あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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仏像好き必見!すごい十一面観音像が上野に来た!~「特別展 平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」の感想~

【2016年9月29日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

僕は、実家が京都南部(=ほとんど奈良)なので、東大寺・興福寺をはじめ、仏像やお寺は今までにもさんざん日常的に見てきています。美術展に本腰を入れて回るようになってからも、わざわざ東京で何時間も並んで阿修羅像とか見なくても、別に奈良でみたらいいやん、、、と仏像系の展示はそんなに乗り気ではありませんでした。

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ところが、9月13日から東京国立博物館で公開が始まった、滋賀県甲賀市の櫟野寺をフィーチャーした「特別展 平安の秘仏」展。「らくやじ?どこやねんそれ、知らんけど、まぁ軽く見ておくか」みたいな感じで入室したのですが、これが予想外に良かった!

入室してすぐ、部屋の正面に鎮座する十一面観音像の大きさと存在感に、しばらく言葉を失ってしまいました。「これはすごい・・・ブログに書かねば」と反射的にメモを取りだして戦闘モードに(笑)

今日は、このトーハクの「特別展 平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」について、少し書いてみたいと思います。

1.混雑状況について

僕が行ってきたのは、9月18日(日)14時頃。3連休中日の午後なので、混雑もピークだったと思います。東京国立博物館の正門前に入場の列ができていたので、「ちょっとやばいかな」と嫌な予感がしましたが、本展を展示する日本館特別室は、やや不快な程度の混雑度。満員電車ほどではないですが、かなり多めに人が入っているという状態です。入場の待ち時間はありませんでした。

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まだ展覧会も序盤なのでこの程度ですが、今後口コミが広がって評判になれば、土日祝日は結構混雑が激しくなるかもしれませんね。

2.櫟野寺(らくやじ)ってどこにあるの?

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(引用:http://hibutsu2016.com/

櫟野寺は、奈良県や三重県に近い滋賀県最南端の、甲賀市の外れにある天台宗の古刹です。総本山は比叡山延暦寺の末寺ですが、この甲賀地方では最大規模のお寺です。最寄り駅から電車やバスがなく、マイカーかタクシーでしか行けない人里離れた田園風景の中にありますので、「秘仏」というイメージがぴったり。

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(パンフレットより)

元々、比叡山延暦寺を建造する際に使われた材木を切り出すため、天台宗の開祖、最澄(伝教大師)が銘木の産地として古代から知られた甲賀地方へ視察に来た際に、インスピレーションを感じてこちらにもお寺を開いた、という言い伝えがあります。

算出する銘木である「イチイ」の名をとって、別名をいちいの観音といい、地元から愛されているお寺ですね。

3.今回展示の経緯やコンセプト

本展覧会で展示されている仏像は、いずれも平安時代10世紀~12世紀の間に制作されたもので、全20体がすべて重要文化財です。ちょうど、平成30年10月に、本尊である「十一面観音菩薩像」の御開帳を行うため、この夏から本堂と収蔵庫の大改修工事を実施することになりました。今回の一挙展示はこの機会を活用して実現したものです。

全20体のうち、吉祥天立像などは先行して東京国立博物館で収蔵されていたため、今回の展覧会が、寺の外において櫟野寺の全ての重要文化財に指定されている仏像が一堂に会する初めての機会となりました。

展示の様子は、Internet Museumさんの動画で確認できます。

4.十一面観音菩薩像とは?

菩薩像の頭上に、さらに11体(場合によっては10体?)の様々な表情をした頭部だけのミニ菩薩が360度ぐるりと乗っかったユニークな菩薩像のことを、「十一面観音菩薩」と言います。櫟野寺のように座っている「坐像」や、立っている「立像」など形態は様々あります。

音声ガイドによると、古代インドの考え方として方位を指す8方向と上下の2方向、さらに正面を加えて11面で全方向を表しているそうです。

5.今回の見所

5-1:十一面観音のすごいインパクト

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(引用:https://twitter.com/raku_iinkai/status/775883795471872002/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw

タイトルにも書きましたが、とにかく入室して最初に飛び込んでくるのが、この櫟野寺の御本尊である、「十一面観音菩薩坐像」です。本体は全長3.2メートル、台座と後背を入れると5メートル以上の、日本最大の十一面観音菩薩「坐像」です。(※立像だと、たとえば長谷寺の十一面観音像など10m超のものがいくつかあります)

見てもらうとわかりますが、ほとんどちょっとした大仏レベルであります。入室したら、展示室のど真ん中に、まずこの坐像がどどーんと視界に入ってきて、圧倒されるわけです。「うわっ、でかっ!!」みたいな。この瞬間に「あぁ、来てよかったな」と心から実感しました。でかいことはいいことだ(笑)

こちらのエントリで在華坊さんも書いてらっしゃいましたが、「よく展示室に入ったなこれ」と(笑)特別展示室が、お寺の本堂みたいになってます、、、

この御本尊は、普段は一般公開しておらず、まとまった団体客が来たときではないと見せてくれないそうですね。しかも、お寺で見るときは定位置の正面からしか見えませんから、360度ぐるっと見て回れる(=つまり後ろ側の11面観音の顔もなんとか見える)という、お寺でのご開帳を上回る展覧会ならではのアドバンテージがあります。

他19体の重要文化財も勿論いいのですが、時間がなければ、この御本尊だけでもじっくり見て帰ってみてください。

5-2:充実した音声ガイド

今回展示は、特別室での特集陳列企画レベルなのに、音声ガイドがついているのです。しかも、わずか20品の出展なのに35分の長尺解説が!音声ガイド好きな僕としては、思わずニヤニヤしてしまいました。

通常解説に加え、公式HPの「櫟委員会」と題した特集ページで応援団を務めるみうらじゅんといとうせいこうのフリートーク的な語りも非常に良かったです。
櫟委員会 特集ページ
http://raku-iinkai.com/

この二人、もう20年以上も雑誌「中央公論」上でコンビで日本中の仏像を見て回る誌上企画をやっていて、そのまとめ書籍やDVD映像なども多数出ている屈指の仏像マニアなんですよね。今の静かな仏像ブームは彼らから始まったと行っても過言ではありません。

仏像オタク2名の確かな観察眼と、ラジオを聞いているようなフランクな語りは、非常に面白く、櫟野寺の秘仏の世界観を効果的に理解する手助けにになりました。面白いので音声ガイドも是非!

5-3:甲賀様式と呼ばれる独特の個性

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(引用:http://hibutsu2016.com/highlight.html

全20体を見て回ると気づくのが、櫟野寺の仏像の独特の顔の表情です。制作された時期は10世紀~12世紀まで様々ですが、ちょっとしもぶくれしたふっくらした丸顔や、ペチャっとした鼻スジなどは明らかな特徴として読み取ることができると思います。

これは、「甲賀様式」と呼ばれており、甲賀地方独特の仏像の顔立ちで、平安~鎌倉期の定朝や運慶といった京都や鎌倉のエース仏師たちの影響下にはない、地元の仏師や櫟野寺の僧侶が歴史的に制作してきたからだ、と言われます。

5-4:1F常設展示室の他の十一面観音像もお勧め

特別展示室のすぐ隣の部屋ですが、日本館1Fの仏像を常設展示するコーナーでは、今回の特別展に合わせて、「十一面観音菩薩像」へと多めに展示替えされていました。残念ながら、すべて撮影不可だったのですが、それぞれ秋篠寺、当麻寺、小島寺(いずれも奈良県)、そして4本の腕を持つ珍しい小松寺(千葉県)の十一面観音像が展示されています。

櫟野寺とは制作時期や仏師が違うため、微妙に顔の表情や全体の雰囲気が違っていますので、見比べてチェックしてみると面白いですね。櫟野寺の仏像「甲賀様式」の独特な個性が浮き彫りになります。

6.甲賀地方には他にも由緒ある古刹が一杯

展覧会場の外では、「甲賀市」の市のスタッフがちょうどこの展示を機会に甲賀市の観光案内等、プロモーション活動を熱心にしていました。

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そこで頂いたパンフレットを見ていくと、この「甲賀市」は滋賀県、三重県、奈良県の県境に近い山奥にあり、奈良や京都に近いことから、由緒のある古刹や神社が多数あることに気づきました。

頂いたパンフレットf:id:hisatsugu79:20160920143305j:plain

僕の仏像への不勉強もあって、今回「櫟野寺」の『櫟』(らく)すら読めずにいたのですが、甲賀地方、結構奥が深いです。毎日テントが出ているかどうかわかりませんが、立ち寄ってみるといいかもしれません。(子供を手裏剣で遊ばせるスペースもあります)

7.まとめ

東京から、甲賀地方の櫟野寺に実際に行こうと思うと、電車でも車でも最低5時間はかかります。博物館にフラッと立ち寄って、贅沢な重要文化財指定を受けた20体の仏像を気軽に見れるのは今だけ!

会期は12月までと長めに取られていますので、是非興味がある方は是非。秘仏のデカさに驚きますよ!公式HPもしっかり作り込まれていますので、事前に確認されることをオススメします!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

展覧会名:「特別展 平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」
会期:2016年9月13日~12月11日
会場:東京国立博物館日本館特別展示室
公式HP&Twitter:
http://hibutsu2016.com/
https://twitter.com/TNM_PR

櫟普及委員会HP&Twitter:
http://raku-iinkai.com/
https://twitter.com/raku_iinkai

おまけ資料

こういう展示を見ると、仏像のことをもっと調べたくなりますよね。僕はいつも仏像系の展示が終わったあとは、入門本などを見返してしまいます。ちょうど、Amazonで良いものを見つけましたので、紹介しておきますね。

2016年9月29日現在、Kindle Unlimited対象になっていますので、読み放題サービスを使っている人はタダで読めます。ぜひ覗いてみて下さい。