2016/7/13更新
かるび(@karub_imalive)です。
東京都美術館での狂騒の若冲展が終わって、「ポンピドゥー・センター傑作展」が始まりました。早速初日に行ってきましたので、その感想を書いてみたいと思います。
(※6000字近い長文です。忙しい方は、絵と赤い太字部分だけ見て頂ければわかるようにしました)
- 0.僕の現代アートとの長い戦い(笑)
- 1.混雑状況と所要時間目安
- 2.ポンピドゥー・センターについて
- 3.展示会のコンセプトと秀逸な展示方法
- 4.気に入った作品たち
- 5.現代アートとの戦いには敗れたが、勝負はこれからだ!
- 6.まとめ
- おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの
0.僕の現代アートとの長い戦い(笑)
去年くらいから、頻繁に美術展に行くようになりました。学びのためにも、そのアウトプットとして、ブログで美術展レポートをアップしています。
僕は美術展についてはわりと雑食系です。西洋美術、日本美術、絵画だけでなく彫刻、陶器、その他美術じゃなくても展示会ならガツガツ行くようにしています。仕事してないし
その中で、一番苦手としている、というか、興味はあるんだけど、自分の中で一番消化不良になっているのが、20世紀以降のいわゆる近代以降のモダン・アートだったり、現代美術だったり。(以下、本稿では『現代アート』と統一)
食わず嫌いじゃないんですよね。食ってもわからない、消化不良のような感じです。
意味不明なまで高度に抽象化された絵画や彫刻だったり、ビデオや映像、音や光など、なんでもありのインスタレーションなどを目の前にしても、まず何がいいたいのかさっぱりわからない。
なんでわからないかっていうと、まぁ一つは感受性が足りないのかなっていうのもあるんですが、一番大きな要因は、それらを味わうための事前知識不足なのかなって思っています。現代アートとは何なのか。なぜ中世までは写実的だった具象絵画が、印象派以降、加速度的に画風が崩れ、なんでもありの混沌とした現代アートへ変わっていってしまったのか。そのあたりの歴史的な背景や知識といったところが足りていませんでした。
今回のポンピドゥー・センター展は、近現代アートの巨匠たちの代表作品が、一同に会するという話なので、「よっしゃ、今回こそ現代アートを理解したる!」という強い意気込みで臨んでまいりました。
公式サイト。明日初日だから行ってくる。現代アートとの厳しい戦いになりそうだ・・・ / “ポンピドゥー・センター傑作展” (3 users) https://t.co/remnPhwu2a
— かるび@あいむあらいぶ (@karub_imalive) 2016年6月10日
と、いうことで、果たして僕の現代アートとの戦いは、どうなったか。それは最後の結論の所に書きますね。
1.混雑状況と所要時間目安
僕が行ったのは、開催初日の6月11日(土)11時頃でした。若冲展はいったいなんだったんだっていうくらい空いています。快適でした。
やっぱりテーマが近現代アートだと、人出はこんなものなのでしょうかね。
所要時間に関しては、作品数総数が70点ちょっとなので、サラッと見れば1時間ちょっとでいけると思います。特に後半は意味不明なの多いし僕は、結局2時間15分かかりました。
2.ポンピドゥー・センターについて
今回の、「ポンピドゥー・センター傑作展」の、”ポンピドゥー・センター”とは、1977年にパリ郊外に建設された、フランスの国家をかけた現代芸術の総合展示施設です。長らく文化・芸術の中心地だったパリは、第二次世界大戦で国土が荒廃し、フランスの国力が大きく落ちたことをきっかけに、徐々にニューヨークにその座を明け渡していってしまいます。
そんな状況をなんとか打開しようと、現代芸術が大好きだった第19代フランス大統領、ジョルジュ・ポンピドゥーは、自らの提案で、パリに近現代芸術の象徴となるような新たな総合施設を作ろう!と提唱しました。
うん、なんかいかにも戦後すぐの大物政治家って感じですね。タバコが板についてます。それで、そのポンピドゥー大統領の提案が受け入れられ、1977年に出来上がりました。こちらの写真です。
出来上がった施設には、リスペクトの意味も込めて、ポンピドゥー氏の名前が冠されることとなりました。パッと見て思うんですが、これ、フジテレビ本社ビルの側面にどことなく似てません?
特に、外壁に取り付けられたチューブ状のエスカレーターは、絶対オマージュだと思うのですが。ちなみに、フジテレビの本社ビルを設計したのは、日本が世界に誇る丹下健三です。どうですか?ちょっと似てますかね。
(引用:http://tokyo-esca.com/esca/2009/09/029.html)
3.展示会のコンセプトと秀逸な展示方法
今回の展示は、フランスの近現代アートの象徴的な存在である「ポンピドゥー・センター」内の国立近代美術館に収蔵されている名品が、時系列で一挙に紹介されるコレクション展です。
一番の特徴は、歴史的な流れが強く意識された展示となっていることです。フォーヴィスムが台頭し、モダン・アートが本格的にスタートした象徴でもある1906年から、同センターが開館した1977年までの72年間で、「1年、1作家、1作品」を紹介するという明快なコンセプトが打ち出されました。
これに合わせ、展示スペースも効果的に時系列でのフランスの現代アートの歴史をより直感的に俯瞰できるよう、工夫されています。一般的に、「ホワイト・キューブ」と言われる美術館の標準的な白い壁で仕切られた四角形型の展示スペースの部屋を順番に回る形ではなく、一度にたくさんの絵を一望・俯瞰できるように、動線も短く効率的になるように設計されていました。
特に、一番展示物のバラエティが広がる現代アートの展示が中心となった最上階の2Fは、部屋の中心で360度芸術作品をぐるっと時計回りに見渡せるような工夫がされており、飽きの来ないよい展示でした。前回の若冲展の「動植綵絵」を一望できたような感じです。
オフィシャルHPでも事前にダウンロードできますが、こんな感じです。
(引用:作品リストより)
4.気に入った作品たち
見て回った中で、「おぉこれは!」と思った作品や、これだけはしっかり見ておきたい!という作品を幾つかピックアップしてみますね。*1
4-1.デュフィ『旗で飾られた通り』(1906)
展示冒頭の1作品目でお出迎えしてくれる作品。印象派を乗り越え、より一層大胆になった筆使い・構図、自由な色使いが特徴のフォーヴィスム時代のスタートを予感させる一枚です。現代アートの幕開けを感じさせるとともに、画面を大きく占めるフランス国旗が目立つこの作品を1枚目の展示に持ってきたところに、ポンピドゥ・センターの意地とプライドを感じました。
4-2.デュシャン『自転車の車輪』(1913)
まずモダン・アートを学び始めた時に、必ず出てくる巨匠の作品が早くも1913年にお目見えです。出来合いの男性用小便器にサインしただけのブツを「アート」として出展し、現代アートの神となったデュシャンですが、その前身的作品として制作された作品。
デュシャンは、身の回りのある出来合いの工業製品なども、充分アートとして成り立つんだ、と「レディ・メイド」というコンセプトを現代美術に持ち込み、「アート」の再定義を強力に提案しました。デザインうんぬんじゃなくて、近現代アートの歴史的な金字塔的作品として、間近で見れてよかった。
4-3.ブレッソン『サン=ラザール駅裏』(1932)
20世紀では、リアルな表現分野では絵画に代わって完全に主役となった「写真」ですが、その写真がアートとして広く認識されるきっかけとなった、教科書的名作です。絵画のような緻密な構図で、決定的な一瞬を逃さず収めた写真は、まさに奇跡の一枚。プロ・アマを問わず、世界中の写真家に影響を衝撃を与えたといいます。実物は、意外と小さかったな~。
4-4.マティス『大きな赤い室内』(1948)
画面真っ赤です(笑)マティスには良くある絵画なのですが、色使いが全く現実を反映していないという・・・。同世代のブラックやピカソなどが、流行に沿って大きく作風を変化させる中、晩年までそれなりに一貫性を持った画風で徹しました。(途中切り絵に走ったけど・・・)
マティスが何であんなに評価されているのか全く理解もできなかったのですが、実は先日息子の宿題を見てる時にこんなことがあって・・・
現代アートの意味のわからなさについて、もう近代のフォーヴィスムやキュビスムからサッパリ理解ができなくて困ってたんだけど、たまたま昨日小1の子供のぬりえの宿題で、子供が建物がありとあらゆる原色で自由奔放に塗ったのを見て、あぁ、そういうことなのか。とマティスがなぜああなのかわかった。
— かるび@あいむあらいぶ (@karub_imalive) 2016年6月14日
マティスは、画家としてのキャリアを積み重ね、画風を試行錯誤する中で、敢えて子供のような感性で常識にとらわれず自由な色彩で描くことで、その独特の魅力を獲得することに成功したんだろうなって。マティスの絵について、1/100くらい理解が進んだ気がしました。
4-5.ピカソ『ミューズ』(1935)
ピカソは、比較的写実的な絵から、印象派的なタッチ、そして前衛的なキュビズムまで、ありとあらゆる作風を試し続け、常に流行の最先端で評価された人でした。この作品は、あの有名な「ゲルニカ」を描くちょっと前に描かれた作品です。
どこからどう見ても「ピカソ」ってわかるのがもう素直に凄いと思うわけですが、この後に並んでいる抽象的な絵画や彫刻群に比べたら、まだピカソの絵が常識的で、かわいく見えてくるのが現代アートの恐ろしいところかと(笑)
4-6.ジャコメッティ「ヴェネツィアの女 Ⅴ」(1956)
とにかく色々なところで無意識的に目にした経験が多いと思われるジャコメッティの彫刻ですが、その最大の特徴は、大きく縦に引き延ばされた作風の彫刻です。
ただ、当時アートシーンこそニューヨークの後塵を廃していたパリですが、現代思想分野では、サルトル、ストロース、レヴィナスなど、連綿とワールドクラスの人材を輩出し続けました。この彫刻は、美しさというより、時代の最先端の思潮にフィットしたため、そのコンセプトが高く評価されました。特に、本作品は「実存的な生き方を反映した」と巨匠サルトルに大絶賛されました。どう反映してるかって?うーん、それは・・・(汗)
4-7.アガム「ダブル・メタモルフォーゼⅢ」(1968)
色々な方向から見ると、絵柄が変化する面白い作品。前から、右から、左から見て、全部印象が変わります。錯視や動きを取り入れ、鑑賞者に積極的に作品へ向き合わせるキネティック・アートの力作として、コンセプト的にも見た目的にも面白い作品。
こういう、子供でも直感的に楽しめる現代アート作品はある意味ホッとします。コンセプトはよくわからなくても、最低限楽しめるので。
5.現代アートとの戦いには敗れたが、勝負はこれからだ!
上記の通り、数カ月前に挑んだ村上隆のコレクション展に行った際は、完敗を喫したのですが、あれから5か月。ちょこちょこ学習を重ねる中で、(というか感覚がマヒする中で)、ピカソ位ならもう普通じゃね?的な感じになってきました。ピカソの絵って、なんだかんだで描いている対象物が認識できますからね。
今回の展示会は、特に1945年以降の作品群はやっぱり事前知識なしで理解するのは難しかった。やはり戦後、具象絵画から抽象絵画、また写真、映像、インスタレーションと、アートの幅が急速に広がり、方向性が拡散していく中で、自分自身が知識を押さえきれてない感じ。そういう意味では今回も完敗でした。まだまだ勉強がたらんなーという感じです。
6.まとめ
現代アート界で、日本人で一番商業的に成功している村上隆は、ハッキリと「現代アートは文脈を理解してないと作れないし、楽しめない」その著作の中で繰り返し語っています。
現代アートを何の知識もなくいきなり見に行ったとしても、なかなか単純な「美しさ」は感じられないかもしれません。そもそも、もう「美術」という概念ではなく、「アート」という作家の純粋な自己表現なわけですよね。
それでも、良い作品からは、見たこともない目新しさや斬新さがびしびし感じられることもあります。その中で、気になった作品を作った作家の感性やコンセプトを少しでも共有できれば、現代アートの入り口に立った、ってことでいいんじゃないかなぁと思っています。
現代アートは敷居が高いのは確かです。でも、一番面白い分野でもあると思うんですよね。今回の、この「ポンピドゥー・センター傑作展」は、ちょうど西洋美術が、モダンアートへと一歩踏み出したスタート地点から、現代アートへと進化していくまでのめまぐるしい変化を、パリの美術シーンを通して俯瞰して学べるすごく良い展示会でした。おすすめ!
おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの
今回のポンピドゥー・センター傑作展は、手ぶらで行ってももちろんいいのですが、できれば前後に背景知識を入れておけば、より楽しめると思います。いくつか、資料としてよかったものを紹介しますね。
藤田氏の現代アートの説明は、非常に分かりやすく、でも情報量はかなりの量です。僕も、最初この本を2回図書館で借りて読んでから、更に読み返すためにamazonで新品を1冊購入して手元においています。マティス、ピカソから現代アートの巨匠に至るまで、20世紀の現代アートの流れを美術史に沿って網羅してじっくり解説した良本。入門書としてイチオシ。
この6/15号で、ポンピドゥー・センター傑作展とタイアップした現代アートの解説特集が読めます。僕は、これを前日に2回読み込んで展示会へ出かけました。事前予習には最適なほどよくまとまっていました。
マティスさんのキャリア後半の「切り絵」時代を中心に、ミッフィーがマティスさんのマスターピース達を解説します。・・・というか何の解説にもなってないんですが、肩肘張らずにアートを楽しんだらいいんじゃない?って思えるようになる、心あたたまる絵本です。子供向けの絵本は全くバカにできないのです。
それではまた。
かるび
*1:画像引用は一部を除いて全て東京都美術館のオフィシャルサイトからとなっています。