あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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美術展は2回目からが面白い!深い鑑賞体験が得られる展覧会「複数回鑑賞」のススメ

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かるび(@karub_imalive)です。

展覧会、好きですか?

僕は、以前サラリーマンを辞めると決めてから、それまで忙しくてできなかった趣味の一つとして、美術展めぐりをはじめました。それ以来3年間、がっつりはまっています。はじめはモネとかレンブラントといった西洋絵画の巨匠の展覧会を混雑に耐えながら回っていました。が、次第にSNS経由でいろいろな展覧会を知るようになり、日本画、陶磁器、茶道具、ファッション系、刀剣・甲冑類、書跡、産業系、サブカル、アニメ・・・等々、いろんな展覧会を回るようになりました。

気がついたら、ここ最近では春と秋のハイシーズンでは月20~30程度回るようになり、両足までどっぷりとアート鑑賞沼に浸かっている状況です。

このようにたくさんの展覧会を回り、量をこなす一方で、ふと昔の展覧会を振り返ってみると、「漠然とした印象以外に、何を見たのか全然思い出せない」ことがよくあることに気づきました。

もともと僕は映画やTVドラマなどを見てもすぐに内容を忘れていく方で、きっと記憶力があんまり良くないんだろうなとは思っていたのですが、やっぱり1度見た展覧会の内容はちゃんと覚えておきたいですよね。

そこで、展覧会に行ったら、関連付けて思い出せるように併設のレストランでご飯を食べてみたり、力を入れてブログに書いて残したりといろいろやってみました。その中でで、最大の成果を挙げるに至った取り組みがありました。

それが、今日ご紹介するシンプルな方法「展覧会の複数回鑑賞」です。

一度見たらそれで終わりにするのではなく、期日を変えてもう1度同じ展覧会に通う。このシンプルな方法で、割と劇的に内容を記憶に保持することができるようになりました。以降、詳細について書いてみたいと思います。

なぜ、せっかく観た展覧会の内容を簡単に忘れてしまうのか?

冒頭でも書きましたが、展覧会を見終わってしばらく時間が経ったら、好きだった美術展の内容を結構忘れてしまっていて、ショックを受けることってありませんか?

多分、これにはいろんな理由があると思うんです。例えば・・・

◯混雑のため、展示がよく見えなかった

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これ、かなりあると思うんですよね。例えば、行列ができるような話題の展覧会に行くと、かなりの確率で美術館の中は混雑しているわけです。名画の前には人垣が二重、三重にできていて、係員からは早く移動することをせかされる。こうなると満足に細部までじっくり観ることはほぼ不可能となります。

◯自分のペースで鑑賞できなかった

気の合う友人と一緒に見て回ると、確かに楽しいです。でも、自分の好きな作品を自分のペースで観ることができず、今ひとつ深い鑑賞ができなかったということってないでしょうか?

◯時間がなくてしっかり鑑賞できなかった

そもそも私達の生活は忙しいのです(笑)「残業が立て込んで、夜間開館に何とか間に合ったけど閉館まで30分しか観られなかった」とか、「他にも予定があって、急ぎ足で観るしかなかった」とか、様々な事情によって、十分な鑑賞時間を取ることができなかったケースもよくあります。

◯実はそもそもちゃんと作品を見ていない

2018年度、文化庁主催の第21回メディア芸術祭で新人賞を獲得したビデオアート作品があります。「美術館で、平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につきわずかに17秒間」に過ぎない、という衝撃的なメッセージを17秒でまとめた皮肉たっぷりのビデオアート作品です。

Gary Setzer—“Panderer (Seventeen Seconds),” 2016. from Gary Setzer on Vimeo.

その後美術館でお客さんがどれだけ展示に集中して見ているか見てみたら、確かにこのビデオアートの言う通り、みんな10秒~20秒くらいしか見ていないんですよね。(※自分も含め!)

これは忘れるわけですよ(笑)僕も大型の展覧会に行って、最初は気合を入れてしっかり見ていても、出口付近になって疲れてくると、流すように作品を見てしまうことも多々あります。

要するに、我々鑑賞者は、しっかり作品を見ているようでもほとんどちゃんと見えていないってことなんでしょうね。

そして、人間は忘れる生き物だ

エビングハウスの忘却曲線ってご存知でしょうか?人間は、何かを学習したあと、わずか1時間後には半分忘れ、1日後には3/4の内容を忘れてしまうという、有名な実験結果をグラフにしたものです。

f:id:hisatsugu79:20181116105109p:plain引用:日本経済新聞オンライン版より

そう、つまり人間はどうしても忘れてしまう生き物なのです。

人間の脳は、なぜだか一度は覚えた記憶のほとんどを、どんどん時間が経つにつれて猛烈な勢いで忘れていくんですよね。テスト勉強などで、わからない英単語を何度も書いて覚えたり、単語帳を作ったりしてなんとか記憶に定着させようと頑張った経験ってありますよね?「予習」「復習」しろと口を酸っぱくして言われるのはここにあるわけです。美術館で見た凄い作品の鮮烈な記憶も、わずか1日後には霞がかったようになってしまうのも無理はありません。

シンプルな解決策「もう1度同じ展覧会を鑑賞する」

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そこで提案したいのがこの解決策。「少し期間をおいて、同じ展覧会を2回鑑賞する」というシンプルな作戦です。

実際、自分でも2018年秋から、ブログで取り上げた展覧会や、絶対に忘れたくない展覧会は全部2回以上見に行きましたが、2回以上観た展覧会はどれも驚くほど鑑賞体験のクオリティが上がったことを実感しました!

では、2度目の鑑賞で、一体何が得られるのでしょうか?僕の個人的な体験も踏まえつつ、少し説明してみたいと思います。

1度目の鑑賞では見落としていたものが見えるようになる

一度展覧会に行くと、ちょっとした大型展覧会だと普通に200点、300点と大量に出展されていますよね。あるいは、見知らぬ作家さんの作品と初めて出会う時、作品そのものの鑑賞よりも、ついついキャプションや解説を読みこんじゃっていたり。

こうして、1度目の鑑賞ではかなりの情報量を見落としてしまいがちになるのですが、1回目の鑑賞でこぼれ落ちた部分に、2度目の鑑賞で気づくことができるんです。「あれ?こんな所にこんないい作品あったんだ」とか「この作品にこんな色使いがされていたのか」とか、色々と新しい気付きがあるんですよね。

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東山魁夷《道》のポスターより引用

たとえば、この東山魁夷の国民的に有名な作品《道》ですが、僕は2度目の鑑賞で、はじめて《道》にうっすら「わだち」が描かれていることに気づきました。

眼前に広がる未来のメタファーとして、白く大きな「道」を描いた魁夷ですが、これから自らが辿ろうとする道もまた、ある程度先人が通った跡だったりするんですよね。この「わだち」を見て、「人生において新しいことにチャレンジする時は知らないことばかりで不安や恐怖が先立つけど、大抵のことは先人たちが切り拓いてくれているんだから、心配しなくてもいいんだな」と、2度目に作品と対峙した時、作品を細部まで鑑賞することで、描かれている内容から自分なりの意味を引き出すことができたのです。

印象が変わるので、見え方が違ってくる

展覧会を再訪したとしても、美術館に設置されている作品自体は何も変わりません。

変わるのは作品に向かい合う自分自身の内面なのです。再訪した時間帯や天気、当日の出来事によって心理状態が変われば、作品の見え方が確実に変わってきます。

たとえば、仕事に悩みを抱えた状態で、美術館に来る時に冷たい雨に振られて、気分が落ち込んでいる時に観るのと、休日の昼頃、ストレス無くのんびりした心持ちで作品に向かうのでは自ずと作品の見え方も違ってきますよね。

これこそが、再訪する大きなメリットでもあるのですよね。「新たな視点」は、観るタイミングを変えることで半自動的に得られるわけです。

2度見たことで、確実に記憶がアップデートされる

そして、2度目に観ることで、単純に忘れにくくなるわけです。大事な作品は、いつまでも忘れないようにしたいですよね。エビングハウスの忘却曲線と戦うには、シンプルに反復演習することが大事なのです。

ちょっとした一手間で再訪問がもっと楽しくなる、5つの工夫とは?

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シンプルに2度同じ展覧会に通うだけでも相当な効果が見込めますが、せっかくお金と時間をかけて2回目を観るのであれば、行く前にもう一手間かけてみませんか。ちょっと一工夫するだけで、再訪したときの鑑賞体験が、さらに意義深く楽しいものになっていきます!

オススメの工夫1:1回目に公式図録を手に入れ、再訪するまで家で眺めておく

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1度目に観た時、混雑してよく図柄が見えなかったとか、疲れていて集中できなかったという場合、ショップで公式図録を手に入れておいて、再訪するまでの間、復習しておくのも非常に効果があります。

復習する、といっても、ベッド脇に置いておき寝る前にチラチラ眺めておくとか、ほんの些細な振り返りでいいんです。これをやっておくだけでも、再訪した時の鑑賞体験が確実に深まります。また、何よりも「2回目にどうしても観たいターゲット」を予め決めておくことができるので、再訪時にメリハリのついた鑑賞ができるようになるんです。

オススメの工夫2:1回目と違うメンバーで違う時間帯に訪問する

「作品の見え方」を変えるため、1回目に行ったときと違うメンバーで行ったり、訪問する時間帯を変えてみるのも非常に有効です。僕は、1度目は一人で、2回目に行く時は子供と行ったり家族で行ったりする事が多いのですが、特に子供の見方は非常に面白い視点を含んでいることが多く、重宝しています。

オススメの工夫3:2度目の鑑賞では、音声ガイドを使わない

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中規模以上の展覧会では必ず置いてある音声ガイドは、作品鑑賞の大きな助けになってくれる大事なツールです。展覧会場に設置されているキャプションや解説をさらに掘り下げて、展示を楽しく観るためのヒントを提示してくれます。

その反面、音声ガイドを聞いている時間は、目の前の作品に100%没入しているわけではないんですよね。ガイドを聞いて得られるのはあくまで作品鑑賞の前提となる「知識」であって、鑑賞体験そのものではないのです。

だから、僕は2度目に行く時は、ガイドをOFFにして眼の前の作品にできるだけ没頭するようにしています。

オススメの工夫4:特にしっかり見たい作品を予め想定して、メリハリを付けた鑑賞を!

最近の大型展覧会はサービス精神満載で、広い展示会場内に、ものすごい数の展示が並ぶときがあります。しかしよほどの天才でない限り、出品された全ての作品を覚えておくことはほぼ不可能。

鑑賞時間は限られています。大切なのは「どの作品を重点的に観て、どの作品を捨てるか」です。そこで、2度目の鑑賞では、行く前に「今日は●●と◯◯を観る!」といったように、特に力を入れて鑑賞するターゲット作品をあらかじめ決めておくと良いでしょう。

「自分の観たい作品をたっぷり時間をかけて2回観る」これが複数回鑑賞のコツだと思います。

オススメの工夫5:展示替えの時期を狙って再訪する

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展覧会によっては、作品保護の観点やリピーター獲得狙いから、展覧会会期中、何度か一部作品の展示替えが行われることがあります。せっかくなので、展示替えの時期を狙って再訪すると良いでしょう。自分の観たい作品をもう一度味わいつつ、新しい作品とも出会えるので、より展覧会を楽しむことができますよね。ただし、自分がもう一度観たい作品が撤去されてしまっていないか要注意です!

まとめ

ここまで見てきたように、読書や勉強などと同じく、展覧会も時間とお金が許す限り、1度ではなく2度、3度と見ていくことで確実に深い鑑賞体験を得ることができます。

観たい作品をピンポイントで観るだけであれば、2回目はそんなに時間もかかりませんし、「なんだか見たけど消化不良だったな」と感じた展覧会があれば、是非もう一度タイミングを変えてチェックしてみてくださいね。必ず何らかの学びや気付きが得られるはずです!

それではまた。
かるび