【2017年12月23日最終更新】
かるび(@karub_imalive)です。
僕は伊豆半島への旅行が大好きで、最低でも年に2~3回は伊豆半島各地に日帰り・泊りがけで出かけます。特に、2月下旬の「河津桜まつり」の際は、必ず南伊豆に宿を取って、毎年河津桜を見に行くようにしています。
そして、毎回河津桜を見に行く度に立ち寄っていたのが、知る人ぞ知る南伊豆・下田の美術館「上原近代美術館」「上原仏教美術館」でした。
決して大規模な施設ではなく、こじんまりとした展示スペースなのですが、非常に手入れが行き届いた気持ちのいい展示空間や、意外に侮れない傑作ぞろいの西洋絵画に惹かれ、ついつい時間が30分でもあけば、行きたくなってしまう癒やしスポットなんです。
実はここ最近、何回か行く度にずーっと姉妹施設「上原仏教美術館」が工事で入れなくなっていたので、「あぁ、リニューアルするのかな」と思っていたら、2017年11月、2つの施設が合併し、新たに「上原美術館」としてリニューアルオープンする!という情報が入ってきました。
そんな時、なんと「取材に来ない?」という超ありがたいお誘いを頂いたので、先輩ブロガー諸氏に同行して、中の様子を特別に写真に収めることができました!
さっそくですが、以下、簡単にレビューしたいと思います!
※なお、本エントリで使用した写真は、予め同館の許可を得て撮影させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。
1.上原美術館とは
上原美術館は、伊豆半島の先端部分、南伊豆・下田市の山あいに立つ、閑静な美術館です。地元では有名な「下田達磨大師」境内に隣接する、非常に気持ちのよい空間の中にあります。
大正製薬(株)の3代目社長、上原正吉・小枝夫妻の手によって、まず昭和58年に上原仏教美術館が建設され、次いで平成12年、その長男、昭二氏によって上原近代美術館がオープンしました。
▼上原夫妻の銅像もあります(横にはワシの銅像も!)
その所蔵品のほとんどは、上原一族の保有していたコレクションを核としていますが、特に「旧近代美術館」の約300点にのぼるモネ・ルノワール・ピカソ・マティスなどの近代西洋絵画は、みどころ満載。頻繁に国内各所の企画展へと貸し出すなど、非常に価値の高いコレクションが形成されています。
ちょうど2017年11月3日、この「上原仏教美術館」「上原近代美術館」が、それぞれを管理する財団合併に伴い、新たに「上原美術館」と名称を改めて合併リニューアルされました。これにより、上原仏教美術館は、上原美術館「仏教館」に、上原近代美術館は上原美術館「近代館」へと名称変更されています。
2.リニューアルされた「仏教館」を紹介!
特に、建築後約35年が経過し、やや老朽化が進んでいた「仏教館」は、今回の合併リニューアルに合わせて、建物も改修・増築工事が行われ、中の展示スペースもさらに洗練されました。
まずは、こちらから紹介したいと思います。
受付で入館券を購入して自動ドアをくぐると、東大寺南大門のような、一対の金剛力士像がお出迎えです!
そのまま360度あたりを見回すと、巨大な体育館のスペース用な仏像ギャラリーの中に、ありとあらゆる種類の木彫りの仏像が約130体安置されており、まずこれに圧倒されます。
順番に見ていくと、阿弥陀如来、観音菩薩、五大明王、十六神将、迦楼羅、阿修羅、七福神・・・等々、古今東西あらゆる宗派の仏像が、見本市のように系統別に整理・安置されており、これを丁寧に見ていくだけでも結構勉強になるんですよね。
そして、このギャラリーを抜けると、今回増築・新設された「仏教館展示室」へ行くことができます。その入口の採光が傑作なんですが、真四角に切り取られた天井から自然採光できるよう設計されている窓が、ジェームズ・タレルの作品そっくり!
▼上原美術館の天井窓
▼越後妻有「光の家」(ジェームズ・タレル作品)
なんてセンスがいいんだ!と感心しつつ、展示室に入ります。するとこんな感じで、地元伊豆半島の仏像の銘品を中心に、上原コレクションの中から選りすぐりの品々が絶妙なライティング環境で展示されていました。
▼展示室内の様子
もうちょっと正面に寄っていくと・・・
▼吉田寺「阿弥陀三尊像」
この、展示室奥の正面に鎮座するのが、西伊豆・松崎の吉田寺の本尊として伝わる「阿弥陀三尊像」です。かなりハイレベルな完成度で、伊豆半島らしく、鎌倉幕府と縁の深い慶派仏師(つまり運慶の弟子筋)の作品と見られているようですね。
こんな風に、いろんな角度からじっくりと確認できるのですが、どの角度から見ても、仏像が非常に見やすいように計算され尽くしたライティング技術の凄さに、美術館のこだわりを感じました。
▼吉田寺「毘沙門天像」
こちらも、同じく吉田寺に伝わる「毘沙門天像」。資料によると運慶が残した作品が吉田寺に残る・・・とあるようですが、これが運慶のものかどうかはわからないようです。ただし、作風から見て慶派仏師の手によるものであることは間違いなさそうですね。
▼中阿含経
また、いくつか書の展示もありました。こちらは、奈良時代の「中含阿経」。天平時代、国家事業として写経が盛んに行われましたが、その時に写経されたものだそうです。1,400年前のアイテムとは思えないほど状態が良いのにはびっくりしました。
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3.やっぱり落ち着く!「近代館」の絵画も凄い!
次に近代館へと入ってみましょう。こちらは、展示室はメインとサブを含めて3室で、通常は所蔵品から企画展のテーマによってセレクトされた30~40点程度の近代西洋絵画・日本画、彫刻などが展示されています。
エントランスを入ると、右手が受付で、左手が展示室となっています。彫刻が置いてある突きあたりを右に行くと、休憩室があります。
展示スペースは、こんな感じです。どうですか、清潔で気持ちのいい空間ですよね?いつ行っても、大抵はゆったりと自分のペースで西洋絵画の銘品と向き合うことが出来ますよ。
撮影許可を頂いた作品の中から、いくつか僕の好きな近代館所蔵の作品を紹介しておきますね。
まずはこれ。本作は、1919年、実業家の黒木三次氏が日本人ではじめてジヴェルニーに住むモネと直接交渉し、絵を買い付けることに成功した作品で、日本に渡ったモネ作品の記念すべき第1号と言われています。(松方幸次郎は1921年に接触)
雪の質感が、筆触で見事に表されており、フランス人であるモネが描いた作品なのに、日本の農村のような和風な雰囲気の漂う作品です。
▼クロード・モネ「雪中の家とコルサース山」
続いては、後期印象派・点描で有名なポール・シニャックの若い時の作品。毎回行く度に、色彩感覚の美しさとみずみずしい画面の明るさにしばらくみとれてしまうのですが、この秀作をわずか19歳で描いたというシニャックは凄いと思います!いつかでいいので、スーラとか他の作家抜きで、シニャック単独での大回顧展、どこかやってくれないかなぁ?
▼ポール・シニャック「アニエール・洗濯船」
つづいては、岡鹿之助の「林」!
・・・
・・・
・・・と思ったんですが、こちらは著作権の関係で、載せられません。でも、凄いいい作品で、毎回ココに来る度に、必ずチェックしている作品です。どちらかというと、牧歌的な農村や雪景色の作品が多い岡鹿之助の作品の中で、異端とも言える「険しい雪景色」を描いた作品なのですが、それがいいんです!ぜひ、現物をチェックしてみて下さい!
▼(著作権の都合でモザイクで勘弁してください)
ということで、4番目に好きな作品を挙げておきますね。最後は、アルベール・マルケの作品です。マティスの親友で、フォーヴィスムに分類されることの多い作家ですが、これのどこが??って感じの穏やかな作風。独特の灰色がかった画面や、水面の透明感が素晴らしい!うーん、上原会長とは絵の趣味が合うな^_^;
▼アルベール・マルケ「ヴィレンヌのセーヌ川、朝」
ということで、以上お気に入りの3点+1点を紹介させていただきました!
その他にも、ピカソ・マティス・ルノワール・セザンヌ・ゴッホ・ヴラマンク・ルドンなど、有名作家の作品がたくさん置いてあります。
そして、観終わった後の「近代館」でのお楽しみは、受付奥にある「休憩スペース」からのゆったりとした眺めです。上原美術館では、来客数やその運営規模から、併設のカフェは設けられていないものの、この休憩室で、セルフサービスのコーヒーを飲みながら、ゆっくり休めるようになっています。
▼落ち着いた雰囲気の休憩室
ここの窓際に、ちょっとした庭園が作ってあって、その庭園越しに見える風景もまた癒やされるんですよね・・・
▼窓から見える庭園
いかがでしたでしょうか?
所蔵品、なかなかのクオリティですよね?これが東京や京都、大阪といった大都市ならわかるんですが、伊豆半島の先端部分の下田にて、これだけのコレクションがじっくり見れるなんて本当に贅沢なことだと思います。アート好きの人は、伊豆方面に旅行に行く機会があれば、ぜひセットで検討してみて下さい!
4.混雑状況と所要時間目安
「近代館」「仏教館」ともに、それほど大きな施設ではないので、2館合わせて60分程度見ておけば、十分見て回ることができます。また、混雑の心配は一切ありません!河津桜まつりが開催され、一番下田地区に人が殺到する2月下旬~3月上旬でも、全く問題なくゆったり見て回れます。(逆にR135やR136、伊豆中央道など、美術館までの道路の混雑を気にして下さい^_^;)
▼美術館からお寺の方を撮影
また、美術館を見終わった後は、達磨大師の境内をぐるっと見て回るのも面白いかもしれません。境内の庭には、歴代総理や財界人などが寄付した地蔵が所狭しと鎮座している、ちょっとおもしろいスポットがあります。自民党の重鎮としても活躍した上原正吉氏が、当時如何に政財界で力を持っていたのかわかります^_^;(ちなみに、奥さんも「ゴッドマザー」と呼ばれていたんだとか・・・)
5.まとめ
ここまで見てきたように、リニューアルされて一つになった「上原美術館」は、地方の小規模な個人美術館でありながら、最新施設できっちり運営されている、知る人ぞ知る実力派美術館です。これを機に、もっともっと地元以外からお客さんが来て盛り上がって欲しいなぁと思います!(東京からだったら踊り子乗ってビール飲んでるといつの間にか着いてますし)
それではまた。
かるび
美術館詳細情報
◯美術館・所在地
上原美術館
〒413-0715 静岡県下田市宇土金341
Tel. 0558-28-1228 / Fax. 0558-28-1227
◯アクセス
伊豆急下田駅からバス・タクシーで15分程度
※詳細は、下記HPの案内を参照して下さい。
http://uehara-museum.or.jp/about/access/
◯開館時間・休館日
展覧会会期中は無休
9時30分~17時00分(入場は30分前まで)