【2017年5月18日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。
4月14日に封切られた米中合作の歴史ファンタジー映画「グレートウォール」を見てきました。巨費150億円をかけ、キャスト・スタッフともに米中で最高の人材を集めて製作されたのに、本国では壮大にコケてしまった作品です。しかし、主演マット・デイモンが製作段階からかなり入れ込んで参加した意欲作なので、これは是非見てみたいと思っていました!
早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。
- 1.映画「グレートウォール」の基本情報
- 2.映画「グレートウォール」の 主要登場人物とキャスト
- 3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)
- 4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)
- 5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)
- 6.まとめ
- 7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
1.映画「グレートウォール」の基本情報
<映画「グレートウォール」予告動画>
【監督】チャン・イーモウ(「HERO」「LOVERS」他)
【配給】東宝東和
【時間】103分
【原作】マーク・モリス「グレートウォール」ノベライズ版
巨匠、チャン・イーモウを筆頭に、キャストやエキストラは主演クラス以外はほぼ全部中国人、ロケ地はオール中国、制作スタッフはハリウッドと、きれいに米中で役割分担を決めて割りと50-50の合作で臨んだ本作品。
意外にも、アメリカでは約35億ドルと興収が伸びず、期待された中国国内でも予想を下回る170億ドル程度に留まりそうな状況。最終的に赤字額は巨額の75億ドルに昇るのではないかと危惧されています。
今年のアカデミー賞でも、司会を務めた毒舌のジミー・キンメルも主演のマット・デイモンを「わざわざ赤字のグレートウォールに出て(マンチェスター・バイ・ザ・シーの主演をケーシー・アフレックに譲って)オスカーを逃すなんて!」と揶揄されていたのは映画マニアの記憶に新しいところですね。
2.映画「グレートウォール」の 主要登場人物とキャスト
ウィリアム・ガリン(マット・デイモン)
2015年の「オデッセイ」や「ジェイソン・ボーン」シリーズなど、今やハリウッドを代表する主演男優へと上り詰めたマット・デイモン。本作では己だけが頼りの、歴戦の傭兵を演じています。主演を降りて裏目に出た(?)オスカー受賞の「マンチェスター・バイ・ザー・シー」では、裏方として製作に回るなど、活躍の幅が広がっていますね。
リン・メイ司令官(ジン・ティエン)
現在同時上映中の「キングコング-髑髏島の巨神」でも、秘密組織「モナーク」の一員として脇役クラスで出演。キングコングとは違って、今作ではヒロイン役を任されていますが、非常に端正な顔立ちで今後人気が爆発しそうな気配。
ちなみに、劇中では英語ができる設定でしたが、棒読みライクな怪しいところもありました。それでも、見事なアメリカ英語の発音を披露してくれています。(欧米のメディアからは、なぜヨーロッパ人から習ったのに「R」の発音がアメリカ英語?とそこが突っ込まれているポイントではありますが)オーディションに合格してから英語を猛特訓したそうで、日本の若い女優でもこういう人材がいればなぁと思います・・・。
ペロ・トバール(ペドロ・パスカル)
人気TVドラマシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」のオベリン・マーテル役で今や世界的な人気を博している他、NetFlixのドラマシリーズ「ナルコス」にも出演中。映画作品より主にアメリカのTVシリーズでの知名度の方が高い人です。チリ生まれのスペイン系の顔立ちが特徴で、今作ではスペイン人として演じていますね。
バラード(ウィレム・デフォー)
近年は出演作「アビエイター」、「グランド・ブダペスト・ホテル」など、アカデミー賞に絡む名作中での出演にも恵まれ、ハリウッドの中でも唯一無二の個性派性格俳優として定評を確立したウィレム・デフォーですが、今作では主人公の足を引っ張ろうとする「プチ・悪役」クラスとして出演。うーんなんかもったいない使い方をするなぁーと思って見ていました(笑)
ワン軍師(アンディ・ラウ)
中国人俳優についてはよく知らないので、パンフレットを引用すると、この人は「中国映画界を代表するスーパースター」なのだそうです。シンガー・ソングライターとしても活躍中で、今作品で出演する俳優の中では、唯一過去にチャン・イーモウ監督の作品に出演経験があるベテラン俳優です。
存在感が薄かった5人の将軍たち
その他にも、禁軍の総司令官、シャオ将軍や、熊軍、鷲軍、鹿軍、虎軍、皇帝の特使など中国人キャストが脇を固めますが、ほぼモブキャラ同然で、存在感は薄めでした。中国向けのトレイラー予告動画ではガッツリ特集が組まれていたのですが一体なんだったんだ・・・。
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3.結末までのあらすじ紹介(※ネタバレ注)
3-1.万里の長城へと迷いこんだウィリアム達
万里の長城。総延長8850キロにもなる、宇宙からも肉眼で見渡せるほど巨大な建造物は、中国において過去1700年にわたって築城・維持されてきた。その造営目的や逸話には、史実と伝説が混交するが、今作で語られるのは、そんな伝説のひとつである。
中国西方のシルクロード近くの砂漠地帯において、中国から黒色火薬を持ち帰ろうとしていたウィリアムとトバール達は、盗賊たちに命を狙われていた。ウィリアムの弓矢で盗賊たちを混乱させ、その日はなんとか乗り切ったが、彼らは野営中に謎の化物に襲撃されてしまった。それでもなんとか化物の腕を切り落として化物を追い払ったが、その戦いで仲間が二人落命してしまう。
翌日、生き残ったウィリアムとトバールは出発したが、またも盗賊に追いかけられてしまう始末だ。盗賊から逃げているうちに、前方には巨大な中国の防壁「万里の長城」が見えてきた。長城から彼らに向かって弓矢が打ち込まれ、ウィリアム達は前方を中国軍、後方を盗賊に囲まれてしまう。
ウィリアム達は、武器を捨てて中国軍に降伏し、軍法会議にて彼らの見分を受けることになった。将校たちの間では異邦人を処刑すべき、という意見が大勢を占めたが、ウイリアム達が持っていた化物の腕を見て、戦力になると考えたワン軍師の考えで、一旦は入牢することになった。
3-2.饕餮の襲来に巻き込まれるウィリアム達
その時、化物襲来の一報が届き、長城に駐留していた軍隊は戦闘準備を開始する。シャオ将軍から、化物の正体が「饕餮」(とうてつ)であると聞かされた。あいにく牢屋の鍵がなかったため、饕餮との戦闘中、ウィリアムたちは長城の城壁で監視されることになった。
投石機や槍部隊、弓矢部隊など、数々の工夫をこらした戦いを繰り広げるも、圧倒的な数で責めてくる饕餮の先陣がとうとう防壁へと侵入してきた。混乱した防壁の上では、饕餮による兵士の一報的な殺戮が始まっていたが、縄を解かれたウィリアムはその神業のような正確な弓矢で饕餮を片付けていった。
そして、戦局がいよいよ厳しくなってきたその時、饕餮の女王の合図で、一旦饕餮は万里の長城から一斉に退いていった。
戦いの後、ウィリアムとトバールはその技と戦闘への貢献を評価され、一転して客人扱いを受けることになる。宴会場で余技を見せるなど、上機嫌なウィリアムだったが、その時彼らは長城内にもうひとり西洋人が混ざっていることに気がついた。
その西洋人の名はバラード。25年前、ウィリアム達同様、黒色火薬を手に入れようと中国へと入国したが、そのまま軍中枢部にとらわれてしまい、客人として無為に過ごす毎日だった。
宴会が終わると、ウィリアムとトバール、バラードは、饕餮との戦いに乗じて、城壁から脱出する算段を話し合った。長年の城壁生活で、バラードは黒色火薬のありかや逃走経路も頭に入っていた。
翌日、ウィリアムはリン将軍と食事をするきっかけがあったが、お互いに幼いときに両親をなくし、独り身であることなど共通項は多かったが、リンが国と仲間のために命を捧げて仲間を「信任」して戦っている一報で、ウィリアムは食べていくため、金のため割り切って一匹狼として戦っているなど、生き方は大きく違っていた。
その夜、西の塔の見張りからの連絡が途絶えたため、不審に思った禁軍の首脳部は、西の塔へと向かった。すると、そこに隠れていた一頭の饕餮が彼らに襲いかかった。シャオ将軍は、リンを庇って致命傷を負い、あっけなく亡くなってしまった。
シャオ将軍は、死ぬ前にリンを次の大将軍に任命した。リンは、天燈(フライングランタン)でシャオ将軍を追悼しつつ、次にやってくる戦いに備えていた。
作戦会議の場で、持ち込まれた900年前の資料を見ていた禁軍の首脳部達は、ウィリアムの持っていた「磁石」が、饕餮の弱点であり、饕餮攻略の糸口になるのではないかと考えた。そこで、首脳部達は、次の戦いで饕餮を一頭生け捕りにして実験してみることにした。
そして、饕餮が再びやってきた戦いの日、トバールとバラードは逃亡を決行しようとしたが、ウィリアムは踏ん切りがつかず、禁軍とともに戦いに身を投じていた。禁軍は、作戦通り巨大なモリで饕餮を生け捕りにしようとしたが、知性をつけた饕餮の連携により、わずか1頭しかモリに刺さらなかった。ウィリアムは、自ら戦場に飛び出していき、フィールド上で饕餮と戦った。トバールも逃亡を中止し、ウィリアムとともに戦った。リンは彼らを後方支援するため、黒色火薬を戦場に投入したが、饕餮を生け捕りにすることに成功したが、爆薬の爆風と熱でウィリアムとトバールは気を失った。
ウィリアムとトバールが目を覚ますと、檻に入れられた饕餮が目を覚まし、激しく檻の中で暴れた。しかし、ウィリアムが持っていた磁石を饕餮に近づけると、饕餮は途端におとなしくなり、てなづけることに成功したのだった。
それを見ていたシャオ特使は、饕餮を皇帝に見せるため、勅命にて首都、抃梁(べんりょう)に饕餮を運び込むと宣言した。
その晩、トバールはウィリアムと今度こそ脱出しようとするが、心変わりし、残って戦うと宣言したウィリアムと仲違いし、トバールはバラードと二人で脱出することを決めた。そして、二人で武器庫へと潜入した。ウィリアムが止めに入ったが、二人はウィリアムを置いて逃げ出した。
二人がイなくなったことに気づいたリンは、ウィリアムを呼んで裏切ったな、と詰問した。ウィリアムが懸命に弁明し、ウィリアムが止めようとしていたところを偶然見ていた禁軍の兵士がリンにウィリアムが嘘をついていないと証言したため、ウィリアムは処刑を免れたが、再び牢に幽閉されてしまった。
3-3.首都、抃梁での饕餮との最終決戦
丁度その時、リンの元に部下から連絡が入った。饕餮が攻めてこないので確認してみたところ、長城の地下に饕餮にトンネルを掘られてしまったことが判明した。トンネルの遥か700里先には、首都抃梁があった。饕餮は、首都抃梁を目指して、抃梁の住民達を食い殺そうとしていたのだった。
徒歩や騎馬ではとても追いつかないため、禁軍では奥の手として、危険な巨大ランタン(気球)を使うことにした。今なら風に乗れば、饕餮に先んじて抃梁に到着できると判断したリンは、全軍で乗れる限りの兵員をランタンに乗せて、抃梁へと向かうことにした。
ウィリアムはその後釈放されたが、彼も抃梁でリン達と戦うことを志願した。彼は、彼に証言してくれた下級兵士と、軍師とランタンに同乗して抃梁へと向かった。
一報、黒色火薬や財宝を持って逃げ出したトバールとバラードだったが、トバールが少し休憩している好きに、バラードは馬と荷物をすべて持ち逃げされてしまった。途方に暮れるトバールだったが、バラードはその後盗賊に見つかり、黒色火薬の取り扱いを間違えた盗賊もろとも、爆死してしまった。
トバールは、それを見て残っていた馬と荷物を回収して逃げようとしたが、今度は長城から追手が追いついてきてしまい、あっけなくつかまってしまった。
リン達の乗った気球はちょうど饕餮の群れと同タイミングで抃梁に到着した。到着するやいなや饕餮との戦闘になったが、リンは饕餮に囲まれてしまった。その時、後ろから追いついてきたウィリアムの気球に拾われ、間一髪リンは戦士するところを免れた。
その後、リン達は皇帝に謁見し、捕獲した饕餮を回収して、肉をたらふく食わせた饕餮に黒色火薬をくくりつけ、女王饕餮のところへ戻ったところを一気に爆破する作戦を立てた。
肉を食わせて放した饕餮は、その後計算通り女王饕餮の元へと戻っていった。それを見て、ウィリアムとリンは高い尖塔から火矢を放ち、饕餮につけたダイナマイトを爆破して女王饕餮を殺そうとした。
2度失敗し、3度目でようやく女王と接触中の饕餮に火矢を打ち込むことに成功し、女王饕餮は粉々に砕け散っていった。その瞬間、残った饕餮達は一斉に動きを止め、死んでしまった。こうして、間一髪のところで抃梁と都の人たちを饕餮による大惨事から救うことができたウィリアムだった。
ウィリアムが長城に戻ると、手かせ足かせをつけられたトバールが待っていた。皇帝の許可で、黒色火薬を持ち帰ることを諦める引き換えに、彼はトバールを釈放してもらう許可を得た。
また、リンはこの戦いで、北西地域の司令官へと栄転を果たしていた。去り際、ウィリアムはリンと最後の別れの言葉を交わした。彼らは、今や「信任」で結ばれた戦友なのであった。
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4.ストーリーの感想や評価(※ネタバレ注)
映画全体の感想としては、「グレートウォール」は、どうにも中途半端な映画になっちゃったなぁというのが正直なところです。作り込まれたセットや美術、怪物には大満足でしたが、ストーリーや人物描写にかなり問題がありました。以下、良い点を先に書き、その後に少し辛辣な批評が続きますので何卒ご了承ください。
4-1.巨大なセットや人海戦術での大量エキストラはさすが中国!
映画の舞台となったのは、宋代に造営された万里の長城。現存する長城の遺跡の大部分はそれより後の「明」代に造営されたものなので、これを逆手に取ってやりたい放題なセットがまず最高でした!
随分高いゴージャスな長城
まず、明らかに現代に残っている長城よりも遥かに高い壁!まるでダムのような15メートル級の巨大な壁で、内部も水力や人力で防御用の仕掛けがあったり、囚われたウイリアムたちが滞在する住居があったり、物凄いハイスペックな万里の長城はブロックバスター映画ならでは。さすがは超大作、やりすぎなくらいみっちり作り込んであります。パンフレットを見ると、実際に歴代の長城が造成された時のように、20万個のレンガを積んで実物の長城セットを作り込んだとのこと。
物凄い数のエキストラ達!
さらに人の多い中国ならではの、ものすごい数のモブキャラ達。CGでの描き込みではなく、実際のエキストラを大量動員して広さ1km2四方のセットに配備させる人海戦術での撮影は、人の多い中国でしかなしえない規模感ですね。
4-2.チャン・イーモウ監督のこだわりの「色」使いも派手で良かった!
今作では、長城を守備する禁軍には、役割別に5つの部隊に別れており、それぞれに「赤」・「黄」・「青」・「紫」・「黒」と分かりやすくカラフルに色分けされていました。さらに、饕餮(とうてつ)や皇帝のお付きは「緑」で、首都の宮中はこれでもかといわんばかりにまばゆい「黄金」で彩られていました。
戦国時代以降、ワビサビが重要視された日本ではまずありえない甲冑や武具の派手さですが、中国では、こういったテーマカラーで配下の軍団を色分けするのは実際に史実上でもよくあったのだそうです。制作する映画では、必ずテーマカラーを設定し、作品内での色彩にこだわり抜くチャン・イーモウ監督ならではのセンス爆発でした。
4-3.饕餮のデザインもなかなか秀逸!
「グレートウォール」でフィーチャーされている万里の長城の巨大な防壁は、史実にあるような匈奴やモンゴルといった北方の騎馬民族侵入対策のためではなく、中国の伝説の化物は、饕餮(とうてつ)を撃退されるために作られています。
その饕餮のデザインですが、これがなかなか秀逸な感じ。僕はアートファンでもあるので、東京国立博物館や、根津美術館に常設展示されている、饕餮文が彫られた古代の青銅器を見るのが大好きなんですが、今回の映画で出てきた饕餮は、頭部にしっかり饕餮文様が埋め込まれ、青銅器が錆びたような緑青(ろくしょう)色のトカゲ系の化物で、イメージ通り!
おぉ、饕餮が動いてる!!!と一人映画館で興奮していました。
4-4.とはいえ、やはりコケるだけの要素はあるなと・・・
本エントリ冒頭でも、世界興収がコケ気味だと書きましたが、さすがにこれはコケても仕方がないよなぁと思わせられる致命的な欠点が2つあります。
まず一つ目は、ものすごく人物描写が浅い点。主役のウィリアム、リン将軍を含め、各人物の描き方がものすごく浅くて、感情移入できずにラストシーンを迎えてしまいます。強引にでもラブシーンがあればまだ良かったのかもしれませんが、ウィリアムとリンは別れ際に握手やハグすらしないという・・・。
本作は「信任」(シンレン)というキーワードで、人種や立場の壁を超え、仲間を信じて戦う尊さを描かれるはずでした(多分)。マット・デイモン演じるウィリアムが徐々に中国軍の「義」に生きる兵士たちを見て、彼らに感化されて戦いに身を投じていく心情の変化が見どころ・・・のはずなんですが、脚本が悪いのか全くウィリアムの心情が見えてきません。
最初に投獄され、一瞬だけ出され、また投獄され、リン将軍からも適当に扱われ、とても「信任」されているように思えないのに、なぜ最後にウィリアムが自ら積極的に勝ち目のなさそうな饕餮との戦いに参加できるのか・・・。むしろ、逃げ出したバラードやトバールの方が自然な反応だったのではと感じます。
事前に出版されているノベライズ版では各人物の背景や心情が細かく描写されていることから、本来は人物設定はちゃんと定義されていたと思われるだけに、映像にするとなぜこんなに薄口になってしまったのかと不思議でなりません。
さらに、沢山用意された設定や伏線が、ほとんど回収されずに大味な終わり方をしている点も気になりました。ストーリーにロジックが欠如しているのですよね。
例えば、このあたり。
・なぜ60年周期で饕餮が人間を襲ってくるのか?
・なぜ女性だけの「鶴」軍が存在しているのか?
・黒色火薬(ダイナマイト)がなぜ門外不出の武器なのか?
・なぜ捕まえた危険な饕餮を檻に入れて皇帝の所に持っていくのか?
・磁石が有効だとわかったら、なぜ磁石をすぐに大量に用意しないのか?
他にも色々ありますが、いかにファンタジー映画だからといって、映画内で提示した伏線や仕掛けくらい映画内できっちりと説明できるようにしておいてほしいものです・・・。(ノベライズでは上記のうち幾つかは回収されています)
4-5.もっと「饕餮」(とうてつ)にフィーチャーした内容にすべきだったのでは?
本作は、現在「キングコングー髑髏島の巨神」が大ヒット中のレジェンダリー・ピクチャーズによって製作されています。同スタジオがこれまで培ったノウハウが凝縮された新たな怪物「饕餮」の描写は非常に秀逸です。
迫力ある饕餮の描写はさすが!
進化し、初歩的な知性を備えた饕餮が暴れまわり、それに対抗する人間側が長城で様々な武器、仕掛けを使い知恵を絞って化物と戦うシーンは、さすが怪獣映画を得意とするレジェンダリー・ピクチャーズです。
にも関わらず、映画全編を通じて非常に「饕餮」の扱いが小さく、調べても詳細が良くわからないんですよね。チラシやパンフレット、予告動画でも、「悪役」である饕餮の姿がほとんど描かれず、代わって詳細に描かれたのは映画本編でほとんどモブキャラ同然だった熊・鹿・虎・鷲の各隊の隊長達。
せめてパンフレットで映画内で出現した3種類の饕餮の設定資料や紹介記事があってもよかったんじゃないでしょうか?割り切って、もっと怪獣「饕餮」を全面に出してフィーチャーしていけば、まだ映画として個性も出たかもしれないのに、プロモーション面でもチグハグな感じを受けました。
5.伏線や設定などの考察・解説(※ネタバレ注)
5-1.饕餮とはどんな怪獣なのか?その種類は?
饕餮(とうてつ)とは、紀元前4世紀から3世紀に書かれたとされる、実在の古代中国の「山海経」(せんがいきょう)という書物等に登場する、中国の神話上の怪物です。饕餮の「饕」は財産を貪る、「餮」は食物を貪る、という意味で、全てを食い尽くしていく食欲の怪獣とされ、殷周時代の高価な青銅器では、魔除けとしてその獣の紋様「饕餮文」が彫られました。
東京国立博物館「饕餮文瓿」(とうてつもんほう)
紀元前13C~11C頃
以下は、ノベライズ版での背景説明の要約になりますが、饕餮は、2000年ほど前、周王が欲の限りを尽くし、周王朝に退廃と堕落をもたらした時に現れました。夜空を流れた巨大な隕石が、鉤吾山に落ちた時、山が緑色に変色し、そこから饕餮が生まれ出てきました。
緑色に光る鉤吾山
饕餮は60年に1回、8日間に渡って鉤吾山から人間の住む都市へと大挙して襲来するようになり、中国人の祖先たちは、万里の長城を造成して防ぐようになりました。映画内では、有史以来31回目の襲撃とされ、過去1800年あまり、当事者たちは事実を伏せて「神話」として、諸外国には秘密にすることでこれまで政情・人心を安定させてきたのです。
饕餮は、ただ単にやってきてなんでも「食べ尽くし」ます。人間でも死体でも共食いでもする化物なのです。饕餮の種類は、3種類に分かれます。一つはまず女王饕餮。そしてそれを守る親衛隊として、体の大きな護衛饕餮。さらに、何万頭もの兵隊饕餮です。女王饕餮が産卵、生殖するためには、とてつもない食料が必要とされるため、兵隊饕餮が一度腹に収めた食料を、女王饕餮の前で吐き戻してそれを女王饕餮が吸収する仕組みになっているのです。
だから、最後に肉をたらふく食わせた饕餮をダイナマイト付きで放し、女王のところへ戻った饕餮を火矢で爆破することで、女王饕餮を殺す、という作戦が有効だったのですね。
5-2.なぜ饕餮は磁石に弱いのか?
饕餮は、犬やオオカミのように、人間には聞こえない音を聞き取ることができます。女王饕餮は、人間には聞こえない音で兵隊饕餮への司令を行き渡らせますが、(伝播みたいな交信をするシーンが何箇所かありました)磁石は、女王饕餮からの指示を聞こえなくしてしまう効果があるのです。
女王饕餮からの指示が一度なくなると、彼らは一切動きを停めてしまう習性があるのです。映画クライマックスでも、女王が倒されて指示がなくなったため、他の饕餮は動きを一斉に停止したのです。
このあたりの大事なロジックが、映画内ではほとんど説明がなかったので、最後に饕餮がご都合主義的に全頭動きを停止して主人公たちが助かる・・・という流れが嘘くさく見えるんですよね。
5-3.なぜ捕まえた饕餮を皇帝の元へ連れて行ったのか?
直接的な理由は、饕餮を捕まえたら目の前に連れてこい、と命じた皇帝の勅命です。軍師ワンは、首都抃梁にいる皇帝直属の評議会と折り合いが悪く、評議会は勅使(兼密偵役)としてシェンを万里の長城に送り込んでいました。
また、シェンはシェンで中央での権力争いが念頭にあったため、饕餮を捕まえたら、勅命を盾に強引に饕餮を抃梁へと持ち帰り、皇帝にアピールすることで頭が一杯なのでした。このあたりの描写は、全てノベライズ版を読むとわかります。
6.まとめ
大河ロマンものとして人間描写に徹するわけでもなく、かといって怪獣映画としてアクション全開にして割り切るわけでもなく、どうにも消化不良感が残った映画ではありましたが、それでも美術の作り込み、饕餮のキャラデザイン、迫力ある万里の長城、壮大な人数を集めたエキストラなど、大作映画としての見どころはちゃんとありました。
米中合作でのシナジー効果は残念ながら感じられませんでしたが、ここは是非北西部隊へと移動したリン将軍と饕餮のバトルを描く続編でリベンジしてもらいたいと思います!
それではまた。
かるび
7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
ノベライズ版「グレートウォール」
大味でともするとB級映画的な適当な人物表現やご都合的なストーリーに見えてしまう映画に比べると、シナリオはそのままにして、しっかり内容がまとまったノベライズ。感覚的には、ノベライズ >>>>>>> 映画 という感じです(笑)
各人物の心情描写や伏線、設定の詳細な説明まで、「小説」という媒体の特性がきちんと生かされたきちんとしたノベライズでした。映画でもう一つ乗り切れなかった人は、こちらと合わせて楽しむと世界観が良く理解できて、消化不良が解消できますよ!
チャン・イーモウ監督作品、マット・デイモン主演映画は、まとめてU-NEXTで!
上記でオススメした関連作品以外にも、チャン・イーモウ監督作品や、マット・デイモン主演作品を一気に楽しむには、ビデオ・オンデマンドが一番時間をお金を節約できるベストなサービスだと思います。最近、手放せない頼もしいVODサービスになりつつあります。
現在、僕はU-NEXT、Hulu、AmazonPrime、TSUTAYAとオンデマンドサービスに4社加入しているのですが、特にマット・デイモン出演作品はU-NEXTが一番品ぞろえが良く、オトクでした。
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