あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「マンハント」感想・考察と7つの疑問点を徹底解説!/ジョン・ウー監督の映像美学が詰まった多国籍アクション・エンタテイメント大作!

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かるび(@karub_imalive)です。

2月9日に公開されたアクション映画の巨匠、ジョン・ウー監督の新作「マンハント」を見てきました。ジョン・ウー監督の映像美学や様式美がたっぷりつまったセルフ・オマージュ作品でもあった同作。全編大阪ロケで、日本でも工夫と予算次第でこんなに迫力満点の絵が撮れるんだな、と感心しました。

早速ですが、感想・考察等を織り交ぜた映画レビューを書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「マンハント」の予告動画・作品製作の背景などを解説

▶映画「マンハント」公式予告動画
※画像をクリックすると動画がスタートします


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【監督】ジョン・ウー(「フェイス/オフ」「男たちの挽歌」シリーズ他
【配給】GAGA
【時間】110分
【原作】西村寿行「君よ憤怒の河を渉れ」

本作「マンハント」は、中国本土、台湾、香港など、中華圏の鑑賞者をメインターゲットとして制作された、日本作品を原作としたリメイク作品です。日本へは、いわば「逆輸入」作品として紹介される形となります。

本作の原作にあたるのは、1975年に製作されたハードボイルド小説・冒険小説の巨匠、西村寿行の原作「君よ憤怒の河を渉れ」と、それをベースに高倉健主演で映画化された同名の映画「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」の2作品です。

原作は、東京・北海道・能登・仙台などを舞台としたスケール感の大きい冒険推理活劇でした。主人公の現役検事・杜丘冬人が製薬会社・厚労省の仕掛けたワナにハマり、容疑者となって東日本全域を警察から追われながら、陰謀の謎を暴いていくというストーリーです。巨大なヒグマが襲い掛かってきたり、新宿のど真ん中をサラブレッドの大群が走り抜けたり、高倉健がセスナで仙台沖に着水したり、奇想天外なロケが話題となった大作娯楽映画でした。

インパクトの凄さはともかく、高倉健主演作品の中では必ずしもデキが良い作品とは言えないのですが、本作は1978年に「追捕」というタイトルで中国で上映された時、意外なことに爆発的な国民的人気を博したのです。

文化大革命終了直後の中国人にとって、高倉健の万能感あふれるタフガイぶりと、ヒロイン・真由美役を演じた中野良子の純真さ・強さが特別心に響いたのだとか。また、矢村刑事を演じた原田芳雄の独特のファッションが中国全土で大流行したり、監督を務めた佐藤純彌が、その後中華圏を舞台とした大作「敦煌」「空海」などを次々手がけるきっかけになるなど、様々な波及効果がありました。

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「追捕」以来、亡くなるまで高倉健は中国で大スターだった
引用:【銀幕裏の声】健さん追悼 中国人の半数が見た「君よ憤怒の河を渉れ」…文革後の圧制下、主演の健さん「正義の象徴」に(1) - 産経WEST

今でも、映画作品内での「杜丘のテーマ」のスキャットは、50代以上の中国人ならほぼ全員が口ずさむことができるんだとか。(※これが、本作冒頭でのドゥ・チウが歌うスキャットにつながるのです

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引用:「マンハント」メイキングドゥ・チウ篇 - YouTube

さて、今回メガホンを取ったのは、世界的な巨匠として名高いジョン・ウー監督。1980年代、香港ノワール映画「男たちの挽歌」シリーズの大ヒットの後、ハリウッドに進出後、「フェイス/オフ」(1998)「ミッションインポッシブル2」(2002)での相次ぐ世界的な大成功で、アクション・エンタテイメント監督としての名声を確立します。

2008年以降は中国へと戻り、金城武ら日本人キャストも参加した「レッドクリフ」2部作や中国版タイタニックと言われた「太平輪」2部作など、日中韓のキャストが参加する国際色あふれる大作路線を一貫して手がけてきました。今回の「マンハント」もまさに多国籍キャストによる大作路線となります。

なお、Youtubeには中国の配給会社が製作した予告編もアップされています。GAGAの日本版公式予告動画とはかなり違うテイストなので、見比べてみるのも面白いかもしれませんね。

▶映画「マンハント」中国版公式予告
※画像をクリックすると動画がスタートします


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2.映画「マンハント」主要登場人物・キャスト・人物相関図

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引用:映画「マンハント」公式サイトより

ドゥ・チウ(チャン・ハンユー)f:id:hisatsugu79:20180210192851j:plain
引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube
少し若返った竹中直人のような顔つきの中国人俳優。「水滸伝」TVシリーズや映画「項羽と劉邦」など、中国歴史ロマン大作に多数出演実績あり。ハリウッド映画では、昨年チャン・イーモウ監督「グレートウォール」にもシャオ将軍役として出演していますね。

矢村聡(福山雅治)
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引用:『マンハント』メイキング矢村編 - YouTube
「SCOOP!」(2016)、「三度目の殺人」(2017)と、ここのところ年1本ペースで映画出演中。数年前、CM撮影でウー監督と仕事をしたことをきっかけに、本作の「矢村」役のオファーへとつながったとか。頑張って英語しゃべってましたが、さすがに今一つな感じでしたね・・・

遠波真由美(チー・ウェイ)f:id:hisatsugu79:20180210184513j:plain
引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube
若い頃、TVのオーディション番組経由でデビューして人気歌手になってから、本格的に女優業へ進出。中国国内のTVシリーズにて活躍中ですが、国際的な大作映画での起用は本作がほぼ初めて。本人が「演技をかなり研究した」とインタビューで語っている通り、随所に原作映画での真由美役・中野良子を彷彿とさせる佇まいがありました。日本語レベルは、まぁたどたどしいけどなんとか聞けるかな・・・という感じ。

レイン(ハ・ジウォン)
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引用:「マンハント」メイキング監督篇 - YouTube
韓国のトップ女優としてアジア全域で大人気。日本でも公開・配信された韓国映画「TSUNAMIツナミ」(2009)や、「第7鉱区」(2011)など映画出演実績も多数あります。

酒井善廣(國村隼)
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引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube
元々ジョン・ウー監督とは旧知の仲であり、「ブラックレイン」(1989)「キル・ビル」(2003)などハリウッド映画や「コクソン」(2017)など韓国映画といった、海外作品への出演実績を買われ、本作へのオファーへと繋がりました。当初は数シーンでの出演にとどまる予定でしたが、幾度かの脚本変更により、知らず知らずのうちにラスボス級のヴィランになったそうです(笑)

ドーン(アンジェルス・ウー)f:id:hisatsugu79:20180210181401j:plain
引用:《追捕》終極劇情版TRAILER - YouTube
そのふくよかなレスラー体型から、「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のローズ役の女優か?と思って見ていたら、なんとジョン・ウー監督の娘さんだと判明。重量感の割に、よく体が動くアクションや演技はキレキレで良かったです。

酒井宏(池内博之)
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引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube
「イップマン序章」(2008)や「レイルロード・タイガー」(2016)など、香港映画・中国映画での出演実績を買われ、本作での出演となりました。悪がしこいけど、どこか不安気で情けない、2代目社長的なキャラを熱演。

その他、矢村聡のアシスタント役、百田里香役に桜庭ななみ、ホームレスの坂口秀夫役に倉田保昭、捜査一課課長に竹中直人、犯人A、Bに斎藤工、吉沢悠、真由美の婚約者・北川正樹役に田中圭、堂塔役に矢島健一など、日本人豪華キャストが揃っています。

▼齋藤工でさえチョイ役で使われる豪華さf:id:hisatsugu79:20180210184551j:plain

3.途中までの簡単なあらすじ

大阪、あべのハルカスに本社を置く、日本有数の製薬企業、天神製薬。その日は同社の設立記念パーティが開催された。パーティ終了後、自宅へと帰った顧問弁護士、ドゥ・チウは、翌朝目覚めた時、ベッドの横に同社の社長秘書の死体を発見する。昨日の夜、何があったのかー。記念パーティで、真由美というチャイナドレスの女性と話し込んだところまでは覚えていたが、帰宅後の記憶が飛んでいて、何が起こったのかわけがわからなかった。しかし、駆けつけてきた大阪府警の浅野警部からは、一方的に殺人犯と決めつけられ、ドゥ・チウはその場で現行犯逮捕された。

成り行き上、逃亡犯となってしまったドゥ・チウだったが、捜査一課のもう一人の警部、矢村に高速道路の建設現場で捕まってしまう。格闘の末、ドゥ・チウに振り切られれたが、事件の全体像に不信感を抱いた矢村は、部下の百田と共に独自捜査を開始する。

その後、ドゥ・チウも独力で事件の真相究明に動き出す。しかし、天神製薬の酒井社長とコンタクトし、レストランで顧問弁護士と打ち合わせの最中、ヒットマンの襲撃に遭ってしまった。咄嗟に堂島川ヘ飛び込み、追跡してきた矢村も振り切って水上バイクで逃げ切った。その後、新幹線にて、真由美と合流して、真由美が実家で経営する牧場へと退避した。

ドゥ・チウは、3年前、天神製薬の企業秘密を盗んだ社員の裁判を担当した弁護士だった。その裁判で敗訴し、その後自殺した社員こそが、真由美のフィアンセ、北川正樹だった。北川は真由美との結婚式の当日、抗議の自殺を果たしたのだった。北川は、酒井社長の命を受け、違法な向精神薬の開発に携わっていたが、その危険性から、悪用されることを避けるため、処方コードを真由美の実家に隠していた。

しかし、牧場に再び殺し屋と矢村が迫っていた。ドゥ・チウを逮捕した矢村だったが、殺し屋達に囲まれてしまった二人は、手錠につながれたまま協力し合って殺し屋を撃退し、森の中へと退避する。殺し屋ドーンを仕留めた矢村だったが、もうひとりの殺し屋、レインに肩を撃たれ、緊急入院する矢村。窮地を経験した二人の間には、いつしか熱い友情が生まれつつあった。

北川の遺品から、天神製薬が殺し屋を使って探し回っている「処方コード」を発見した真由美とドゥ・チウは、大阪に戻り、ホームレスの坂口と共に、天神製薬の研究開発センターへと乗り込む。入院中だった矢村もまた、負傷を圧して天神製薬に向かった。

天神製薬へ潜入したドゥ・チウがそこで見たものは、まるで強制収容所のような非人間的な扱いを受ける被験者達と、生体実験の恐るべき実態だった。そこで、酒井社長やその息子、宏とも対面したドゥ・チウ、矢村。果たして彼らは事件の真相を解き明かし、ドゥ・チウの嫌疑を晴らすことができるのかーーー? 

4.映画本編のレビュー(感想・評価)

ジョン・ウー監督ならではの激しいアクション大作映画に仕上がった

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Filmarksにしては低めの点数。評価は割れている
引用:マンハントに関する映画 | Filmarks

2月9日に封切られた後、続々各種SNS等でアップされている感想を見ると、評価は広く割れているようですね。ジョン・ウー監督の「様式美」とも言えるこだわりを、「マンネリ」ととらえるか、「作家性の深化」と見るのか。あるいは、日中韓のキャストが入り乱れて、様々な言語が飛び交うセリフを、「嘘くさい」とするか、「多様性への挑戦」と取るのか。

僕の率直な感想としては、非常に好印象を持ちました。ご都合主義で雑なストーリー展開、変なセリフ回し、現実味のない各種設定など、確かにツッコミどころは多々あります。それでも、他の日本映画にはないユニークな特色が感じられました。映画館に見に行く価値は十分あったと感じています。

例えば、本作の制作規模です。日本円で40億とも60億とも言われる本作の制作予算は、まず日本映画では絶対に調達し得ない金額です。その潤沢な予算を惜しげもなく使って組み上げられたリッチな各種セット・美術は見事でした。その中で、縦横無尽に暴れ回るアクションシーン。そして各種シーンを迫力ある映像として撮影するための技術力や多角的なアイデアは、ジョン・ウー監督ならではのものがあります。

特に橋本府政の時代をピークとして、従来から映画撮影やアート普及に対して非常に非協力的だった大阪ですが、そんな大阪を舞台に、こんなに迫力のある映像が撮れるものなんだな、と素直に感心いたしました。あべのハルカスでの空撮シーンや堂島川での激しい水際でのアクションシーンなど、魅せ方が非常に上手です。

また、原作「君よ憤怒の河を渉れ」から受け継がれた、「追う者」と「追われる者」の関係性の変化をシリアスに描き出すストーリーも、ジョン・ウー監督が従来から「ペイチェック」「フェイス/オフ」等で表現し続けてきたテーマと相性が非常に良かったです。

不条理な理由で追われることになった主人公と、それを追う立場のもう一人の主人公。ストーリーが進展するにつれて、「追われていた者」がふとしたきっかけで、「追う者」へと攻守交代するその変化の面白さや、二者がギリギリの中でせめぎ合い、そこで発生するシリアスな緊張感や葛藤、新たな友情などは、本作のハイライトです。

「リアリティよりも、主人公二人の関係性に注目して欲しい」とジョン・ウー監督がインタビューで語った通り、激しい戦いを通して培われたドゥ・チウと矢村の国境を超えた友情・絆は、原作以上に鮮明に描かれていたと思います。

唯一残念だった点は、多言語が飛び交ったセリフの処理

現場で巨匠・ジョン・ウー監督に意見を言える人がいなかったのかもしれませんが、たびたび映画に集中できなくなるほど、各キャスト陣のセリフ回しや演技に違和感を感じる瞬間がしばしばあったのは残念でした。

例えば、福山雅治の固い表情と英語・日本語共に不自然なセリフです。「そして父になる」「SCOOP!」「三度目の殺人」など、従来の出演映画作品では全く感じなかったのですが、本作での固すぎる表情や、芝居がかったセリフ回しには違和感を感じっぱなしでした。特に捜査一課での桜庭ななみとの掛け合いは、桜庭の棒読みや変な演出と相まって、かなり厳しいものを感じました。(※日本語なのになぜか吹替で、しかもクチの形とアフレコがあってないシーンも多々散見・・・

また、ハ・ジウォン(韓国人)やチー・ウェイ(中国人)の日本語も、こなれていない感じがどうしても気になり、イラッとすることも多かったです。敢えて母国語以外に無理して日本語を喋らせなくても良かったのではないでしょうか。

多国籍キャストでの大作映画の存在意義は意外に大きい

アジア回帰を鮮明に打ち出したジョン・ウー監督がここ数作、中国資本で製作した大作は、どれも日本・中国・韓国と多国籍なキャスト陣が入り乱れたスケール感の大きい作品になっています。

キャスト陣の多様性は、単純にヒット作を作るための仕掛けの一つに過ぎないのかもしれませんが、特に北東アジア圏で各国の政治的な関係が冷え込んでいる現状だからこそ、ジョン・ウー監督の「国のカベを取っ払った」国際色豊かなブロックバスター作品は、その存在自体が非常に意義あるものだと思うんですよね。※事実、「レッドクリフ」は中国でも日本でも大ヒットしましたし、これによって一時的ではありましたが、日本で「華流ブーム」も起きました

仮に、これと同じように多国籍でこれだけの大規模作品が作れるアジア系の監督がどれだけいるのだろうか?と考えると、あんまり他に思いつきません。予算をかき集められる人脈力、制作ノウハウ、多国籍キャスト陣を引きつけるカリスマ性など、アジア圏においては、多国籍キャストでの大作映画を手がけられる数少ない監督なのではないでしょうか。

国籍も立場も違う主人公たちが、死地をくぐり抜ける中で本物の友情・信頼を育んでいく、という「マンハント」でのストーリーは、「ハト」を毎回映像に登場させ、平和を希求するジョン・ウー監督の作風と非常に相性が良かったと思います。

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5.様式美?作家性?ジョン・ウー監督作品で注目したい演出上の7つのポイント!

目の肥えた映画ファンの方なら、もうご存知のことだと思いますが、ジョン・ウー監督の作品では、1980年代の香港ノワール映画時代、ハリウッドに進出した1990年代、中国に再び戻って現在に至るまで、一貫して独自の作家性と言うべき「こだわり演出」がみどころの一つです。映画「マンハント」でもしっかりその様式美は受け継がれ、熱心なファンの期待に応える演出の数々が待っていました。その幾つかを紹介してみたいと思います。

5-1.「白い鳩」

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矢村が銃を向けると、鳩が邪魔をするシーン
引用:《追捕》終極劇情版TRAILER - YouTube

ジョン・ウー監督作品では、毎回必ず1回はハイライトとなるシーンで登場する「白い鳩」。これには様々な意味が込められているとされます。

クリスチャンでもあるジョン・ウー監督にとって、鳩は、「純粋さ」・「愛」・「平和」・「イノセンス」・「神聖さ」の象徴とされます。

悪人だらけの登場人物の中、本作での主人公・矢村とドゥ・チウの二人は、立場の違いこそありますが、両者とも真実をしっかり見据えて行動する「純粋性」や一途な「無垢性」を感じさせるキャラクターです。その二人が、最初に出会って激しく対立するシーン、そして、心を通わせ合って共闘するシーンなど、印象深い場面で鳩を画面に登場させることで、二人の人物像や物語の転換点を美しく演出しているのです。

5-2.「二丁拳銃」

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引用:Manhunt- International Trailer 寰亞電影《追捕》國際版預告片 

ジョン・ウー監督は、西部劇を除いてはほぼ絶滅状態だった「二丁拳銃」を、再び香港ノワール映画において復活させました。以来、大半の作品において、主人公に「ベレッタ」を両手に持たせています。

ただし、日本では法律上「警官が拳銃を二丁持てない」という制約があるため、本作では、「二人で一丁」「二人で二丁」と、単純な二丁拳銃だけではなく、様々なバリエーションを用意してくれています。

▼二人で一丁を仲良く使うシーンf:id:hisatsugu79:20180210191049j:plain
引用:TIFF Review: John Woo’s Manhunt | Live for Films

▼二人で一丁ずつ並べて「二丁拳銃」を表現f:id:hisatsugu79:20180210182023j:plain
引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube

5-3.「派手な乗り物アクション」

陸・海・空と、あらゆる場所でアイデア満載の乗り物アクションが登場するのがジョン・ウー監督のアクションシーンの大きな魅力です。本作は、香港ノワール映画の原点を彷彿とさせるような「水上アクション」、定番の「カーチェイス」オートバイでのアクション、車内での殴り合いなど、迫力満点の乗り物アクションを見せてくれています。

▼水上バイクでのアクションシーンf:id:hisatsugu79:20180210182924j:plain
引用:映画『マンハント』特報 2月9日(金)全国公開 - YouTube

▼車内で格闘、鳩小屋へ突っ込む車f:id:hisatsugu79:20180210183113j:plain
引用:映画『マンハント』特報 2月9日(金)全国公開 - YouTube

▼車が横転・炎上するカーチェイスf:id:hisatsugu79:20180210185718j:plain
引用:Manhunt- International Trailer 寰亞電影《追捕》國際版預告片 

5-4.「敵方のわかりやすく統一した服装」

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引用:映画『マンハント』特報 2月9日(金)全国公開 - YouTube

敵味方入り乱れて狭隘なスペースで激しい戦闘を行うアクションシーンが多いためか、なぜか毎作、ジョン・ウー監督作品では敵方の服装は全員統一(笑)大抵、敵方は「白一色」か「黒一色」が多いのですが、今回もメチャクチャわかりやすく全身真っ黒です(笑)

5-5.「狭い建物内での壮絶な撃ち合い」

そして、アクションシーンのクライマックスは、狭い室内で人口密度を高くして行われることが多いのがジョン・ウー監督作品の特色。※室内だと鳩も外に逃げないですし)狭い場所だからこそ、激しい戦闘の臨場感が出るのでしょう。本作では映画冒頭・中間の牧場シーン・クライマックスの研究所シーンと3箇所で、狭い部屋の中で敵味方入り乱れてガン・カタアクションを繰り広げます。

▼映画冒頭の居酒屋での戦闘シーン
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引用:Manhunt- International Trailer 寰亞電影《追捕》國際版預告片 

▼室内で戦う矢村。銃だけでなく日本刀も使う!
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引用:「マンハント」メイキング監督篇 - YouTube

5-6.「呉越同舟な男たちが育む友情と絆」

狭いスペースで大勢の敵に囲まれて極限状態に置かれた時、それまで敵味方に分かれて戦っていた男たちが、成り行き上共闘することになる流れが多いのもジョン・ウー監督作品の特徴。戦いながら、お互いに兵器を融通しあったり弾倉を詰め替えてあげたりと、協力プレイもこなすうちに友情が芽生えていきます

▼警察官と逃亡犯
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引用:映画『マンハント』特報 2月9日(金)全国公開 - YouTube

▼警察官と殺し屋
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引用:映画「狼/男たちの挽歌・最終章」より

5-7.「スローモーション、ストップモーションの多用」

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引用:映画『マンハント』特報 2月9日(金)全国公開 - YouTube

そして、アクションシーンが佳境に入ると、超高感度カメラで撮影された映像をコマ送りする「スローモーション」も多用されます。さらに、「ん?ここでなんで静止画になるの?」と思える場面で「ストップモーション」もかなり使われます。本作でもいくつも使われていますよ。

6.映画「マンハント」についての7つの疑問点~伏線・設定を徹底考察!(※強くネタバレが入ります)~

ストーリーや設定について、本作をより深く理解するために要点となりそうなポイントについて、考察や情報をまとめています。内容上、映画を1度見終わった人向けのコンテンツとなりますので、ここからはネタバレ要素が強めに入ります。予めご了承下さい。

疑問点1:映画「マンハント」のタイトルの由来とは?

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引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube

「Manhunt」とは直訳すると、「犯人の追跡」という意味です。映画原作となった「君よ憤怒の河を渉れ」の小説内でも、たびたび「マンハント」という単語が印象的な使われ方をされているように、追う者と追われる者の両者の関係に焦点を絞って描いた作品としてピッタリのタイトルですね。

疑問点2:主人公「ドゥ・チウ」の名前の由来は?

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引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube

原作小説で、ドゥチウにあたる主人公は、「杜丘冬人」(もりおかふゆと)という名前です。今回のリメイクに当たり、日本人検事→中国人弁護士へとキャラ設定が変更されたため、「杜丘冬人」の名字「杜丘」をそのまま中国読み(ドゥ・チウ)として、人名にしたのですね。

ちなみに、その他登場人物の名前に関しては、矢村聡、酒井善廣、遠波真由美、堂塔(天神製薬研究員)がそれぞれ原作から採られています。

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疑問点3:遠波真由美の夫、北川正樹はなぜ自殺したのか?

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引用:映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開 - YouTube

北川正樹は、酒井社長から高額の報酬をちらつかされて、違法と知りながらも、痛みを忘れ、限界まで自らの暴力性を高める向精神薬の新薬開発に取り組んでいました。しかし、開発が進むにつれて、新薬の危険性に気付いた北川は良心に目覚め、悪用される前に会社から新薬を盗み出しました。

結果として、窃盗罪に問われ、ドゥ・チウを顧問弁護士として擁した天神製薬との裁判に負けて有罪となり、名誉と地位を失った北川でしたが、結婚式の当日、自らの行動の正しさを、結婚式という晴れの場において、「自殺」するという強い形の抗議で世間に示したかったのですね。

疑問点4:矢村の妻はなぜ亡くなったのか?

3年前の窃盗事件でも捜査に関与していた矢村でしたが、まさに事件を捜査中に、最愛の妻が天神製薬の社員が運転していた自動車事故に巻き込まれて亡くなったのでした。酔っぱらい運転か?と新聞には書かれていましたが、北川が開発中だった新薬を服用していた社員に跳ねられたのかもしれませんね。 

疑問点5:なぜ、どのようにしてドゥ・チウは殺人の濡れ衣を着せられたのか?

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引用:Manhunt- International Trailer 寰亞電影《追捕》國際版預告片 

男女の三角関係のもつれが発展したことによる殺人でした。天神製薬の次期社長、酒井宏は、同社の美人秘書、田中希子に思いを寄せていましたが、あべのハルカスで設立記念パーティがあった夜、田中はドゥ・チウを誘惑し、先にドゥ・チウの自宅で一夜をともに過ごそうと待っていました。それを見ていた酒井宏は、カッとなってドゥ・チウの自宅へと侵入し、田中を絞め殺してしまったのですね。

田中を絞め殺した酒井は、ドゥ・チウが酔って帰宅した時、その殺害現場を見られたと思い込み、気を失わせて田中の死体とともにベッドに寝かせ、ドゥ・チウの指紋をつけた刃物で田中に切り傷をあとからつけたのでした。驚異的な体力と洞察力を発揮するドゥ・チウを殺さず、失神させたまま生かしておいた酒井宏の甘さが、彼にとっての命取りとなったのでした。

疑問点6:ラストシーン・結末の考察~高倉健へのオマージュなのか?

天神製薬の研究開発センターで酒井親子、殺し屋たちとの戦いに勝利し、田中希子の殺人事件や、3年前から始まっていた天神製薬の不正な向精神薬開発についての悪事を全て解き明かしたドゥ・チウ、矢村は、田舎のとある駅のホームで、最後にお互いの国の言葉で挨拶して別れを交わします。

この駅のシーンは、まず間違いなく「駅」に関する有名な代表作で主演を務めた高倉健へのオマージュでしょう。

高倉健には「駅」(1980)、「鉄道員」(1989)と、北国のローカル線の駅を舞台とした有名な映画で主演を務めていますが、こちらを強く想起させるものがありました。(※もっとも、今回のロケ地は岡山県久米郡美咲町の「旧吉ケ原駅」と、西日本にあるわけですが・・・) 

疑問点7:原作との違いは?

本作は、リメイク元となった原作小説・原作映画に大幅にアレンジを加えて製作されています。共通するのは、人物の名前と物語の基本コンセプトくらいでしょうか?原作というより原案レベルの参照程度にとどまります。(※第一、映画冒頭で150分は長すぎる・・と、どさくさに紛れてディスっているくらいですから

そこで、本作と、1970年台の2つの原作について、主な違いを比較してみました。名前以外は、アクションもストーリーも大幅に違っていることがよくわかりますね。個人的には、CGでもいいからヒグマとのハードボイルドな戦闘シーンは是非とも見てみたかった(笑)

▼「マンハント」と「原作」の違いまとめf:id:hisatsugu79:20180211004408j:plain

7.まとめ

全編日本ロケで撮影され、大半のキャストで日本人を起用して制作された本作ですが、不思議と無国籍で日本映画とは全然違うテイストに仕上がった本作。新鮮な気持ちで最後まで見ることができた佳作でした。迫力あるアクションシーンを是非映画館でどうぞ!

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

映画パンフレット「マンハント」

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日中韓と多国籍なキャストが登場し、大阪を始めとして西日本各地のロケ地で撮影が行われた本作。キャストの詳細な経歴や、ジョン・ウー監督の作品世界を深く理解するために、パンフレットが非常に役立ちました。

▼制作陣への詳細インタビューf:id:hisatsugu79:20180210173903j:plain

▼ジョン・ウー監督の過去作を徹底解説f:id:hisatsugu79:20180210173918j:plain

▼国際色豊かなキャスト陣がよくわかる紹介ページf:id:hisatsugu79:20180210173946j:plain

派手なアクションシーンのハイライト画像がたっぷり紹介されていたのも、良かったです。間違いなくお勧めのパンフレットでした。

▼各ページに、ハイライト画像がたっぷり!f:id:hisatsugu79:20180210174017j:plainf:id:hisatsugu79:20180210174044j:plainf:id:hisatsugu79:20180210174118j:plain

チェックしてみたら、Amazon等でも買えるようになっているので、リンクを貼っておきますね。

原作小説「君よ憤怒の河を渉れ」

西村寿行の手がけた原作小説も、ジョン・ウーのリメイク作品に負けず劣らず、東日本全域を使った壮大でロマンあふれるハードボイルド小説に仕上がっています。ヒグマと戦ったり、新宿のど真ん中にサラブレッドを放したり、一見荒唐無稽な冒険推理小説に思えるのですが、昆虫や動物の生態から政官癒着の製薬業界の闇まで、徹底的なリサーチに基づいて緻密に構築されたプロットには驚かされました。

すっきり読みやすい文体や、魅力的なヒロイン達が主人公を助け、好意を一方的に寄せていく展開は、意外にもライトノベルに近いノリを感じました。少なくとも、発表後40年以上経った作品とは思えない新鮮さ・楽しさがありました。

僕も読む前は「B級ハードボイルド作品なのかな」と完全にナメてましたが、ここ最近読んだ小説の中では、久々にアガる1作でした!これはお勧め!! 

原作映画「君よ憤怒(ふんど)の河を渉れ」

西村寿行の原作「君よ憤怒の河を渉れ」から、派手なアクション部分を抜き出して製作された大作エンタテイメント作品。原作の持つインテリジェントな緻密さは失われ、やや大味なアクション娯楽作品となっていますが、そこは腐っても高倉健主演作品。高倉健のハードボイルドな孤高の演技や、原田芳雄の独特な個性、中野良子の一途なヒロイン像は、当時の中国で大評判となりました。

新宿でサラブレッドが走ったり、高倉健の乗るセスナ機が仙台沖に着水したりと、原作の派手なアクションシーンを頑張って映像化した努力は大きな見どころの一つです。これを機に、ジョン・ウー監督の作品と見比べてみるのも面白いかもしれませんね。

ジョン・ウー監督作品は、まとめてU-NEXTで!

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