【2016年11月15日更新】
かるび(@karub_imalive)です。
10月18日から三菱一号館美術館で開催されている、「拝啓ルノワール先生-梅原龍三郎に息づく師の教え」展に行ってきました。ちょうど、ラッキーなことにブロガー内覧会に招待頂けましたので、写真も交えながら、以下感想を書いてみたいと思います。
※記事中の写真は、主催者の許可を得て記載しています
1.混雑状況と所要時間目安
今のところ、土日含めて混雑はしていないようです。ただし、会館は広くはないので、混雑すると若干息苦しい時間帯があるかも。所要時間は60分~90分程度あればOKでしょう。音声ガイドも借りてじっくり見るなら2時間もあればOKだと思います。
2.展覧会の趣旨
本展は、「拝啓 ルノワール先生」とありますが、主役は昭和の巨匠、日本人洋画家の梅原龍三郎です。梅原龍三郎は、ルノワールをはじめ、パリ画壇の西洋画家の巨匠たちと交流があり、また、裕福になってからは自分自身でも作品の収集を積極的に行いました。
本展覧会は、特にルノワールを中心に、梅原龍三郎の西洋画家たちとの交流を振り返りながら、梅原自身の作風の変遷や、彼に影響を与え、彼が買い付けた西洋画家の巨匠たちの作品を鑑賞できる、面白い趣旨の展覧会です。
梅原の作品も勿論ですが、ルノワール、ピカソ、ルオー、セザンヌなどの作品もかなり展示されているので、近代西洋画のファンには見どころ満載の展覧会なのではないでしょうか?
3.梅原龍三郎について
(1952年当時/Wikipediaより)
梅原龍三郎(1888-1986)は、明治~昭和末期まで活躍した日本を代表する西洋画家の一人です。1908年、自身の西洋画のレベルアップを図るため、船で60日間かけてパリへ留学しました。昔の留学は大変ですね・・・。
持ち前の行動力を活かし、ダメ元で1909年2月、ルノワールの南仏カーニュのアトリエをアポなし訪問。奥さんの面接を突破し、そこでルノワールに弟子入りを願い出て許されました。40歳以上の年齢差もあり、四六時中一緒にいるような濃厚な師弟というよりは、たびたび会って作品を批評してもらったり、たまに時間を過ごしてインスピレーションを得るような関係だったようです。
本展覧会では、ルノワールとの書簡も展示されていますよ。
ルノワールとの書簡
その後、留学末期にはパリにてセザンヌに浮気し会い、2度めの渡欧ではピカソ、ルオーなどとも交流するなど、当時の西洋画の巨匠たちと次々と交友範囲を広げる中、自らの作風を確立していきます。
初期の作品「パリー女」「少女アニーン」
初期の代表作「黄金の首飾り」
この時期は、まだルノワールに心酔しきった印象派のフォロワー的な画風であり、特に「黄金の首飾り」は異様な体格、裸婦の顔つきがルノワールの作風によく似ています。
留学時代、中期以降は作風を大胆に変化させていき、徐々にルノワールと画風は変わっていきますが、梅原のルノワールに対するリスペクトは変わらず、たびたびルノワールの作品と同じ構図・画題の作品を遺しています。
本展覧会では、そういった例が何点か示されていました。例えば、ルノワール晩年の作品「パリスの審判」へのオマージュです。
梅原龍三郎「パリスの審判」
ルノワール「パリスの審判」
梅原版に一人足りないようですが、構図が全く一緒ですね。それにしても、晩年のルノワールも相当時代の流れに乗って画風が変化してきていますよね。
4.展覧会の見どころ
4-1.画家として大成功した梅原龍三郎の財力と幸せなキャリア
国内外を問わず、21世紀現在、「巨匠」「オールドマスター」などと言われ、作品が高値で取引されるような名だたる西洋画家であっても、若い時からリッチで幸せな画家生活を送ることができた作家は、実は非常に少ないのです。(パッと思いつきのではピカソやダリくらい・・・)
生前は絵が1枚も売れなかったゴッホや、死ぬまで貧乏生活を送ったモディリアーニや、時代が追いついてくるまで、中年期まで貧しかった印象派画家達など、有名画家の貧乏エピソードはそこら中にありふれています。
そんな中、存命中から大成功した数少ない画家が、梅原龍三郎です。彼は、2度の留学から帰国すると、必ずしも黒田清輝直系の主流的な作風ではなかったにせよ、その独自の画風が高く評価され、ぐんぐん日本における評価を上げていきました。若くして、お金のことなど全く考えずに生活できるレベルに到達しています。
壮年期以降は、政財界トップや芸能界、文壇の大物と交流も深く、カンヌやローマ、北京、ハワイなどへの海外旅行もしょっちゅう楽しんでいました。そのあたりのエピソードは、長年、家族同然の親密な付き合いがあった(愛人ではありません/笑)昭和の大女優、高峰秀子が梅原との交遊録を綴ったエッセイを読むとよくわかります。
もう、読み進めると、梅原のゴージャスな生活ぶりに、ため息しか出ません。面白いので、ぜひ手にとってみて下さい。(美術館の図書コーナーにも1冊置いてありました)
そんな梅原が注力したのが、自身が大好きなルノワールやピカソを中心とした、西洋画の買い付けです。日本の西洋画壇や美術教育の啓蒙も兼ねて、つぎつぎ購入した作品を自ら楽しみつつ、美術館に気前よく寄付するなどして、日本の美術界に大きく貢献しました。
今回の展覧会でも、梅原が購入し、収集した作品群がたくさん飾ってあります。
絵画だけでなく、ギリシャの古代美術品「キュクラデス像」まであります。大胆に人体をデフォルメし、美しく抽象化された独特の人形の像から、作品へのインスピレーションを感じていたのでしょうか?
他にも、ルオーやピカソ、ドガなどがあるのですが、写真撮影禁止となっていましたので、ぜひ会場で彼らの作品群を見つけてみて下さい。
4-2.結局梅原龍三郎に一番影響を与えた画家は誰だったのか
1960年代~70年代の晩年の作品を見ると、僕の個人的な印象としては、ルノワールをベースに、ルオー、セザンヌ、ピカソをブレンドして、フォーヴィスムのフィルターをさっと通したような作風という印象があります。
梅原龍三郎のブロガー内覧会に行ってきた。梅原の作風って、日本洋画の中では個性が際立っているしわかりやすいだしで大好きなんだけど、誤解を恐れず直感で言うと、(ルノワール+セザンヌ+ルオー+ピカソ)➗4って感じ。/あと、展示内容もいいけど、今回は図録の解説が平易かつマニアックでいい!
— かるび@あいむあらいぶ (@karub_imalive) October 20, 2016
梅原が影響を受けた西洋の巨匠たちの特徴がよく出た作品が展示されていますので、ぜひそれらの作品から梅原のルーツとなった作家は誰だったのか、確認しながら作品を見ていくのも面白いですよ。
4-3.今回は図録がすごくおすすめ
今展覧会では、梅原龍三郎のルノワールとの関係を非常に深掘りしていますが、展覧会で書ききれなかった部分が、余すことなく図録に収録されています。これでもかといわんばかりのマニアックな調査分析には、ただただ頭が下がりました。
図録中で特に興味深かったのは、梅原が帰国する昭和初期前は、日本でのルノワールの評価はかなり低かったということ。(時代遅れという文脈で)
たとえば、1913年10月号の「現代の洋画」にて、岸田劉生の「ルノアールがどんなに美しくとも、ゴーガンがどんなに詩的でも、自分は唾をかけて捨てる。」という発言は本当にびっくりですし、その他、当時の最先端の画家たちの評価も低めだったようです。
しかし、梅原が2度めの留学から帰国し、作品の評価が上がるにつれて、梅原のルーツであり、常日頃から絶賛していたルノワールの評価もうなぎ登りになっていきました。現在、ルノワールが最もポピュラーな印象画家の1人として一般に認知されているのは、まさに梅原の啓蒙活動や影響力の賜物なのだな、とわかりました。
図録、ヤバいですよ。梅原ファンは必携の良い出来です。
5.その他、展覧会で気になった展示一覧
5-1.梅原龍三郎のパレット
色彩の魔術師と言われただけあり、さまざまな色を駆使して画面を彩った梅原のパレットです。まんべんなく絵の具をパレットに置いて使っていたんですね。
5-2.「横臥裸婦」
ルノワールの作品より構図を流用して描かれた初期の力作。梅原版「青の時代」とでもいうべき力作で、見ごたえがありました。
6.まとめ
昭和の大画家として、お金の心配もなく、家族や友人にも恵まれ、亡くなるまで幸せな画家としてのキャリアを歩んだ梅原龍三郎。その独特であざやかな色彩感覚には、ネガティブな悲壮感はありませんし、力強く前向きな印象を受けます。
師匠と仰いだルノワールからは、画風こそ直接継承はしていませんが、前向きでポジティブな作風のエッセンスは受け継いでいるのかな、と感じました。
梅原龍三郎のルーツや、彼の収集したコレクションをまとめて見ることのできる良い機会です。ぜひ足を運んでみて下さい。
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
本展覧会は、東京展のあと、大阪「あべのハルカス美術館」へと巡回します。
展覧会名:「拝啓 ルノワール先生-梅原龍三郎に息づく師の教え」
※大阪展では、「拝啓 ルノワール先生-梅原龍三郎が出会った西洋美術」と、タイトルが若干変更になっています。
会期:
【東京】2016年10月19日~2017年1月9日
【大阪】2017年1月24日~2017年3月26日
会場:
東京:三菱一号館美術館
大阪:あべのハルカス美術館
公式HP:http://mimt.jp/renoirumehara/
Twitter:https://twitter.com/ichigokan_pr?lang=ja
参考図書
今回の展覧会の元ネタとも言うべき本が、数年前に出版されていました。題して「ルノワールと梅原龍三郎」。もう、本展覧会のテーマそのものであります。著者の嶋田華子さんは、梅原龍三郎のひ孫にあたるそうで、11月15日には今回の展覧会の特別講演会イベントも担当されています。