かるび(@karub_imalive)です。
日本美術の展覧会ってなんとなく地味で難しそうなタイトルが多いですよね。偉い先生が監修して、関係者の利害調整をこなしながら作品を集めたり、ターゲットとなる観覧者の客層を考えたりすることを考えると、地味なタイトルに落ち着いてしまうのも仕方がないのかもしれません。
しかし、そんな旧態依然とした日本美術界に風穴を開けるような面白いタイトルの展覧会が東京・京橋の画廊「加島美術」で始まりました。題して「バック・トゥ・ザ江戸絵画」
チラシのデザインも含め、明らかに例のハリウッド映画からパク・・いや、オマージュとしてコンセプトを借りてきているのですが、考え抜かれた展示空間の演出も含めて、お客さんに少しでも画廊に入ってもらう敷居を下げようと努力されている姿勢、いつもながら素晴らしいなと思いました。
もちろん、集客に向けた斬新な取り組みだけでなく、展示作品の内容も充実。現在、東京都美術館でも盛り上がっている「奇想の系譜展」でも特集されている伊藤若冲、長沢芦雪、白隠慧鶴ら「奇想系絵師」を中心に、まだ【美術館には入っていない】巨匠たちの優れた作品を見ることができます。
素晴らしい展覧会だったので、撮影NGだったのですがその場で広報の方にお願いして、取材許可を頂いて展覧会の雰囲気をカメラに収めてまいりました!さっそく雰囲気をご紹介したいと思います。
- 「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」ってどんな展覧会なの?
- ドク役のクリストファー・ロイドさんもサプライズ訪問?!
- 見どころ1:ガラスケースは一切なし!至近距離で楽しめる!
- 見どころ2:美術館には出ていない、巨匠のレア作品がたっぷり!
- 見どころ3:相場観がわかる楽しみもあるし、作品の購入も可能!
- 工夫されたミニカタログも秀逸。親しみやすい
- まとめ!期間が短いのでお見逃しなく!
- 展覧会開催情報
「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」ってどんな展覧会なの?
タイトルの通り、加島美術に足を踏み入れたお客さんが、江戸時代の約300年前にタイムスリップして江戸絵画の世界をたっぷり味わえるような展覧会です。
特集されている江戸絵画は、辻惟雄氏が名著「奇想の系譜」で取り上げた江戸時代に活躍した「奇想系絵師」たちや、同時代に活躍した巨匠たちの作品群。
入口をすぐの1Fでは、伊藤若冲や曽我蕭白、円山応挙の作品がお出迎えしてくれます。2Fに上がると、長沢芦雪、白隠慧鶴の作品を中心に、林十江、岩佐又兵衛、鈴木其一の作品なども味わうことができました。
面白いのはその展示空間。いつもの「美祭」や2019年1月から始まった「廻」などの入札会とは違い、黒一色で宇宙空間をイメージさせるような間仕切りや、特集された絵師の名前と生まれた年がカッコよく英語で表記されている工夫も。(終わったあと剥がすのが大変そうだと仰ってました/笑)
ぜひ、その展示空間も含めて江戸時代にタイムスリップしたような鑑賞体験を味わってみてください。
ドク役のクリストファー・ロイドさんもサプライズ訪問?!
面白いことに、この展覧会企画がプレスリリースされたばかりの2018年12月、ちょうど別件で来日中だったクリストファー・ロイド氏が、サプライズで加島画廊を訪問してくれたそうなんです。
これは仕込みでも何でもなくて、本当にガチの僥倖だったようなんです。そんなこともあるんですね。自分が展覧会企画担当だったらうれしかっただろうなぁ~。
ちなみに、ロイドさんが来廊してくれた時、その時刷り上がっていたチラシに記念にサインをもらったそうなんですが、そんな時に限って「白系」のマジックがないという(笑)
画廊内にロイドさんのサインも展示されていますが、同系色のマジックでサインしてもらったため、サインがあんまり目立っていません。でも、そういったバタバタ感もまた、ロイドさんの来訪が本当にサプライズだったんだなぁと思わせるものがありました。いいなぁ~としみじみ。
見どころ1:ガラスケースは一切なし!至近距離で楽しめる!
繊細な作品が多い日本美術の展覧会では、基本的に「単眼鏡」や「双眼鏡」が手放せないですよね。ですが、加島美術では未だに単眼鏡を使ったことがありません。なぜなら、使う必要がないから。加島美術での展示はほぼ全点ガラスケースなしの「裸展示」で、至近距離までガッツリ寄って鑑賞することができるからなんです。
伊藤若冲《雙鶏図》部分図/若冲の十八番、薄墨での「筋目描き」も至近距離でバッチリ!
今回なら、伊藤若冲の「筋目描き」、長沢芦雪の「つけたて」、岩佐又兵衛の「上品な線描」など、巨匠たちの卓越した描画技術をしっかり確認させていただくことができました!
林十江《虎独風直図》部分図/37歳で夭逝した幻の画家、林十江の勢いある独特の描線も至近距離でバッチリ堪能!
円山応挙《雪柳狗子図》部分図/300年前も大人気だった?!応挙のコロコロしたかわいい「犬」もありました!
見どころ2:美術館には出ていない、巨匠のレア作品がたっぷり!
伊藤若冲《雙鶏図》/本展最高額となる作品。価格は来廊してのお楽しみ!
加島美術で展示されている作品は、基本的に「売られているもの」なので、個人蔵の作品ばかり。ほとんどの作品が、過去に美術展で出品されたことがないか、あっても1~2回といったレベルなので、目の肥えた上級者であっても初めて目にする作品ばかりのはずなんです。美術館では普段観られない巨匠たちの作品群を味わえるレアな機会でもあるんですよね!
長沢芦雪《雪中胡人狩猟図》/岩肌や雪の質感、とぼけた表情の人物など、芦雪らしさが感じられる作品です。これは意外にも安くお買い得でした。
見どころ3:相場観がわかる楽しみもあるし、作品の購入も可能!
かなりカジュアルな企画展といっても、加島美術は日本美術の有力な画廊でもあります。企画展として一般客を楽しませてくれる一方で、購入しよう!という本気のお客さんとはその場で商談も可能。当然、すべての展示品のキャプションには、作品名と一緒に購入希望価格が記載されています。
今回は、かなり高額品ばかりなのでブログでの値札の掲載は自粛しておきますが、来廊してそれぞれの価格感を観るのも、加島美術ならではの楽しみ。
画像・右の応挙の屏風絵《山水図》は意外に価格が抑え目。画像左端のかわいい犬の作品より安いのです。
たとえば、大きめの屏風絵よりも、出来の良いコンパクトな花鳥画のほうが価格が上だったりするのは現代の日本の住環境事情を反映していて興味深いです。要するに、屏風絵はでかいんだけど、家に入らないので買い手を選ぶ分割安になりがちだってことなんですよね。このあたりの相場事情は美術館で見ているだけじゃ絶対わからないですからね。
白隠慧鶴《鐵棒画賛》/地獄の鬼が持つ「鉄棒」を描いた作品。白隠らしい謎掛けが効いたゆるい禅画は近年外国人に大人気なのだとか。
今回非常に驚いたのが、ゆるーく描いたように見える白隠慧鶴の禅画に高級車1台分くらいの価格がついていたこと。広報の後藤さん曰く、「白隠は、最近フランスなど外国で人気化してきているんです。海外のコレクターはお金あるし、相場も上がってきているんです」とのこと。
あれっ、ということは、ここで誰かが買わないと国外に流出してしまうのでは?!(笑)そのあたりの事情も含めて、画廊のスタッフさんに作品の来歴や、価格感の理由なども聞いてみましょう。わりと気さくに教えてくれたりしますよ。
工夫されたミニカタログも秀逸。親しみやすい
そして受付で販売されているカタログ(≒ミニ図録)を見てみると、こちらも非常に凝った作りになっています。
ドクらしきシルエットが優しく解説してくれます(笑)
金子学芸員のコラムも掲載!
現在府中市美術館で好評開催中の展覧会「へそまがり日本美術」を企画した、金子信久先生のコラムも読めます。ぜひ、見終わったら、お土産に購入して持ち帰ってみてくださいね。
まとめ!期間が短いのでお見逃しなく!
鈴木其一《立雛図》(部分図)
価格的には正直一介のブロガー/ライターにすぎない自分には今のところ(いまのところ、ね!)手が出ない高額作品が多かったですが、単眼鏡なしでガッツリ展覧会未公開作品ばかりを見ることができるのはすごく良かったです!
ちなみに、加島美術は「画廊」なので、展覧会とはいえ本気で商談に臨む人には、思わぬ作品がバックヤードから出てくる展開もあるかも(笑)僕も取材のラストにご褒美(?)として、撮影NGですがすんごいお宝をチラッと見せてもらいました。そんなお宝発掘感も含めて、「日本美術」の一種の春のお祭りとしてすごく楽しい企画展なので、ぜひ足を運んでみてください!会期、かなり短めなのでお早めに!
それではまた。
かるび
展覧会開催情報
◯美術館・所在地
加島美術
〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2
◯最寄り駅
・東京メトロ銀座線京橋駅出口3より徒歩1分
・東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅出口7から徒歩約2分
・都営地下鉄浅草線宝町駅出口A4から徒歩約5分
・JR東京駅八重洲南口から徒歩6分
◯会期・開館時間
2019年3月21日(祝)~3月31日(日)
10時00分~18時00分
◯休館日
なし(会期中無休)
◯入館料
無料!
◯加島美術公式HP
https://www.kashima-arts.co.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/Kashima_Arts