あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【ネタバレ有】映画「マダム・フローレンス」の感想とあらすじ解説/心暖まる上品なコメディ映画!

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かるび(@karub_imalive)です。

かつて、世界で最もオンチだと言われた伝説のオペラ歌手がいました。その名は、フローレンス・フォスター・ジェンキンス。アメリカで実在した人物で、カーネギーホールで録音したライブCDまで発売されています。

今作「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」は、そんな彼女の生き様を振り返り、コミカルにまとめ上げた、涙あり、笑いありの上質なコメディ映画でした。

早速初日に気合を入れてみてきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。
※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

1.映画の基本情報

<予告動画を見てみる!>

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【監督】スティーヴン・フリアーズ
【脚本】ニコラス・マーティン

2.主要登場人物とキャスト

今作では、ハリウッドの大物俳優、メリル・ストリープとヒュー・グラントが豪華共演しています。

フローレンス・フォスター・ジェンキンス(メリル・ストリープ)

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資産家のマダム。難病を抱えつつも、趣味の声楽を生きがいとして、内輪のリサイタルを開催し続け、最後にはカーネギー・ホールでのコンサートを開催する。
シンクレア・米フィールド(ヒュー・グラント)

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フローレンスと事実婚状態。フローレンスの生きがいと心を守るため、精神面のケアからコンサートのマネジメントまで裏方として奔走する。
コズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)

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フローレンスお抱えのピアニスト。ソロピアニストとしての成功を諦め、フローレンス専属のピアニストとして亡くなるまで彼女を支えた。
キャサリン(レベッカ・ファーガソン)

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全米で大ヒットした映画「ガール・オン・ザ・トレイン」で憂鬱な専業主婦役が名演だったレベッカ・ファーガソンが、今作では報われない愛人役を務めます。
アグネス・スターク(ニナ・アリアンダ)

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当初はフローレンスを馬鹿にしていたが、やがてフローレンスへの嘲笑が共感に変わっていく。古き良き時代のハリウッド女優的な役回り。

3.実在した人物「マダム・フローレンス」

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(引用:Wikipediaより

マダム・フローレンス・ジェンキンス(1868-1944)は実在したアメリカ人女性です。前夫や家族からの反対を押し切り、1885年に前の夫と駆け落ちして家を出ました。この夫とは、後に離縁しますが、夫から生涯苦しむことになる「梅毒」をうつされています。1909年に父親が亡くなり、一生遊んで暮らせるほどの莫大な遺産を相続すると、ニューヨークの社交界へ華々しくデビュー。音楽家のパトロンとして芸術活動を支えると同時に、夢だったオペラ歌手の活動を開始しました。

自らが設立した「ヴェルディ・クラブ」で私的なリサイタルを繰り返しましたが、致命的に才能がなかった彼女。面白おかしく新聞に取り上げられたりするうちに、珍しいもの見たさからその人気に火がつき、亡くなる直前には、とうとうカーネギーホールで満員の大観衆を前にコンサートを開くまでになりました。

そのあたりの経緯は映画本編を見ていただくとして、実際に彼女が歌った歌唱のサンプルがWikipediaに上がっていますので、紹介しますね。

<マダムフローレンスの肉声!>

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もう、誰が聞いてもヤバいのがすぐにわかります。この腕前で世界に名高いカーネギーホールを埋め尽くした上、今でもカーネギーホールでのアーカイブリクエストNo.1といいますから、すごい奇跡(?)であります。

こちらが、カーネギーホールで張り出された当日の演目プログラムです。ピアニストの「コズメ・マクムーン」もいますね。

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(引用:Classical MPR

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4.結末までの簡単なあらすじ(※ネタバレ有注意)

1944年、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(以降、フローレンスと略記)は、自ら設立した「ヴェルディ・クラブ」にてフォスターの名曲「おおスザンナ」と共にワルキューレの恰好で歌い上げ、気分は上々だった。

コンサートを終えるとフローレンスは夫、シンクレアと共に帰宅し、寝床に就くのだった。最愛の夫シンクレアが愛情を込めてポエムを詠んでくれるうちに、眠りに落ちるフローレンス。フローレンスが眠った後、静かにフローレンスのウィッグを外し(持病の梅毒のせいで髪は全て失われている)、ナイトキャップをかぶせると、シンクレアは愛人、キャサリンのアパートメントへ通うのだった。

フローレンスは、次のリサイタルに備えて新しいピアニストを探していた。いつものように声楽のレッスンを終え、多数の候補者と面接を行った。決まったピアニストはコズメ・マクムーン。夫のシンクレアは、フローレンスと接する際、とがったものを持ち込まないこと、所定のいすには絶対座らないことなど、フローレンスの好みを逐一教え込むのだった。

次の日、フローレンスとのレッスン初日に赴くと、コズメはすぐに彼女の音程やリズム感がメチャクチャであることに気づく。レッスン中、笑いをこらえるのに苦労するコズメ。しかし、部屋を退出し、エレベーターに乗った時に抑えきれず、爆笑してしまうのだった。

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ある日、フローレンスがリサイタルを開くことになった。徹底的に聴衆を知り合いだけで固めて、新聞記者を買収するシンクレア。当日は、主催する「ヴェルディ・クラブ」のなじみ客だけで固めたが、聴衆の中には、スターク氏の新しい妻も混じっていた。「笑ってはいけない」作法をわからず、リサイタル中に思わず爆笑してしまうスターク婦人。

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途中でスターク婦人は退場したが、何とか平穏無事にリサイタルは終了した。その晩、疲労のため医師に診察させ、フローレンスを寝かしつけるシンクレア。医師は、このように重い梅毒症状で50年以上も生きる人は初めてだとつぶやくが、シンクレアには、音楽への情熱が彼女の生きる力になっていることを知っていた。

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その晩、シンクレアのアパートでコズメやシンクレアの愛人も含め、盛大な打ち上げが開かれた。翌朝、フローレンスがシンクレアのアパートへやってきた。急いで愛人を隠し、なんとか取り繕ったシンクレア。

フローレンスが帰った後、怒る愛人に、穴埋めにゴルフに行くから許してくれ、と必死になだめるシンクレアだった。

フローレンスは、クリスマスに、自らが主催するヴェルディクラブの会員にレコードをプレゼントするためレコーディングすることを思い立つ。しぶしぶながら立ち会うシンクレアとコズメ。オンチなまま、レコーディングが終わり、満足げなフローレンスだった。

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シンクレアが愛人とのゴルフ旅行中、フローレンスはコズメの自宅を訪問した。コズメにオリジナル曲をリクエストしながら、身の上話をするフローレンス。幼い時はピアノをよく弾いたが、ケガのためひけなくなってしまったこと。結婚してから、音楽を志したが反対されたこと。最初の夫と上手く行かなかった時期に、25年前に俳優をしていたシンクレアと出会ったことなど。

シンクレアがゴルフから帰ると、レコードの1枚がフローレンスに好意的ではない新聞記者の手に渡っていることが判明した。しかし、シンクレアの懸念をよそに、フローレンスはカーネギーホールを訪れ、ここでリサイタルを開きたいといい出す。

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最初は反対したシンクレアだが、フローレンスの意志が固いと見るや、全力でサポートすることを決めるのだった。そして、とうとう愛人も、シンクレアに愛想をつかして出ていってしまう。

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いよいよカーネギーホールでのコンサートの日がやってきた。チケットはソールドアウトし、いつものなじみ客の他、たくさんの復員兵がホールに詰めかけた。中には、これまで締め出してきた敵対的なニューヨーク・ポストの新聞記者の姿もあった。

コンサートが始まると、ニューヨーク・ポストの新聞記者はすぐに席を立つ。引き止めるシンクレアだったが、記者は去ってしまう。

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また、あまりの下手さに笑い転げる復員兵たち。笑われていることに気づいたフローレンスは、歌うのを辞めてしまう。しかしスターク婦人が会場を落ち着かせ、再び演奏が始まる。結局、演奏は最後まで続けられ、大団円で終わった。

翌日の朝刊では、買収済みの記者は良いレビュ-記事を書いていたが、ニューヨーク・ポストだけ、酷評した記事が掲載されていた。目につく新聞スタンドのニューヨーク・ポストを買い占め、フローレンスの目に入れないように懸命に努力するシンクレアとコズメ。

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なぜかニューヨーク・ポストの記事だけ見当たらないことに不信感を持ったフローレンスは、とうとう自分で新聞を買いに行ってしまう。そして、ゴミ箱にまとめて捨てられたニューヨーク・ポストを見つけ、その場で酷評記事を読んで倒れてしまった。

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病床で、シンクレアとコズメに最期を看取られるフローレンス。自分が今まで嘲笑されていたことに気づいたが、フローレンスは「歌った事実は消せない」と、後悔はなかった。最期まで幸せな生涯だった。

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5.感想や評価(※ネタバレ有注意)

5-1.優しい嘘に嘘を塗り固め、行くところまで行ったコメディだった

梅毒で病弱のフローレンスを喜ばせたい一心で、本当はヘタクソでどうにもならない歌声を褒め、彼女を守り続けた夫、シンクレア。自らの「俳優で成功する」という夢を捨ててまで、フローレンスの生きがいだった音楽活動に尽くすシンクレアの熱意に、ピアニストのコズメも共感し、彼もまた自分自身のキャリアを諦め、フローレンスに尽くします。

暖かく愛ある「嘘」で盛り立ててくれる周りに載せられ、最期はもはや嘘で取り繕うことが出来ないレベルの大きさのリサイタルが実現してしまいます。最終的にはフローレンス自身がこれまで周りに笑われてきたことを悟りますが、でも最愛のパートナー達のことだけは信じることができたからこそ、最期は安らかに眠りにつけたのでしょうね。最期まで微笑ましい映画でした。

5-2.誰かに承認されているという安心感は大きなパワーを生む

劇中で、フローレンスは最初から最期まで夫、シンクレアの献身的な愛を疑いませんでした。最愛の人に守られ、承認されているという安心感こそが、彼女を精神的に安定させ、重たい持病を抱えながらも50年間のリサイタル活動を支える活力になったのだなと実感させられました。

5-3.人生は痛々しくても、やったもの勝ち

この秋に公開された映画「何者」でもありましたが、たとえ痛々しくても(そしてその自覚が自分にあろうとなかろうと)、人生は自分の目標や、やりたいことに向かってがむしゃらに行動した者が最後に果実を手にするのだなと。

フローレンスの最期の言葉が、非常に印象的でした。

「ひどい悪声だと避難されても・・・。歌った事実は誰にも否定出来ないのよ」

5-4.各演者とも素晴らしい名演だった

フローレンスを務めたメリル・ストリープは、もともと歌も上手な俳優ですが、今回の映画でわざと下手に外すという難易度の高い演技を見事にこなしています。特に、実際のフローレンスの音源を聞くとわかりますが、声質や外し方までそっくり!

夫のシンクレア役のヒュー・グラントは、いわゆるハリウッド版のキムタクみたいな俳優で、どの映画に出ても「ヒュー・グラント」然とした演技になっちゃう人なのですが、今回はしっかり役作りができていました。今まで見た中で一番の好演かも。

そして、見逃せないのがコズメ役のサイモン・ヘルバーグ。プロ並みのピアノの腕前を見込んでの起用でしたが、ピアノだけでなく、表情豊かで時に道化的な演技は、映画にコメディ的な上品なおかしさをもたらしていましたね。

また、愛人キャサリン役のレベッカ・ファーガソンはアメリカの20世紀の古き良き時代の大女優、キャサリン・ヘップバーンのようでいい味を出していました。(名前が同じなのはたまたま?)

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(引用:http://www.geocities.jp/yurikoariki/katharinehepburn.html

6.映画の伏線や設定などを解説(※随時追加)

6-1.なぜフローレンスは頭髪がなかったのか?

フローレンスは、10代の時、離縁した前夫より「梅毒」をうつされました。現在では、ペニシリンの普及により、完治する病気となった梅毒でしたが、1940年代以前、「塩化第二水銀」の飲用が主要な治療法でした。(実際に、これで症状を抑えられたそうです)

ただし、「水銀」は身体には毒物です。用法用量を守らないと「水俣病」的な症状が出てしまいます。頭髪が抜けたのも、恐らく「水銀中毒」としての薬の副作用だった可能性が高いと思われます。

6-2.コズメとシンクレアのその後は?

コズメは1980年まで生きましたが、ピアノ奏者としてだけでなく、ボディビルディングに興味を持ち、ボディビルダーのコンテストで審査員を務めるなど、多彩な活動をしました。

シンクレアは1967年まで生きましたが、なんと史実では、1944年、フローレンスの死後にすぐに愛人だったキャサリンと結婚しています。映画では愛想をつかされ、キャサリンに逃げられていましたが、実際には関係は続いていたようですね。ちなみに、彼らの間に子供はいませんでした。

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7.まとめ

1940年代のアメリカの古き良き時代で起こった奇跡的なコメディを、心温まるタッチで再現した本作。 見終わった後に、優しい気持ちになれる良作だと思います。是非チェックしてみて下さい。

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連書籍など

フローレンス・フォスター・ジェンキンスの生涯について、音源やインタビュー、当時の新聞記事などを徹底的に掘り下げた詳細な解説本。映画の世界観をより広げてくれる良い参考書籍でした。

こちらは、フランス版の「マダム・フローレンス」。舞台はフランスの1920年代の上流階級ですが、ストーリーの展開はほぼ同じ。予告動画もWebで見れます。

<予告動画を見てみる!>

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今回の「マダム・フローレンス」はハートフルなコメディでしたが、こちらは、狂気と毒を含んだサイコサスペンス的な雰囲気もあり、違いが際立って面白いです。Amazonビデオでも400円(SD画質)で見れますよ。見比べると興味深いので、是非!こちらから。