【2018年3月2日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。
6月3日にリリースされた、時代劇映画の新作「花戦さ」を見てきました。初代池坊専好と千利休の交流を軸に、華道・茶道・日本画など、戦国~安土桃山時代の「日本文化」に焦点を当てた異色の戦国エンターテイメント作品です。
「のぼうの城」以来、戦国時代作品では約5年ぶりの主役となる野村萬斎を筆頭に、豪華ベテランキャスト勢を揃えた、力の入った作品でした。やっぱり野村萬斎はこういう伝統文化の香りがただよう配役がフィットしますね。期待通りの楽しい作品に仕上がっていました!
早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、ほぼ全編にわたってストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が含まれますので、何卒ご了承下さい。
- 1.映画「花戦さ」の基本情報
- 2.映画「花いくさ」の 登場人物と豪華キャスト陣!
- 3.結末までの簡単なあらすじ紹介
- 4.映画「花戦さ」のみどころ、感想・評価など
- 5.映画「花戦さ」の7つの疑問点~伏線や設定を徹底考察!~
- 6.まとめ
- 7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
1.映画「花戦さ」の基本情報
<「花戦さ」予告動画>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします
【監督】篠原哲雄(「起終点駅ターミナル」他)
【配給】東映
【時間】127分
【原作】鬼塚忠「花戦さ」
脚本に「女城主 直虎」の森下桂子、音楽に大御所の久石譲を起用し、ゴージャスなベテラン俳優陣を揃えた本格的な時代劇映画となりました。にも関わらず、Twitterフォロワー数や予告動画再生回数はかなり寂しいものがあり、事前の認知度はかなり低め。
そのためか、公開直前になって、特別映像として約7分間の予告ロングバージョンも公開されました。これを見て予習しておけば、バッチリですね。
<「花戦さ」特別ロングバージョン予告>
※下記画像をクリックすると動画がスタートします
2.映画「花いくさ」の 登場人物と豪華キャスト陣!
「殺陣」や「合戦』シーンが全くない、異色の時代劇エンタテイメント作品としては、異例とも言うべき豪華キャストが集結。時代劇の経験豊富なベテラン勢の共演が楽しめる充実の陣容となりました。
池坊専好(野村萬斎)
「のぼうの城」「スキャナー」、そして本作「花戦さ」など、ここ数作は風変わりで個性的なキャラクターでの映画主演が続いています。本作では篠原監督が語るように、意識的に引きの映像を減らし、ひたすら野村萬斎の変幻自在な「顔芸」をアップで楽しめるように撮影されています。
豊臣秀吉(市川猿之助)
芸名の通り「猿」こと悪役としての豊臣秀吉を熱演。むしろ公家的で上品すぎる顔立ちが合ってないというネットでの意見もありましたが、晩年の暴走した傍若無人な振る舞いはよく表現できていたと思います。
千利休(佐藤浩市)
1989年公開映画「利休」で、かつて、実父・三國連太郎も演じた「千利休」。年齢を重ねて白髪が目立ち始め、往年の三國連太郎に雰囲気が似てきましたね。また、野村萬斎との共演は2012年「のぼうの城」以来で、息もぴったりあっていました。
前田利家(佐々木蔵之介)
2017年は「3月のライオン」「美しい星」「破門」と、立て続けに4本公開されて充実一途。時代劇は「大奥」や「超高速!参勤交代」に続いて3度目の出演となりました。物分りの良い温厚な利家を好演していましたね。
吉右衛門(高橋克実)
町衆をとりまとめる町人の世話役で、専好の幼馴染として抜擢されました。時代劇出演は念願だったそうです。ちなみに、劇中で髪の毛がなかったのは「地頭」だったようですね(笑)
石田三成(吉田栄作)
今作では冷徹で野心家な「悪い」石田三成像が描かれました。町人の様子を密偵して、聞かれもしないのに事ある度に秀吉に密告するという・・・(笑)岡田准一主演で8月公開される「関ヶ原」では、不器用な悩める大将として描かれることもあり、作品によってテイストが一貫しないキャラですね。
織田信長(中井貴一)
序盤でちょっとしか出番がないのに、ゴージャスに起用されました。(無駄遣い?)中井貴一は、大河ドラマ「武田信玄」の主演他、過去作で何度も時代劇ヒーローを演じていますが、「信長」役は初めてだったようです。
れん(森川葵)
原作にはないオリジナルキャラクター。2015年頃にブレイクして以来、年間5作程度のコンスタントな映画出演が続いていますが、2017年秋は「先生!」「恋と嘘」など、いわゆる青春恋愛映画の主役級で起用されます。今作ではかなり登場人物の平均年齢が高い中、唯一の若手俳優でした(笑)
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3.結末までの簡単なあらすじ紹介
専好、信長のために花を立てる
1573年。応仁の乱以来、100年にわたって続いた戦乱の影響で、京の都は荒れ果て、人々の暮らしは疲弊していた。都の西方に位置する頂宝寺六角堂では、執行(※住職)池坊専栄の下、池坊専好は僧侶として花の修行に勤しむ毎日だった。専好は、毎日のように鴨川沿いに行き倒れた人に花を手向け、祈りを捧げることを日課にしていた。
ちょうど、尾張の織田信長から岐阜城で「花を立ててほしい」と依頼された専栄は、専好とその弟弟子、専武をを岐阜城にいる信長のもとに派遣した。
専好は、信長の天下統一に向けた武運を祈念して、「昇り龍」というテーマで松を中心に据えた大砂物を見事作り上げた。その制作風景は、当時既に織田信長の下で「茶頭」を務めていた千利休にも印象的なものだった。
生け花が完成し、いよいよ信長の前で披露することになった。背後の屏風絵と重なった絶妙の構図、荒々しい松の様子に信長は見事!と褒め称えるのだった。その時だった。信長が扇子を鳴らした途端、左側の松が、根本から折れてしまったのだ。
全員が顔面蒼白になる中、必死で配下の羽柴秀吉がフォローして、その場は何とか丸く収まるのだった。信長は、より一層専好に華道に励むよう激励しつつ、褒美として六角堂へ多数の進物を寄進してその期待の大きさを形で示した。
千利休とはじめての茶会
それから12年後の天正13年。信長が本能寺に倒れた後、天下は豊臣秀吉のものとなった。戦乱の時代が終わり、活気を取り戻した京の都において、専好は相変わらず六角堂で生け花と向き合う毎日だった。
先代の池坊専栄から、正式に「執行」の地位を受け継ぎ、若干窮屈な思いもあった専好だったが、以前にも増して町人達に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。
彼の意外な情報源は、六角堂によく遊びに来る近所の町人の子供、季(とき)だった。何か街で変わったことがあると、季がいつも教えてくれるのだ。
ある日、専好が細川家で生け花を奉納した帰りに立ち寄った河原で、いつものように行き倒れた死人を弔っていたら、一人の少女が河原に行き倒れていることに気づいた。花を手向け、読経を始めた時、その少女はピクリと動いた。生きていたのだ。
急ぎ少女を自宅に連れ帰り介抱したが、なかなかその少女は口を聞こうとしない。専好が少女と打ち解けるために蓮の花を持ち帰ると、少女は猛然と襖に水墨画を描き始めた。見事な腕前だった。
別の日、専好は山へ生け花用の花を探しに少女を連れて行った。その道中、少女が毒のある黄色い花を摘もうとしたので、専好は慌てて「その花は3つ食べると死んでしまう。触らない方が良い」と注意した。結局、専好は、その少女を「れん」と名付け、懇意にしている浄椿尼が住職を務める尼寺へと預けることにした。
それからしばらくしたある日、千利休が六角堂の専好を訪ねてきた。10年以上前に岐阜城で会って以来だったので、すっかり専好は利休のことを忘れていた。その頃、利休はすでに秀吉の茶頭として京で絶大な権威のある文化人として有名だった。付き合いの深い町人、吉右衛門が利休の凄さを説明したが、花以外のことには疎い専好は、ポカーンとしていた。
別の日、専好は利休の招きに応じて彼の草庵へ訪ねていった。見事な朝顔が咲き誇った門をくぐり、茶室へと入ると、そこには利休の目指した「わび茶」の世界が広がっていた。専好は利休の茶を頂くと、「執行」になって以来、張り詰めていた緊張が解けて、利休の前で泣いて弱音を吐くのだった。
利休の草庵から帰ると、早速専好の作風に変化が現れた。より大胆に、独創的な生け花を作り出すようになったのだ。再び六角堂を訪ねた利休もまた、専好の生け花に触発され、さらに自らの「侘び茶」の精神を極めていった。しかし、それは却って金ピカ趣味な秀吉を怒らせる結果にもなった。利休は、秀吉の茶の湯は好きではなかったが、秀吉から「金の茶室」の製作を命じられると、しぶしぶ引き受けるのだった。
北野大茶会
それから2年後。尼寺に預けていたれんが突然いなくなったと浄椿尼から連絡があった。れんの腕前を見込んだ三条家から、彼女を御用絵師として召し抱えたいと声がかかったことを嫌がって、家を出たのだ。
その日、専好はちょうど訪問してきた利休から、ある依頼を受けた。北野大茶会という、近々秀吉が開催する、町人も自由に参加できる野点(のだて)のイベントで、利休のために花を活けてほしいという。
快諾した専好は、早速準備のため山で花を摘みに行ったが、その時に偶然見つけた洞穴の中に、れんが隠れていた。専好は、れんになぜ出奔したのかその理由を聞いたが、それはれんの出生の秘密に関わるものだった。れんは天才絵師の父「むじんさい」(漢字名称不明)の実の娘だったが、父、「むじんさい」が秀吉の逆鱗に触れて処刑されてから、れん自身も身を隠す必要があったのだ。
専好は、れんの意向を汲んで、彼女のために山中の空き家を確保し、そこに住まわせることにした。
北野大茶会の日がやってきた。その日は、秀吉本人が金の茶室で町民たちにも茶を振る舞ったが、人々の人気は、専好が立てた華麗な生け花をバックに、気さくに振る舞う利休に集中した。これを見て、面白くなかった秀吉は、翌日以降の大茶会を急遽中止にしたのだった。
茶会が終わり、人がいなくなった夕暮れに吉右衛門と専好、利休の3人で野点を楽しんだ専好は、なぜ利休は黒茶碗を使うのか聞いてみた。利休は、金色も赤も緑も黒も全部好きだが、今は「懐が深い」から、黒が一番好きだと笑って答えた。
翌日、利休は秀吉の茶室に招かれたが、秀吉の嫌いな「黒茶碗」を使ったことを咎められ、利休は秀吉から足蹴にされる屈辱的な扱いを受けた。利休と秀吉の間柄は急速に冷え込んでいった。
利休の自害
それから3年後。秀吉は天下を手中に収め、今や彼に真正面から意見を言える人間は誰もいなかった。秀吉は、ますます傲慢になっていった。
ある日、大徳寺の門をくぐる際に、新たに大徳寺が設置した門上の千利休像に気づいた秀吉側近の石田三成は、秀吉に「不敬」であると告げ口した。利休は、秀吉から詫びを入れるよう命じたが、利休は決して謝ろうとしなかった。大徳寺の像は、利休の預かり知らぬところで彼らが勝手に設置したものだからだ。
北野大茶会で専好と知り合いになっていた前田利家は、利休と秀吉の間を仲介し、何とか彼らの亀裂を元に戻そうと必死だった。利家は、秀吉に決して詫びを入れようとしない利休の説得を専好に託した。
専好は、アポなしで利休を訪ねたが、利休は快く迎えてくれた。茶を立てながら、専好は利休を必死で説得した。しかし、時既に遅く、利休には切腹が命じられた後だった。利休は、形見として専好に愛用の「黒茶碗」を託したのだった。
そして、利休は専好の活けた梅の花を最後に愛でて、切腹して果てた。利休の死体は、鴨川の三条河原に晒された。
かけがえのない友人を失った専好は、精神的なダメージからしばらく生け花を立てられない日々が続いていた。見かねた吉右衛門は、利休の四十九日法要に合わせ、六角堂周辺の町民から花を集めさせた。
また、どこからともなくれんが現れ、満開の梅がついた枝を六角堂に届けに来た。すこし時期外れだったが、れんが山中を必死に探しあてた1本だった。そんなれんの様子を、遠目からじっと見ていた石田三成だった。
そして、皆が見ている中、専好は町民たちと一緒に利休の四十九日法要を執り行い、六角堂の境内を花で埋め尽くした。
聚楽第に帰った三成は、池坊専好が千利休の四十九日法要を手厚く行ったことや、秀吉が以前処罰した絵師の娘が六角堂に匿われていることを報告した。しかし、秀吉は不機嫌そうに「利休のことは捨て置け!」と吐き捨てた。
専好、秀吉と対決する
それから半年後、天正19年。専好の回りには平穏な日々が戻ってきていたが、秀吉の息子、鶴松が2歳で夭逝したことが京の街中で噂になっていた。利休の呪いが囁かれ、町中には秀吉を揶揄する落首も現れた。秀吉は、「おのれ利休!」と憤っていた。
秀吉は、利休が生前仲良くしていた専好についても、北野大茶会で恥をかかされたことを根に持っており、良い感情を抱いていなかった。鶴松の死をきっかけに、秀吉は専好の周囲の人間を捕らえはじめた。
落首を置いた咎でトメ吉が、秀吉の悪口を言った罪で、季までもが理不尽な理由で打ち首にされた。そして、急に不穏になった周囲を探ろうとした吉右衛門も捕らえられ、打ち首となった。さらに、隠れ家にいたれんも見つかり、投獄されてしまった。れんは、隠し持っていた毒薬を飲んで、まもなく自害した。
あまりの仕打ちに、専好は覚悟を決め、秀吉と直接「生け花」を通じて対決し、死を賭して抗議する決意を固めた。専好は、近日中に秀吉が前田利家の邸宅を訪問する情報をつかむと、利家に直訴し、花を奉納させてもらう約束を取り付けた。
専好は、弟子たちを前に「これは花の戦や」と意気込んだ。専好は、弟子たちを連れて松の大砂物を完成させると、最後は自分自身で仕上げた。
そして、いよいよ秀吉が前田家の大広間にやってきた。秀吉は、見事な生け花に目を奪われていたが、専好が生け花の後方壁際に「猿」の絵を開き、利休の形見「黒茶碗」を取り出すと、秀吉の表情は怒りに変わった。
しかし、専好は一歩も引かず、生け花を通して「美の形は一つだけではない。人それぞれの多様な解釈を認めるべきである」と秀吉をいさめるのだった。いつもなら即刻斬り捨てるところだったが、秀吉は専好の前に座り込み、涙を流して自らの過ちを認めたのだった。と、その時、大砂物の左の枝が根本から折れてしまうアクシデントに見舞われた。専好は、倒れないように自ら大木の下で支えになった。その様子は非常におかしく、場の雰囲気は一気になごみ、笑いに包まれたのだった。
秀吉との対決が終わると、今度こそ六角堂と専好に平穏な日々がやってきた。その日も専好は河原で見知らぬ亡骸を丁寧に葬っていたが、ふとれんのことを思い出した専好は、れんの弔いも行おうとした。
紫の花を挿して一心不乱に祈っていた専好だが、次の瞬間、花はいつぞやのことか、れんに「毒花」だと教えた黄色い花に変わっていた。
ふと後ろを見るとれんが微笑んで立っていた。れんは、実際に投獄されたけれど、その後仮死状態で事件を迎え、その後なんとか脱獄して帰ることができたのだという。
二人は、久々に一緒に鴨川をいつまでも見つめているのだった。
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4.映画「花戦さ」のみどころ、感想・評価など
画期的!戦わない戦国時代劇エンタテイメントだった!
池坊専好の「剣」は一輪の生け花!!
戦国時代モノ時代劇と言えば、やっぱり派手な合戦や国盗り物語が中心になりますよね。最近はあらかたメジャーな戦国大名ものはやり尽くされて、よりマイナーな地方大名に焦点を当てたり、忍者・海賊といったアウトローな集団を取り上げたりする作品が増えている印象。
そんな中、メジャー配給の邦画では恐らく初めてとなる「華道」をテーマとして取り上げた作品が登場しました。リアルな戦闘描写が売りでもなく、権謀術数を使った政治モノでもなく、「いけ花」という芸術作品の持つ力で権力者と対決するというシナリオは、非常に画期的で新しかったと思います。
野村萬斎の多彩な表情はみごたえ十分!
過去作「のぼうの城」や「スキャナー」など、ここ数作は、奇人・変人系の主役を演じる事が多い野村萬斎ですが、今作で主役を務めた池坊専好も、やはり(どちらかと言えば)エキセントリックな人物像。
特に、ずーっとアップで撮られた野村萬斎のくるくる替わる表情は見どころ満載。ネットでは評価が分かれているようですが、僕は肯定派です。狂言師として鍛えた見事な「顔芸」が発揮されていましたね。
ただ、若干やりすぎな表情もあったりして、たまに「美川憲一のモノマネをしているコロッケ」に見えるシーンもちらほら(苦笑)野村萬斎のクセだと思うのですが、彼の演技って、大きく表情を変える時、すこしタメがあるんですよね。(今から表情変えるぞ!、、みたいな)その時の所作や雰囲気が、どことなくコロッケに似てるんですよね~。
茶道・華道・日本画と、日本文化の豊かさを実感できる映画!
エンドロールでこれでもか!といわんばかりに「池坊」派の生け花関係者のクレジットが続く通り、映画内で用意された花は、全て「池坊」のプロ達が用意した秀作ばかり。
特に、信長と秀吉のために活けた「大砂物」の制作シーンは、目からウロコでした。巨大な枝は工作のようにジョイント部分を丁寧に作られていたり、まるでアートの工房のように弟子たちと数名がかりで作品につきっきりになっていたりと、みどころ満載。
また、茶道でも、全部作り物ではありましたが、「金の茶室」や「黒楽茶碗」、利休の「草庵」など、極力史実に沿った形で忠実に再現されていました。
さらに、驚きだったのはれんがプロの絵師だったという設定。
劇中で、れんが屏風や洞窟に描いた前衛的な作品は、小松美羽というプロの現代日本画家が製作しています。若干32才の若手芸術家ですが、独特のパワーを持った前衛的な日本画を描く作家です。
(小松美羽オフィシャルHPより)
特に、あの屏風絵はワケあり隠遁生活で溜め込んだエネルギーが、作品に一気に注ぎ込まれたようなパワフルなアート作品になっていましたね。蓮の花の本質を大胆に切り取って、素早い筆さばきの気迫満点な作品でした。個展で飾ってくれたら一度見てみたい!
れんが襖に描いた蓮の水墨画(小松美羽)
(映画パンフレットより)
また、秀吉の前で大砂物の背景として使用した猿の日本画は、同時代の天才絵師、長谷川等伯を模した作品でしたね。(長谷川等伯より明らかにヘタだったけど・・・/笑)画面を見ながら「おお!等伯キター!」と一人ニヤニヤしてしまいました(笑)
実際に、ちょっと見比べてみましょう。
映画で使われた猿の水墨画
(映画「花戦さ」オフィシャルブックより)
長谷川等伯「枯木猿猴図」(一部)
(京都国立博物館HPより)
どうでしょうか?結構似てませんか?戦国末期~桃山時代の作家で、他には海北友松、狩野永徳なども同じようなモチーフがありますが、長谷川等伯が一番似ていると思います!
芸術作品で権力者に戦いを挑むアーティストのかっこよさ
物語終盤で、専好の周囲が次々と殺されていったのは、直接的には秀吉の嫉妬心によるものではありますが、政治的には政権安定化のため「不満分子」を事前に摘み取るという意味合いもあったと思われます。
古今東西、世界の権力者達はこうした芸術家達の持つ潜在的な「パワー」を恐れ、たびたび言論や表現の自由に制限をかけますが、これに対してギリギリのところで戦いを挑むアーティストはやっぱりかっこいいですね。
暴力には暴力で対抗するのではなく、あくまで自らが信じる「花」の持つ力を信じて、秀吉に強力なメッセージを送りたいという強い決意は心打たれました。時に芸術の力は、数十万人の軍隊の力にも匹敵するパワーがあるという好例でしたね。 ラストは溜飲の下がる展開でした。
5.映画「花戦さ」の7つの疑問点~伏線や設定を徹底考察!~
映画の設定や伏線の中で、ややわかりにくいポイントがいくつかありました。以下、7つの疑問点に絞って考察・解説してみたいと思います。
疑問点1:なぜ池坊専好は人の名前を覚えられなかったのか?
史実では実際にそうだったかはもちろんわかりませんが、本作のシナリオライター、森下桂子氏によると、「専好は、華道のことで頭が一杯で、花の名前は完璧に覚えられる分、花以外の全ての物事については頭に入ってくる余地がない」というキャラクターとして描かれています。つまり、早い話が重度の「花オタク」だったという設定ですね。ユニークなキャラ設定が光りました。
疑問点2:れんの父「むじんさい」とは一体誰だったのか?
公式ガイドやパンフレットに一切言及はありませんが、ストーリー後半で秀吉や三成が口にしていた「むじんさい」(漢字不明)という高名な絵師の子供だったと思われます。「むじんさい」は生前、秀吉の命を受けて一連の猿をモチーフとした水墨画を制作しましたが、それを見た豊臣秀吉が激怒し、「むじんさい」を殺害しました。
なお、「むじんさい」とはもちろん架空の映画内オリジナルキャラですが、ラストシーンで描かれた猿の水墨画の作風から考えると、戦国時代末期~安土桃山時代に大活躍した天才絵師、長谷川等伯をモデルにしていると思われます。(ですが、調べた限り等伯の娘が実際に絵師として活躍したという記録はありません。)
疑問点3:れんはなぜ鴨川で行き倒れていたのか?また、浄椿尼の尼寺から逃げ出したのか?
上記の通り、実父「むじんさい」が罪人となったことから、自らも命を狙われ、逃亡生活をするうちに鴨川で行き倒れてしまったのでしょう。だから、浄椿尼の元で暮らす中で、貴族の御用絵師への口があっても、自らの出自がバレてしまう恐れがあったため、逃げるしかなかったのでしょう。
疑問点4:北野大茶会はなぜ2日目から中止になったのか?
当初、秀吉が北野天満宮で開催した大茶会は、10日間連続で開かれる予定でした。しかし、その初日、「千利休の人気ぶりに嫉妬」した秀吉は、きまぐれに2日目以降の予定を中止してしまいます。
実は、実際の史実上でも、1583年の北野大茶会は2日目以降中止になっているのです。これには、もちろん秀吉の癇癪・気まぐれ説もありますが、開催したもののあまり盛り上がらなかった為、だらだら続けることは却って秀吉の権威を落としかねないので、政治的な判断から2日目以降がキャンセルされたという説もあります。
疑問点5:千利休はなぜ黒茶碗を好んで使ったのか?この茶碗は誰が作ったのか?
利休は、1580年代後半から、独自の美的感覚に基づいた「わび茶」を完成させていきます。静謐さや質素さを第一とした草庵の中で、わび茶の感覚に合う茶碗は「黒茶碗」であると考え至りました。そこで、当時、京で名高い陶芸家だった楽焼の創始者、「長次郎」と、納得が行くまで「黒楽茶碗」を製作しました。
初代長次郎 黒楽茶碗 銘『大黒』
(東京国立近代美術館 オフィシャルHPより)
長次郎の制作した黒楽茶碗は、現代でも数点良好な状態で残されていますが、今ではその歴史的・芸術的な価値から、値段がつかないくらい貴重な品とされています。
本作では、豪快に秀吉が投げ捨てるシーンもあって(笑)、もちろん模造品が使われています。しかし、2013年に上映された市川海老蔵主演の映画「利休にたずねよ」では、映画内で実際に長次郎の450年前の本物の黒楽茶碗(重要文化財)が使われたこともあります。
疑問点6:なぜ前田利家が利休と秀吉の間を仲介したのか?
前田利家は、織田家に仕え始めた尾張の足軽時代からの秀吉の盟友であり、かつ千利休の「利休七哲」と言われた高弟でもありました。また、彼は温和な性格としても知られていました。利休と秀吉の間を取り持つのは、彼が一番の適任であったのは間違いないですね。
疑問点7:そもそも「花戦さ」とは、実際にあった実話だったのか?
専好と利休の間に交流があったかどうか、という点は、直接の資料は残っていないものの、その関係は非常に密接だったという説があります。専好は利休の「わび茶」の精神性を自らの立花に活かす一方、利休は花を専好に習っており、彼らは互いの専門分野を学び合い、自らの芸術性を高めていったとされます。
また、専好が前田家に出入りして、専好の披露した大作を秀吉が見た、という記録は、「文禄三年前田亭御成記」という書物に残っています。作品についても「池坊一代之出来物」と激賞されていることから、素晴らしい出来だったようですね。ただし、専好が秀吉に対して利休の仇討ちとして”花戦さ”を仕掛けたかどうかまでは、記録からは読み取れません。(少なくとも専好は秀吉に殺されてはいないのは確か)
6.まとめ
「芸術の力」を信じ、時の絶対的権力者と「花」一本でわたりあうという、異色の戦国時代劇ストーリーは、そのテーマも斬新で面白かったし、日本固有の芸術・文化を知るきっかけにもなる、知的エンタテイメントでもありました。野村萬斎の演技や豪華な顔ぶれの俳優陣も良かったです。是非映画館でチェックしてみてくださいね。
それではまた。
かるび
7.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など
映画DVD「花戦さ」が発売中!
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原作小説「花戦さ」
鬼塚忠による原作小説。微妙に映画版と登場人物の設定やストーリーが違いますが、一番の違いは、専好のキャラクターの違いかもしれません。小説版のほうがより野心的で上昇志向の強いキャラクターとして描かれています。若き専好が清州城で利休と最初に出会った時、その若さゆえに生け花作品を通してにじみ出た「功名心」を見事に見透かされてしまうシーンが個人的には気に入っています。
映画「花戦さ」オフィシャルブック
映画パンフレットより、さらに内容を掘り下げて総力特集したオフィシャルブック。映画館でパンフレットを購入するなら、こちらを先に購入しても良いかもしれません。主要キャストや製作者へのインタビュー、ロケ地紹介、茶道や華道の歴史、映画内で使用した小道具や生け花など、多彩なコンテンツが楽しめます。
別冊歴史REAL池坊専好
池坊専好の生涯や、生け花の歴史など、歴史的な観点から特集した1冊。古代から続く華道家元池坊の歴史とともに、初代池坊専好の事績・生涯を詳細に解説。歴史と伝統に裏打ちされた「いけばな」の哲学から、映画『花戦さ』の見どころ徹底紹介まで、充実の一冊です。オススメ!