あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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池上彰って過小評価されてない?教養を身につけるなら外せないと思う。

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(引用:http://honvieew.com/business/1613

【2016年12月31日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

ここのところ、「読書」に力を入れています。

人生80年として考えると、今ちょうど自分は41歳。人生の折り返し点です。2016年~2017年にかけては自分の後半生の血肉になって世界を広げてくれるような知識や教養を一杯身につけたい。そのために、いろんなジャンルの本を読んでいきたいなと思っています。

そこで、今年の3月頃から、1日1冊を目標に、知識・教養を補強するため、あらゆるジャンルの本をとりあえず乱読・多読することに決めました。小説やエッセイからノンフィクション、人文・社会科学系から自然科学系まで、古典・新刊を問わず、目についたものを片っ端から試しています。

特に、高校時代で選択必修の際に選ばなかった「世界史」やそれに続く「現代史・時事ニュース」については、非常に知識が弱く、このあたりは入門書から入っています。

で、どのあたりから入ろうかなーと思っていた所、見つけたのが「池上彰」の一連の書籍。図書館に行っても、古本屋の100円コーナーにも大量に転がっています。

その膨大な流通量の割には、HONZなどの書評サイトではあまりレビューされてなくて、きっと適当な本を粗製濫造してるんだろうな、と思って最初はスルーしていました。というか、最初見た時アナウンサー上がりの芸能人だと思ってた(笑)

でも、世の中に大量に出回っているということは、必ず売れている理由があるということです。きっと何かしら良い点があるのだろう、食わず嫌いはよくないな、と思って、思い直して古本屋で何冊か軽い気持ちで買ってみたのですが、これが意外によかったのです。

それ以来、本屋や図書館での試し読み・立ち読みを含め、池上彰の本を20冊ほど固め読みしてみました。著作を読めば読むほど、硬派で、かつユニークな考え方を持った、しっかりしたジャーナリストなのだということが分かりました。何が芸能人だ・・・

ということで、前置きが長くなりましたが、今日はこのエントリで、池上彰の何が凄いのか?書いてみたいと思います。

どんなジャンルの本を書いているのか

池上彰は、元NHKの政治記者で、2005年にNHKを退職して独立。現在はフリージャーナリストとしてテレビ・講演活動・大学教授・著作家とマルチな活躍をしています。池上彰氏の著作をAmazonで調べると、5月1日現在、共著も含めると393冊も出てくるほど、大量の著作を残しています。

主なジャンルは、「近現代史」「時事ニュース」「国際情勢」から「教養論」「コミュニケーション論」「自己啓発」「マスコミ論」など。人文/社会科学系の主要論点であれば、ほぼ百貨店的に全領域で網羅されています。中でも一番得意なのは、ジャーナリストとして長年積み上げてきた膨大な知見が売りである「時事問題」「国際ニュース」「近現代史」といったところでしょう。

逆に、「サブカル系」「科学系」「IT系」「芸術・文化系」には、ちらほら著作はありますが、そこまで明るくない印象です。(ただし、出版されている著作はわかりやすい)いまだにTwitterアカウントや公式ブログを持たない所や、新聞のクリッピングを日課にするなど、デジタル系サービス・機器には疎いところが垣間見えます。仕方ない。歳ですよね。(参考文献:『学び続ける力』

池上彰の本がすごい3つの理由

ここ2週間ほどで、20数冊一気読みしてみて自分が感じた池上彰の凄さは、一言で言うと「自分の知らない分野に入門する際の、信頼感」です。ジャーナリスト・評論家として、新たな分野を学び始める時、この著者の言っていることは信用できるのか?と考えた時に、池上彰の本からは、内側から滲み出る安心感みたいなものが常に醸しだされている。そう感じます。

その安心感はどこから来ているのだろうか?と考えたのですが、その理由は主に以下の3つに集約されると思います。

1.わかりやすく伝える力を極めている

池上彰が評価される一番の理由は、これだと思います。元々、テレビでの時事ニュース解説等で、「わかりやすさ」は評判でしたが、その自身の知見を新書にまとめて書き下ろした2007年の『伝える力』 はベストセラーになりました。

彼の著作の凄いところは、単に情報量を削って物事を安易に単純化しているわけじゃないところです。わかりやすさを優先しながらも、全く未知な状態からその分野へ入門する際の、必要十分なレベルの分析と情報量が確保されている。

本質をつかむまで、徹底的に自身で掘り下げて勉強した上で、長年培ったコミュニケーション技術を応用して、わかりやすい文章へと噛み砕いていく、いわゆる和文和訳的な作業を、極限まで突き詰めています。

一見、簡単そうですが、やってみるとこれが非常に難しいのです。いわゆる、「NAVERまとめ」的な無料媒体の表面的なキュレーション記事なら我々素人ブロガーでもできますが、そういった無料ブログレベルとは、一線を画すクオリティです。

2.徹底した現場主義

1950年生まれの池上氏は、もう60代後半。サラリーマンならとっくに定年を過ぎています。かなりのご老体なのに、今でも必ず年に数回は世界中のニュース現場に出かけていきます。

特に、イラクやリビア、ヨルダン、パレスチナといった中東の紛争地域にも危険を顧みずガツガツ出向いて行き、取材して一次情報を取りに行く姿勢は素晴らしい。実際に、宿泊したリビアのホテルは、その後まもなく、内乱で爆撃されて跡形もなくなったそうです・・・。

現場に行かないと決してわからないであろう、池上彰自身の五感で感じた現場での肌感覚を、著作の中で凝縮して反映することで、わかりやすさにリアル感や凄みが加わり、著作中での言説に説得力を与えているのだと感じます。

安易にネット上などの二次情報でよしとするのではなく、一次情報の取得に余念がない貪欲な姿勢は、場末のブロガーとしても見習わないとなと思っています(笑)

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3.ジャーナリストとしてのプロ意識と日本人的感性

どんなジャンルでも、一流のプロは奢ることなく技芸や知識を貪欲に追求するものですが、業界を代表するジャーナリストとして活躍する彼も、著作『伝える力』

知ったつもりになっても、実は知らないことは、誰しも山ほどあります。謙虚になれば、それが見えてきます。逆にいうと、謙虚にならないと何も見えてこないし、成長も上達もしません。[・・・]三十数年間におよぶジャーナリスト生活を振り返って、一つ明らかにいえるのは、よけいなプライドを持っている人は、「そこまで」だということです。意味のないプライドが邪魔をして、成長できるせっかくのチャンスを自らみすみす逃してしまうのです。

このように書いています。キャリアを積み重ねても、まだまだわからないことは沢山ある、という謙虚な姿勢が非常に共感を呼ぶのです。超多忙な毎日の中、日々の取材の他に毎朝全国紙5紙に目を通し、年間300冊読書するアグレッシブな姿勢はプロそのものですね。

そして、資料や読書に対する姿勢も非常にユニークです。限られた時間の中で、自分自身にぴったりあったフォームを完全に確立し、効率的な情報収集を心がけている。(引用:「僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意」

また、取材する際は、良い意味での日本人としての美徳や、大衆としての目線をベースとして、権力に対して物怖じせずズバッと切り込んでいく、いわばジャーナリストとしての美徳・プライドも著作からはビシビシと感じられ、読んでいて一種の爽快感ももたらしてくれます。

特におすすめの著作を幾つか紹介します

1.「知らないと恥をかく世界の大問題」シリーズ

2009年以来、1年に1冊ずつ上梓されている、定番のベストセラーシリーズです。最新刊は2016年5月10日に「7」が出版されました。世界のリアルタイムでの国際時事ニュースを、極限までわかりやすく解説した本です。教科書的に事実が単に羅列されているわけではなく、近現代史や文化史や経済学的な観点から掘り下げて、ストーリー仕立てでビジュアルも交えた説明もあり、理解を促進する仕掛けが満載。アメリカやアジアだけでなく、ロシア、イスラム圏、アフリカなど、全世界での時事トピックをまんべんなく網羅していますので、これはおすすめ。

ぼくは、図書館で全部借りて、それぞれ1度ずつ読み返しましたが、このシリーズが一番役に立ちました。最新の「7」も発売日に買いましたが、ここ数年の池上氏の勉強成果が反映され、特にイスラム世界やヨーロッパについての分析が非常に充実していました。読み応えは過去6作を上回ります。

前作までコンプリートした読者に対して、コンテンツの重複を避け、前作までの内容を踏まえて最新の分析を提供する姿勢は非常に評価できると思います。

2.「伝える力」シリーズ

いわゆる「自己啓発系」ジャンルでは一番良く出来た本だと思います。ベストセラーとなり、フォロワーとなる類似書もたくさん出版されました。2007年に出版された「伝える力」では、仕事や生活におけるコミュニケーションのあり方や姿勢について、2011年の「伝える力2」ではそれを踏まえたより詳細なコミュニケーション技術について、池上氏の長年のジャーナリストとしての経験からノウハウが語られています。ここでも、やはりキーワードは、「わかりやすさ」でしょう。如何に「わかりやすく」物事を伝えることが大切か、非常に平易な語り口で書かれています。

3.池上彰の「経済学」講義 歴史編/ニュース編

現在、東工大でも講義を受け持つ池上氏ですが、少し前に愛知学院大学でも教壇に立っていました。その愛知学院大学での「経済学」講義15回分を収録・編集した実況中継的な本です。20世紀の終戦直後あたりから日本・世界の現代史を踏まえながら、経済に焦点を当てて解説されています。現代史と経済について二つを一気に学べる、濃い内容の本でした。東工大の講義本よりこちらの方が内容は濃いかなと思います。

さすがに濃い内容なので、かなりの学生が単位を落としたらしい(笑)授業はわかりやすくて、テストも持ち込みオール可なのですが、池上先生の授業は採点は厳しかったそうですね。

4.2017年度のトレンドを「読む」著作

ビジネスで成果を挙げるためには、時代を読み、トレンドの半歩先を行く必要があるとよく言われます。年末年始、いろいろな経済学者やジャーナリストが2017年についての展望をテレビや雑誌で語りますが、ここでも池上彰の著作が非常にバランスよくまとまっており、参考になるのです。

毎年年始に出版されている、2017年度の世界情勢を池上彰がわかり易く解説した本。例年1月中旬にリリースされますが、非常に楽しみ。

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番外編.池上無双

これは、池上氏自身の著作ではないのですが、面白かったので紹介します。

この本は、池上氏が司会を務めるテレビ東京系列の選挙速報番組における、縦横無尽な活躍ぶり、いわゆる”池上無双”について、彼に近い関係者が書き下ろしたドキュメンタリー本です。特に、池上氏の遠慮無く、鋭く切り込んでいく話術巧みな政治家へのインタビューは見ていて本当に痛快ですし、飽きません。

本書は、その過去の「池上無双」で秀逸だったやり取りや、池上氏がなぜここまで選挙特番に力を入れ、そして歯に衣着せぬストレートなインタビューが取れるのか分析を行っています。読み物として、非常に面白い一冊でした。

まとめ

2016年度の夏の参議院選挙、東京都知事選でも、選挙速報番組での「池上無双」はますます冴え渡りました。民放5社の中で、視聴率もトップ独走だったとか。時には政治家を怒らせるくらいズバッと歯切れよく切り込む姿勢は、今回も日本中の視聴者に感嘆の嵐を巻き起こしました。

また、東京都知事選では、小池、増田、鳥越有力3氏の中で、選挙後の池上氏インタビューに応じたのは、小池氏だけで、鳥越氏に至っては、「池上無双」を恐れ、池上氏とのインタビューを明確に拒否して逃げ出すほどでした。

池上彰の本は、書評サイトや、知識人系の書いた「読書推奨本リスト」にはほとんど挙げられることがなく、やや過小評価されているきらいがあります。恐らく、そんな入門書レベルなんて簡単すぎていまさら読まなくても・・・と思われているんでしょう。

物事を難しく語るのは誰でもできます。でも、誰でもわかるよう簡単に説明するのは、一見易しそうに見えて、実は奥が深く修養を必要とするのです。そんなわかりやすく伝えるプロである池上氏の本は、実務的にも、教養を広げるための第一歩としても、幅広く使えるんじゃないかなと思います。

それではまた。
かるび