あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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若冲展は素晴らしかった!混雑必至だけど、最強の大回顧展でした!

【2016年11月29日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

2016年度上半期の美術展で一番盛り上がったのが東京都美術館で企画された「生誕300年記念 若冲展」。伊藤若冲の生誕300年記念を期して開かれた展覧会でした。

若冲展は、他の美術展に比べてマスコミの注目度が半端無くて、会期の1か月前くらいから、テレビや雑誌、それからムック本などの特集本なども沢山刊行されました。にも関わらず、日本美術の企画展の泣き所として、展覧会の会期は4月22日~5月24日までのわずか33日間でした。開催される前から、大混雑するのはわかっていましたが、それでも予想を超えたフィーバーぶりに、連日大変な騒ぎとなりました。

本エントリは、そんな「若冲展」に行ってきた感想レポートとなります。

1、展覧会の混雑度

東京都美術館に到着したのは4月24日(日)11時30分。会期が始まって初の休日となった日曜日でした。いつもの通り東京都美術館の入り口に到達したら、普段は設置していない場外チケット売り場ができていて、チケット売り場が軽く渋滞中。係員がそのそばで、「ただいま20分待ちです~」とアナウンスしています。

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それを見て、うーん、今日は帰ろうか。と気持ちが萎えかけましたが、会期の短さから、これは別の日に行っても後になればなるほど大渋滞するだろ、、、と、気合を入れ直して列の最後尾につきました。

恐らく、今後も金曜日の夕方や土日などは、基本的には入場制限がかかり、数十分程度は並ばされそうです。また、展示も大作の周りには人だかりとなり、結構見づらい雰囲気でした。せめて、時間をずらすか、有休でも取得して平日の午前中に行くのが良いと思います。

★4月27日(水)追記★
平日の午前中で、すでに100分待ちとのこと。どーなってるのこれ・・・。

2、音声ガイドは中谷美紀

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そしてぴったり20分待って、入り口でいつものように音声ガイドをゲット。また歌舞伎役者か古典芸能関係の人かなと思ったら、ガイドは中谷美紀でした。

中谷美紀も、もう気がつけば40代。すっかりハイカルチャーな文化人的女優へと進化したのですね。非常に聴きやすく、落ち着いたガイドは見事でした。

途中、アメリカ人若冲コレクターのプライスさんの記念ショートインタビューも入っています。「This is JYAKUCHU !」とプライスさんが興奮気味に話していたのが印象的でした。是非借りてみてください!

3、伊藤若冲ってところで誰なの

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伊藤若冲(1716-1800)は、主に上方/京都で活躍した江戸時代中期を代表する日本画家です。ほぼ同時期には円山応挙や与謝蕪村がいて、彼らと絵師としての人気を分け合ったと言います。キャリア初期こそ狩野派や宋~明代の中国絵画の影響を受けていましたが、40歳前には動植物を丹念に描きこむ独自のオリジナルな作風を確立します。

若冲の本名は、伊藤文左衛門。京都の錦大路で「桝屋」という青物問屋を代々手掛ける裕福な商店の長男でした。ただし、仕事や人付き合いは苦手で、もっぱらお店や家の切り盛りは家族任せでずーっと引きこもって絵を描いていたようです。

奥さんにも早々と先立たれ、飲む打つ買うは全くやらず、仏教に帰依してひたすら絵画に邁進した人生でした。これ、売れるまでは家族は大変だったろうな~。と思っていたら、澤田瞳子氏の小説「若冲」でも、隠居するまでの前半生では、親族内では変わり者・厄介者として描かれていました(笑)若冲の生涯を描いたこの小説、理解も進むし面白いのでおすすめです。

4、なぜ伊藤若冲が今ブレイクしているのか

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「釈迦三尊像」/若冲展パンフレットより引用)

伊藤若冲は、ゴッホやカラヴァッジョのように、一旦美術界から忘れ去られてから、時間を置いて再評価されてブレイクした画家でした。昭和に入って、その再評価の最初のきっかけとなったのが、日本画評論家の大御所、辻惟雄が1969年に出版した「奇想の系譜 又兵衛-国芳」で若冲研究をスタートしたことでした。ただし、この時はあくまで変わり者、日本美術界での風変わりな「傍流」としての扱いです。

この前後にいくつか散発的に若冲研究が進み、徐々に認知・再評価が進んでいきました。そして、2000年に京都国立博物館で開催された回顧展が、想定の3倍近くの9万人の動員に成功します。ネットの口コミ等で、じわじわ人気が広がり、予想外の人気を博した結果でした。ようやく「見つかった」のですね。「えっ、日本にこんな画家いたの?!」と騒然となりました。

そして、2006年、アメリカの収集家プライスさんの若冲コレクションを里帰りさせて日本中を回った「プライスコレクション展」でその人気がさらに高まります。以来、「若冲」の名を冠する美術展やその作品が紹介される展示会は、どれも好調な動員数を稼いでいます。

若冲没後、約200年ぶりにその人気が再燃した理由は、いくつか挙げられていますが、有力な説としては、桝目描き技法に代表されるデジタルと親和性の高い描画技術と、パソコン上でも拡大鑑賞に耐えうる超緻密な画風が、現在のパソコン文化にフィットしたからではないか?と言われているようです。

5、伊藤若冲の作風って?

日本画の歴史を振り返ってみた時に、若冲の作風は、いわゆる主流派である狩野派とは明らかに違う、当時では前衛的、突然変異的な異端画家だったと言えます。前述の辻惟雄には「奇想の画家」とされ、その意外性とオリジナリティを、こんな感じで表現されています。(多分これ褒め言葉でしょう・・・)

「シュルレアリスムの作品を連想させるような、この驚くべきイメージ」
「ユーモアとグロテスクのカクテルされた、何とも不思議な表情」

5-1、詳細まで描きこまれた緻密な作品たち

大混雑しているのでなかなか近くまで寄って細部までじっくりチェックするチャンスがないかもしれませんが、各作品に近づけば近づくほど、徹底的に描きこまれた超絶技巧とその緻密さに圧倒されます。

中国画等からの模写で作品を完成させることを安易に良しとせず、事物の写生を第一として丁寧に動植物を観察し、微細な所まで手を抜かずに描き切りました。そのマニアックなまでの徹底した几帳面な姿勢は、僕のような絵画の素人からみても一目瞭然。どの作品からも超越したプロ意識と超一流の匠の技を見て取ることができます。すごい、の一言。

5-2、だけど完全に写生に徹したわけではない

その一方で、100%写実に徹しているわけではないんですね。ユニークな動物の表情や、デフォルメまたは強調された動物の姿形からは、完全に事物の外形を正確に再現するというよりは、明らかに絵画としての制作意図が反映されているように感じ取れます。

単なる写生で終わることなく、心の中の内的ビジョンを目の前の動植物の表情や姿形に映し出すことを重んじたことは、ちょうど19世紀終わり頃のフランス印象派や象徴派と共通する感性があるように感じました。

そこには、若冲の、オタク的な強い探究心とユーモア精神が混ざり合った感性のフィルターを通して、きらびやかだけどマニアックで、でもどことなくホッとするような不思議な作風が醸しだされているように思えました。(うーん、このあたりは勉強不足でうまく伝えるための語彙や知識が不足してるんだけど、まぁ絵を見てもらえればわかるって^^;)

6、今回の展示会の見どころ

今回の展示作品は、約80点。多分混雑しているので、全部の作品を落ち着いて見て回ることは難しいと思います。特に、10m以上ある絵巻物などは、後ろからだと何も見えなかった・・・。まぁその辺りは図録で補うかするとしても、絶対に見ておいて欲しい展示があります。

それは、階段を上がった1F(スタートはB1から始まる)の大スペースに円環型に展示された、30編の「動植綵絵」と3編の「釈迦三尊像」。

この動画の52秒位のところから、「動植綵絵」の展示スペースの様子がわかります。展示スペースを上から見ると、こんな感じです。ワンフロア全部使って、部屋全体をぐるっと囲って絵が配置されているわけですね。

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(引用:出品作品リストより)

この合計33編の絵画こそが、現存する若冲の作品群の中では、間違いなくマスターピースとなる作品群だと言えると思います。若冲は、この33編の絵画をなんと10年もかけて完成させています。家業の青物問屋の家督を弟に譲ってしばらく経過した43歳頃から描き始め、51歳になった時に、全て揃って相国寺への寄進が完了しました。ほぼ40代の頃は全てこの「動植綵絵」シリーズに没頭していたということですね。

本当にどの絵も素晴らしいんだけど、僕が気に入ったのはこのあたり。

「紅葉小禽図」
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(引用:日本画を見る〜伊藤若冲〜

もみじの1枚1枚の彩色の濃淡、グラデーションや描き込みが非常に美しく、展示会で目を引きました。画面に事物を詰め込む若冲にしてはスペースがしっかり取られたあっさり風味。

「雪中錦鶏図」
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(引用:伊藤若冲《雪中錦鶏図》 - 学芸員のちょっと?した日記

雪の中のあざやかな「緑色」が見事なコントラストです。当時緑色を表現するには高価な「緑青」が使われましたが、この絵では非常に贅沢に使われています。

「紫陽花双鶏図」
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(引用:日本画を見る〜伊藤若冲〜

色とりどりの羽を持つ、派手な外国産の観賞用鶏2羽があじさいの木の下で弄れる構図。よく見るとあじさいの花は1つ1つ色が塗り分けられていますし、花びら1枚1枚少しずつ形も違い、丁寧な仕事ぶりに感心しました。

ぶっちゃけ、全部良かったのですが、ここでは紹介しきれないので、こちらのまとめを紹介しておきますね。「動植綵絵」全30幅の画像をまとめてくれています。

それから、「動植綵絵」以外だと、プライス氏のコレクションから、こちらの「桝目描き」技法を駆使して制作された「樹花鳥獣図屏風」も圧巻でした。

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ブログに貼り付けるとわからなくなっちゃいますが、この屏風は、全部で約4万個の「1cm✕1cm」四方の桝目から構成されていて、その桝目を一つ一つ彩色していくことで、タイル状というか、一種のモザイク画のような味わいが醸しだされています。最近の研究によると、この技法は、当時の西陣織のデザインの一技法を応用されたものではないかとされています。

7、まとめ

今回「生誕300年記念若冲展」は、まさに現代において伊藤若冲の名声・人気を不動のものにする最後のダメ押しとなる大展示会になりそうです。上記で紹介した「動植綵絵」以外にも、新印象派のお株を奪うような点描で描かれた石灯籠図屏風や、画面上に沢山の犬が戯れている百犬図(※5月8日までの展示)など、見所満載です。

結論としては、多少混んでも、是非我慢して並んでみてください!ビッグサンダーマウンテンよりは並ばないはずですから・・・。展示室に入って作品と相対した時、その苦労はきっと報われると思います!

【5/27追記】
若冲展が終わったので、その混雑ぶりについて、まずは総括記事を書きました。もしよければ、チェックしてみてくださいね。

それではまた。
かるび