマイナーな「音楽家の肖像」「ドレフュス・マドンナ」あたりまで、ダヴィンチのほぼ全ての作品に触れて、解説が行われています。
2-2.アート以外にダヴィンチが残した大量の研究成果もみどころ
(映画公式予告動画より)
ダ・ヴィンチは、アート以外にも建築・彫刻・軍事・生物学・物理学など、あらゆる分野で鋭い考察と詳細な資料を遺し、その多才ぶりを発揮しています。実際、フィレンツェでメディチ家からの覚えが悪く、良い仕事に従事できなかった彼が、新天地ミラノで自分を売り込んだ時、いわゆるお抱えの「宮廷画家」としてではなく、建築や彫刻、軍事といった分野で仕事を得ていきました。
今作では、絵画以外のダ・ヴィンチの業績についても、相当深く突っ込んで分析・整理されているのも見どころの一つです。
2-3.映画ならではの近接画像・美麗な映像はさすが
(映画公式予告動画より)
ダ・ヴィンチの作品は、そもそも日本にまず渡ってこないですし、日本の美術館に渡ってきても、その素描や文書は、資料保護の観点から相当輝度を落とした照明、いわば”くらがり”の中で遠巻きに見るしかないのが現状。
今作では、そんな貴重な資料群に照明をしっかりと当て、近接から拡大映像をじっくりチェックできるようにしてくれています。特に、修復後の「最後の晩餐」の詳細解説映像は必見です!
2-4.ダ・ヴィンチの弟子たちの作品も大きく取り上げられている
ドッジョーノ「3大天使」
15世紀後半~16世紀にかけてのイタリア・ルネサンス期では、ボッティチェリ、ティツィアーノ、ラファエロなど、有名な画家はみな工房単位で仕事を受注し、分業体制で絵画を大量生産するスタイルが一般的でした。ちょうど今「クラーナハ展」で盛り上がっているクラーナハなんて、親子共に名前がルカス・クラーナハで、親子で画風もすごく似ていたりしますから。
ダ・ヴィンチもまた、ヴェロッキオの工房から独立した後は、ミラノに自分の工房を構えて、その中で弟子を何人か抱えていました。
特に、絵画制作に熱意が醒めてしまった1490年以降は、彼が下絵やアイデアを出して、あとは全部弟子にやらせていた作品も多かったようです。有名な事例だと、昨年1月に江戸東京博物館のダ・ヴィンチ展に来日した「糸巻きの聖母」なんかも弟子の作品だとされていますね。
そんなダヴィンチの弟子たちですが、ダヴィンチ本人には技量が劣るものの、当時非常に優秀な画家であったことは間違いありません。しかし、これまでなかなか正面からダヴィンチ直系の弟子たちを取り上げ、評価した展覧会はありませんでした。
ミラノには、特にダヴィンチの弟子=「レオナルデスキ」達の作品も多く残っており、今作では、有名な弟子たちの作品をしっかり取り上げ、評価・評論している点は非常に興味深いポイントです。
3.映画で徹底レビューされ、特に印象に残ったダ・ヴィンチの絵画群
3-1.「洗礼者ヨハネ」
この絵は、昨年のダ・ヴィンチ展@東京江戸博物館でも特集されていたように、ダヴィンチが死ぬまで手元に置いていた3枚の絵画のうちの1枚です。
「ヨハネ」といいつつ、どう見てもイタリア人男性そのものだよなーと思っていたところ、モデルはやはり弟子(兼愛人?)だった、通称「サライ」ことジャン・ジャコモ・カプロッティのようですね。
ちなみに、僕はメタルが好きなのですが、イタリアのメタルバンドには洗礼者ヨハネのような人がいっぱいいます(笑)ライブで脱ぐと、いつもヨハネのこの絵を思い出すのです(笑)
右:Rhapsody Of Fire ファビオ・リオーネ(Vo)(江戸東京博物館 ダ・ヴィンチ展「レオナルド・ダ・ヴィンチ-天才の挑戦」を見てきたよ - あいむあらいぶ)
3-2.「音楽家の肖像」
レオナルド・ダ・ヴィンチが生涯で描いた人物像の中で、本作は唯一の男性像。ルネサンス期の巨匠は、ティツィアーノあたりを筆頭に、裸ばかり描いていたからな・・・と思ったら、ダ・ヴィンチはどうやらゲイだったのですね。恥ずかしながら、この映画で初めて知りました。
言われてみたら、確かにミケランジェロ同様、彼の描く女性像には、いわゆる男性目線でのエロさや艶めかしい感じがまったくなくて、中性的だったり女性の「母性的な」側面が前に出た作品が多いのですよね。
でも、ゲイで男性が好きなんだったら、カラヴァッジョのように美少年をもっとたくさん描くのかなと思ったら、意外な程に地味な男性像しか残っていないのは不思議です。(ミケランジェロは、過剰にムキムキな男性ばかり描いているのでこれはわかる^_^;)
3-3.「白貂を抱く貴婦人」
ミラノ公、ルドヴィーコ・スフォルツァの愛人、チェチーリア・ガッレラーニを描いたと言われる本作品。「白貂」(はくてん)とはオゴジョのことですね。言われるまで、適当に神話上の幻獣みたいなものを描いているのかと勘違いしていました。
それにしても、こうやって見てみるとダ・ヴィンチ初期~中期作品の作風はイタリア風というより、北方ルネサンス風の味わいがあって面白いです。
3-4.「イザベッラ・デステの肖像」
寸劇付きで紹介されたこの1枚の素描、非常に印象に残りました。
例によって貴族の夫人からオーダーを受けたものの、すでに1490年代以降、絵画に興味を失っていたダヴィンチは、下書きだけ描いてバックレたとのこと(笑)ダヴィンチにはこういうエピソードが多すぎる気もしますが、もうアイデアが頭に浮かんだ段階で満足してしまう「天才」ダヴィンチらしい逸話だと思いました。
逃げられたイザベッラ・デステ夫人には気の毒ですが、その後も「モナ・リザ」に生涯手を入れ続けていたダヴィンチにとっては、モデルとして魅力的ではなかったのでしょうね・・・。
3-5.「ラ・ベル・フェロニエール」(「ルクレツィアの肖像」)
映画では、この貴婦人を描いた肖像画の持つ「革新性」に触れています。それまで、側面からもしくは真正面から描くのが通例だった肖像画を、斜めから描いた初めての作品なのだそうです。この夫人のように、斜めに構えて、目線を向かって右側に飛ばすような描き方をすることで、画面全体に奥行きを持たせる効果があるそうで、「ほー!!そうなんだ!」と目からウロコでした。
絵画におけるダヴィンチの発明で有名なものでは、「空気遠近法」や「スフマート技法」などは知っていましたが、肖像画の描き方などでも革新的な手法を生み出していたのですね。
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4.感想や評価
思ったよりマジメで硬派なドキュメンタリー映画
アートをテーマとした映画も様々ありますが、今作「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」は、映画というより、NHKスペシャルのような高品質なノンフィクション番組を見ているようでした。あるいは、オンラインで見る一つの「展覧会」だともいえるかと思います。
いくつかの章立てをして作品が紹介されるそれぞれのコンテンツの導入部分に、一応ちょっとした寸劇はついているものの、ドラマ部分はほとんどオマケであります。この映画のメインは、学術的でしっかりとした絵画作品などの解説や、高名な学者のロング・インタビューです。
注意点としては、作品紹介の流れが結構速く、100分ちょっとの上映時間の間にかなりの数の作品を取り扱っていること。もしガッツリ見たい!という人は複数回見るか、あとでネット等で作品を見返して復習するために、何か書くものを手元に準備して、メモを取りながら見ることをオススメします。
有料でもいいので作品一覧や図録が欲しい映画
美術館での展覧会は、入り口で必ず作品リストが無料配布されていますが、この映画に限っては、作品リストがあれば便利だなと感じました。上述したように、「映画」というよりは、ほとんどオンライン美術館状態だからです。
僕が行ったのは試写会なので、実際上映時にグッズとして図録的な資料が販売されるのかどうかは不明なのですが、有料となってもいいので、作品解説やリストがあれば、より満足度が上がるだろうなと感じました。
5.試写会の様子
最後に、試写会の様子を少しだけ書いておきますね。今回の感想エントリは、1月14日に松竹試写室で実施された「青い日記帳×映画「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」トークショー付き特別試写会に参加させていただいたものとなります。
映画「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」のトークショー付き特別試写会 | 弐代目・青い日記帳
本編終了後、西洋絵画に詳しい研究家の第一人者でもある池上英洋教授と、美術ブロガーの大御所、青い日記帳のTakさん(@taktwi)のクロストーク内容を参考に書かせて頂きました。息がぴったりな軽妙なトークは、非常に勉強になることばかりでした!
6.まとめ
「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」は、映画というよりはNHKスペシャル的な非常に質の高いアートドキュメンタリーでした。非常に情報量が多く、勉強になるコンテンツでしたし、アートファンなら見逃せない内容に仕上がっていると思います。おすすめです。
それではまた。
かるび
★映画の予習に役立つ書籍やDVDなど★
ダヴィンチについては、過去にも様々なアプローチで映画作品が沢山出されていますが、本作品は、ダヴィンチの生涯を少年時代から晩年まで、完全ドラマ化した作品。少し年季が入っていますが、映画中に主要作品は全て紹介されていますし、ダヴィンチのより伝記的な側面に着目したい人には非常におすすめです。
2006年に劇場公開され、世界的に大ヒットしたハリウッドの歴史サスペンスミステリー。ダヴィンチの絵画や作品群が謎解きのキーになっており、「最後の晩餐」「モナ・リザ」「岩窟の聖母」がミステリーに深く絡んでいます。小説・映画とも非常に緻密に構成されている名作。
また、その他レオナルド・ダ・ヴィンチに関しては、参考資料がたくさんAmazon、楽天から出ています。リンクを置いておきましたので、資料探しは下記から是非どうぞ!