【2016年9月4日更新】
かるび(@karub_imalive)です。
8月28日から山種美術館で展示がスタートした展覧会、「浮世絵 六大絵師の競演
―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―」のブロガー内覧会に行ってきました。
美術館や博物館の企画展では、展示開始の直前や当日の閉館後などに、通常のお客さんが入れないマスコミや関係者向けの「内覧会」という特別招待イベントがあります。映画でいうところの「試写会」みたいなものでしょうか。
最近は、各種展覧会でもブログ、Twitter、InstagramなどのSNS経由での口コミ集客がバカにならない影響力があるということで、招待制ではなく、応募可能なブロガー向けの内覧会を開催する展示会が増えてきました。
この、山種美術館も、毎年1年間で5~6展の企画展を実施しますが、そのたびにブロガー向けの内覧会を開催している非常に熱心な美術館です。
今日は、山種美術館で開催されているブロガー向け内覧会の様子を少し書いてみたいと思います。
1.ブロガー内覧会の概要
今回のブロガー内覧会は、美術系ブロガーの大御所「青い日記帳」主宰のTakさん(@taktwi)と山種美術館とのコラボで実現した企画です。展覧会があるたびに、ここ最近は毎回継続して開かれている企画です。
僕も、今回がこれで2回めとなります。前回記事はこちら。
さて、内覧会への応募は、TakさんのTwitterやブログ、または山種美術館の公式HPから告知され、申し込みフォームから応募が可能で、一定の条件を満たす情報発信者なら、誰でも参加できました。
ブログ、Facebook、Twitter、Instagramの個人アカウント(いずれか1つ必須)をお持ちで 「【開館50周年記念特別展】山種コレクション名品選Ⅱ 浮世絵 六大絵師の競演 ―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―」の記事を執筆でき、展覧会紹介記事としてインターネット上に掲載・公開が可能な18歳以上の方。Facebook、Twitter、Instagramは「友達のみ」「自分のみ」の公開は対象外。mixiでの限定公開は不可。本イベント終了後、9月10日(土)までに展覧会紹介記事を執筆・公開が可能な方。
条件を見てみると、非常に敷居が低いのがわかりますね?!
要するに、内覧会イベント終了後、自分が持っているいずれかの媒体で展覧会の感想を拡散すればOKという条件ですので、別にブログをやっていなくても、InstagramやTwitter、Facebookに一言コメントを書いて流せばそれでOKなわけです。事実上、やる気があれば誰にでも開かれている内覧会ということですね。(InstagramがOKでmixiがダメなのは時代の流れですね・・・)
だから、参加者は、老若男女様々な人が来ていました。(失礼な言い方にあたるかもしれないですが)SNSなど到底興味なさそうな感じの裕福な着物の初老のおば(あ)さまなども沢山来ていますから。
2.内覧会に参加するメリット
内覧会といえば、なんとなく業界人ぽい特別感が漂うものですが、そういう雰囲気だけじゃなくて、ブロガーとして実質的なメリットが非常に大きいと感じています。僕の場合は、主に以下の3点でしょうか。
2-1:写真が撮り放題
これが非常に大きいのです。ここ数年は、国立美術館/博物館系の常設展示などで、全部または一部撮影OKである展示物が増えてきてはいますが、やはりまだまだ全面的に撮影禁止であるところが多いのです。(理由は商業上の都合や著作権など色々)
ブロガーの立場からすると、展覧会は一種の取材みたいなもの。読者に対して、美術展の臨場感をより効果的に伝えるには、文章だけでなく、説得力ある現場の展示状況や作品の生写真が絶対にほしいところなのです。
だから、「撮影禁止」だと、あとでレビュー記事を書いていて物足りないのですよね。なんとかネット上から展示品と同一の画像を探し出して、引用として画像を貼って作品を紹介するのですが、それだとリアリティがもうひとつしっかり出せないのですよね。たとえ下手くそな写真でもいいから、「現場」を撮っておきたいのです。
山種美術館の作品でも、通常の企画展においては、基本は撮影禁止となっていますが、内覧会では、撮影自由です。しかも、フラッシュや三脚を使わなければ、ほぼ全作品を撮影し放題という太っ腹。ガラスを傷つけないようにケアすれば、接写や一点撮り(作品のみをクローズアップして撮影すること/通常内覧会でも推奨されないことが多い)もOKだというではありませんか。素晴らしい!
2-2:学芸員さんやゲスト解説者の詳細な解説が聞ける!
山種美術館のブロガー内覧会では、主催者のTakさんを始め、学芸員の方や、ゲスト解説者の方が、実際に作品を見て回りながら詳細な解説をして下さいます。音声ガイドも役に立ちますが、作品を見ながらその場でプロの方に解説やプレゼンをしていただけるのが一番アタマに入り、鑑賞がはかどります。展覧会のキュレーション方針や裏話、展覧会や主要な作品の見所を、プロの方から直に聞けるし、質問も自由にできる、こんな機会はめったに無いですよね。
今回は、ゲスト講師として、国学院大学の浮世絵研究の第一人者である藤沢紫先生に作品を見て回りながら解説していただきました。
そして、終わったら、和菓子をいただきながらスライド付きの講義まで聴かせていただけるなど、なんとも贅沢な内覧会となりました。
2-3:終わった後のお菓子とお茶も美味しい
そして、山種美術館のブロガー内覧会は、お茶菓子付きです。この日は17時スタートで、1時間ほど作品に集中してじっくり頭を使ったところで、ちょうど小腹がすいてきます。そこへ、展覧会のテーマと連動したお茶菓子がサッと出てくるというタイミングの良さ。
今回は、この5種類の和菓子の中から1つ好きな物を選ばせていただきました。
会期中、これらは1Fのカフェで注文できるのですが、上品で、美味しいんですよね。お茶が進みます。ちょうど、今回は和菓子企画の担当の職員さんに聞いたのですが、企画展が始まる半年以上前からアイデア出し~試作を繰り返して綿密に作りこんでいくそうです。毎回、展示会に合わせてお菓子を作り変えるのですから大変だと思います。
3.展覧会のみどころ
今回の展覧会の見どころは、山種美術館の浮世絵コレクションから、一般的に「六大絵師」と言われる江戸時代の代表的な浮世絵絵師をピックアップした浮世絵展示です。このタイトルで、たびたび過去にも他の美術展が企画されてきています。
展覧会のタイトル「浮世絵 六大絵師」春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重とは以下の6名を指しています。短評とともに紹介します。
・春信→鈴木春信(美人画)
錦絵というカラー版画を始めた創始者。
・清長→鳥居清長(美人画)
八頭身の大柄な美人画が特徴
・歌麿→喜多川歌麿(美人画)
大首絵の美人画で一世を風靡。
・写楽→東洲斎写楽(役者絵)
歌舞伎役者を迫力ある「大首絵」で描いた。
・北斎→葛飾北斎(風景画)
富士山の風景画で世界的に有名。
・広重→歌川広重(風景画)
北斎同様、東海道や江戸の風景を情緒的に描いた。
それぞれの絵師には得意ジャンルがあります。今回の展覧会では、浮世絵のジャンルごとに<美人画><役者絵><風景画>と3セクションに分けて展示が進んでいきました。
3-1:美人画
美人画では、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿から数枚ずつの出展でした。鈴木春信の描くのは、かわいい美人画。コミカルで柔らかい表情の男女が魅力的です。
鈴木春信「色子と供」
ちなみに、上記春信の絵が描かれた1767-8年ごろからわずか10年ちょっと下った鳥居清長の代に入ると、浮世絵が6等身→8等身へと急に縦長になります。藤沢先生によると、これは、洋画等からの影響が大きく、急に江戸町人の美意識が変わったことを反映しているのだそうです。先生の深い分析に思わず納得。
鳥居清長「当世遊里美人合 橘妓と若衆」
3-2:役者絵
役者絵は、北斎の師、勝川春章や東洲斎写楽、歌川豊国らが出品されていました。主に、当時のアイドル役者である、歌舞伎俳優のブロマイド的な使われ方をしました。
写楽の大首絵は、小品が多い浮世絵の中ではやはり際立っていますね。写楽の絵は3枚ありますが、うち2枚については、一般の展覧会でも引き続き撮影OKだそうです。
東洲斎写楽「二代目嵐龍蔵の金貨石部金吉」
東洲斎写楽「八代目森田勘弥の駕籠舁鶯の次郎作」
歌川豊国「役者舞台之姿絵 やまとや 初代坂東簑助の早野勘平」
3-3:風景画
風景画コーナーは、ほぼ全部が歌川広重の作品でした。東海道五拾三次全編56枚に、近江八景、名所江戸百景などから数点、あわせて67点の大量出展でありました。今展覧会は、実質「広重展」みたいなものでしょうか。
広重の風景画は、風景自体もダブリがなく、構図の着想も面白いのですが、意外に見逃せないのが登場人物のコミカルで素朴な表情です。作品中に色々な遊びもいれたりして、読者を飽きさせない細かい工夫が面白いのです。
今回、特に気に入った作品を貼っていきますね。
歌川広重 東海道五十三次「掛川・秋葉山遠望」
これをずっとアップで寄ってみると、茶店でくつろいでいるオジサンの表情がなんとも優雅で、ゆるやかに流れる江戸時代の旅の風景に癒やされます・・・
歌川広重 東海道五十三次「大津・走井茶店」
茶店の中の様子が興味深いのです。湧き水のそばのたらいで洗濯する若い衆や、店の女主人と話し込む着物の女など、細かいところがしっかり描かれています。
歌川広重 東海道五十三次「石部・目川の里」
こちらは、旅の一団に注目してみると、何か踊りながら歩いていますね。多分、お伊勢参りかなんかで、「ええじゃないか」踊りを踊っているのでしょう。これも非常にコミカルで気に入りました。
そして、きわめつけがこれ。
歌川広重 東海道五十三次「原・朝之富士」
なんと、よくよく見てみると、浮世絵が長方形ではなく、富士山の頂上部分が飛び出ています。粋な遊びを仕掛けたものだなと感心しました。
最後は、僕の地元の絵を紹介。僕の家は東京都江東区で、隅田川のそばにあるのですが、その関係か、やたらと近所に浮世絵のモデルとなった地形が出てきます。
この絵は、明治時代前までは、単に「大橋」と呼ばれていた、隅田川にかけられた大きな橋です。深川地区と人形町をつないでいました。今は架け替えられ、「新大橋」と呼称が変わりましたが、僕の家から徒歩3分のところで、毎日通勤で通っていました。これ、毎日「聖地巡礼」してるようなもんだよな・・・
歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
よく見ると雨の角度が2種類ありますが、異なる版木を使って2回刷りなおしているそうです。雨足の強さを表現するために、工夫を惜しまない姿勢は素晴らしいです。
3-4:展示の見やすさも注目点
今回の浮世絵展は、1枚1枚の浮世絵に対してピンポイントで光が当たるようにライティングが調整されており、非常に見やすいのです。
写真越しでも、なんとなく絵画本体がマイルドにライトアップされているのがわかるでしょうか?小ぶりな絵が多く、見づらいことが多いので、これは助かります。状態が良い作品が多いだけに、これは嬉しい工夫でした。
4.まとめ
質・量ともに充実している山種コレクションの凄さは、前回展の江戸絵画特集の時にも思い知りましたが、今回も所蔵品のクオリティが高くて感嘆しました。また、細かいところまで鑑賞者の気持ちを汲んだ細やかな心遣いも素晴らしいです。ブロガー内覧会の開催をはじめ、展示と連動した和菓子があったり、全展示に音声ガイドが用意されている点も丁寧で良いと思います。
浮世絵の入門編にも良い展覧会でした。会期が短いので、興味がある方は是非お早めに!それではまた。
かるび
展覧会詳細情報
展覧会名:
【開館50周年記念特別展】
山種コレクション名品選Ⅱ
浮世絵 六大絵師の競演
―春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重―
会期:2016年8月27日(日)~9月29日(日)
会場:山種美術館
公式HP:http://www.yamatane-museum.jp/
アクセス:http://www.yamatane-museum.jp/access/