あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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休日は大混雑!ゴッホとゴーギャン展@東京都美術館は二人の友情が心温まる良い展覧会でした

【2016年11月7日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

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昨日のデトロイト美術館展に引き続き、今日は10月8日からスタートした「ゴッホとゴーギャン展」に行ってきました。力の入った展覧会で、見ごたえたっぷりでした。以下、感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

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行ってきたのは平日の10時30分頃。外から見ると、たいして混んでなさそうなのに、中にはかなりのお客さんが。有名な作品の前では、特に人だかりが激しく落ち着いて見るのが難しい感じ。平日でこのレベルなら、会期後半の土日祝日は入場制限が出るくらい混雑してもおかしくないと思います。

作品数は60点くらいですが、混雑していることや、ゴッホ、ゴーギャンの細かい作風の変化やビデオ解説コーナーを全部見るのであれば、90分程度は開けておいたほうがよいかもしれません。じっくり見るなら2時間以上は欲しいところです。

 なお、今回は公式Twitterで若冲展のように混雑状況をアナウンスしてくれる模様です。会期が2ヶ月間と短めですし、11月以降の土日に出かけるなら、ここを見てから出かけたほうがいいかもしれませんね。

【2016年11月7日追記】

テレビでも特集が組まれ、年末に向けて徐々に混雑が厳しくなってきました。11月3日のピーク時には入場制限がかかり、20分待ちとなった模様です。お出かけ前には、混雑状況をチェックしてから時間をずらすなど工夫してみて下さい!

2.音声ガイドが面白い!

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(引用:東京都美術館HPから)

今回の音声ガイドは、ゴッホ役とゴーギャン役の二人います(笑)プロの人気声優さんを起用し、女性アニメファンを狙い撃ち!(笑)でも、コアなアニメファンじゃなくても、ゴッホ/ゴーギャンの対話形式や、どちらかの独白スタイル進んでいくドラマ仕立ての趣向は凄く良かった!

しかも、解説パネルにない、二人がやりとりした書簡や互いに言及した資料から拾い上げたコメントを積極的に取り上げ、聴き応え抜群でした。

こちらから、試聴できますので、行く前に雰囲気だけでも確認しておくと面白いかも。

貸出中の会場 │音声ガイド 企画・制作・運営 アコースティガイド・ジャパン(旧A&Dオーディオガイド)│美術館・博物館・旅行

3.ゴッホとゴーギャン展とは

日本人なら、西洋画家の巨匠、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853-1890)ポール・ゴーギャン(1848-1903)の名前を聞いたことがない人はまずいないと思います。その二人が、1888年の10月23日から12月24日にかけて、約2ヶ月間、南フランスのアルルにて通称「黄色い家」で共同生活(≠同棲)を送っていたエピソードも、アートの歴史においては非常に有名な話です。

今回展示では、その二人が送ったアルルでの短い共同生活や、その前後の二人の交流に焦点を当て、ゴッホ、ゴーギャンの画業を時系列に振り返る特集展示となっています。また、二人が生きた同時代に交流があった画家や、二人に影響を与えた画家たちの作品も合わせて展示されています。

公式サイトから動画も見れます。こちらから。
https://youtu.be/wwRhnn3N7Es

4.展覧会のみどころ

展覧会では、ゴッホとゴーギャンの絵画が世界中から集結しました。関連作家の作品も含め、その数は実に62点。(しかも関連作品も作品数合わせで埋めた、力の落ちる2流画家ではなく、同時代の一流画家ばっかり!)

アルルでの二人の共同生活をハイライトとして、それまでの二人の画家としてのキャリアのスタートから、発展期、そして共同生活が終了してからの二人のキャリアなど、余すことなく時系列で網羅されています。

4-1:二人の個性のぶつかり合い

ゴッホもゴーギャンも、共に「後期印象派」として西洋美術史では一緒に位置づけられますが、共に印象派を学び、徐々に唯一無二のオリジナルな作風を打ち立てるに至ります。展覧会で絵を見るとわかりますが、二人の絵は全く違います。

目に焼き付いた情景へ自分自身の心情を投影して「写実的」に描こうとするゴッホに対して、目の前に見えているものにこだわらず、想像力を駆使して自分の内的な思索を絵にしようとしたゴーギャンは、まさに水と油のようです。展覧会の副題『Reality and Imagination』が、二人の作風を端的に表現していますね。

その二人が、たった2ヶ月間とはいえ、共同生活を送る中で同じモチーフやお互いを描いた絵画群は非常に見応えがありました。

ゴッホ「ゴーギャンの椅子」
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ゴーギャン「アルルの洗濯女」f:id:hisatsugu79:20161012192633j:plain

ゴッホとゴーギャンの共同生活は、最初こそうまく行ったものの、二人の絵画への考え方や性格の違いから、やがてうまく行かなくなってきます。それを決定づけたのが、下記のゴーギャンが描いたゴッホ像でした。

ゴーギャン「ひまわりを描くゴッホ」
※注:今回未出展
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(引用:Wikipediaより)

描かれた絵を見たゴッホは、絵の中に自身の狂気を感じて「なるほどこれはぼくだ。でも気の違ったぼくだ」と言ったとか。この絵が描かれたすぐ後、ゴッホは発狂し、耳を切る痛ましい事件が勃発します。なんとか、この1枚を持ってきてほしかったな~。

4-2:二人に関係があった画家たちの作品も凄く良かった

まず、ゴッホが画家を志した際にあこがれの存在だった、ミレーを中心とするバルビゾン派の作家たちの作品群、ゴーギャンがアマチュア画家時代に薫陶を受けたカミーユ・ピサロの作品。そして、二人に共通して影響を与えたモネの作品も良かったです。

ミレー「鵞鳥番の少女」
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(引用:http://hakugodo.blog112.fc2.com/blog-entry-413.html

ピサロ「ヴェルサイユへの道、ロカンクール」f:id:hisatsugu79:20161012193720j:plain

また、共同生活の直前、ゴーギャンが印象派から離脱し、パリを離れフランス北部のブルターニュ地方のポン=タヴェンで、ベルナールやセリュジエなど、気の合う仲間たちと共同生活を送った時期がありました。この時期、ゴーギャンが美術理論の中心となり、眼前の現実と想像力の投影をバランスを取って絵画へと折り込む「総合主義」という新たな画風を打ち立てます。(後に、この仲間たちが「ナビ派」を結成し、さらに「象徴主義」へとつながっていく)

この時の仲間たちの作品も、ゴーギャンとの深いつながりを感じさせ、非常に興味深かったです。

セリュジエ「リンゴの収穫」f:id:hisatsugu79:20161012194121j:plain
(引用:The Athenaeum - Apple Harvest (Paul Sérusier - )

エミール・ベルナール「ティーポット、カップ、果物のある静物」f:id:hisatsugu79:20161012195131j:plain
(引用:Wikipediaより)

4-3:二人の共同生活のその後

二人が共同生活を始めて2ヶ月目。性格も目指す画風も全く異なる、いわば「水と油」の関係にあったふたりは、たびたび深刻な言い争いをするようになります。ゴーギャンは、共同生活の破綻を予期していたといいますが、1888年12月23日、二人の共同生活は突如終わりを告げました。精神に破綻をきたし、自分の耳を切り裂いたゴッホが緊急入院することになったためです。(ゴッホの耳裂き事件)

その顛末は、地元の新聞にも掲載され、周辺住民の知るところとなりました。ゴーギャンはパリへ一旦帰り、再びブルターニュにて別の仲間と共同制作をはじめます。ゴッホは、退院後、再び「黄色い家」に戻りましたが、たびたび発作が起き、不安がった周辺住民からアルルを追い出されてしまいます。

ゴッホは、その後療養生活を送りながら、さらに新境地を目指して作風を変化させていきます。ただ、病状は良くならず、晩年、自殺する直前の1889年に描かれた「オリーブ園」など、寒色系や暗い色合いの絵の具が画面中をうねり、不安定な心情が全面に出ています。

ゴッホ「オリーブ園」f:id:hisatsugu79:20161012192136j:plain
(引用:WikiArtより

一方で、ゴーギャンは、自らの個人的な内面世界や宗教色を帯びた詩的な作品へとさらに傾倒しつつ、タヒチへと旅立ち、自らの作風を完成させていきました。数年前に見たゴーギャン展では、こういう絵が多かったなぁと思い起こしながら見ていました。

ゴーギャン「タヒチの3人」f:id:hisatsugu79:20161012190136j:plain
(引用:スコットランド国立美術館HP

ゴッホとの共同生活を解消後、ゴッホからの作風への直接の影響はほとんど感じられないものの、ゴーギャンは繰り返し彫刻や絵画でゴッホへの友情や思いを作品にしています。

ゴッホが亡くなった12年後、1901年にゴーギャンが何枚か描いた連作「肘掛け椅子のひまわり」シリーズのうち、E.Gビュールレ・コレクション財団の1枚が展示会ラストを飾りました。変わらぬゴッホへのリスペクトや思いがつまった渾身の1枚です。

ゴーギャン「肘掛け椅子のひまわり」f:id:hisatsugu79:20161012191752j:plain
(引用:ビューグレ財団HPより

「いす」は共同生活中にゴーギャンが座っていたものでしょう。本人の署名が椅子に書かれていますから。「ひまわり」はゴーギャンが愛したゴッホのひまわりですね。いすに優しく抱かれるように描かれたひまわりが、ゴーギャンのゴッホへの変わらぬ思いを暗示しているようです。

音声ガイドでも紹介されていましたが、文筆家のジャン・ドランは、1896年に出版した『怪物たち』のなかで、

『ゴーギャンが「ヴィンセント」と言うとき、その声はやさしい』

と書き綴っています。ゴーギャンのゴッホへの特別な感情がよく分かる逸話だと思います。

5.まとめ

過去、ゴッホ展、ゴーギャン展など、単独で特集された企画展はたくさんありましたが、ゴッホとゴーギャンのアルルでの共同生活を軸に、二人の関係や交流に焦点を当てて組まれた企画展示は日本では画期的で初めてでした。

二人の巨匠の作品群だけでなく、二人に影響を与えたモネやピサロ、ミレーなどの作品も見応えたっぷりですし、グッズコーナーでの意外なコラボレーションも面白かったです。デトロイト美術館展、クラーナハ展と合わせて、この秋、見ておくべき必須展覧会だと思います。混まないうちにお早めに!

それではまた。
かるび

展覧会の開催情報

展覧会名:「ゴッホとゴーギャン展」
会期:
【東京展】2016年10月8日~12月18日
【愛知展】2017年1月3日~3月20日
会場:
東京展:東京都美術館
愛知展:愛知県美術館
公式HP:http://www.g-g2016.com/
Twitter:https://twitter.com/i/notifications

予習復習に役立つ書籍

ゴッホとゴーギャン展に合わせて、「Pen」で特集が組まれました。総力特集で非常に読みやすく、タイムリーでした。Kindle Unlimitedで無料で読めますし、是非チェックしてみて下さい。

ゴーギャンの入門本は、東京美術のコンパクトな定番のシリーズが非常によくまとまっています。ゴッホとの出会い以前、以後も含め、ゴッホ同様波乱万丈なゴーギャンの生き様とリンクして、劇的に変化していった作風もカラーでしっかり解説されています!

合わせて回りたい西洋美術展!

この秋は、上野エリアの「西洋美術」系展覧会が充実しています。ゴッホとゴーギャン展(東京都美術館)の他に、クラーナハ展(東京国立西洋美術館)、デトロイト美術館展(上野の森美術館)と、大型展覧会が3つ並行で行われていますので、もれなくハシゴできます。特に、デトロイト美術館でもゴッホ、ゴーギャンの作品3点に出会えますよ。

「ゴッホとゴーギャン展」⇔「クラーナハ展」「ゴッホとゴーギャン展」⇔「デトロイト美術館展」での相互割引もあります。西洋美術の巨匠を上野で一気に見まくるオトクな割引なので、ぜひ活用してみて下さい。

今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

ゴッホ→ゴーギャンへの書簡集

ゴッホ美術館がまとめた、ゴッホ→ゴーギャンへの書簡集が英文で全部読めます。ゴーギャンへの書簡は、弟のテオや二人の共通の友人、ベルナール宛ての書簡に比べると、終始よりフォーマルな文体で丁寧に書かれたそうで、共同生活が終わってからもゴーギャンへのリスペクトは変わらなかったとのこと。

★ゴッホの書簡集
Correspondents - Vincent van Gogh Letters

シカゴ美術館でのゴッホ・ゴーギャン特集展示資料(2002)

また、シカゴ美術館で、「ゴッホとゴーギャン展」を展示した際の、Webでのスライド資料が閲覧できるようになっています。興味深いのは、テーマは同じですが展示された絵画が全く違っていることです。ほとんどかぶっていないのが驚きです。英文ソースですが、お時間があればぜひ。

★シカゴ美術館「Van Gogh and Gauguin」(2002)スライド資料
Van Gogh and Gauguin: The Studio of the South

ゴッホの「ひまわり」(東郷青児記念美術館)

今回、出口で展示フィナーレを飾ったゴーギャン「ひまわり」は、ゴーギャンのゴッホへの変わらぬリスペクトと友情を強く感じさせる、静かな感動と余韻を残す一枚でした。ゴーギャンは、共同生活を始める前からゴッホの「ひまわり」が大好きで、たびたびゴッホへ当てた書簡で大絶賛していました。

展示会場では、ゴッホが描いたひまわりは残念ながら展示されませんでしたが、実は新宿でいつでも見れるのです。ゴッホがゴーギャンを迎え入れるに当たって、「黄色の家」に飾りまくった一連のひまわりの絵のうち、5枚目に描いた作品が、東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館に常設展示されています。バブル全盛期に58億円で旧安田火災が購入した名品ですが、バブル崩壊後も手放されることなく、美術館の目玉作品として大切に扱われています。