かるび(@karub_imalive)です。
昨日10月1日から、今年度の最低賃金の改定が各都道府県で一斉に始まりましたね。平成28年度の全国加重平均金額は、823円と、とうとう大台の800円を突破してきました。
報道や新聞記事を見ていると、過去最大級のアップ幅であるにも関わらず、報道記事は少なめですね。意外に最低賃金やそのチェック方法について、知られていないのが現状です。
もちろん、会社では教えてくれるネタでもないと思います。この手の情報は、自分自身で探して自衛していくしかないんですよね。そこで、本記事では、最低賃金について最低限知っておいたほうが得な情報やチェック方法について簡単にまとめてみたいと思います。
- 0.そもそも最低賃金とは何なのか?
- 1.最低賃金は毎年どうやって決まるの?
- 2.安倍政権は最低賃金アップに力を入れている
- 3.なぜ最低賃金を知っておいたほうがいいのか?
- 4.どんなケースで最低賃金を切りがちなのか
- 5.最低賃金のチェック方法
- 7.そもそも最低賃金で雇われている状態はどうなのか?
- 8.まとめ
0.そもそも最低賃金とは何なのか?
日本の労働法の一つである、「最低賃金法」では、最低賃金制度とは、働くすべての人に、賃金の最低額(最低賃金額)を保障する制度であり、国が賃金の最低額を決定したら、使用者(=企業、雇い主)は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に絶対に支払わなければならないとされています。
最低賃金は、通常、都道府県別に「時給」で金額が定められます。これを「地域別最低賃金」制度といいますね。例えば、僕が実家近くのイオン奈良店で時給770円で働いた場合。東京や横浜だと違法賃金になりますが、最低賃金額が762円の奈良県では法律的にOKとなるわけです。*1
つまり、この国で、誰かに雇われて働く以上、最低限必ずもらえるお金の最低額っていうのは保証されているんですね。
1.最低賃金は毎年どうやって決まるの?
政府や世論の意向を踏まえ、中央審議会→地方審議会の2段階式で、毎年7月中旬~下旬頃に金額が決まります。
最低賃金は、まず中央最低賃金審議会という、厚生労働省内に設置された会議で話し合われます。そこで出た方針を受け、次に各都道府県の地域最低賃金審議会で話し合われます。最後に、地域最低賃金審議会での答申(=結論)を受け、最終的に各都道府県労働局長が最低賃金を決定します。
ちなみに審議会って、実は誰でも傍聴に参加できるのです。発言はできないけど(笑)中央官僚や各界の利害相反する有識者たちが結構マジメに話し合う様子は、見ていてなかなか面白いですよ。僕も何度か傍聴に参加したことがありますが「あ、ちゃんとやってるんだな」と感心しました。事前に必ず各省庁のHPで募集がかかるので、気になる人は是非。
そして、議事録や答申結果もサイトにしっかりアップされます。新聞記者やマスコミは、こういう資料をベースに速報記事を起こすのですね。
2.安倍政権は最低賃金アップに力を入れている
さて、こうして決まった平成28年度の都道府県別最低賃金は、以下の通り。
ここ数年、安倍政権が賃金の底上げによる景気回復を目指していることから、最低賃金の上昇率が高くなってきています。東京や大阪、愛知、神奈川など、大都市圏を中心に過去最大級の25円アップとなりました。人口を加味した全国加重平均は前年の798円から、同じく25円アップの823円となりました。
最終的には、最低賃金時給1,000円の大台を目指す安倍政権の、数少ない(?)成果のうちの一つでしょう。2020年までに、東京だけでも1,000円を突破したいんじゃないでしょうか?
考えてみたら、2006年の全国平均最低賃金は683円でしたので、ここ10年で150円も上がっている計算となります。いまだ先進国内では最低レベルではありますが、なんとか形になってきました。
3.なぜ最低賃金を知っておいたほうがいいのか?
ここ数年急ピッチでアップしていることもあり、実はかなりの会社が故意/過失にかかわらず、最低賃金割れとなったまま給与を放置している実態があります。
例えば、最近厚労省から発表された埼玉県の平成28年度(1月~3月)での抜き打ち検査の事例では、実に16.4%の事業場で、最低賃金以下の時給で雇用していた従業員がいたことが判明しています。意外に多くないですか?
http://saitama-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/saitama-roudoukyoku/press/2016/pr20160715-01.pdf
実際には、故意に放置した、というよりは、会社業績等を鑑みて給与を据え置き、または漸増で抑えていたら、気づいたら最低賃金を結果として下回ってしまったケースが多いのかな、とは思います。
僕の前職でも、「みなし残業給与」を付与していた高卒や専卒の若手社員が、最低賃金改定のタイミングで最低賃金を割りそうになったので、臨時給与アップを図ったことが何度かありました。
役員から、処理しておけ、と言われて雇用契約書の再締結処理を行った時、ものすごく微妙な空気の中、対応した思い出が多々あります(笑)
4.どんなケースで最低賃金を切りがちなのか
4-1:ブラック企業のアルバイト
さすがに最近はあからさまに最低賃金を切る価格での募集および応募は減ってきましたが、よくあるのが、「試用期間中の給与ダウン」。時給は1,000円なんだけど、試用期間中だから800円で。みたいなケースがたまにあります。
これはNG。試用期間中であろうとなかろうと、原則最低賃金を切ることは許されません。厳密に言うと、試用期間中は、正当な理由付けがある場合については、当該社員についてのみ、個別に最低賃金を下回る申請を所轄労基署へ提出し、許可が出れば最低賃金を切る設定をかけることは可能といえば可能です。ただ、、ものすごい事務工数と厳しい審査があるため、まぁ普通のバイトでは認められません。
4-2:若手正社員で、みなし残業、みなし深夜労働等で最低賃金を切るケース
これが一番多いケースです。よくある新卒求人で、こういうパターンがあります。
★企業A(東京都・飲食業)
・大卒初任給220,000円(40時間分みなし残業代60,000円を含む)
・所定労働時間8時間、完全シフト制
・年間休日107日
さて、このケース。一見、初任給はそこそこ見た目上良さそうに見えますが、そこにはからくりが。基本給に、残業代40時間分が給与にあらかじめ含まれているのですね。こうしたやり方は合法なので、実際、サービス業等、残業が発生しやすい業種では、かなりの会社で残業代を内包して、このように見た目にお化粧をした雇用契約が行われています。
こうしたお化粧が入った給与の場合、時給計算を行う際は、「みなし」残業代等は全部抜いて計算をしなければなりません。交通費等も同様の扱いです。
(引用:求人・転職情報のはたらいく)
すると、上記のケースでは、平均時給=(220,000円-60,000円)✕12ヶ月➗(365日-107日)➗8時間=930円となり、2016年10月1日からは、見事に東京都の平均賃金932円を割ってしまうのです!
大企業の場合(といっても大企業がこういう給与体系を組むこと自体どうかと思いますが)、法務部門や労務部門がしっかりしているため、雇用契約書の再契約を会社から申し出てくるでしょう。でも、事務方の工数が乏しい中小や零細企業にいる場合、故意/善意にかかわらず放置されてしまうケースが多いと思います。
心当たりのある人は、ぜひ確認してみましょう。
4-3.派遣先の給与で計算されていないケース
期間限定の契約社員等で、人手の足りない遠方の現場に派遣されるケースでよく発生するのですが、例えば、あなたが今、秋田県の派遣会社で時給750円で雇用されているとします。明日から、急遽東京にオープンした新店舗のオープニングスタッフとして、3ヶ月秋葉原に行ってくれ、と言われた時、この時給では法律違反になります。
なぜなら、派遣契約で働く場合、適用される最低賃金は【派遣先】の都道府県の金額が適用されるからです。このケースの場合、最低932円以上ないといけないわけですね。
5.最低賃金のチェック方法
数式等はあるのですが、自分で計算するのは正直面倒です。交通費や深夜手当、残業代を除外したり、正社員等の場合は、通常給与は月給ベースで支給されるため、時給に計算し直す必要もあります。
そこで、以下の厚労省の特設チェックサイトが便利。
ここのサイトで、必要な数値や情報を打ち込んでいくだけで、今のあなたの月給や日給が最低賃金に達しているかどうかわかります。ぜひ活用してみて下さい。
6.最低賃金を切っていた場合はどうするの?
たとえ、最低賃金に満たない金額で雇用契約書を交わしていた場合、その部分は無効となり、最低賃金分の給与を受け取る権利があります。
そして、至急、違法状態を是正したいところですが、、、
まず、自分自身で会社に交渉できるのなら、それが一番早いと思います。
会社との信頼関係が揺らいでいたり、まともに聞き入れられるのが難しそうなのであれば、次善策としては資料一式を持って労基署へ相談に行ったほうがいいでしょう。あなたの相談や告発は、匿名で処理されますので。
あるいは、誠意のない態度を取られそうな場合は「明らかに法律違反なので、労基署に行きますが?」みたいな話を交渉の場で効果的に使うのもいいかもしれません。ただし、場合によっては人間関係が壊れてしまうこともあるので、熱くならず、冷静にケースバイケースで対応してください。
7.そもそも最低賃金で雇われている状態はどうなのか?
例えば、チェックしてみて、「はっ!自分の給与最低賃金ぴったり!」となった場合、どうでしょうか?たとえ適法であっても、あなたの給与がぴったり時給932円(東京の場合)だった場合、複雑な心境ですよね?
最低賃金というのは、国が定めた適法な賃金の最低額です。特別な事情がなく、この金額で雇用されているという状態は、以下の2つのケースに該当するケースも考えられると思います。
1)できるだけあなたのことを安く雇いたい。給与をアップしたくない。
→経営者のマインドが時代錯誤的なブラック企業なのでは?
2)払いたいけどこれ以上は払えない。やむなく最低賃金にせざるを得ない。
→会社の経営状態がやばい。将来性も含めて厳しいと判断できるのでは?
通常、良い人材を採用しようと思ったら、この求人難の時代ですから、最低賃金よりも少しでも端数を切り上げて計算すると思われます。例えば、東京都なら時給950円とか1,000円とか。そこを、敢えて最低賃金で雇用しようという姿勢。ここをどう判断するかですね。
実際、労使問題で大きくイメージダウンした飲食チェーン、ワタミフードサービスでは、全国の支店のうち10数都道府県で、最低賃金でバイトの募集をかけていたという実績がありました。象徴的ではないでしょうか?
8.まとめ
雇用されている以上、最低賃金以上の給与をもらうのは全労働者の基本的な権利です。「自分の給与って、大丈夫かな?」と不安な人は、自衛のため、あるいは会社の経営状況を図るモノサシとしても、一度自分の給与が適正かどうか1年に1回調べてみてはいかがでしょうか?
それではまた。
かるび
*1:(危険な現場業務を含む製造業で働くひとたちを中心に、ある特定産業では、地域別最低賃金よりも高く設定された「特定最低賃金」という制度もありますが、少し専門的になるのでこのエントリでは割愛します)