かるび(@karub_imalive)です。
昭和、平成と、50年以上にわたり写真界のトップランナーとして活躍を続ける篠山紀信の入門編としてぴったりな展覧会『篠山紀信展「写真力」』@横浜美術館に行ってきました。
横浜美術館様のご厚意で、プレス枠として会場の写真撮影許可を得て、篠山紀信の記者会見も見ることができました。初心者から目の肥えた愛好家にまで幅広く訴求する、非常に力のある素晴らしい展示でしたので、以下、まとめてみたいと思います。
※記事中の写真は、主催者の許可を得て掲載しています
1.混雑状況と所要時間目安
土日は結構混んでます!ちょうど1月7日の昼12時くらいに行ってきたのですが、こんな感じ。壁一面に超大型の写真が飾られているので、距離を置いて見るならば、この写真のように真ん中に寄って見なくてはなりません。
館内は広いですが、ベストな位置で邪魔されずに鑑賞したい!という人は、土日祝日に行くならば時間をずらして行くことをオススメします!
また、所要時間は1時間あればOKです。ただし、後続で展示されている「横浜美術館コレクション展」がものすごいコンテンツ量なので、全部見るならば、2時間~3時間はほしいところです。
2.篠山紀信展「写真力」とは
「写真力」のコンセプト
最近の篠山紀信は、同時に色々な展覧会で取り上げられることが多くなりました。例えば、2017年1月9日で大好評のうちに閉幕した、女性のヌード全開で魅せた「快楽の館」展@原美術館や、2017年春頃まで開催中の、美術館常設の野外に設置された彫刻作品を撮影・展示した「篠山紀信写真展 KISHIN meets ART」展@彫刻の森美術館など。
その中で、この「写真力」展は、展覧会名が示す通り、篠山紀信の50年以上のキャリアの中で撮り溜めてきた人物写真の中から、特に出来の良い「奇跡」の一枚を厳選して展示する写真展です。
特に有名人を主題に取り上げた人物写真を大判にして展示することで、写真の持つ力を感じてみよう、という試み。美術館という、非日常空間の中で、非常識なほど拡大された大型写真と向き合うことで、「空間力」と「写真力」のせめぎあいが演出されています。
また、篠山紀信本人の強い意向もあり、作品の横に記載されるキャプションは一切ありません。鑑賞者が展示会場内の超大型写真と一人一人向き合うことで、湧き上がってくる思いや感情をじっくりと味わってほしい、という狙いがあるためです。「考えるな、感じろ!」っていう感じですかね。
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写真と向き合うだけで想いが溢れ出る?!「写真力」が初心者にもオススメな理由
美術館での写真展は、現代アート的な側面もあるので、時として非常に難しい展示になりがちです。でも、今回の篠山紀信展はとにかくわかりやすい!
なぜわかりやすいのか?というと、
1.誰でも知っている超有名人や有名な場所の
2.これしかない!というベストショットを
3.インパクト絶大な超大判写真で展示
しているからです。
美術館という特殊な環境の中、あり得ないほど大型に引き伸ばされた写真は、ただそこでじっと見ているだけで、色々な想いが溢れ出てくるのですよね。写真と紐付けられた自分自身の昔の思い出や感情などが、心の奥底から引っ張り出される感じ。
あぁ、これが篠山の言う「写真力」だったんだなぁ、、、と感じられました。非常にはっきりした狙いを持った展覧会だったので、僕みたいな写真初心者でも、十二分に楽しめました。
結果的に、本展は篠山紀信の業績を振り返る「回顧展」としての性格もある
20代の頃から、一流の著名人たちの写真を手がけてきた篠山紀信。展示されたポートレイトは、三島由紀夫、美空ひばり、長嶋茂雄、山口百恵、渥美清、勝新太郎、後藤久美子、AKB48、中村勘三郎、宮沢りえ、松田聖子、羽生結弦など、各時代を代表するような大スターたちばかり。
それらが、テーマ別にセクションに分けられて、一挙に展示されているので、本展覧会はいわば篠山紀信のキャリアをまとめた「回顧展」的な側面もあります。
これまでの篠山ファンだけでなく、これから篠山紀信の写真に触れる人にとっても、非常にわかりやすく整理された「まとめ」的展覧会でもありました。
記者会見の場では、篠山紀信本人はまだまだ生涯現役で活躍中でもあり、今回の展示会はあくまで通過点であるので「回顧展」として見て欲しくない!とは言っていました。その心情もなんとなくわかりますが、これだけ濃いコンテンツが出揃うと、(良い意味で)本人の意図せずとも、その展示内容からキャリアの集大成的な意味合いも自然と感じさせてくれます。居並ぶ大物たちのポートレイトを目の当たりにすると、改めて「すごい写真家だったんだなぁ~」と感じざるを得ませんでした。
3.展覧会の見どころ
本展覧会は、「GOD」「STAR」「SPECTACLE」「BODY」「ACCIDENTS」と、5つのセクションに分けられて展示されています。それぞれ、簡単に内容を紹介していきますね。
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3-1.「GOD」-鬼籍に入られた人々-
美空ひばり、渥美清、大原麗子、きんさんぎんさんなど、国民的人気を博した往年の大スターたちの巨大ポートレイトがまずはお出迎え。個人的には、三島由紀夫が亡くなる前に篠山紀信に撮らせたという2枚の写真が一番気になりました。三島の肉体美、すごかった(笑)
3-2.「STAR」すべての人々に知られる有名人
「GOD」のコーナーを抜けると、現在存命中のスターたちの写真が続きます。これまで篠山紀信が手がけてきた芸能人、文化人、アスリートたちの写真ですが、様々な時代のスターたちが混在しており、篠山紀信のキャリアの厚み、凄さを実感させてくれます。
この中では、リアル世代ではなかったですが、山中湖で撮影したという山口百恵の奇跡的なビキニの写真に惹かれました。
3-3.「SPECTACLE」私たちを異次元に連れ出す夢の世界
続いて、ディズニーランドや歌舞伎の写真など、篠山紀信の得意とする幻想的な「虚構」の世界を手がけた一連の写真群が待っていました。複数台のカメラで撮影し、デジタル処理で横長・パノラマ状の写真を作る篠山紀信独特の技法、「シノラマ」を駆使し、インパクトのある世界観が印象的だったのは後藤久美子の写真。
そして、観客席の最後部から望遠レンズで役者の一瞬の動きを逃さずとらえ、まるで浮世絵のような歌舞伎役者のユニークな表情を写し取った浮世絵シリーズなど、このコーナーも見どころ満載です。
3-4.「BODY」裸の肉体-美とエロスと戦い
ここは、160万冊を売り上げた宮沢りえの伝説のヌード写真集「サンタフェ」からの奇跡の1枚がなんといっても印象的でした。写真集の出版当時、僕はまだ当時小学生でしたが、思わず書店で立ち読みしてしまった思い出が懐かしいです。
エロス・・・というより、その無垢で初々しい表情と肢体からは、脱ぎ捨てられた藍色のローブと合わせ、聖母マリア像のような処女性、純粋さが漂っています。さすが、ヌード写真であるにもかかわらず、公立美術館で展示OKとなっただけあります。
3-5.「ACCIDENTS」-東日本大震災で被災された人々の肖像
最後に、東日本大震災で被災した人たちを、被災現場で撮影したポートレイト写真が締めくくります。被災の爪痕が生々しい現地に乗り込み、現地の人々の当時の表情を見ていると、色々な自分の中の感情が揺り動かされる感じがありました。
4.同時開催の常設コレクション展が最高だった
今回の篠山紀信展に合わせて、同時開催されている「横浜美術館コレクション展」が非常に素晴らしいです。元々、横浜美術館では、公立美術館としては珍しく写真の常設コーナーが設けられ、所蔵する写真が10,000枚以上あったりと、写真についてのコレクションが非常に充実しています。
今回の篠山紀信展に合わせ、横浜美術館発足以来、初めて全館を写真展示で埋め尽くしたそうです。横浜美術館の持つ珠玉の写真コレクションから、実に450枚以上の写真を厳選して展示されており、見どころたっぷりです。
木村伊兵衛 左「月島」右「隅田川」
ザーッと見ていくだけで、日本での写真の歴史や、欧米美術史における写真の位置付け、シュルレアリスムと写真の密接な関係など、非常に勉強になりました。
また、アート的な観点だけでなく、戦前、戦後高度成長期の国内外の社会や都市の記録資料としても非常に興味深い内容でした。アートファン以外にも、写真や歴史愛好家にもものすごく楽しめそうな展示でしたよ。
アンドレアス・ファイニンガー
上「ウィーホーケンから見たマンハッタン中心部」
下「ウィーホーケンから見たマンハッタン川とハドソン川」
★おまけ
松竹のスターだった加賀まりこ(!)
5.まとめ
単純に「資料」「記録」として意図され、丁寧に撮影された昔の写真が、いつの間にかアート的な文脈でも評価されるようになることは往々にしてあることです。篠山紀信自身も、最初から、アートとして美術館に収集されることを目的に写真を撮ってきたわけでは決してありませんでした。
彼の写真は、新聞社や出版社からのオーダーに基づいて、あくまで大衆に向けたエンターテインメントとしてアートではなく「仕事」として撮影されてきたものでした。
記者会見でも、その技術や実績には、本人も業界の第一人者・大御所としての自負を覗かせていましたが、これまで50年以上のキャリアの中で「美術館」に収集されることを目的に撮影した写真はほとんどない、と言っていました。現に、横浜美術館のコレクションでも、篠山紀信の作品は1点も収蔵されていません。
だから、バリバリ商業ベースのカメラマンとして、長年活躍してきた篠山紀信の作品が、結果的にこうして美術館を巡回し、50万人以上が目にするアートなコンテンツとして取り上げられるようになったのは非常に興味深いです。
初心者から、上級者まで幅広く楽しめる非常に良い展覧会でした。関東圏内では、5年前に一度新宿@オペラシティで開催されていますが、新コンテンツもありますし、改めて見てみるのも面白いと思います。
おすすめの展覧会です。是非、足を運んでみてください!
それではまた。
かるび
6.参考資料
「芸術新潮」2012年10月号
2016年1月10日現在、Amazonでも中古で4~5冊の出品しかありませんが、本書の前半部分の篠山紀信特集が、本展について最高の予習/復習になります。「写真力」で出展されている各写真をバックに、篠山紀信によるわかりやすい解説が数十ページ続いています。篠山紀信が、どういう思いで写真と向き合っているか非常によくわかる良コンテンツでした。
なければ、図書館で探してもいいかも。僕も、横浜美術館の図書コーナーでじっくり閲覧させていただきました。(横浜美術館の図書コーナーは充実しててヤバイですね!)
篠山紀信「快楽の館」
2017年1月9日に惜しまれつつ展示が終了してしまいましたが、原美術館で開催されていた壇蜜や、売れっ子モデル、アダルト女優を起用したヌード全開の展覧会。原美術館の敷地内で、ヌードの女性達を幻想的、耽美的に撮り下ろし、虚構的な世界観の中で妖しくも美しい裸体が印象的でした。アートファンからも非常に評価の高かった素晴らしい展示を封入した図録です。「写真力」が気に入ったらこちらもイケると思います!
展覧会開催情報
篠山紀信展「写真力」-THE PEOPLE by KISHIN-
◯開催地
横浜美術館
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
◯最寄り駅
東急みなとみらい駅/JR・東急桜木町駅
◯開館時間・休館日
10時~18時/木曜日休館
◯公式HP
http://kishin-yokohama.com/
◯Twitter
https://twitter.com/yokobi_tweet
◯周辺地図
(引用:横浜美術館HPより)