かるび(@karub_imalive)です。
9月に入って芸術の秋がいよいよ到来。博物館・美術館でも一斉に秋の展覧会が始まりました。ムンク展、フェルメール展、ルーベンス展など、どれに行こうか目移りするくらい今年の秋は充実していますよね。
そんな中、秋の展覧会の先頭を切って上野の森美術館で公開された「世界を変えた書物展」が、掘り出し物的な凄い展覧会でした。以下、感想レポートにまとめました!
- 1.「世界を変えた書物展」とは
- 2.見どころ満載!稀覯本の放つ知のオーラに酔いしれる!
- 3.グッズ制作も力が入っています!!
- 4.嬉しいことに入場無料・写真撮り放題!
- 5.混雑状況と所要時間目安
- 6.まとめ
- 7.関連書籍・資料などの紹介
- 展覧会開催情報
1.「世界を変えた書物展」とは
金沢工業大学の大学ライブラリーセンターに、世界中の「稀覯書」(きこうしょ)を集めた『工学の曙文庫』というコレクションがあります。
金沢工業大学 正門から撮影した写真
引用:Wikipediaより
同コレクションでは、ニュートン、ガリレオ、コペルニクス、メンデル、アインシュタイン、ライト兄弟、エジソン、キュリー夫人・・・etcと、小学生でも知っているような世界の偉人達が重要な発見や発明を発表した書籍の『初版本』を中心に、約2000点を所蔵。ライブラリーセンターで顧問を務める竺覚暁氏が、実に40年をかけてコツコツと蒐集してきた珠玉の大コレクションなのです。(凄い情熱!)
ところで、そもそも「稀覯書」(きこうしょ)ってどんな書籍なのでしょうか。
と思ったら、展覧会場入り口すぐのパネルに、こんな説明がありました。一部抜粋して紹介しますね。
稀覯書とは、「極めてまれにしか見ることのない本」のことです。
その条件としては、
1.極めて少数しか残っていない書物であること
2.書物の制作が古いものであること
3.その内容が極めて貴重なもので、それが最初に世に出たもの
4.書物のデザイン、レイアウトやタイポグラフィ、装丁、造本が豪華であったり美しく、美術品的価値を持っていること
5.副次的には、原著者の署名があるとか、著名人の蔵書であったことの証拠、蔵書票や署名があることなどがあります。
要するに、古くて、レアで、状態が良く美しい初版本やサイン本っていうことですよね。古書専門の古本屋で、何十万もするような古書をイメージしてみるとわかりやすいかもしれません。
ところで、金沢工業大学がYoutubeに公開しているオープン講座にて、竺氏が稀覯書の凄さについて熱く語る動画を見つけました。とにかく熱いので、もしよければチェックしてみてくださいね。
実は、[世界を変えた書物]展が開催されるのは今回が初めてではありません。過去には、金沢・名古屋・大阪で全3回開催されているのです。
2013年9月13日~9月29日ー名古屋市科学館
2015年11月6日~11月23日ーグランフロント大阪北館
アーカイヴ|[世界を変えた書物]展 人類の知性を辿る旅|金沢工業大学
今回の東京展では、竺氏監修の元、建築学部の准教授・宮下智裕氏と、宮下研究室の学生さん達が、手作りで企画・運営を進めています。展示のところどころに、学生さんが苦労して作り上げた痕跡が垣間見えるのも、非常に風情があって良いです。
2.見どころ満載!稀覯本の放つ知のオーラに酔いしれる!
インスタ映え必至!異世界に迷い込んだような展示空間!
さて、アーチ状のセットが設けられた入り口をくぐり、最初のコーナー「知の壁」に足を踏み入れると、驚きの光景が!!
天井一杯の高さまで設置された書棚は、まさに「壁」のよう。ドラマのセットみたいな荘厳な展示空間に思わずみとれてしまいます。
書棚には、金沢工業大学秘蔵の稀覯本コレクションが天井までぎっしり。オレンジ色のランプに照らされた展示スペース内は、数百年前の図書館へとタイムトリップして、別世界に迷い込んだような不思議な感覚が味わえます。
稀覯本の放つ独特のオーラを感じながら、ガラスケースに目を移してみましょう。すると、アインシュタインの手書き原稿や、エジソンの生写真など、貴重なコレクションがずらり。
アルベルト・アインシュタイン「自筆研究ノート」
エジソン生前の生写真!
トーマス・オールヴァ・エディソン「自筆指示メモランダム」
特に建築書は挿絵が非常に見応えあり!
ジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラ
「建築の五種のオーダーの規則」
ガラスケースで1点ずつ、丁寧に展示された稀覯本コレクション
1F展示室「知の森」
そして、この「知の壁」を抜けると、今度は「知の森」です。金沢工業大学が保有する稀覯本約2000点から、特に選りすぐられた130点が、1点ずつ、ガラスケースに入って系統別に整理され、部屋いっぱいに展示されているのです。しかも、そこら中に名前を聞いたことのある偉人たちの書籍がいっぱい!
それでも地球は回っている・・・地動説を論じた書籍
ガリレオ・ガリレイ「星界の報告」
そして、思ったよりどの書籍も傷みがそれほどなく、一様に状態が良いことにも驚き。数百年経過しているのに、非常に美しく保たれている美麗な書籍ばかりなのです。
500年前の書籍も退色せず、カラー印刷が鮮やか!
ヒエロニムス・ブルンシュヴィヒ「真正蒸留法」
また、ガラスケースでの展示では、書籍内容を特徴づけている、書物のハイライトとなるようなイラストや図柄の掲載ページが開いた状態で展示されていることです。これも嬉しい工夫。古代の外国語は我々には読めませんので、挿し絵を通して内容を何となくでも理解できるのは嬉しいですよね。
たとえば、これなんかは熱心なアートファンなら、誰が何を書いているのかこの挿絵一つでわかるかも?!
ラファエロ像はヴァザーリ自ら描いた?!
ジョルジョ・ヴァザーリ
「最も優れた画家、彫刻家、建築家の生涯」
そう、これはヴァザーリの通称「芸術家列伝」です!描かれているのはルネサンス期、イタリアで活躍したラファエロの肖像画ですね。イタリア・ルネサンス研究で最重要資料とされ、芸術文学の金字塔としてアートファンにはおなじみの書籍です。
また、本を見ていて非常に気が利いているな、と感じたのは、1冊1冊の書籍に丁寧な解説パネルがついていること。本の概要や著者の紹介、本が書かれた背景・経緯、書籍に書かれた内容が後世にどのようなインパクトを与えたのかなど、やさしく説明してくれていました。
解説がしっかりしているから安心して見れます!
「知の集積」を直感的に理解できるインスタレーションも秀逸
こうした稀覯本を1冊1冊眺めていると気付かされるのが、古代から現代に至るまで、自然科学分野での発見や研究は、先人の実績を土台に、少しずつ発展してきた積み重ねの結果であるということです。
いきなり、パッと何もないところから凄い発見や理論が出てくるわけじゃないんですね。歴史上の偉人たちはみな、先人の研究成果をじっくり勉強して、そこから独自のブレークスルーを果たして科学史に名を残してきたのです。
そうした「知の連関」「知の集積」といったコンセプトを、直感的に理解させてくれるような解説パネルやインスタレーションがくつか用意されていたのが心憎かったです!
たとえばこちら。
解説パネル「知の連鎖」
これまで金沢工業大学が蒐集してきた様々な稀覯本の関連性を線で結ぶことにより、科学史上のあらゆる発見・理論は、アインシュタインの「相対性理論」につながっていた、ということを結論づけています。
数学、物理学、生物学、化学、熱力学、電磁気学等々、一見分野が違う様々な分野で発見された法則・理論は、それぞれどこかで互いにつながりあっていて、それらすべてが統合された究極の理論に一番近いのが、アインシュタインが発見した「相対性理論」ということなのでしょう。
また、2Fの展示室に上がると、こんなインスタレーションもありました。
ベニヤ板を縦横にブロック状に積み重ねることによって、少しずつ領域が異なる分野での発見や理論が、別の科学分野の次の発展に寄与しながら、全体として科学が発達してきた様子を、直感的に理解させてくれるインスタレーション。単純な作りながら、科学がどのように発展してきたのか、その本質を言い表した優れた作品だと感じました。
さらにもう一つ。
こちらは、書籍に見立てたベニヤ板を縦にうず高く積み上げることによって、ある分野における科学的な知見や研究成果の集積を表現したインスタレーションです。ひとりの研究者が生み出した偉大な研究成果は、過去の研究者たちの膨大な努力や試行錯誤があってこそ成り立っているだということに気づかせてくれます。
これら2つの展示はまるで現代アートみたいな趣もあります。好みの角度を探して、是非SNS映えする写真が撮ってみてくださいね。
3.グッズ制作も力が入っています!!
展示を見終わると待っているのが、今回の東京展のためだけに製作されたグッズコーナー。見てみると、これが凄いんです。[世界を変えた書物]展は、どちらかというと会期も短く、中小規模の展覧会。なのに、この規模の展覧会ではまずあまり見かけないくらい、よく練り込まれた、力の入ったグッズが並んでいました。
順番にいくつか紹介していきますね。
厚手で高級感のある「和」テイストの『風呂敷』
出展された稀覯本のイラストをプリントした、高品質な風呂敷。クリーム色の落ち着いた上品な色合いで、触ってみると、綿と麻が混じった、厚手のしっかりした生地が心地よいです。全6種類用意されています。
価格が5000円と、展覧会グッズとしてはかなりお値段が張りますが、それもそのはず。グッズ制作担当者の強いこだわりで、京友禅の老舗「岡重」に頼み込んで作ってもらったアイテムなのだそうです!
担当者の方いわく、「儲け度外視で、ほとんど利幅ありません!」とのこと。色々な用途に、長く日常使いできそうです。
ためしに、自宅にあった焼酎の一升瓶を包めるかどうか、やってみました。
ほら、こんな感じでちゃんとできました。かさばる一升瓶も、いい感じで楽々包めてしまいます。厚手の生地なので、割れ物を包んだら衝撃もある程度吸収してくれそう。風呂敷の万能感すごいです。
こだわりの作り込み!『ノートブック』
本展に出展された稀覯本を形どって制作されたレザーブック&ノート。外観は遠目から見ると完全に古い辞書のようです(笑)
持ってみると結構ずっしり重量があって、かなりのページ数が確保されています。ところどころ、今回展示されている稀覯本のイラストも印刷されており、かなり雰囲気出ています。グッズの中では1,2を争う売れ行きのようです。
パンフレットも手を抜かない!『タブロイド』
本展は、会期が短く、商業ベースでの展覧会ではないため、いわゆる「図録」は制作されていません。ですが、展覧会の公式パンフレット的な位置づけとして、2種類のタブロイド紙サイズのパンフレットが用意されました。
紙面では、ガラスケースで展示された稀覯本から、それぞれ数点が大きくクローズアップされ、詳細な解説とともに紹介されています。記念に是非2冊とも抑えちゃいましょう!
秋~冬でも暖かく着れる!オリジナルの『プリントTシャツ』
稀覯本のイラストがプリントされた会場限定の記念Tシャツも、白・黒あわせて6種類が発売中。触ってみると、生地がしっかりしています。担当者いわく、「秋・冬でも暖かく着れるよう、夏用のTシャツよりも少し生地を厚めにしました」とのこと。日常使いしても、かなり長持ちしそうです。価格は2,000円とかなり安いので、これは結構お得かも。
自分で好きなようにデザインできる『ミニトートバッグ』
トートバッグは、2種類用意されていたのですが、そのうち、レジで購入し、購入後に専用のスタンプで、自分オリジナル柄でプリントできるミニトートバッグが面白そう。こんな感じで、専用のスタンプ台で5種類の図柄を選んで、インクをたっぷりつけて転写します。
販売コーナーのお姉さんに聞きましたが、「乾いたらインクはしっかり定着するし、ベタベタしないので、安心して下さい」とのことでした。遊び心のある、よく考えられたグッズでした。是非チャレンジしてみてくださいね!
4.嬉しいことに入場無料・写真撮り放題!
レアな稀覯本や、考え抜かれたインスタレーションに大満足だった本展。学生の発表会展示レベルを遥かに超え、有料でお客さんを呼べるクオリティなのに、なんと驚きの入場無料!開催期間中、気兼ねなく何度も入場できますね。
さらに、驚いたことに、フラッシュ・三脚を使わなければ、写真も撮り放題。これは嬉しい!稀覯本で埋め尽くされたエントランスの書棚や、本の世界に入り込んだような2Fのインスタレーションは、インスタ映え必至ですからね。記念撮影コーナーもちゃんと用意されていますよ。
5.混雑状況と所要時間目安
人が少ない時間帯を狙って、美しい写真をゲットしよう!
過去、大阪展や名古屋展でも、会期後半は口コミで展示の素晴らしさが伝わり、結構にぎわっていました。東京展においても、現状はまだ不快なほどの混雑は見られません。
ただ、今回の東京展では、若い人を中心にネットで爆発的に口コミが広がりました。最終週の3連休あたりは、ひょっとしたら入場待ち行列ができるかもしれません。いい写真を撮るためにもお早めに!!
6.まとめ
どの美術系メディアを見てもほとんど展覧会の事前情報がなく、始まる直前までほぼ全員がノーマークだった本展。フタを開けてみたら、無料の展覧会とは思えないクオリティの高い展示内容やグッズにびっくりでした。本年度最大のダークホース的、掘り出し物展覧会であることは間違いありません。
入場無料ですし、上野近辺で何かのついでのときでも良いので、是非本展を覗いて、稀覯本の世界を楽しんでいってくださいね。展示を頑張った金沢工業大学の学生さんも、喜ぶと思います!
それではまた。
かるび
7.関連書籍・資料などの紹介
超オススメ!竺覚暁「図説 世界を変えた書物」
今回の展覧会を監修した竺覚暁氏が昨年出版した書籍。「世界を変えた書物展」で展示された130冊の大半が収録され、図版・解説が1冊にまとまった、図録代わりになる本です。オールカラーでビジュアル解説が素晴らしく、展示に感銘を受けた人なら絶対オススメできるクオリティ!
全ページカラーで、図版や解説も非常にわかりやすい!
展覧会同様、稀覯本同士の関係性が図示されています
残念ながら、諸事情により会場内での販売はされないようですが、もし置いてあったら飛ぶように売れていたと思います。きっと金沢工業大学の学生は、この本で勉強しているんでしょうね。羨ましい。
池上「世界を変えた10冊の本」
展覧会との直接の関係はありませんが、池上彰が選んだ「世界を変えた10冊」も良い本です。書評や、その書物が書かれた歴史的な背景、意外なエピソードを交えながら紹介されています。「コーラン」「アンネの日記」「沈黙の春」など、文系・理系ジャンルを問わず、古代~現代からバランスよくピックアップされ、池上節で非常に明快に解説されています。池上彰が出版した膨大な書籍群の中でも、トップクラスのクオリティと評判の1冊。稀覯本関連で少し紹介してみました。
展覧会開催情報
「世界を変えた書物展」
上野の森美術館
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