あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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IT業界で客先常駐という働き方はもうやめにできないか

かるび(@karub_imalive)です。

【2016年7月15日更新】
今日はウツを患って2年前に会社を去り、今は資格試験で再起を図ろうとしている昔の仲間と飲んできた帰りなので、少しグチっぽくなりますが勘弁してください。

システム開発会社で一般に普及している業務形態として、超大手から零細企業まで、「客先常駐勤務」という、いわゆる「派遣」的な働き方があります。これをどうにかしてもうやめられないか、という話です。

僕は、長年この業界でエンジニアから営業職、採用職といろいろ立場を替えて10年以上働いてきました。実際自分が体験して、また仲間を現場に送りこむ立場になって思うのは、この「客先常駐」という働き方は働き手にあまりに負荷をかけるのではないかということです。 

客先常駐の成り立ちは1960年代

客先常駐っていう形態は、古くは1960年代後半の大型汎用機での開発黎明期にCSKという会社(現SCSK株式会社)が始めたと言われます。仕事を自社に持ち帰ってやるよりも現場に張り付いて、人月いくらでお金をもらうスタイルのほうが確実に儲かるし、かつプロジェクトも失敗しづらくなることよね、っていうことで、そこから急速に日本で普及した業務形態です。

https://kmonos.jp/csr/2012/12/c026.html

利益率優先とコンプライアンスが常駐シフトを加速

確かに今も自分の会社の持ち帰り型一括受託システム開発の利益率と、常駐型の派遣システム開発の利益率を比較すると圧倒的に後者のほうが利益率が高く、会社のドル箱であることは間違いないんです。

特に、自社製品を持たない中堅~中小、零細企業にとっては、自社製品をゼロから生み出す苦しみよりは、手っ取り早く全員常駐現場に出して人月いくらでお金をもらったほうが経営が安定しますし楽なわけです。

なので、タイトルで「もうやめにできないか」と書きつつも、現実にはすぐにはこの業務形態をやめることはむつかしいでしょう。中小企業の大半はおそらくそう。

また、2005年以降「個人情報保護法」が施行されてからというもの、開発業務が顧客内のセキュリティが利いた環境から一つも持ち出せないプロジェクトが非常に増えたことも、常駐型業務が減らないもう一つの大きい要因です。 

客先常駐業務の問題点とは

儲かるし、セキュリティ上堅牢な環境が築きやすいはずの客先常駐型業務ですが、では何が問題なのでしょうか。以下にいくつか挙げていきますが、基本はエンジニアの心をすり減らし、精神的な負荷が非常に高くなるからなんです。

問題1:常駐先で自由に振る舞えない不自由さ

顧客先に常駐する、ってことは、顧客内のオフィスにおいてあなたの一挙手一頭足が全部見られているってこと。厳しいお客さんだと、それこそあくびや眠そうにしただけでクレームが入ります。席を立って少し長めのプライベート電話をしたらクレーム。昼休み少し事情があって、自席に帰ってくるのが少し遅れただけでまたクレーム。自社の有給休暇を取得しようとしたら、「また休むんですか」とクレーム。新婚旅行で2週間休むと言ったらクレーム。体調悪くて進捗が遅れたら「生産性が悪い」とクレーム。自社では服装自由だけど、顧客内ではスーツネクタイ着用。携帯電話もセキュリティ上取り上げられて勤務終了までロッカーへ。

もう、まるで奴隷のような不自由さです。

顧客側としては、自分たちがお金を出して起用した「外注」要員なので、ちゃんと働いて当たり前という意識がどうしても芽生えます。だから、目の前で期待通りの働きをしない「外注」にはどうしてもつらく当たりたくなる。その心理はわかります。

 確かにこういう意見もあるにはありますが、

実際にはF通やH立、NTT◯ータといった一流のSIerのプロジェクトマネージャーが外注に対して本当にひどい扱いをする場面を嫌というほど見てきました。上記のような顧客側の担当に当たった場合はラッキーなのでしょうね。

そして、顧客側のチームメンバーが寝ていようが、さぼっていようが、ネットサーフィンして遊んでいようが、席に戻ってこなかろうが、彼らには全く叱責がなく、我々下請けだけが一挙手一投足に対してあれこれケチをつけられることも多々あります。

頭では、彼らは顧客側、我々は雇われている側だから立場が違う、とわかっていつつも、同じ現場にいてなんだその差別は、やってられん、となるわけです。

僕もこの不自由さには本当に閉口しました。自社に戻って自分のペースで業務がやりたい!!と現役時代は強く感じていたものです。 

問題2:顧客側との情報格差は近くにいても埋まらない

これも実体験です。せっかく顧客の近くで働いていても、情報共有は思ったほどされないのが現状です。

良くて、顧客側と外注側の一部の上位メンバーしか情報は共有されず、末端でプログラミングや詳細設計など、細かい作業をしている開発メンバーには、十分な情報が降りてきません。降りてくるのは、あれをやれ、これをやれという単純な業務指示だけ。

それは何のために必要なのか、なぜその設計になったのか、このモジュールはどんな業務にどう使われるのか?顧客内の既存業務はどうなっているのか・・・開発のためにほしい情報は、積極的に共有されることはなく、こちらから言い出したらようやく出てくる。

同じ現場にいても情報格差が発生してやりにくいわけですね。近くにいてもコミュニケーションの機会が制限されるのであれば、だったら、自社で落ち着いてやっても同じ事ですよね。 

問題3:自社への帰属意識が薄れていく

そして一番問題なのはこれかもしれません。

客先常駐業務をやっていると基本的には自宅から作業現場へ直行し、また自宅へと直帰するというスタイルとなる以上、自分自身が自社に立ち寄る機会がほとんどなくなってきます。こうなると、誰のためにどういう立場で働いているのか、よくわからなくなってくるんですよね。

もちろん、こういう事象を防ぐため「一斉帰社日」「全社ミーティング」などと一斉に自社のエンジニアを月ごと、あるいは半年ごとなど定期的に帰社させて、全員で懇親や意識向上のために打ち合わせを行う会社もあるにはあります。それでもそんなものは付け焼刃であり、月1回オフィスに帰社したところで、自社に対する愛着心は向上しないです。

こんな状況の中、つらいことやしんどいことが起こった際には、自社は心理的に非常に遠くにありますので、自社メンバー(といっても別の客先の別プロジェクトに従事している)に相談するよりは、スマホでリクナビの転職先を探す、ということになってしまいがちです。 

といった具合に、上記で書いた通り常駐業務だと会社は確実に儲かるけど、社員側は心を確実にすり減らしやすいのです。

事実、僕の会社でも、自社で自社アプリや持ち帰りでの受託開発業務をやっている社員は、彼らが社内業務をやっているうちは、ここ5年程度見事に一人もやめませんでした。一方、客先常駐、特に常駐先での顧客からの使われ方が荒い現場は、次々に人が辞めていきます。問題プロジェクトに入ってしまった際は、10名体制中、6名立て続けに退職していったケースもありました。

貴重な人材がやっと育ったと思ったら、モチベーションを落としてやめていき、一番会社を支えなきゃいけないはずの中堅社員が減っていく、という悪循環が続くわけです。もちろん、精神疾患を発症する社員もほぼ全員が100%近く客先常駐業務での精神的な負荷集中によるものです。 

今日は、問題提起だけで、じゃあどうするのか?といった根本的な解決策が思いつかないので投げっぱなしで終わりますが、でも企業の採用担当としては、一人でも多く笑顔で仕事を続けていってほしいので、本当にこの客先常駐業務という形態だけは何とかならないかなという強い思いであります。

それではまた!
かるび