あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ】映画『海賊とよばれた男』感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/原作を超える感動の大作でした!

【2018年9月28日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。

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12月10日に封切られ、ロングラン上映中の映画「海賊とよばれた男」。東宝がお正月映画として力を入れている作品ですが、早速初日の朝一で見に行ってきました。以下、感想を書いてみたいと思います。

※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

【監督】山崎貴(「ALWAYS三丁目の夕日」「永遠の0」)
【原作】百田尚樹(「海賊とよばれた男」)

前作、興収80億円の大ヒットとなった百田尚樹の原作を映画化した「永遠の0」に続き、「海賊とよばれた男」も同じ体制で映画化されることになりました。山崎監督、阿部秀司プロデューサーを筆頭に、主役も岡田准一を続投し、さらに山崎監督が過去作で起用した主役クラス(吉岡秀隆/「ALWAYS三丁目の夕日」、染谷将太/「寄生獣」)を脇に配置する、豪華キャスト陣で固めた万全の必勝体制で制作されました。

2.主要登場人物とキャスト

いわゆる「山崎組」と呼ばれる、山崎監督の信頼するキャスト陣が総結集した本作品。会社組織を描くため、登場人物はかなり多めとなっていますので、人物関係図が役に立ちます。

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国岡鐵造(岡田准一)
主人公で国岡商店の店主。出光佐三のモデルとなった人物。信念を持って行動し、危機においても機転と度胸で乗り越え、会社を大きく育て上げた。
東雲忠司(吉岡秀隆)
国岡商店の生え抜きにして、一見頼りなさ気な3枚目キャラとして描かれる。戦争終結後復員し、国岡商店の大黒柱として活躍。後の3代目社長。(映画では省略)
長谷部喜雄(染谷将太)
国岡商店の生え抜きメンバー。厳粛でコワモテの店主にも、唯一軽口を叩くなど、国岡の精神的な支柱だったが、1945年、太平洋戦争で戦死。
武知甲太郎(鈴木亮平)
GHQで通訳を務めていたが、国岡商店の素晴らしさに惚れ込んで戦後間もなく入社。外国人との交渉に力を発揮し、高度経済成長時代における国岡商店を支える。
柏井耕一(野間口徹)
国岡商店の生え抜きメンバー。常に冷静沈着なブレーン的存在。
甲賀治作(小林薫)
創業当時からの番頭的存在。国岡商店のNo.2として、会社をまとめ上げる。
藤本壮平(ピエール瀧)
元海軍大佐で、終戦後仕事がない国岡商店に入社し、ラジオ事業を手がけた。
ユキ(綾瀬はるか)
国岡鐵造の最初の妻。門司時代の若き日の鐵造と国岡商店を支える。 

3.映画の見どころ(ネタバレ無し)

3-1.ゴージャスに使われたVFX

ふんだんに用意された製作予算により、ほぼ全編を通じてVFX技術によるスケール感のある映像が実現されています。戦争中の空襲シーン、巨大なタンカーのシーンをはじめ、ハリウッドの大作映画を彷彿とさせるリアルで迫力のあるVFXは、間違いなく邦画では今年No.1の作り込みだと思います。

3-2.ここぞという時に朗々と歌われる、国岡商店の社歌

原作「海賊と呼ばれた男」では登場しない、映画でのオリジナル劇中歌として、男たちが集まる山場のシーンで繰り返し歌われます。特に日承丸(日章丸)に乗り込んだ船員達が危険な航海の中で結束を高めるために歌う箇所は印象的でした。日本人は昔から歌うことで試練や危機を乗り越えてきたのかもしれません。

3-3.岡田准一の名演とメイク技術の凄さ

本作では、国岡商店の店主、国岡鐵造の一生を取り上げますが、ストーリーの大半は、鐵造が60代以降となった戦後の復興期です。まだ30代の岡田准一がハリウッド仕込みの完璧な老けメイクで、国岡商店の店主になり切った演技は、本物の60代の経営者に見えます!大物感が凄い!

また、岡田准一は、演技の凄さはもちろんですが、60代以降の老年期の国岡鐵造を収録する時、本番前に大声を何回も出して声をツブしてから撮影現場入りする逸話など、その徹底したプロ意識の高さにも驚かされます。

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4.結末までの詳細なあらすじ(※ネタバレ有注意)

1945年夏。アメリカ軍に対抗できる航空戦力を完全に失った日本は、東京大空襲によって焼け野原となっていた。国岡鐵造とその仲間たちは、為す術なく真っ赤に燃える東京の街の様子をただ見つめるだけだった。

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戦争が終結した2日後。1945年8月17日、解雇に怯える社員たちを前に、鐵造は「日本人としての誇りを失わず、全員一致して社業を再興させよう」と訓示を行った。当面できる仕事はなかったが、社員を誰一人クビにせず、守り抜くと皆の前で誓った。

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その日、鐵造は石油統制配給会社(以下、「石統」と省略)を訪問し、取り扱う石油を融通してもらえるように鳥川相殺に頭を下げて頼み込んだ。ぐっとこらえて何度もお願いしたが、戦前に関係が悪化していた石統の鳥川に、案の定相手にされない鐵造。

その晩、自宅に帰り、妻と息子たちに迎えられた鐵造だったが、自室の書斎にこもると、忸怩たる思いから、過去に思いをはせるのだった。

1922年。27歳となった鐵造は、門司で独立し、これから迎える石油全盛時代に備え、機械油の代理店「国岡商店」を営んでいた。石油がまだマイナーだった時代、営業で苦戦続きの鐵造。同業者からの嫌がらせや、取引先からの袖の下の要求などに屈せず、自ら定めた社是「士魂商才」を胸に、仕事に打ち込んでいた。

しかし、経営に行き詰まる鐵造。鐵造は、独立する時に出資してくれた木田章太郎に弱音を吐くが、木田からは「3年でダメなら5年、10年、とことんやってみろ。それでもダメなら共に乞食でもしよう」と激励され、気合を入れるのだった。

そんな窮地に、鐵造は焼玉エンジンで動く漁船(通称:ポンポン船)向けに、灯油の代わりに元売りの日邦石油内に売れずにだぶついていた軽油を格安で売ることを思いつく。実験してみたら、軽油でも焼玉エンジンは作動した。

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「船だせー」という鐵造の掛け声とともに、翌朝以降、商圏の縄張りがない門司の海上で、軽油の行商を始めた鐵造。遠くからも見えるように旗を振り、「油持ってきたけぇ~」という掛け声とともに、漁船へゲリラ的に販売活動を行う。

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これが見事に当たった。同業者の嫌がらせもあったが、国岡商店はどんどん成長していった。やがて、近辺で鐵造は賞賛と揶揄が入り混じり「海賊」と呼ばれるようになる。

この頃に、後の国岡商店のキーマンとなる長谷部や東雲が入社してきた。また、商売が軌道に乗った鐵造は、兄の勧めでユキという妻を迎え、妻も含め、ようやく10名となった国岡商店は、一つの大きな大家族みたいな集団となった。

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(回想シーンから戻る)

60歳となった鐵造のもとに、元海軍大佐の藤本という男が訪ねてきた。GHQからの依頼で、銀行から融資を受けてラジオ修理の仕事をやらないかという。鐵造は藤本をそのまま入社させ、ラジオ部を立ち上げる。苦心した末に銀行からの融資が決まり、立ち上がったラジオ部は、戦後まもなく石油業務ができなかった国岡商店を支えた。

また、その頃、全国の石油タンクの底に残る石油をさらう業務を受注する国岡商店。他社がやらないキツくて厳しい業務だったが、鐵造は率先して国益のために引き受け、復員してきた東雲達がそれを担当することになった。

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タンクからの汲み出しは難航したが、鐵造の激励などもあり、2年後の1947年には、見事に全てやりきった国岡商店だった。

同年、GHQで通訳を勤めていた武知が、国岡商店の仕事ぶりに惚れこみ、アポなしで国岡に「社員にしてくれ」とやってきた。その場で採用を即決する鐵造。そして、武知は、石統に変わって設立された石油配給公団が指定する「販売業者」選定要項案に、国岡商店を排除するための一文が入っていることを鐵造に報告した。

早速武知を中心に、GHQへの働きかけを行い、石油配給公団の選定要項を覆すことに成功した。晴れて国岡商店は、国内で正式に石油を販売できる業者になった。GHQが国岡商店に取り計らったのは、武知の動きもあったが、前年までの石油タンクをさらう業務を評価してのものだった。国岡は、思いを新たにしつつ、満州でメジャーと戦った過去に思いを馳せていた。

(回想シーン)

1915年、軽油の海上給油販売で力をつけた国岡商店は、満州への営業を開始していた。サンプル品を持って、長谷部と共に南満州鉄道の現場へ営業をかける二人。冬場に凍らない機関車の車輪に使用する車軸用の潤滑油を安く提供することで商機を見出した鐵造は、大連の満鉄本社でも営業を開始する。

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一方、ユキとの間には子供が恵まれなかった。いよいよ3度目の渡航となった1918年、このプレゼンが終わったらゆっくり旅行でも行こう、とユキを労い、鐵造は満州へ出発した。

満州では、寒波により頻発する車軸の焼付きを防ぐための、不凍油を実証実験するための場に国岡商店と石油メジャー数社が呼ばれていた。機関車を実走させ、その後の状況を比較チェックすると、「ナフテン系」の石油で精製した国岡商店の車軸油のパフォーマンスがNo.1であることが判明。しかし、実験では優秀さを証明できたが、メジャー系会社を恐れた満鉄本社は、なかなか国岡商店の車軸油を採用しようとしなかった。

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さらに悪い事に、帰国すると門司の家にはユキがいなかった。居合わせた兄を問い詰めると、跡継ぎもできず、一人で鐵造を待つ寂しさから離縁して実家に帰ってしまったという。愛する妻を守れず、悔しがる鐵造だった。

(回想少し飛ぶ)

1941年12月、太平洋戦争が勃発し、翌42年、57歳になった鐵造。ABCD包囲網により、石油が輸入できなくなった日本は、南アジアの石油基地を占領した。石統のあからさまな利権確保への動きを嫌った陸軍は、南方基地での石油取扱業者を国岡商店に一任することになった。地団駄を踏んで悔しがる、石統の鳥川。

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陸軍から、何日あれば南方に人員を派遣できるか尋ねられた長谷部は、自信を持って「1週間あれば200人はOK」とその場で即答し、陸軍関係者を良い意味で驚かせるのだった。長谷部は、南方の石油基地への移動に陸軍機に同乗して出向いたが、到着寸前で米軍機に撃墜されて無念の死を遂げた。長谷部の死を知らされた鐵造は呆然とするのみだった。

(回想終わり)

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その後、石油メジャーからの提携話(買収)もあったが、民族系の石油会社にこだわった鐵造は、1951年いよいよ自前の巨大な石油タンカー、「日承丸」の進水式を行った。メジャーとは敵対関係にあったが、何とか自前の仕入れルートを確保して、日本中に石油を供給するのだった。

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しかし、徐々にメジャー各社から仕入れルートを絶たれ、日々の仕入れに苦慮するようになっていく国岡商店。鐵造は、起死回生の一策として、石油メジャーの色がついていないイランから輸入することを思いつく。

イギリス、アメリカと対立していたイランの国際情勢を考えると拿捕される可能性が高く、重役陣から猛反発を受けた鐵造だったが、それでも鐵造の意志は固く、自前の日承丸を動かして、イランに船を送った。

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イランでは大歓迎され、給油を終えた日承丸は、石油を満載して帰途についた。イギリス軍の基地があるマラッカ海峡を大きく迂回して、スンダ海峡経由で裏をかいたが、途中でイギリス軍のフリゲート艦「バンカーベイ」に見つかり、停船警告を受ける。

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しかし、船長の盛田は強気でそのまま突っ込み、スレスレのところで衝突を免れた。イギリス船は、何故かその後追ってこなかった。

その数日後、たくさんのマスコミが構える中、無事に川崎港に到着した日承丸。重役以下、満足そうに見つめた鐵造。「油持ってきたけぇ~」と思わず懐かしいフレーズが自然とこぼれるのだった。戦争後もずっと戦い続けた鐵造の戦いに一区切り着いた瞬間だった。

その後、鐵造は96歳まで生きた。亡くなる直前、離縁したユキの子孫と対面し、ユキのその後を回顧して涙する鐵造。そして、大勢の息子、孫達に囲まれ、海賊と呼ばれた若き日々に思いを馳せるのだった。

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5.「海賊とよばれた男」感想と評価(※ネタバレ注意)

5-1.戦後の絶望的な状況から困難に立ち向かう男たちの本気が感動を呼ぶ名作

戦中戦後の厳しい時代の中、ギリギリの所で仲間が一丸となって困難に立ち向かうシーンの連続です。社員を家族同様に扱い、国家や会社の仲間のために粉骨砕身する鐵造の姿は、見ていて強く引き込まれました。

国岡商店がピンチになるたびに、鐵造のアイデアと行動力が国岡商店に新たなチャンスをもたらし、そしてそれに一致団結して応える熱い社員たち。自然と皆で歌い上げるような感じで、劇中で何度も挟まれる社歌のシーンにも心打たれます。

「泣かすぞ泣かすぞ」という演出ではないのですが、鐵造と仲間たちの本気のぶつかり合いと団結力に、自然と心動かされ感動させられてしまう、そんな映画でした。

5-2.原作者のイデオロギー的なにおいはうまく脱臭されている

ここ1~2年、街頭演説や各メディアを通じて過激な右寄りの発言が目立つ原作者、百田尚樹氏。興収への悪影響が懸念されましたが、内容面ではそこまでイデオロギー色が強くないですし、映画ではそういった政治色はより一層薄まっています。

逆に、国岡鐵造のモデルである出光佐三がもともと社是として掲げていた「大家族主義」「士魂商才」「人間尊重」といった考え方が、非常に良くクローズアップされていました。映画全体に染み渡るように反映されていたと思います。

もちろん、「出退勤記録なし」「大家族主義」といった情実経営は、今でこそブラック企業的だとされて、忌避されますが、戦中や戦後の高度成長期ではむしろ歓迎された働き方であったでしょう。社員同士が家族同様に気持ちを一つにして働く姿は、いいな~と素直に引き込まれるものがありました。

5-3.岡田准一を始め、各俳優の演技が原作を超えるクオリティ

古き良き昭和の経営者になり切った岡田准一の演技が、とにかく素晴らしいの一言。駆け出しの頃から、中年期を経て、どっしり構えた60代まで、声色から立ち振舞まで細かく一人で男の一生をきっちり演じ分けができていました。

また、脇役がやや弱い原作小説とは違い、映画では鐵造の脇を固める重役陣のキャラクターが生き生きと描き分けられたのも良かったです。3枚目な東雲、店主に馴れ馴れしく口を利ける長谷部、大番頭の甲賀、ソツないキャリア系の武知、冷静沈着な柏井など、多彩な個性がぶつかりあうサブキャラたちもいきいきとしていました。

5-4.VFXの第一人者、山崎貴監督のこだわり

本映画は、最初から最後まで徹底的にCG/VFXを活用して製作されていました。日本におけるCG/VFXの第一人者として、自身もエンジニアとして現役で活躍している山崎貴監督の手ににかかると、巨大タンカー、空襲、戦後の焼け野原、岡田准一の老けメイクなど、「こんなところまでCGでカバーできるのか?」と驚かされます。

確かに、「ALWAYS三丁目の夕日」シリーズなどでは、いわゆる「不気味の谷」を超えられない不自然な映像もあり、一部評論家からは酷評されていましたが、それでも年々CGの精度は新作が出る度に上がってきていると思います。

6.伏線や設定などの解説(※ネタバレ有注意)

6-1.国岡鐵造のモデルとなった人物、出光佐三とは?

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(引用:http://showa-g.org/men/view/186

国岡鐵造のモデルとなった人物は、出光興産株式会社の創立者、出光佐三です。「人間尊重」「大家族主義」「士魂商才」など、確固たる生き方や経営の指針を持ち、戦後を代表する日本の名経営者であるとともに、精神的な支柱でもありました。佐三の経営方針を受け継いだ現在の出光興産では、今でも出退勤簿はなく、リストラはないそうです。

佐三自信、10冊以上の自著を残しており、彼の伝記や考え方をまとめたビジネス本なども含めると、かなりの著作があります。

6-2.大恩人、木田章太郎(日田重太郎)の存在

鐵造が若い時、章太郎の息子の家庭教師をしたことで、縁ができた資産家です。鐵造を気に入った章太郎は、鐵造が門司で起業した時に、私財を6,000円出資して鐵造を援助しました。(原作小説では、実名の日田重太郎で描かれる)映画では終戦後にはもう亡くなっていますが、原作小説では昭和30年代まで生き、たびたび鐵造の精神面でのメンターとなっています。なお、重太郎の恩に応えるため、鐵造は徳山製油所を作った際の町名を「日田町」としたり、重太郎の晩年や、その子どもたちの就職の世話まで、まさに10倍返しで面倒をみています。

6-3.鐵造は門司で漁船に何を売って成功したのか?

当時の漁船は、焼玉エンジンという灯油で動く簡易エンジンを使って操業していました。エンジン音が「ポンポン」とするから、ポンポン船と呼ばれていました。門司や博多の沿岸は、当時すでに別の石油小売店が縄張りを持っていたため、上手く食い込めなかった鐵造は、陸ではなく、海の上で売れば問題ないだろう、とひらめきます。

その際、仕入先の日邦石油でだぶついていた軽油が、灯油の代わりになるのであれば、かなり格安で販売もできる。そう考えて、実験してみた所、焼玉エンジンは普通に動作したため、海上でのゲリラ的な安価販売戦略が見事にハマリ、国岡商店は立ち直ったのでした。

6-4.石統とはなにか?なぜ国岡商店と石統は仲が悪かったのか?

石統とは、第二次大戦の統制経済下、軍部が作った国策会社「石油配給統制会社」の略称です。戦略物資である石油の販売権を国の管轄とし、ここに加入していない会社は戦後しばらく石油の取扱ができなくなっていました。

戦前から、国の統制を嫌い、中国や朝鮮など海外を中心に活動してきた国岡商店ですが、映画にもあった通り、南方軍が石統系の会社と利権を配分するための国策会社を立ち上げようとしたところを、国岡商店が横槍を入れて「台無し」にしたことが尾を引いて、石統から冷たくされてしまったということです。

6-5.石油メジャーとは?

メジャーとは、世界の石油生産・販売を独占する国際石油資本です。戦前から長らく大手7社に集約されてきたので、「セブン・シスターズ」と呼ばれていました。国内で原油がほとんど採れない日本は、彼らメジャーの顔色を伺いながら石油を仕入れるしかなく、戦後は次々に国内の石油会社はメジャーの子会社となっていきました。

ちなみに、戦後すぐの当時の石油メジャーはこんな感じ。

  • スタンダードオイルニュージャージー
  • ロイヤル・ダッチ・シェル
  • アングロペルシャ
  • スタンダードオイルニューヨーク
  • スタンダードオイルカリフォルニア
  • ガルフオイル
  • テキサコ

今現在は、ロイヤル・ダッチ・シェル、シェブロン、BP、エクソンモービルの4社体制に更に集約されていますが、未だ石油メジャーの影響力は非常に高いのが現状です。

6-6.なぜ、満州での実証実験で国岡商店は石油メジャーに勝てたのか

石油メジャーが持ち込んだ車軸用の潤滑油は、パラフィン系という寒さに弱い原油から作られていましたが、国岡商店の潤滑油は、飽きたの道川油田、豊川油田から採油されたナフテン系という凍りにくい声質の原油からできていました。徹底的な鐵造の研究もありましたが、生産地の違いによるラッキーな一面もあったのです。

6-7.日承丸(日章丸)の帰国ルートは?

日承丸は、原油を積み込んでイランから帰国する際に、シンガポールに駐留するイギリス軍との遭遇を避けるため、通常使用されるマラッカ海峡ではなく、スマトラ島を大回りして迂回しました。

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上記の図にある通り、スマトラ島を南下し、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡を抜け、カスパル海峡を抜けて北上するルートを取りました。こうした盛田船長(原作では新田船長)の努力があったから、拿捕されずに帰国できたのですね。

7.原作との相違点(※ネタバレ有注意)

7-1.原作ではイギリス軍と遭遇しなかった!

原作では、帰国ルートを変更したことにより、航海中はイギリス軍に遭遇することなく川崎港に帰港しています。ただし、ギリギリの駆け引きを行うため、当初陽動として徳山港へ向かうと見せかけ、川崎へと進路を変更するなど、駆け引きは駆使されています。

7-2.原作では、第2代社長となる弟が重要キャラクター

原作では、満鉄に勤務していた弟・正明が満鉄解散後に国岡商店へ合流し、経営陣として活躍しています。日章丸事件から数年経過して、鐵造が会長職へ退いた時、社長に正明を指名して、後継社長としました。ちなみに、3代目は東雲が就任します。

7-3.その他、省略されたいくつかのエピソード

関東大震災後の貸し剥がしとの戦い
1925年に関東大震災が起こり、その後の不況が来ると、銀行から突然資金の引き上げを宣言される国岡商店。慢性的に借金経営で会社を拡大していたため、資金ショートの危機に晒されます。結果的に、鐵造は熱い気持ちと禅問答のようなやりとりで新たな銀行から融資を引き出すことに成功します。

禅画「仙厓」との出会い
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(引用:出光美術館HPより)

映画でも仙厓を模した絵が2枚社長室に飾ってありましたが(偽物でした/笑)、鐵造=出光佐三は、若い時に父の影響で手に入れた江戸時代の禅僧、仙厓和尚の「指月布袋図」を手に入れ、生涯大切にします。現在、この「指月布袋図」は出光美術館で人気No.1の収蔵作品となっており、仙厓の評価が高まったのは、出光佐三の熱心なコレクションと海外での普及活動によるところが非常に大きかったと言われます。

ちなみに、仙厓については、出光佐三が設立した出光美術館で、年に1回は企画展が開催されます。僕も、先日開催された「大仙厓展」に行ってきましたので、もし良ければ下記リンクをチェックしてみてくださいね。 

徳山での世界最大級の石油コンビナート建設事業
鐵造は、日章丸事件後、さらに業績を拡大するために、徳山に自社保有の石油精製所を建設します。通常は2年かかるであろうと見積もられた工期を、土日祝日を返上し、10ヶ月で完了させた逸話が凄いです。

8.まとめ

2時間20分と非常に長い映画ですが、手に汗握るスリリングな展開は時間を感じさせず、気づいたらあっという間にエンドロールを迎えていました。松下幸之助や本田佐吉らと同じく、昭和の高度成長期で日本を支えた熱い男、出光佐三=国岡鐵造の生涯を描いた素晴らしい大河ストーリーでした。文句なくおすすめ!

それではまた。
かるび

9.映画をより楽しむためのおすすめ関連書籍など

映画DVD/ブルーレイ「海賊とよばれた男」

映画本編に加え、初公開となる「岡田准一ロングインタビュー」、「メインキャスト出演座談会」や約1時間に渡る「メイキング」等、合わせて170分超の特典映像が収録されています。「海賊とよばれた男」の世界を楽しみ尽くすならおすすめ!

原作小説「海賊とよばれた男」

単行本、文庫文庫あわせて420万部を売り上げたお化け作品。映画ではカットされた『日章丸』事件のその後や、仕事一辺倒ではなく、「仙厓」の禅画や唐津焼など、アートの収集にも力を入れた出光佐三=国岡鐵造の意外な一面がしっかり描かれています。まだ未読の方は是非!

マンガ版「海賊とよばれた男」

非常に原作を忠実に書き起こしたコミカライズ版。小説の重要な場面は、漏らさずにしっかり名場面に仕上げられています。小説の上下巻を全10冊でじっくり描きました。現在第1巻はkindleで無料で読めます!

 

永遠の0

こちらも、現在Kindle版の第1巻が無料になっています。「海賊とよばれた男」製作につながるきっかけになった、山崎監督が手がけた百田尚樹のデビュー作のコミカライズ版。コミックも「海賊とよばれた男」同様、須本壮一氏が手がけています。