あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「ラストレシピ 麒麟の舌の記憶」感想・レビューと11の疑問点を徹底解説!/感涙!命を掛けて守り継がれた幻のレシピ!

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【2017年12月9日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

食欲の秋ですね。体重の増加が止まらなくて悩んでいる今日この頃ですが、11月3日、1930年代の満州を舞台に、「料理」をテーマとした二宮和也主演の本格的な映画が公開されました。美味そうな料理が次から次へとでてきて、空腹時の鑑賞はまさに飯テロ地獄であります(笑)

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ラストレシピ」の予告動画・基本情報

▶映画「ラストレシピ」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


動画がスタートしない方はこちらをクリック

【監督】滝田洋二郎(「おくりびと」「秘密」他)
【配給】東宝
【企画】秋元康
【脚本】林民夫(「永遠の0」他)
【時間】126分
【原作】田中経一「ラストレシピ-麒麟の舌の記憶-」

フジテレビ系列で90年代に大人気を博した料理番組「料理の鉄人」のプロデューサーだった原作者・田中経一。料理好きが高じて、彼が幻冬舎から出版した処女小説「麒麟の舌を持つ男」は、戦前の満州・戦後の現代日本を舞台に、スケール感が大きく複雑に伏線が絡み合ったプロットで、非常に読み応えのある作品でした。

これが見事にプロデューサー、秋元康の目に止まり、あっという間に映画化の話がまとまったのが本作「ラストレシピー麒麟の舌の記憶ー」でした。

主演に、日本アカデミー賞主演男優賞を受賞した二宮和也を、監督にアカデミー賞外国作品賞を受賞した滝田洋二郎を配し、公開前から期待されていた作品の一つでした。

2.映画「ラストレシピ」主要登場人物・キャスト 

主要登場人物

佐々木充(二宮和也)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube
長崎を舞台に第2次大戦直後の状況を描いた2015年「母と暮らせば」以来、出演作が2作連続で戦争関連の作品となりました。本来左利きなのに、右手に矯正しての料理演技はプロ根性を感じられました。全体的に抑制の利いた演技も見どころです。2018年公開「検察側の証人」でキムタクとの共演も今から楽しみですね。

柳澤健(綾野剛)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube
2017年も、「新宿スワン2」「武曲MUKOKU」「亜人」に引き続いて映画出演は実に4作目。ドラマでも「コウノドリ」第2期が絶好調と、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。今作では主人公・充の相棒であり、よき相談相手として、原作よりさらに重要な役どころに改変されています。

山形直太朗(西島秀俊)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」特報 - YouTube
前作「クリーピー偽りの隣人」から約1年ぶりの映画出演。ここ4,5年は毎年コンスタントに1作~2作ペースで大作系映画へと出演が続いています。作品によって演技力に出来不出来の波が激しい感のある西島秀俊ですが、今作は違和感なく見れました。

山形千鶴(宮崎あおい)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube
劇中でカメラを構える姿や、一歩下がった位置で控えめな女性は、(時代は違うものの)映画「神様のカルテ」2部作を彷彿とさせるものがありました。終始にこやかで穏やかな演技は、演技派の宮崎あおいにとっては楽勝だったかもしれませんね。

三宅太蔵(竹野内豊)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」TVCM① - YouTube
本作で唯一のわかりやすい「悪役」として主人公たちの前に立ちはだかる人物。満州国の歴史にからむ暗い部分を体現した存在として、もっとねちっこく悪くやってくれても良かったかも。先週公開された映画「彼女がその名を知らない鳥たち」にも出演。

鎌田正太郎(西畑大吾)
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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube
ジャニーズのお試し枠として抜擢。映画「PとJK」(主演:亀梨和也)でのチンピラ役から一転、ほぼ丸刈りにして純粋無垢な感じの青年を熱演でした。もう少し若い時の染谷将太に少し雰囲気が似ているかも。ジャニーズ事務所で俳優として結構推されているのも納得の演技力でした。

3.途中までの簡単なあらすじ

一度食べた味は二度と忘れることのない「麒麟の舌」を持つ料理人・佐々木充(二宮和也)。養護施設で共に育った幼少時代からの親友、柳沢健(綾野剛)と料亭経営に乗り出すも、自らの理想主義が行き過ぎて顧客・従業員が離反し、料亭はつぶれ、多額の借金を背負っていた。2002年現在、依頼人の「人生最後に食べたい料理」を再現する「最後の料理人」稼業で食いつないでいた。

そんなある日、充は北京に呼び出され、中国最高のレジェンド級の料理人、楊晴明から、かつて戦前に山形直太朗(西島秀俊)が考案した幻のレシピ「大日本帝国食菜全席」を探してほしいと依頼を受ける。

高額の依頼金に釣られ、仕事を引き受けた佐々木は、宮内庁大膳課での情報を元に、当時の山形に近かった人物と接触しながら、少しずつ当時の山形の足取りに迫っていく。なんと、楊晴明は1933年に満州に渡った山形のレシピ開発の助手として、日本人青年の鎌田正太郎と共に活動をしていたのだ。

山形の若い頃は、ある意味佐々木と非常に似ている面があった。「麒麟の舌」を持ち、世界中の食材を融合し、食文化で「五族共和」を達成する理想に燃え、戦う姿勢。しかし、山形のの行き過ぎた理想主義は、周囲にを疲弊させ、激変する満州国の政治情勢の前に脆くも崩れ去ることになる。

ある日、満州国の新京にいる関東軍陸軍大佐、三宅太蔵に呼び出された山形は、天皇の満州国行幸の際に、数年かけて開発した「大日本帝国食菜全席」を披露することになったが、そこには周到に準備された陸軍の陰謀が張り巡らされていたのだ。

山形は、自らのレシピを守るため、どう行動したのか?そして、充はこのレシピを巡る真実にたどり着くことができるのかー。

4.映画「ラストレシピ」の感想・評価

完全に「個人」の生き様にフォーカスする作品が主流となってきた戦争映画

つい最近、名も無き末端の兵士がフランス北岸からイギリスへと撤退するサバイバルを描いた映画「ダンケルク」が世界的に大ヒットしました。また、日本でも「この世界の片隅に」が大ヒットしたのは記憶に新しいところです。戦争映画は、もはやヒーローやキングたちの英雄譚より、無名の兵士や市井の人々の生き様を映し出す傾向にあるのでしょうか?

今作も、主人公はやはり戦時中の名も無き料理人、山形直太朗でした。そして語り部は後世の料理人、佐々木充です。彼が古い老人たちを訪ね歩くことで、ファミリーヒストリーが完成し、充の驚くべきルーツが明らかになり、充自身の心の中の欠けたピースも埋まる・・・という筋立てでした。

若者が老人にインタビューし、失われた家族の歴史がオーラル・ヒストリーとして復元されていくというストーリー展開には妙な既視感があり、どこかで最近見たような・・・と思っていたら、何のことはなく、同じ脚本家の林民夫が手がけた「永遠の0」とそっくりな展開だったのでした。

厳しさ、理不尽さにあふれた極限状況の中で、ギリギリの選択を行って懸命に生き、後続の世代に何かを伝えようとする主人公を描く本作。戦時中を題材にした映画は、バックボーンとなる設定がしっかりしていれば、素晴らしい作品になりますね。素直に感動しました。

特に印象的だった「楊晴明」役を演じた二人の役者

個人的にMVPをあげたいのが、中国人、楊晴明役を演じた二人の役者、兼松若人と笈田ヨシです。予告編含め、マスコミや映画会社の注目度は低いのですが、抜群の演技でした。

何が上手いかって言うと、日本語能力検定1級程度の、日本語をほぼマスターした中国人のイントネーションのリアルさが素晴らしいのです!あまりに中国人っぽいので、オーディションでもやって中国から連れてきたのかと思ってエンドロールを見ていたら、日本人俳優だったという・・・

僕は、以前勤めていたシステム開発の会社で、日本語のできる中国人技術者に囲まれて仕事をしていたのですが、本当に彼らは映画で兼松若人が再現したような、こんな感じの独特の中国語訛がある喋り方をするのですよね。

ちょっと前までは「私◯◯アルヨ」「アイヤ~」とか、いわゆる日本人が勝手に作り上げたステレオタイプな中国人像がまかり通っていたことに辟易していたのですが、今作での楊晴明役の二人が抜群の上手さだったことで、きっちり映画内に没入して見ることができました。

秋元康に「二宮くんのラストは卑怯だな」と言わしめた抑制的な演技が素晴らしい!

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一方、主演・二宮和也の演技も、過度になりすぎない抑制的な演技が光りました。老人たちの元を回り、行く先々で直太朗の話を聞かされ、レシピを再現した料理を1品ずつ食べさせられるうちに、少しずつ、少しずつ雪解けしていく頑なな充の心を、ほんの僅かな表情の違いできちんと表現できていたと思います。

また、直太朗の妻・千鶴子が死産して以後、劇的に変わった直太朗の心情変化や料理に向き合う姿勢についていけず、共感と反発が入り交じったような反応も自然でよかったです。

で、後半になると、見ている方としては、千鶴子が死産するあたりから、涙ダラダラになっているのに、画面上の二宮はなかなか表情を崩さないんですよね。その頃には、鑑賞者は二宮の目線でストーリーを追っているので、「二宮はいつ泣くんだろう」とソワソワしてくるはずです。ところが、ゆっくりと心が開いていく雰囲気は出すんですが、なかなか二宮扮する充の感情の堰は決壊しないのですよね。じらすんです(笑)

そして、迎えたクライマックスシーンでたったひとこと、「美味いなー」とつぶやきながら一筋の涙を流すシーン。さんざん焦らした挙句、やっとここで鑑賞者に合わせて泣いてくれるんですよね。これを見て、鑑賞者の涙腺は更に決壊です。この計算された演出は、秋元康に「卑怯だな(笑)」と言われても仕方がないですよね・・・。気持ちよく泣かせていただきました。

テンプレ的徒弟制度とは正反対の職人世界を敢えて描いた「新しさ」

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

今回の映画では、人々の想いが受け継がれる素晴らしさとか、人々の心を瞬時につなげてしまう、料理の持つ普遍的なパワーなどがしっかり表現されていて素晴らしいのですが、それ以上に興味深かったのは、映画内で描かれた「職人世界」の新しさでした。

これまで、工芸や伝統芸能、料理といった職人的世界が映画で描かれる時は、基本的に「理不尽なまでに厳しい上下関係」「緊張感あふれる仕事場」「門外不出の技を口頭で習い、体で覚える」・・・的なステレオタイプ的な描写がほとんどでした。

しかし、本作での描写は斬新でした。基本的には職場で楽しく、和気あいあいと料理を作っています。軽口をたたいたり、カメラを構えたり。師匠自らレシピ=マニュアルを作り、そのマニュアルを元に、弟子だけで料理を再現するシーンまでちゃんと用意されています!

なんていうか、職場が明るくて、楽しそうなんですよね。昭和初期の、「お国のために・・・的な」感じで精神論が跋扈していたであろうこの時期に、敢えて笑いの絶えない作業場で合理的な「レシピ作り」の作業を丁寧に描写していたのが、非常に新鮮で印象的でした。

恐らく、ここ1~2年のブラック企業問題や労働環境問題が大きくクローズアップされる中、精神論優先の従来型の厳しい徒弟制度を描いたのでは観客に共感されづらいと読んだからなのかもしれません。

いずれにしても、興味深い描写でした。個人的には十分ありだと思います。

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5.映画「ラストレシピ」に関する11の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

本作をより深く理解するため、ストーリーや設定について、その要点となりそうなポイントを考察してみました。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:「麒麟の舌の記憶」とはどういう意味なの?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

劇中の2人の主人公、山形直太朗、佐々木充には、一度口にしたことのある味を完璧に記憶し、それを後日完全に再現する能力がありました。音楽で言う「絶対音感」ならぬ「絶対味覚」を持っていた二人の特殊能力は、「麒麟の舌」と呼ばれて賞賛されました。

疑問点2:劇中で実際に二宮和也や西島秀俊など、俳優たちは料理を作っていたの?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

包丁の使い方、鍋の振り方など、演技で必要とされる基本的な料理の動作については、撮影直前にそれぞれ先生について特訓したそうです。特に二宮和也は「左利き」なので、右利きに矯正しながらの二重の試練となったようです。

ただし、料理そのものは、俳優が作っていません。服部栄養専門学校の服部校長をはじめ、スタッフ総出でレシピを考え、インスタ映えならぬ「映画映え」するような美食の数々を考案・再現しました。

疑問点3:山形直太朗が渡った「満州国」とはどんな国だったのか?

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引用:Wikipedia

1931年、中国方面の日本陸軍(通称:関東軍)は、大将・石原莞爾を首謀者として南満州鉄道を自作自演で爆破し、その原因を中国軍の仕業であると断定します。(柳条湖事件)石原らは、これをきっかけに戦線を一気に満州全体へ広げ、翌1932年には関東軍主体で「満州国」を建国してしまいました。国際的な批判を浴びた関東軍は、日本人・漢人・朝鮮人・満州人・蒙古人による「五族協和」のスローガンを掲げて国際的に融和の姿勢を打ち出すとともに、清朝最後の皇帝・溥儀を傀儡としてトップに据えました。

直太朗のいた旅順は、19世紀以降、短期間のうちに統治者が変わった地域でした。ロシア人、中国人、日本人が入り乱れて生活をしていたという点で、当時としては有数の「人種のるつぼ」でありました。

疑問点4:「大日本帝国食菜全席」は実在したのか?「満漢全席」との違いは?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

「大日本帝国食菜全席」は、本作オリジナルのコンセプトで、実在するメニューではありません。ただ、かなり詳細な設定は、リアルに実在感がありますね。

直太朗が完成を命じられた「大日本帝国食菜全席」が関東軍主体で企画された背景には、満州国における日本民族の優位性を、軍事面だけでなく、歴史・文化的な側面からアピールする狙いがありました。その為、清王朝で完成された全49品の「満漢全席」を超える全112品が用意されました。(小説版では204品!)

ちなみに、「満漢全席」とは、清朝の第6代皇帝「乾隆帝」の命により企画された、山海の珍味を集めたフルコースのことです。清は、満州人の王朝でした。少数の為政者である満州民族が、国民の大多数を占める漢民族やその他少数民族達との民族融和を図るための象徴として作られたのです。

疑問点5:山形直太朗は、陸軍に推薦されて満州に渡るまでは何をしていたの?

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山中温泉の中心街 引用:Wikipediaより

小説の記述を要約すると、こんな感じです。

直太朗は、石川県の山中温泉の仕出し料理屋の息子として生まれました。料理人の父を見て育ったためか、自身も料理人を志して上京します。浅草の「筑紫軒」という日本料理の料亭で3年ほど修行した後、料亭の上客の紹介でパリで2年半修行します。

日本料理と西洋料理の両方に精通した直太朗は、日本に戻ってすぐに宮内庁にスカウトされ、そこでも天皇の料理番として頭角を表しました。また、大膳寮の紹介で千鶴子とお見合い結婚したのでした。

疑問点6:2度目に中華料理屋で柳沢のチャーハンを食べた時、「味が変わっていた」のはなぜなのか?

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チャーハン(イメージ図)

2度目に柳沢の竜虎飯店に行ってチャーハンを食べた充は、柳沢の作るチャーハンが美味くなっていることに気づき「味変わった?」と問いかけます。この時、柳沢は種明かしをしませんでしたが、恐らくこれは直太朗の「大日本帝国食彩全席」の「秋・80番:黄金炒飯」を作って食べさせたのでしょう。

楊晴明から依頼を受け、レシピを探す旅の先々で、充は必ずこの食菜全席から1品ずつ振る舞われています。恐らく柳沢が意図的に仕組んだのでしょう。辰巳静江(豚の角煮)→鎌田正太郎(鮎の春巻)→柳沢(黄金炒飯)→ダビッド・グーデンバーグ(ロールキャベツ雑煮風)と、1品ずつ彼らの思い入れの深い一皿を食べることで、頑なな充の心が少しずつほぐれていくよう演出したのです。

なお、楊晴明の依頼の意図に完全に気づいた充が3度目に柳沢の竜虎飯店を訪問した時、普段はガラガラな店の中が一転して満席になっていたのは、彼の作る黄金炒飯が評判を呼んでいたからなのでしょうね。クスっと笑える演出でした。

疑問点7:なぜ三宅陸軍大佐は、天皇行幸の際の会食で毒を盛るように指示したのか?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」特報 - YouTube

「疑問点3」で上述した通り、1931年に石原莞爾の主導で自作自演のテロによって満州国を建国した関東軍は、この成功体験に味を占めます。そこで、三宅陸軍大佐は、数年後、再度の戦線拡大を見据えて、周到な陰謀のタネを仕込んでおきました。

満州国を建国した際、関東軍は傀儡の皇帝として清朝のラストエンペラー、溥儀を玉座に据えますが、関東軍は溥儀と日本人を婚約させようと企図します。しかし、関東軍の指示を聞かず、満州国皇帝として独自色を強めようとした溥儀が統治上邪魔になると、これを排除するため、「第2の柳条湖事件」を起こそうと計画します。

すなわち、天皇行幸の際、国際的な賓客を招いての「食菜全席」を初披露する晩餐の席で、天皇毒殺を自作自演するのです。この時、その犯人を直太朗ではなく、叔父が溥儀の料理人である楊晴明としてでっちあげることで、事件を溥儀のせいにして、国際的な批判をかわしつつ溥儀を退位させ、満州国の版図を更に広げるきっかけにしようとしたのです。

その動機が、三宅陸軍大佐の個人的なスタンドプレーなのか、関東軍の高級将校達で編み出した極秘作戦だったのかは不明ですが、愚かとしか言いようがないですね・・・

疑問点8:なぜ山形直太朗は、信頼していた楊晴明を突然追い出したのか?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

山形は、楊晴明を同士としてリスペクトし、信頼していたからこそ、陸軍の陰謀により確実に「死罪」となることが目に見えていた楊晴明を逃がすことにしたのです。ただし、直太朗の周りには多数の憲兵、更に見張り役の鈴木料理長、助手の鎌田正太郎なども近くにいたため、中途半端に示し合わせて逃がすことは不可能でした。また、仮に直太朗が事情を説明したとしても、楊晴明の真っ直ぐな性格上、自らを犠牲にしてもレシピを完成させろ、と言って、素直に逃げてくれない可能性もありました。

こういったことを考慮して、敢えて共産党員のスパイ疑惑をかけて、辛い別れを演出して無理やり有無を言わさず追い出すことにしたのでしょう。直太朗のできる精一杯でした。ここの描写は、非常に秀逸でした。

疑問点9:結局、楊晴明は佐々木充に何をさせたかったのか?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

楊晴明、というより、楊晴明と結託した仲間たち(=柳沢、鎌田正太郎)総意の意志だったのでした。彼らは、借金返済と人間関係に疲弊し、健全な心を持った料理人として復帰することが難しくなってしまう前に、充に母、祖父、祖母の形見である「レシピ」を探させることで、心の拠り所を取り戻して前向きに生きられるようになってほしかったのでしょう。彼らの思いは最後の最後でレシピを手にした充が親子3代に伝わった「ビーフカツサンド」を食べて、充が「おいしい」とつぶやいた時に成就したのでした。

疑問点10:タイトル「ラストレシピ」は何を意味していたのか?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

「ラストレシピ」とは、主に2つの意味をかけ合わせていると思われます。

一つは、関東軍の謀略に反抗することを決意し、死を覚悟した直太朗が、「大日本帝国食菜全席」を仕上げるために使った下書きを再構成して作り上げた「レシピ」。これが、彼の書き上げた最後のレシピとなりました。直接的にはこれを指していると思われます。

もう一つは、その「レシピ」の113番目に、充の母、幸によって書き加えられた最後の項目「ビーフカツサンド」のことを指しているのでしょう。直太朗が死ぬ間際にグーテンバーグに託した「レシピ」は、その子供の代になって楊晴明に渡り、さらに最後に幸に手渡されました。

疑問点11:結末についての考察!ラストシーン~エンドロールの解釈は?

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引用:「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」予告 - YouTube

充が、すずらん園で再現した113番目のレシピ「ビーフカツサンド」を「おいしい」と涙ながらに食べたラストシーン。この時、彼はようやく料理人として再スタートを切る心の準備ができました。その後、光に溢れた厨房の中で、柳沢や助手たちと「レシピ」をさらに発展させた創作料理を作っているシーンがありましたが、これは新たに充が自分のお店を開店したと見て良いでしょう。(特に言及されませんでしたが、ここは原作通り、借金に関しては、楊晴明が全て肩代わりして支払ってくれたという理解で良いでしょう

そして、充は心の中で自分の祖父である直太朗と料理を介して会話しますが、直太朗は充の作った料理を見て、嬉しそうに微笑みました。「自分は凶弾に倒れてもレシピは永遠に受け継がれる」と確信して死んでいった直太朗の思いも、この瞬間満たされたのだと思います。感動的な光あふれるラストシーンとなりました。

エンドロールで映された充の作品を見ていて面白かったのは、父からレシピを受け継いだ幸が、ビーフカツレツ→ビーフカツサンドへと柔軟に応用したように、2002年の充もまた、祖父、直太朗のレシピを現代風に大胆にアレンジ・発展させていたことです単に守り継ぐだけでなく、きちんと発展・進化させる演出がさり気なく素晴らしかったなと思います。

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6.映画パンフレットで「大日本帝国食菜全席」が再現されている?!

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本作の映画パンフレットは、720円と最安クラスでありながら、中身はかなりの情報量でお買い得な内容に仕上がっていました!特に、中綴じに映画中でも出てきた「大日本帝国食菜全席」レシピ一覧と、映画中で再現された全ての料理のレシピ・解説がついていました!映画同様、ご飯前に読むとちょっとした飯テロ状態(笑)

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そして、サブキャストも含め、ほぼ俳優全員へのインタビューや、滝田洋二郎監督・秋元康プロデューサー他、制作陣のコメントも充実しています。これは中々オススメのパンフレットでした!Amazonで買えるようなので、リンクを置いておきますね。

7.まとめ

ややセリフでの説明過多かな?と思った箇所もありましたが、やっぱり事前に予想した通り後半にかけてガンガン泣かされてしまいました。二宮和也の感情を抑え、ためた演技が絶妙です。あと、行くときはご飯を食べてから行きましょう(笑)
それではまた。
かるび

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8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

原作小説「ラストレシピ」

充による自らのルーツやファミリーヒストリーを探求する話だった映画とは違い、小説原作は、よりシリアスな歴史大河ロマンといった雰囲気で、緊張感のあるサスペンス色の強い展開です。時代背景描写や人物・場面設定がリアルで、次にどうストーリーが展開するのかハラハラしながら読み進められます。映画とは後半部分全く違う展開になるので、映画を見た後でも120%楽しめます!僕は原作のほうが好きです!

コミカライズ「ラストレシピ」

原作小説は、本当に細かくプロットが練られていて内容が濃いため、小説が苦手な人はこちらのコミカライズ版もおすすめ!原作小説に忠実に描かれ、かなり情報量も詰め込んで丁寧に原作をフォローしているので、小説と同じ読後感が得られます。上下巻などに別れておらず、1冊の分量にピッタリ収まっているコンパクトさも良いです!

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