あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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初心者もマニアも楽しめる!「ファッションとアート展」は懐の深い展覧会でした!(@横浜美術館)

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【2017年5月1日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

ここ1~2年、各地の美術館で「ファッション」関連の展覧会が多数開催されるようになってきています。

このブログを開設した2015年秋ごろからアートにどっぷり漬かって1年半経ちましたが、アートファンの人って、なんだかんだで皆さんファッションセンスがいい人が多いんですよね。やっぱり普段から良いものを見る審美眼が身に付いて、目が肥えているからなのでしょうか。

そんなセンスの良い方々に囲まれて、様々なアートを見続けているというのに、今のところ自分にはファッションセンスが身につく気配が少しもありません。肥えるのは体ばかりだ・・・OTL

そんな時、今横浜美術館で開催されている「ファッションとアート展」はちょうどまたベストタイミングで現れてくれた展覧会なのであります。

今こそこの苦手分野「ファッション」に目を向ける時がきた!まずはこれを見て勉強するぞ!ということで、早速意気込んで行ってきました。オープニングの日と、22日の2回見ることができましたので、ちょっと感想/レビューを書いてみたいと思います。

※ブログ内で使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものとなります。

1.混雑状況と所要時間目安

さてそんなファッションとアート展ですが、混雑状況を見てみると、前回の篠山紀信展同様、そこまで大混雑するレベルではありません。広めに取ってある展示スペースもあって、ゆったりと見ることができます。

ゆったりとスペースの取られた優雅な展示空間f:id:hisatsugu79:20170426133407j:plain

コンテンツ量もそこまで多くないので、早い人なら60分あれば十分見終わるとと思います。ただし、後述する同時開催中のコレクション展「自然を映す」を見るならば、その倍の120分は確保したいところ。横浜美術館は、企画展だけでなく、常設展とセットで見るのが非常にお得だし、おすすめです。

2.ファッションとアート展とは

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さて、今回の展覧会の正式なタイトルは、「ファッションとアート 麗しき東西交流」とあります。タイトルにある通り、今回は「ファッション×アート」「東洋×西洋」と、2種類の異なる概念が並列で並べられていますね。

つまり、近代以降「ファッション」と「アート」は互いに密接に関連しあって、お互いに深い影響を与え合いながら発展・拡大してきたことや、その発展拡大においては、「東洋」=日本と、「西洋」=ヨーロッパの間で絶えず影響を与えあい、融合してきた歴史があるんだよ、ということをわかりやすく展示する展覧会なのです。

横浜美術館の学芸員さんの説明で「横浜は東洋と西洋が最初に出会った開港の地」なんだというお話をよく聞かせていただくのですが、そういう意味で、今回のように「ファッション×アート」「東洋×西洋」という対立する図式を紐解くようなテーマは、横浜美術館らしい良いコンセプトだなぁと思いました。

さて、たいてい美術館が「ファッション」関連の企画展をするときは、その元ネタは外部から持ち込まれることが多いのですが、今回も「ファッションとアート」のうち、「ファッション」の大部分については「京都服飾文化研究財団」(略称:KCI)という、ワコールの故・塚本幸一会長が1975年に京都で立ち上げた公益財団とのコラボレーションで展示が実現しています。

KCIのホームページを見てみると、この財団はこんなことをやっている団体です。

京都服飾文化研究財団(KCI)は、収集は活動の根幹であるという考えのもとに、設立以来、近世以降それぞれの時代を代表する西欧服飾品とそれを造形してきた下着、それらの背景を紐解く文献資料の収集という基本構想のもとに活動を続けてきました。

現在、17世紀から現在までの服飾資料を1万2千点、文献資料を1万6千点所蔵。その中には1千セットに及ぶコム・デ・ギャルソンからの寄贈品を筆頭に、クリスチャン・ディオール、シャネル、ルイ・ヴィトン等、世界的なメゾンからの寄贈品も含まれています。

すごいですね・・・。

KCIでは、1978年の創立以来、地元の京都国立近代美術館やその他の美術館・博物館での企画展などを頻繁に行っており、また、かいがいの美術館や博物館への貸出なども盛んに行っています。横浜美術館でも、今回の「ファッションとアート」展は、3年前から展覧会の企画を共同で立ち上げてじっくりと構想を練ってきたそうです。

KCIの服飾類は全て「裸展示」のため至近距離で見れる!f:id:hisatsugu79:20170426172753j:plain

他の団体が「ガラスケースに入れた展示」でないと衣装貸出にOKが出ない中、本物の上質な作品を見てほしいという思いから、KCIは今回の「ファッションとアート」展のようにガラスケースがない”裸展示”を許可してくれたのだとか。

今回は、展覧会のコンセプト「東洋ー西洋」の融合という観点から、

・日本で製作された西洋向けのドレス
・日本に影響を受けて製作された西洋のドレス

を集中的に展示しています。

一方、「ファッションとアート」の「アート」の部分は、横浜美術館側が対応していますね。絵画や工芸品、写真など、ファッション以外の幅広い分野から選ばれた作品群が、ドレスたちと一緒に展示されました。こちらも、

・日本で西洋の影響を受けて製作された絵画・工芸品
・西洋で日本の影響を受けて製作された絵画・工芸品

が所狭しと並んでいました。

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3.展覧会の見どころ

西欧列強に追いつくため、必死で西洋文化を学んだ幕末~明治期

幕末に締結された西洋列強各国との不平等条約を受け、欧米に追いつく必要性に迫られた日本は、西洋の服飾やアートを積極的に学び、生活文化に取り入れるとともに、外貨獲得のために西洋向けの輸出用工芸品や服飾を生産していきました。

当時の浮世絵にも洋装で外国人と交流する姿が!f:id:hisatsugu79:20170426151832j:plain

その玄関口となったのがまさに「横浜港」だったのですが、前半部分の展示では、まさに西洋へのキャッチアップに必死だった日本が西洋の影響を受けて生み出した新たなアートや服飾が展示されています。

たとえば、以下のような展示が興味深かったです。

芝山細工花鳥図屏風(奥)
椎野正兵衛商店 輸出用室内着(左、右)
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横浜で絹織物商として繁盛した椎野正兵衛商店は、開港後すぐに英語の看板をお店に立てて、外国人への店頭販売を行うとともに、上質なキルティングの室内着を輸出用として生産しました。これが大当たりして、かなり売れたそうです。寝間着って感じですよね。でも、柄が菊柄の刺繍だったりして、ある意味日本の田舎臭さが拭えないこの素朴な感じが良かったです。

後ろの芝山細工もまた、横浜港を通じて輸出された明治初期のヒット商品。今でも古い田舎の立派な家に普通に飾ってありそうなレトロな感じが素敵でした。

銀線七宝菊蝶文香炉(左)
後藤省三郎「銀胎七宝花鳥図花瓶」(中)
武蔵屋「花瓶」(右)
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いわゆる明治期の超絶技巧系の工芸品。近くで見るとわかりますが、この水準の作品をどれだけ今の日本で作れる職人さんがいるでしょうか?江戸後期~明治中期にかけて「ジャポニスム」と讃えられ、万国博覧会の賞レースを席巻したのはこうした一連の超絶技巧系工芸品だったのですよね。

五姓田義松「細川護成像」(左)
山本芳翠「園田銈像」(右)f:id:hisatsugu79:20170426135317j:plain

そして、欧米に追いつけ追い越せで、貴族など上流階級の家庭の子息を中心に、多数の留学生がヨーロッパへと渡りましたが、そんな彼らの肖像画を「洋画」でリアルに描いた作品が残っていました。絵画を通しても、どこか背伸びをしているような、洋服に着られているようなイケてなさが漂うのは気のせいでしょうか?凄く面白い展示です。

西洋文化に取り込まれた「日本的な」要素

開国した日本から様々な美術工芸品が入ってきたヨーロッパでは、19世紀末期から「ジャポニスム」と言われる絵画や工芸分野におけるちょっとした日本ブームが起きた時代がありました。

ジュール=ジョゼフ・ルフェーヴル
「ジャポネーズ」(扇のことば)f:id:hisatsugu79:20170426134209j:plain

彼らにとっても、200年以上の鎖国で独自進化を遂げた日本文化は非常に新鮮に写り、確実に先鋭的なヨーロッパのアート作家たちの作風に取り込まれていくことになりました。そして、ジャポニスムで強烈な印象を与えた日本的な要素は、その後20世紀初頭の「アール・ヌーボー」、そして1910年以降の「アール・デコ」といった一連の装飾美術の潮流において、完全に取り込まれ、西洋文化に融合していくことになりました。

後半展示では、西洋にて一旦消化・再解釈された「日本的な要素」を持った服飾や工芸品が一挙に展示されていくことになります。

まるで着物のような体裁と、虎があしらわれたコートf:id:hisatsugu79:20170426135620j:plain

広げたとき、まるで着物のようなゆったりとした体裁に、背中の部分に虎の顔がプリントされたドレス。正直・・・これは微妙なのでは?と思いましたが、会場内に展示されているドレスの中で一番わかりやすく異彩を放っていたので、良くも悪くも強烈な印象を残した作品でした。

後ろ姿がキレイに映える「見返り美人」的なドレス達f:id:hisatsugu79:20170426135840j:plain

20世紀初め、コルセット文化からの脱却を図っていたパリのファッション界は、日本の「きもの」のゆったりとした構造に目をつけ、きもの風コートを開発していきました。裾をひきずり、振り返ったときに優雅に見える「見返り美人」的なデザインが面白いドレスたちです。

ゆったりとしたイブニングドレスたちf:id:hisatsugu79:20170426140121j:plain

第一次世界大戦が終わった1920年代には、洋服には活動性と機能性が重視されるようになったため、ヨーロッパではよりアールデコ的な、直線的で平面的なデザインが流行しました。このとき、平面的な服の素材として使用されたのがやはり日本的な柄だったそうです。こういったヨーロッパの最先端の服をイブニングドレスとして輸入し、日本人も舞踏会などで着ていた記録が残されています。

学芸員さんも仰っていましたが、日本に影響を受けて制作された最先端のヨーロッパのドレスを、再び日本人が輸入して喜んで着る、という構造は、まさに数十年の時を経てファッションの東西交流が輪になって完結したっていう何よりの証拠ですよね。感慨深いものがあります。

アート初心者も中級者以上も楽しめる不思議な展覧会

ここまで、この展覧会の趣旨や見どころを書いてみましたが、これはあくまで真面目に「勉強として」見るならば・・・という前提です。

もっと自由に楽しむこともできるのがこの展覧会の特徴で、ぶっちゃけ「どのドレスがキレイなのか?」「こんな調度品が欲しい!」といったように、もっと単純に楽しんでもいいと思います!

所狭しと並んだ個性的なドレスたちf:id:hisatsugu79:20170426140152j:plain

今回、敢えて男性用・子供用は省略し、一番ゴージャスできれいな女性用ドレスに絞って展示されているだけあって、とにかく見た目が美しく華やかなので、その場で色々ドレスを見ているだけで楽しい気分になってくるのですよね。

だから、展示されている様々なドレスを見ながら「これはいい!」とか「これはちょっとムリ」とか、友達とワイワイ話しながら見ていくだけでも凄く楽しいと思います。実際、僕が22日に見たときは、

「(青海波のドレスを指して)これ昆虫みたいじゃない?キモくないこれ?」
「これは今でも大阪のおばちゃんが着てそう。ポケットからアメ玉出てくる感じだよね?」

とか、そんな感じでカジュアルに楽しんでましたので。

一方で、様々なアートに精通し、ガッツリ見て回りたいアートマニアにとっても、今回の展覧会は沢山のネタを提供してくれる深い内容に仕上がっています。「アート」「ファッション」だけでなく、「東西文化交流の歴史」など、複数分野にまたがるテーマである上、厳密に評価しようとするなら歴史的な文脈や観点に立った鑑賞が求められるからです。中級者以上のアートファンでも新しい発見や学びが沢山出てくる、いくらでも深く掘り下げて見ていくことができる懐の深い展覧会でした。

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4.その他、気になった展示品などを一挙紹介!

ロイヤル・ウースター社
伊万里写ティーセット
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江戸時代~明治期を通じて海外へ多数輸出された伊万里焼にインスパイアされ、イギリスの陶磁器メーカーで製作された伊万里風ティーセット。あちこちにあしらわれた菊の御紋が眩しいです(笑)すごいセンスですよね・・・。

ティファニー商会 
群魚文ピッチャー(左)、瓢箪文酒ポット(右)
ゴーハム社
芭蕉句入花瓶「古池やかわず飛こむ水の音」f:id:hisatsugu79:20170426135752j:plain

これら銀食器類もバリバリ日本の輸出品からインスパイアされて製作されたものなのでしょう。しかし芭蕉の句まで入っちゃうとは(絶対意味わかってなかったはず!)

昭憲皇太后着用大礼服(マントー・ド・クール)f:id:hisatsugu79:20170426135434j:plain

第二室のほぼど真ん中全部を占有した、今回展示の目玉の一つがこの「昭憲皇太后」がドレスで着用したという礼服。完全に洋装なのですが、100%メイド・イン・ジャパンというのが面白いですよね。

かなり小柄な昭憲皇太后でしたが、格調の高さを示すトレーン部分の長さは3メートル30センチもあるそうです。皇室らしい「菊柄」全開で、まさに和洋折衷、東西融合の象徴みたいなドレスです。

5.同時開催のコレクション展も非常におすすめ!

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横浜美術館は、毎回企画展と同時開催されるコレクション展(常設展)の内容がいつも素晴らしいのですよね。よく整理された展示内容と物凄い物量で、なんなら企画展よりも遥かに多い展示内容が待っているのです。特に、前回の篠山紀信展では、紀信展も合わせて圧巻の「全館写真展」状態でした。 

さて、今回のコレクション展も例によって惚れ惚れするような素晴らしさでした。今回のテーマは「自然を映す」。テーマに沿って、収蔵された西洋画、日本画、現代アート、写真、工芸品などが大量に展示されています。個人的には、日本画コーナーの充実ぶりが素晴らしかったです。

コレクション展の展示室内は写真撮影が全てOKなのも素敵です。気に入った作品があれば、個人利用に限って「室内風景」として撮影が許可されているんです。是非、企画展だけで帰らず、常設展の中から新たなアートとの出会いを楽しんでくださいね。

6.まとめ

「ファッションとアート」展は、純粋 に展示されている美術品や服飾の美しさを楽しむために見て回るのもありだし、歴史的な文脈から、学術的に深く展示に切り込んでいくスタイルもOKだと思います。

見る人によって様々な楽しみ方ができる展覧会でした。力の入った企画展なので、是非楽しんでみてください。ちなみに、ファッションセンスがゼロな僕でも、物凄く楽しめましたし、なんかちょっとだけファッションセンスが身についたような気がします^_^;

それではまた。
かるび

「ファッションとアート」展の参考図書

「ファッションとアート展」公式図録

今回展覧会の公式図録。ゴージャスなカラー写真と詳細な解説で、明治~昭和初期までファッションとアートが互いに密接に絡み合って発展してきたことが、より深く理解できる図録に仕上がっています。何度も見返すと、その度に新しい発見があるクオリティの高い図録です!

「ファッションの世紀」

今回の図録にもコラムを寄せている深井晃子氏が、20世紀のファッションの潮流と、現代アートの深い関連性についてわかりやすく論じた1冊。明治期~昭和初期までの「ファッションとアート」の関係性をまとめた今回の展覧会から時間軸をさらに進め、20世紀後半まで丁寧に網羅した応用編的な内容です。

展覧会が終わった後に読むと、この本の面白さが際立ちますね。2005年に出版された本ですが、全く古さはありません。展覧会の副読本として無条件におすすめしたい好内容でした。

展覧会開催情報

「ファッションとアート 麗しき東西交流」展

◯開催地
横浜美術館
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
◯最寄り駅
東急みなとみらい駅/JR・東急桜木町駅
◯開館時間・休館日・会期
2017年4月15日(土) ~ 6月25日(日)
10時~18時 (17時30分最終入館)
*2017年5月17日(水)は20時30分まで
休館日:木曜日、5月8日(月)
ただし、5月4日(木・祝)は開館
◯公式HP
http://yokohama.art.museum/

◯Twitter
https://twitter.com/yokobi_tweet
◯周辺地図
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(引用:横浜美術館HPより)