かるび(@karub_imalive)です。
ここ最近、西洋美術史の知識が「できる」ビジネスマンに欠かせない教養や知識として脚光を浴びていますよね。木村泰司『西洋美術史』や山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』など、書店のビジネス書コーナーで平積みされるベストセラーも珍しくなくなってきました。
そんな中、今回芸術新聞社から出版された、壺屋めりさんの著書「ルネサンスの世渡り術」。豊富なイラストと軽快な文章で、イタリア・ルネサンス期に活躍した巨匠たちの「仕事」におけるエピソードをユーモアたっぷりに語り尽くした楽しい本です。
一見堅苦しく思える「西洋美術史」がこんなにも面白く読めてしまうのか!という新鮮な驚きと、「アート」と「仕事術」をつなげる着目点に感銘を受けました。購入してから夢中で読み進めました。
さて、そんな中、壺屋めりさんが、僕の尊敬するアートブロガー、Takさんと、ジュンク堂・池袋本店で出版記念の無料トークイベントを実施しました。これは行っておかなければ!ということで、早速行ってまいりました!
写真も沢山撮らせてもらえましたので、簡単ですがイベントの感想レポートを書いてみたいと思います!
さて、トークイベントが行われたのはジュンク堂・池袋本店。ビル1棟がまるごと売り場で、タワー型大型書店の先駆けとなった老舗ですね。
ここに入ったのは高校時代以来約20年ぶり。受験生時代、エスカレーターをひたすら登って、よく8Fの参考書コーナーにせっせと通った思い出があります。
イベントが行われたのは売場最上階となる9Fのイベントスペース。約40名ほど収容できるイベントコーナーは開始時間直前に早々に満席になりました。僕も、写真撮影がしやすそうな最後列に陣取って準備万端です。
トークイベントの登壇者紹介!
トークイベントは、「ルネサンスの世渡り術」を出版された壺屋めりさんと、聞き手役の中村剛士さん(Takさん)の二人が対談形式で進めていく形で行われました。元々古くからTwitterでゆるくつながっていたというお二人。Takさんの軽妙な質問やツッコミに対して、あふれるルネサンス愛でめりさんが答えていく・・・という流れで進んでいきました。
壺屋めりさん
どんな方なのだろう・・・と想像していたのですが、著作や絵柄から受けるイメージとぴったりで、お若くて博識な方でした。現在は東京藝術大学でイタリア・ルネサンス期の美術史が専門の客員研究員を務められ、Twitter(@cari_meli)ではカジュアルなツイートで楽しませてくれます。
壺屋めりさんが特に力を入れて研究しているのがルネサンス期に活躍した美術史家、ヴァザーリです。ヴァザーリの著作「芸術家列伝」は西洋美術史上非常に重要な歴史資料となっています。彼の美術史家としての先進性は、同時代を中心に200人以上の芸術家たちを網羅しただけでなく、彼らの残した小話やエピソードを拾い上げ、芸術家の人間性に迫ったことだと言われます。
Takさん
一アートファンとして、美術界をもっと盛り上げたい!という思いから、主宰ブログ「青い日記帳」では、どんなに忙しい日でも1日1記事書き続ける人気アートブロガー。著書も近著「カフェのある美術館」に続き、2018年8月上旬にはちくま新書からアートの入門書を出版予定とのこと。どんな本なのか楽しみですね~。
「ルネサンスの世渡り術」出版についてのエピソードとは?
クーリエ・ジャポンでの連載が1冊の本になった
本作「ルネサンスの世渡り術」は、壺屋めりさんが2017年1月~2017年12月まで全12回に渡って講談社のWebサイト「クーリエ・ジャポン」で連載したコラムを1冊の書籍にまとめた著作となります。
もともとは、「デキる!!ルネサンスの仕事術」というタイトルで始められたこの連載企画。ダヴィンチ、ミケランジェロといった、イタリア・ルネサンス期に生きた芸術家たちの「仕事術」を面白エピソードとともに紹介するコラムでした。
国内外から凄腕の芸術家たちが集まっていたローマやフィレンツェでは、貴族や教会からの受注競争は熾烈を極めたと言います。仕事を遂行するプロセスでは、「抜け駆け、パクリ、サバ読み、炎上商法、ハッタリ」なんでもアリだったと言います。
めりさんは、これまでイタリア・ルネサンス史を研究してきた中で膨大な資料を読み込んできました。その難解な資料群の中から、これは!というエピソードを選び抜き、全12回の連載を完走したのでした。
「ルネサンスの世渡り術」の面白さとは?
こうして完成した本書の特徴ですが、まず、徹底的に芸術家たちの「人間臭い」エピソードが面白く、そして徹底的にわかりやすく掘り下げられていることです。アートに関する前提知識はゼロでも大丈夫!
めりさんの手にかかると、いかにも聖人君子で完全無欠そうだった教科書によく出てくる巨匠たちも、実に人間臭く、ユーモアたっぷりに泥臭く描かれるのです。作品はパクるわ、すぐに出し抜こうとするわ、ケチだわ、厄介な性格だわで、みんな一癖も二癖もある個性的なキャラクターばかり。
たとえば、第6章をめくってみましょう。あの天才レオナルド・ダ・ヴィンチでさえ、一時期フィレンツェで仕事にあぶれ、ミラノへの移住を決意します。彼は、仕事を探して移住したミラノで、早速ミラノを統治していたルドヴィコ・スフォルツァ(未来のミラノ公)へと謁見します。でも、その時、彼は画家としてのキャリアは全くアピールしませんでした。代わりに、なぜかそれまでやったこともない「軍事・土木」の仕事を全力で「できます!」とアピールしたのです。(意味がわかりません/笑)
ダ・ヴィンチの必死のアピールが奏功したのか、そこでようやく仕事を得たわけですが、雇われた職種は軍事・土木の専門家としてではなく、なぜか「宮廷音楽家」だったという・・・。めちゃくちゃですよね(笑)
今でこそ、後世の鑑賞者は当時の一流芸術家たちの「成果物」である作品を豊かに味わえるわけですが、その作品が生み出されるプロセスには、生々しい競い合いがあったのですね。そして、彼らの面白マル秘エピソードを、いきいきと語るめりさんの文章には本当に引き込まれるものがありました。
そして、めりさんの武器といえば何と言ってもそのイラストの可愛さと面白さ。ラファエロもダヴィンチもまるで女の子みたいな可愛さですが、4コママンガ仕立てのイラストは毒もメリハリも効いてて本当に面白い!
軽快で読ませる文章力と、可愛くて痛快なイラスト。僕もどちらかでいいのでこういった才能が欲しいです(笑)
なぜ講談社から出版されなかったのか?
しかし不思議なのは、「クーリエ・ジャポン」は講談社の運営するWebマガジンなのに、本書は講談社から出版されず、芸術新聞社から出版されたのです。
なぜ、講談社から出版されなかったのでしょうか?
実は、講談社の事業方針によるものだったそうです。講談社からは、よほどのことがなければ「クーリエ・ジャポン」のコラム書籍化は行わないので「もし書籍化を検討したいのであれば、ご自身で別の出版社をあたってください」と連載当初から言われていたとのこと。
そこで、全12回の連載が予定通り終了した時点で、めりさんが「書籍化したい」と匂わせるツイートをしたところ、それを見た芸術新聞社が名乗り出たというのが、書籍化に至る経緯だったとのことです。
連載を射止めた、壺屋めりさんの情熱と行動力
書籍化のプロセスよりも驚いたのが、むしろ書籍化の前段階の話。つまり、壺屋めりさんは、一体どのようにして「クーリエ・ジャポン」での連載の仕事を得ることができたのか?という部分です。
なんと、そのきっかけは、めりさんが手作りで作った展覧会向けの無料の解説小冊子でした。ちょうど2016年には「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち展」、2017年「ティツィアーノとヴェネツィア派展」と、めりさんの大好きなイタリア・ルネサンス期の大型展覧会が開催されました。 (参考に過去記事を貼っておきますね)
ま、普通はこんな感じでせいぜい感想をブログに書いたり、「よかったー」とSNSに上げたりするくらいですよね。
でも、めりさんは違ったのです。
めりさんは「イタリア美術をもっとみんなに知ってほしい!」という純粋な想いから、誰にも頼まれたわけでもないのに、非公式で手作りのイラスト入り解説パンフレットを制作しました。そして、希望者には実費程度の対価にて安価に配布していたというのです。
そして、そのパンフレットを元に、時には有志を集めてゲリラ的にガイドツアーをやってみたり、希望者が誰でも気軽にダウンロードできるように、コンビニのネットプリントで小冊子を無料で印刷出力できるようにしてみたり・・・。
いや、ほんとにすごい情熱ですよね。
試しにちょっとこの2つの小冊子をチェックしてみてください。展覧会終了後、現在は壺屋めりさんのホームページから誰でも無料でPDF形式にてダウンロードできるようになっています。両方とも相当な手がかかっていることがわかります!
こうしたルネサンスLOVEな一途な情熱と、これだけハイクオリティなアウトプットは評判を呼ばないわけがありません。この一連の小冊子が、クーリエ・ジャポンの関係者をして、めりさんに声をかけるに至った決定打となったのでした。
ついにメジャーな美術展での仕事も!
めりさんは「クーリエ・ジャポン」での連載をスタートさせただけでなく、念願だった美術館の仕事も手がけることになりました。それが、2017年、三菱一号館美術館で開催された「レオナルド×ミケランジェロ展」です。こちらもルネサンス盛期に生きた巨匠二人が残した「素描」を扱った渋い展覧会でした。
めりさんは、ここで主に新聞広告を担当されたそうです。金曜日の読売新聞の夕刊TV欄に縦長の広告スペースがあるそうですが、そのスペースに4コマ漫画「本当にあったレオミケ話」を描いて新聞デビューも果たしたのでした。
今日は7月最後の金曜日! レオミケ4コマも最終回となりました。おつきあいいただいてありがとうございました。例によって最初の2コマをどうぞ。このつづきは、読売新聞夕刊か、レオミケ展特設サイトでチェックしてみてね! https://t.co/Vq6CJKbGI0 pic.twitter.com/QS3pqGqWRb
— 壺屋めり (@cari_meli) 2017年7月28日
すごい話ですよね。2つの展覧会でのアウトプットが、Webでの連載、展覧会のPRのお仕事を引き寄せ、その集大成として書籍化までゲットする。まさに個人ライター、クリエイターにとって理想的な流れです。そのベースには人一倍熱い思いと並外れた行動力があったということなんですね。「行動力」と「情熱」大事です。(←自分に言い聞かせている)
即興で、絵を描く実演をしてくれました
さて、そんな壺屋めりさんの経歴やエピソードを一通りお聞きした後、Takさんから唐突に「じゃあ、ちょっとこの場で絵を描いてみてくれますか」と唐突に振られるめりさん。
どうするんだろう、と思っていたら、ちゃんとデスクにはめりさん愛用のタブレット型ノートPC(Microsoft「Surface」)が。あ、ちゃんと進行上の仕込みだったんですね(笑)
それはともかくとして、驚いたのはその手際の良さです。アプリを立ち上げると即興でSurfaceはペンタブレットに早変わり。画面上に表示された描画ソフト上で付属のペンを走らせると、あっという間に書籍でお馴染みのキャラクターが描き上がります。
イラストレーターや漫画家って、丸ペンとか使ってるイメージだったのですが、最近はタブレット一つあれば、どこでも仕事が簡単にできちゃうんですね。完全デジタル製作でイラストを仕上げる過程を見ることができたのは、非常に興味深かったです。
書籍化にあたって工夫したこととは?
さて一連の紆余曲折を経て無事に芸術新聞社から出版されることが決まった本作。実は今でも、その元となった連載自体は、クーリエ・ジャポンに有料課金することで全て読むことができるのです。
しかし、今から読むなら断然書籍がおすすめです。
これはTakさんも指摘されていましたが、やっぱり横書きよりも、書籍の縦書きのほうが読みやすいんですよね。めりさんの文章は非常にわかりやすく読みやすいですが、文章内にはかなりの情報量が詰まっています。だから、読めば読むほど知識も教養も定着していきます。僕もすでに2周読み返しましたが、何度も読むのであれば、やっぱり落ち着く縦書きがベストかなと思いました。
また、Web連載からかなり加筆されているのもポイント。
まず、書籍化にあたって、イラストが大幅追加されました。そして、ミニコラム7本が新たに書き下ろしとして追加されています。さらに、参考となる様々な作品画像も挿入されており、ちょっとした美術館気分でパラパラめくることもできます。
まとめ
かつてご自身のTwitterでは、プロフィール欄に”現代のヴァザーリになる”と宣言されていた壺屋めりさん。見事、芸術新聞社のオファーを射止め、出版にこぎつけたことで、まさに有言実行。ついに「現代のヴァザーリ」になられたのでした。
「生来のオタク体質で、イタリアルネサンスが好きで好きで仕方がない」とトークイベントで仰っていましたが、Takさんの絶妙なファシリテーションもあって、次から次へと話が尽きませんでした。めりさんの圧倒的な知識量と、イタリア・ルネサンスへの深い愛をたっぷり感じることのできたイベントでした。
イベント終了後、著書へのサイン会が行われましたが、イベント参加者のほぼ全員が書籍を購入。サイン会には長蛇の列ができていました。
ネットではすでにアートファンから絶賛されている本書ですが、アートを知らない読者でも、気軽に楽しめる本です。500年前、良い仕事をするために、なりふりかまわず必死で生き抜いたルネサンスの巨匠たち。その世渡り術・仕事術は現代に生きる我々も大いに参考にできるポイントがあります。アートの入門書としても、教養書としてもオススメの1冊でした!
それではまた。
かるび
壺屋めり「ルネサンスの世渡り術」
本書のおすすめポイントは上記に書いたとおりですが、主な登場人物は、ティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼ、デューラー、ダヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ブルネレスキ、ベッリーニなど。イタリア・ルネサンス盛期の巨匠たちはほぼ1回以上登場します!あと、ラファエロやダヴィンチはまるで女の子のようにイラストがかわいい!癒やされます(笑)
Tak「カフェのある美術館」
展覧会で真剣に作品に向き合ったら、結構疲れますよね。終わった後、なんかちょっと休憩したいなぁと思った時、美術館併設のおしゃれなカフェがあるとついつい入りたくなりませんか。本書では、美術館併設の「カフェ」に着目。全国各地の美術館から、優れたカフェやレストランをピックアップして紹介する、日本初の「美術館カフェ本」なのです。
すでに発売されて1年半が経過していますが、未だに堅実に売れ続け、重版を重ねているとのこと。Takさんによると、現在「第2弾」企画が進行中とのこと!これは楽しみですね~。ちなみに本書については、僕も以下の過去記事で感想を書いています。もしよければご覧になってください。