かるび(@karub_imalive)です。
2017年の春の美術展で、特に印象的だったジャンルが2つあります。
1つは、「茶の湯」。東京国立博物館での「茶の湯」展を始め、首都圏でいくつかまとまって茶道具や茶碗の展覧会が集中して開催されました。6月3日には、池坊専好と千利休の交流を描いた「花戦さ」という映画も公開されますね。
そして、もう一つは「刀剣」に関する展覧会です。「刀剣女子」という言葉を良く耳にするようになりましたが、まさにそれを実感したのが、昨年暮れから今年始めにかけて江戸東京博物館で開催された「戦国時代展」でした。戦国武将にまつわる古文書や武具等が一覧展示された人気展でしたが、目を見張ったのが、「刀剣コーナー」です。戦国時代から伝わる国宝級の太刀、短刀が展示されるコーナーは、人だかりがすごくて、刀剣類を見るためにだけ設置された、順番に並ぶための柵が出来ていたんですよね。
よく見ていると、その柵に並んでいるのは若い女性ばかり。あぁ!これが「刀剣女子」と言われる人たちなんだ!と、刀剣ブームの凄さを目の当たりにしたのです。
そして、刀剣に関する展覧会といえば、先日静嘉堂文庫美術館でも「超・日本刀入門」という、同館が保有している屈指のコレクションが一覧展示された人気の展覧会がありました。僕も最終日に行ったのですが、すごい人だった・・・。
今季はこれで見納めかな?と思っていた所、まだありました。2017年上半期を締めくくる「刀剣」をテーマとしたもう一つの展覧会が、6月1日から泉屋博古館分館でスタートした「名刀礼賛展」です。
今日は、この「名刀礼賛展」の内容について、実際に行ってきた感想を書いてみたいと思います。
※なお、当エントリで掲載した写真は、あらかじめ主催者の許可を得て掲載しています。何卒ご了承ください。
1.「名刀礼賛展」の特徴は?
黒川古文化研究所の所蔵品を東京で一挙展示する展覧会!
今回の「名刀礼賛展」で出品されている刀剣・刀装具は、その大半が西宮市に展示施設がある「黒川古文化研究所」の所蔵品です。泉屋博古館と黒川古文化研究所は、共に東洋の古美術や文化財の収集・研究を手がけているという共通点があります。お互い、得意とする専門分野が似ているので、数年前から連携して展覧会を開催するようになりました。
黒川古文化研究所(西宮市)
(引用:https://hanshin-now.com/store/detail.php?id=10003377)
「黒川古文化研究所」がなぜ「美術館」ではなく「研究所」なのかというと、古美術や古文書などを収集する点では美術館や博物館と共通していたとしても、あくまで民間の研究機関としてありたい、というオーナーの意志があるそうです。
同研究所の歴史は約70年弱と古く、昭和25年10月に、大阪で証券業を営んでいた初代黒川幸七が収集した中国書画、青銅器、刀剣、刀装具、貨幣のコレクションを核として立ち上げられました。現在では、中国・日本の美術工芸品や考古資料など約8500件、2万点に及ぶ収蔵品を保有しています。
刀剣に関しては、約120振ほど所有しているそうです。今回の「名刀礼賛展」には、そのコレクションから国宝・重要文化財数点を含む、厳選された30振りほどが出展されました。
ズラッと並んだ刀剣
驚いたのは、今回展示されているコレクションの大半が、平安時代~戦国時代にかけて作られたものばかりだったこと。どの刀も物凄く手入れが行き届いていて、状態がいいんですよね。鎌倉・室町の日本画なんてたいてい真っ黒に焼けてて何が描かれているのかもわからないものばっかりなので、やっぱり刀剣や陶磁器は経年劣化に強いのだなと思わされました。
陳列されている刀剣類は、長い「太刀」、短い「短刀」まで様々なタイプがありました。中には江戸期になってから、帯刀しやすいように昔の「太刀」を短く切り詰めて加工したものも展示されていました。生活の知恵(?)ですね、、、
でも、正直な話、僕は刀剣がよくわかりません
正直、ここだけの話ですが、僕は刀剣にかなり苦手意識があります(笑)
なんでって、、、全部同じに見えるからですよ!!
「これが国宝の◯◯◯です。」「これが重文指定されている×××で・・・」って説明されても、何が違うのかもわからないし、どう凄いのかもよくわからない!
いや、正確に言うと全部凄いし、昔から大切にされてきた貴重な一品であろうというのはさすがに見ればわかる!・・・でも、鑑賞方法がわからないんですよね。
今回も、穴のあくほど見てみましたが、内覧会に招いていただいて言うのもなんですが、僕の拙い審美眼ではどれが凄くて何が鑑賞のポイントになるのか、見ただけじゃ全くわかりませんでしたOTL
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2.だから研究員さんに色々マメ知識を聞いてみた!
でも、せっかく内覧会に呼んで頂いたのに、何が凄いのかも全く伝えられないのはくやしいので、黒川古文化研究所からいらっしゃった学芸員さんに色々ざっくばらんに質問してみました!結果的に、雑談ぽくなってしまいしたが、個人的には興味深いお話を聞けたと思います。以下、質問と回答をまとめて書いておきますね。
唐突ですが、しばらく、会話形式で本エントリをお楽しみください(笑)
(※筆者=「僕」、学芸員さん=「学」)
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僕:「今回出展されている刀剣って、大半は戦国時代より前のものばかりですよね。でも、なんでこんなに古いのに状態いいんですか?」
学:「そうですね。やっぱりここに展示されているのは一流のものばかりで、昔から大名や武士たちに大切に扱われてきたから状態がいいんです」
僕:「でも、刀剣って江戸時代とかになると、実際に実戦で使う機会ってほとんどなかったですよね?」
学:「だから、江戸時代になると、刀は武器というより祭礼時の贈答品に使われたり、宝飾品などと同じく、家宝として大事に扱われるようになりました。定期的に手入れはしていたのだと思います。また、この刀剣は『金貨何枚』相当であると、刀剣類専門の目利きが鑑定書を作ることもよくありました。江戸時代には、本阿弥家という、代々日本刀の格付けを保証する権威もいたんですよ。彼らの出した鑑定書とセットで贈答されるのが習わしで、そこから『折り紙付き』っていうことばができたんですよ」
本阿弥家が発行した鑑定書
僕:「へぇ~なるほど~。ところで、ここに展示されている刀剣は試し切りとかしたことないんですかねぇ?」
学:「それはわかりません。まぁ人を斬ったら刃こぼれとかすると思いますが、研いで磨き上げ、血糊はしっかり拭き取って保管するので少なくとも表面上はわからないですね。ちなみに、江戸時代でも、試し切りはたまにやったみたいですね」
僕:「え?どうやって?まさかそのへんの人に斬りかかるんですか?」
学:「いえいえ。死罪となった罪人の死体を試し切りするんです。実際に記録が残っている場合もあるんですよ。」
僕:「へ~。でも中には実戦を経験してるアイテムもありますよね?戦国時代のとか・・・」
学:「そうですね。中にはあると思います。ただ、ここに展示している名刀類は、大名や上官たちが持っていた高級品なので、彼らが実戦で使うとしたら、敗色濃厚な戦いの最終局面ですよね(笑)で、負けると大体そういうのは落ち武者狩りなどで散逸していきますから、恐らくは実戦で抜かれる機会は少なかったんだろうと思います」
僕:「なるほど!・・・ところで、非常にゲスい話ですが、ここに展示している刀とかって、今買うと高いんですかねぇ」
学:「うーん、ピンキリだから何ともいえませんけど、少なくとも100万円単位はするでしょうね。」
僕:「・・・ですよね(ため息)。でも、刀剣って国宝とか重要文化財とかって指定されているものと、そうでないものとありますよね」
学:「はい」
太刀 銘 大和則長 作 (13世紀~14世紀/重要文化財)
僕:「正直、どれを見ても同じに見えるんですけど、なんか国宝、重要文化財になった決め手とかってあるんですかねぇ?」
学:「これは指定を受けた時の資料を見ないとなんともいえないですけど、作られた年代や、歴史的な経緯・背景、クオリティの高さなど、いろいろな観点から選ばれるようですね。ただ、刀剣類はすでに国宝や重文がかなり増えているので、しばらくは新たに追加されるケースは少なくなると思います。」
僕:「へー。でもやっぱり最近は刀剣ブームだし、プロ顔負けのすごい刀剣女子とかもいたりするんですか?」
学:「はい、たまにいらっしゃいますよ。遠方から研究所にいらして、専門的な質問を多数いただくことも増えてきました。でも、正直ブームといっても、一過性のものに終わらなければいいと思っているんですよね」
僕:「えっ?それはまたどうしてですか」
学:「実は、刀剣って今ブームにはなってるんですけど、研究者の数が足りているとは言えないんです。」
僕:「えっ、足りてないんですか?学芸員さんの候補者は結構いそうな感じがするのに・・・」
学:「というのも、刀剣に関しては公的な教育機関で、体系立てて学ぶコースが整備されていないんですよね。」
僕:「えっ、じゃあ・・・」
学「はい。実情としては、刀剣類を多く保有している博物館や美術館が、自前で研究員を育成しているっていうのが現状なんです。」
僕:「へ~、なかなか厳しいんですね。」
僕:「じゃあ、これは最後の質問になるんですけど、よろしいですか?」
学:「はい。」
僕:「今回の展覧会って、刀剣だけじゃなくて刀装具もかなりの数出てますよね?」
学:「そうなんです。他の刀剣系の展覧会だと、どうしても刀剣本体の展示がメインで、刀装具はほとんど出ていないことが多いんですよ。当研究所では、刀剣本体だけでなく、刀装具もかなりの点数を保有しているので、今回合わせて出させて頂きました」
刀剣だけでなく、刀装具もかなり出展されている
僕:「刀装具って、今回始めて色々見させていただいたんですけど、かなり細かい手仕事で、いわゆる最近流行りの江戸・明治工芸などの『超絶技巧』の世界に近いですよね?」
学:「はい。まさしくそんな感じです。だから、刀剣と刀装具では全くお客さんの層が違うんですよね。刀剣マニアの人はひたすら刀剣をチェックしていますし、逆にアート好き、工芸好きの人は刀装具には目が行くけど、刀剣本体にはそれほど興味を感じないという・・・。だから、今回の展覧会で、両方共新たな魅力をみつけて、楽しんでいっていただきたいですね。」
学:「そうですね。僕はどっちかといえば刀装具ばっかり目が行ってました(笑)刀剣もしっかり楽しむようにしたいと思います!今日はありがとうございました!」
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結果的に各刀剣の「何が凄いのか」「どこをどう見たらいいのか」という点はちゃんと聞けていないのですが、刀剣を味わうための、いくつかの興味深い背景知識を聞けたので、着実に「刀剣」に対する親しみは湧きました。
もちろん、会場内にはスライドでの刀剣の各パーツの説明や各刀剣の特徴、産地別、時代別の特色など、パネル解説もありますよ。それをじっくり読み込むことで、かなり勉強になります。
充実したパネルでの説明もあります!
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3.充実していた刀装具のコレクション展示
上記でも書きましたが、本展覧会は、刀剣本体だけでなく、刀装具のコレクションが素晴らしかったんですよね。
正直、まだこの分野は勉強不足ですが、刀装具一つとっても、職人芸のディープな世界が広がっていて、改めて江戸時代のの文化的な豊かさを実感させられました。
第二展示室は「刀装具コレクション」がメイン
感覚としては、「根付」や「印鑑」、「自在置物」などの、極小の細密工芸を見ているような感じでした。撮影上、ズームアップしての1点撮り禁止だったので、写真からは少し伝わりづらいところもあると思いますが、見事な江戸職人のプロの仕事を見させて頂けました。
また、「武士が描いた絵画」として、絵画も何点か刀装具コーナーに合わせて展示してありました。5,6点ありましたが、一番気に入ったのは椿椿山の作品でしょうか。
左:椿椿山「野雉臨水図」
右:渡辺崋山「乳狗図」
椿椿山とか渡辺崋山は、武士というよりイメージとしては、ほとんど文化人みたいな感じもします。
左:徳川成脩「牡丹小禽図」
右:関口雪翁「雪中竹図」
左側の徳川成脩は、調べてみると御三家水戸藩の第8代藩主だった人でした。しかし、政治には興味がなかったようで、藩政は譜代の部下に全て丸投げし、文化人として有名な人だったようですね。
昔からこういうタイプのお殿様は結構いますが、文化史に名を残すのは、むしろこういうバカ殿タイプの人の方が多いような気がします(笑)
4.まとめ
今回の展覧会では、黒川古文化研究所が保有する約30振の「刀剣」の優品と、「刀装具」コレクションを心ゆくまで楽しめます。僕は、刀剣については現代アートより苦手意識があったのですが、こうやって色々学芸員さんにざっくばらんに質問したり、様々な逸話を聞きながら見ていくことで少しずつ理解が深まっていくものですね。
希少な「刀剣類」の素晴らしさだけでなく、細密工芸の凄さが体感できる「刀装具コレクション」も見どころ満載の展覧会です。
是非足を運んでみてくださいね。
それではまた。
かるび
展覧会に関連した参考資料
刀装具ワンダーランド
黒川古文化研究所が全面的に協力して制作された、マニアックな刀装具の名品だけを特集した貴重な書籍。日本刀がもはやファッションの一部でしかなくなった江戸時代において、刀装具が、やり過ぎなくらい手をかけた超絶技巧ワールドな職人芸の世界になっていったのもよくわかります。細密工芸好きなアートファンならマストアイテムです!
映画「日本刀ー刀剣の世界ー」
世界広しと言えども、「日本刀」のドキュメンタリーがシネコンで普通にかかるのは日本以外にはないでしょう!60分あまりの短いドキュメンタリーですが、映像で見せられると物凄く勉強になるし、理解が深まります。これも日本刀好きなら絶対に押さえておきたい良コンテンツ!
展覧会開催情報
※「名刀礼賛」展は、巡回の予定はありません。
◯美術館・所在地
泉屋博古館分館
〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5−1
◯最寄り駅
地下鉄南北線 六本木一丁目駅から泉ガーデン内を徒歩2分
◯会期・開館時間・休館日
2017年6月1日~8月4日
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
月曜日休館、ただし7月17日は開館、翌18日休館
◯公式HP
https://www.sen-oku.or.jp/tokyo/program/index.html