あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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新卒採用では、なぜ学歴偏重がなくならないのか?採用担当の立場で考える

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かるび(@karub_imalive)です。

最近すっかり雑記オンリーになってきたこのブログですが、今日の朝、たまたまFacebookで回ってきたこの記事を見て、久々に就職・採用についての記事を書こうかと思い立ちました。

かるびも(もうすぐ退職するけど)採用担当になって10年経ちました。現会社での採用戦略を立案する際に、新卒採用については採用ターゲットを定めて採用活動を行っています。

いわゆる一般論として、「これはけしからんな!」ってことではなく、企業の中の採用担当の目線から、なぜ学歴重視の新卒採用をやめることが難しいのか、少し説明してみたいと思います。もし読者の中に、これから就活を始める学生さんがいたら、少しハードな内容になりますが、ご容赦ください。

実力主義なのは入社してからの話

そうなんです。一旦会社に入って仕事を始めてみれば、大手も中小も昔ほど学歴が偏重されることはなくなってきています。東大、早慶を出ようと、使えない奴は使えない。最終的に実力で重要ポストへ登用される機運が高まってきていますね。そうでないとこれからの時代、生き残っていけないですから。

だけど、実力主義なのはあくまで入社後の話。入社前は、完全に学歴偏重とターゲット大学を目的とした採用活動が今もなお盛んなわけです。

中途採用では学歴はあまり関係がない

一部の会社を除き、中途採用は実力主義であり、あまり学歴は関係ない会社が多いです。中途の採用選考で一番重視されるのはなんといってもそれまでの業務経験やスキル。その業界・会社で今日から即戦力となれる専門性やスキル、能力を持っているかどうかが大事なのであって、学歴は二の次なのです。

ではなぜ新卒採用だけ学歴フィルターが猛威を振るうのか

これには、採用担当から見ても幾つかそうならざるを得ない理由があるんです。

理由①:新卒採用偏差値の他に有効な判断基準が設定しづらい

やや乱暴な表現ですが新卒採用は、ギャンブルに近いのです。

中途採用では、それまでの業務経験をチェックし、面接で検証すれば、ほぼ十中八九予想通りのスペックの人材が採用できます。精度が高い。

対して、新卒採用は、あれこれと採用基準や採用手法を工夫してみても、正直なところ、将来一括採用した中から誰が伸びてくるのか、さっぱりわからない。過去、コンピテンシー採用をはじめ、色々な手法が編み出されてきましたが、採用時点での見立てと、その後の活躍がなかなかリンクしないのです。

良さそうなやつだな!これはいい!と思った期待の社員が伸びずにあっさり退社したり、逆に当初採用した時はもう一つでも、何年か経過した時に一気に頭角を現してきたりとか。

特に、男性の採用は難しいです。これは専門職的要素が強いシステム開発業界だけかもしれませんが、男子は30歳ごろまで鳴かず飛ばずでも、30過ぎに自覚が備わり、人並みにコミュニケーション能力がついたところで、一気に芽が出てくる人も結構います

だから、誰を採ればいいのか、現場での面接だけじゃわからないのが現状です。そうなると、最終的には消極的ですが偏差値とかで判断するしかないわけですね。

理由②:上司が学歴偏重主義の場合が結構ある

企業の採用担当って、採用基準の立案や採用活動での最終的な意思決定は、自分ひとりでできるわけじゃないんです。必ず、上司たる人事部長や、役員クラスのお伺いを立てながら採用戦略を考えなきゃいけない。

いくらやる気のある若い採用担当が、実力本位の採用手法を取り入れようと思っていても、上司である最終意思決定者は、皮肉にも学歴社会を勝ち抜いてきた有名大学卒のおじさんだったりします。そんなおじさんは、口を開けば「今年は早慶で◯✕人採っておきたいよなぁ」などと言うわけで、彼らの意向を完全に無視できるわけじゃありません。

結局、採用担当も、サラリーマンなわけです。上司の意向を踏まえて、学歴フィルターを設定せざるを得ない場合が結構あるのです。不毛ですけどね。

理由③:現場の肌感覚でも、上位大学のほうが優秀に感じる

例えば、かるびの会社は中小SIerですから、採用強化ターゲット大学は決めますが、学歴フィルターは設定していません。(しても人が来ないという・・・)そうなると、色々な大学から学生が選考を受けに来ます。

すると、やっぱりなんだかんだで、筆記試験のデキだったり、面接やエントリーシートのデキだったりを見ていると、有名上位大学の学生の方が、確率的に良い人材が固まっているように感じるのです。

下位の大学にも、良い人材はいることはいます。でも、その割合が上位大学に比べると明らかに低い気がするのです。体感値ですが、上位大学の学生が、3人に1人ぐらいで、いわゆる「あたり」の良い人材に出会えるとしたら、下位大学は、例えば10人~15人位に1人位の割合に下がっていくのですね。

採用担当は、基本的に会社の中ではコスト部門です。コストは少しでも削減した方がいい。基本的には、少数精鋭での限られた活動リソースでの採用業務遂行を余儀なくされている会社が大半です。すると、限られた勤務時間を有効に使うためにも、下位の大学よりも「確率論」的に、良い人材がいそうな上位の大学との接触を増やしたい、そう思うのが自然な流れなんです。

理由④:景気回復は企業の採用スタンスを保守的にさせる

直感的には、話が逆だと思いますよね?でも、そうじゃないんです。人材調達については、景気が悪いほうが、企業は革新的な採用を試みます。少数精鋭を採ればいいので、幅広い層から見極めて採用しようとする。

でも、景気が回復してくると、沢山の新卒を一定量採用しないといけない。すると、幅広い層から見極めている時間はなくなり、代わりに確率論的に、良さそうな人材がいそうな大学から沢山採用しよう、という機運が高まるのです。

この表を見てください。実際にデータが実証しています。

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HR総研が毎年実施している企業向けのアンケートで、新卒採用にて「採用ターゲットを設定しているか?」という推移表です。なんと、景気回復期に、急速に「採用ターゲットの設定」≒「学歴フィルター」を選考時に設定する企業が増えていることが分かりますね。

なぜ上位の大学の学生が優秀と感じるのか

社会人になってから、仕事の出来不出来を左右する一つのスキルとして、事務処理能力や基本的なコミュニケーションスキルが挙げられます。いわゆる社会人基礎力と言われる分野ですね。パソコンをちゃんと使えたり、まともな文章を書いたり、報告連絡相談ができたり。

こういった、社会人基礎力があると、仕事もはかどり、生産性が高まります。現代のスピード重視・生産性/効率重視のワークスタイルが手本とされる企業環境では、やはり厳しい受験勉強を勝ち抜いてきた人材の方が、何かと親和性が高いのですね。

受験勉強は、「何かを深く考える」より「何かを効率よく覚える」または「わかりやすく文章を書く」といった、記憶力や整然としたアウトプット力が要求される分野です。これをそつなくこなして有名大学に入った学生は、必然的に、デジタル処理を基本とした高速・効率的な事務処理能力が要求される現代の日本での働き方と親和性が高いのだと思います。

下位の大学生も伸びしろはあるが教育コストがかさむ

では、下位大学の大学生がダメなのか?というと、そういうことではないのです。採用担当を10年やってみて感じるのは、下位の大学生も「教えればちゃんと響くし、仕事はできるようになる」のです。

ただし、時間がかかる。何年か、忍耐強く成長を待たなければならない場合が多いのです。何かを覚えて、何かを早くやる作業っていうのは、本質的にはセンスよりも、反復練習による熟練部分の方が物をいう世界になってきます。それは、天性のものではなく、努力次第でなんとでもなる。大学受験時にその辺りの能力が未開発だった下位の大学生だからといって、できないわけではない。そう思います。

最後にかるびの会社はどうなのか書いてみる

少し上述したように、かるびの会社は中小Sierです。あからさまに学歴でのフィルタリングはしません。というか、学歴等で明確に求人上の採用制限をかけることは、労働法規違反なのでできません。

ただし、採用戦略として、特に採用に力を入れたいターゲット大学は毎年「こことここ!」みたいに決めています。強化対象校には足繁く通い、インターンシップ生の受け入れや学内採用選考会を設定してもらいます。

では、具体的な採用ターゲットはどこだったのか?

東大を初め、旧帝大クラスや早慶クラスは、実は最初から採用ターゲットから外していました。そこまで派手なベンチャー企業でもないし、成長力も著しい会社ではないのです。業界自体の不人気も手伝い、彼らに内定を出しても、どうせ来てくれませんから。

よって、採用で狙ったのはMARCHクラスでした。MARCHクラスで何人か取れればOK.そして、ボリュームゾーンが日東駒専クラス。これに加え、女性採用強化の観点から、インターンシップ等で懇意にしている女子大数校をターゲットにしていました。なので、一般的な学歴フィルターの変形版みたいな感じですね。

まとめ

残念ながら、新卒採用における学歴フィルターは、この先十数年も変わらず残り続けると予測します。個人的な思いとしては、良いものでもないので、一刻も早くなくなってほしい気持ちはあります。しかし、簡単にこの仕組は解体しないでしょう。

残念ながら入試で失敗して、下位ランクの大学に入ってしまった。それは、無策でいると3年後の就職活動においては、そのまま苦戦することを意味します。

この流れを踏まえ、学生さんも、また学生さんの親御さんも、どうやったらこの学歴偏重の流れの中で幸せなキャリアをつかめるのか/つかませてあげることができるのか、考え続ける必要があります。

では、策は何かないのか?早慶に入らないと、有力企業には就職できないのか?いくつか、個人的に考えていることはありますが、それはまた長くなりそうなので別のエントリに譲りたいと思います。(・・・需要があればすぐ書くけど)

それではまた。

かるび