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東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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【ネタバレ有】映画「ダンケルク」 感想・レビューと10の疑問点を徹底解説!/IMAXで見たい大迫力の映像アトラクション!

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かるび(@karub_imalive)です。

9月9日に公開された、クリストファー・ノーラン監督が第二次世界大戦を描いた戦争映画の新作「ダンケルク」を見てきました。さすがはノーラン監督。いわゆる王道的な戦争映画とは全く違う、「意外性あふれる」作品に仕上がっていました。

早速ですが、映画を見てきた感想やレビュー、あらすじ等の詳しい解説を書いてみたいと思います。
※本エントリは、後半部分でストーリー核心部分にかかわるネタバレ記述が一部含まれますので、何卒ご了承ください。できれば、映画鑑賞後にご覧頂ければ幸いです。

1.映画「ダンケルク」基本情報とクリストファー・ノーラン監督の紹介

▶映画「ダンケルク」公式予告動画
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【監督】クリストファー・ノーラン
(「インセプション」「ダークナイト」「インターステラー」他)
【配給】ワーナー・ブラザーズ
【時間】106分

本作でメガホンを取ったのは、スピルバーグやスコセッシのように、監督のネームバリューだけで観客を集めることのできる数少ない人気カリスマ映画監督の一人である、クリストファー・ノーラン。まだ47歳と若いのに、すでに映画ファンの間では巨匠と同列で語られる存在です。

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引用:Wikipedia「クリストファー・ノーラン」より

「ダークナイト」シリーズや、「インセプション」「インターステラー」など、作品単体で熱狂的なファンがそれぞれ付くほど、ヒット作を連発してきたノーラン監督。今回は彼が幼少期から繰り返し慣れ親しんできた、「ダンケルク」の栄光ストーリーを題材に、実話ベースの歴史大作で勝負をかけてきました。

そして、本作も期待通り、クリストファー・ノーランの作家性が大爆発。106分とコンパクトな作りながら、今まで見たことのないような映像体験ができる戦争映画に仕上がっていました。ノーラン監督も、「これは戦争映画ではない。サバイバルに焦点を当てたサスペンス映画なんだ」とインタビューで語っています。

しかし、鑑賞前にある程度の予備知識があったほうが良いでしょう。日本人には馴染みの薄い、75年前の史実を扱ったジャンルですが、映画中で詳細な状況説明はありません。予習なしで行くと、映画前半から置いていかれる可能性大です。

そこでオススメなのが、公式サイトで用意された、タレント・塾講師の林修が語るわかりやすいレクチャー動画です。3分程度の動画なので、是非映画を見る前にチェックしてみて下さい!

▶映画「ダンケルク」林修おもしろ解説!
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2.映画「ダンケルク」主要登場人物・キャスト

第2次大戦で動員されたイギリスの遠征軍には、非常に若い兵士が多かったそうです。その史実に基づき、若手俳優陣には極力「色がついていない」新人クラスが起用されました。それとバランスを取るかのように、壮年以上のキャラクターには、定評のあるベテラン俳優が起用されています。

主要登場人物

トミー(フィン・ホワイトヘッド)f:id:hisatsugu79:20170915135110j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
主役にはまだ映画ファンに知られていない新人がいい、という監督の意向を受け、オーディションで選ばれたラッキーボーイ。映画に出る直前まで、ロンドンのコーヒーショップのバイト店員だったそうです。セリフは少ないながらも、不安が募る中、生き残ることに必至な青年兵士をナチュラルな演技で魅せてくれました。

アレックス(ハリー・スタイルズ)f:id:hisatsugu79:20170915135249j:plain
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube
人気アイドル、ワン・ダイレクションのメンバーから抜擢。撮影中は熱狂的なファンやパパラッチ対策のために、彼だけ特別の護衛がついていたのだとか。一応、ノーラン監督のコメントでは「ちゃんとオーディションで選んだ」と言ってますが、まぁ芸能人枠ですよね。でも、演技は全然悪くなかったです。自然に映画内に溶け込んでいました。

ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)f:id:hisatsugu79:20170915134930j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
ダンケルク救出に向かった遊覧船の船長役。影のある表情の中に静かな闘志が宿る渋い演技でした!2016年、「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー助演男優賞を受賞しましたが、ノーラン監督が、「受賞が決まる前から撮影してたからね!」と強調してたのがおかしかった(笑)

ピーター(トム・グリン=カーニー)f:id:hisatsugu79:20170915135710j:plain
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube
ドーソンの息子。未成年らしく、イケメンですがまだ可愛らしい顔つきでした。この人も主演のフィン・ホワイトヘッド同様、今後話題になりそうな若手俳優です。

ファリア(トム・ハーディ)f:id:hisatsugu79:20170915135747j:plain
引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube
ラストシーン以外、ほぼ全カット、コックピット内での演技でしたが、悲壮な「決意」をするシーンでは、痛いほど伝わってくる好演でした。ノーラン監督とは、「ダークナイトライジング」「インセプション」に続いて3度目のタッグとなります。

ボルトン海軍中佐(ケネス・プラナー)f:id:hisatsugu79:20170915134956j:plain
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube
ダンケルクの撤退指揮を取った総責任者。現場の頼れる司令官として描かれています。実際にダンケルクで撤退戦の指揮を執り、評判が高かった軍高官をモデルとして何人分かミックスした人物がボルトン海軍中佐だったそうです。

その他、謎の英国兵役にキリアン・マーフィ、イギリス軍に潜り込んだフランス兵ギブソンをアナイリン・バーナード、ウィナント陸軍大佐役にジェイムズ・ダーシーなど、イギリス系の有名俳優が多数起用されています。

下記でダンケルクに出演した若手4名による対談動画も、公式サイトで公開されました。今後人気が出てきそうなフレッシュな俳優陣の素顔がチェックできます。

▶映画「ダンケルク」若手対談動画!
※画像をクリックすると動画がスタートします


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3.物語中盤までの簡単なあらすじを紹介

1940年5月下旬。ヒトラー率いるドイツ軍と戦っていた英仏連合軍は、直前の戦略ミスも重なり、フランス北岸の小さな港町、ダンケルクへと包囲され、追い詰められていた。将兵の数は約40万人。陸地は四方をドイツ軍に囲まれて脱出不可能な中、残された手段は海を渡ってのイギリス本土への撤退しかなかった。

イギリス遠征軍司令官のボルトン中将は、無傷で残された防波堤づたいに桟橋を作り、そこから順次兵を撤退させる「ダイナモ作戦」を開始した。しかし、ダンケルクの海は遠浅で、大量輸送ができる大型艦が多数入港できない。また、ドイツ軍との来るべき本土決戦に備えて、全ての艦を撤退作戦に投入するのは不可能だった。

そこで、イギリス軍は、対岸の港町から民間の小型船を多数徴発し、国民総出でダンケルクからの撤退救出作戦を実行した。中には、ミスター・ドーソンのように愛国心に目覚めた民間人の中には、危険を顧みず自らダンケルクの危険海域へと向かう者もいた。

撤退作戦と同時に、ドーバー海峡内の安全航行を保障し、ドイツ空軍から守るため、イギリス空軍からも最新鋭の戦闘機「スピットファイアー」が投入された。しかし、ドイツ空軍も手強く、ドッグファイトの結果、命を失う者、機体が損壊して海へ不時着する者、また、ガス欠でイギリス本土へ戻れなくなる者などもいた。

刻一刻と、陸上ではドイツ軍の包囲が狭まっていく中、果たして英仏連合軍はダンケルクから成功裏に脱出できるのか?目まぐるしく変わる天候や潮目、そして激化するドイツ軍の攻撃。困難を極めた撤退作戦において、陸・海・空それぞれの現場・局面で、男たちは生き残るため、どのように行動したのかー?

4.映画「ダンケルク」の感想・評価

ぶっちゃけ1回目を見た時は全く理解できなかった・・

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冒頭のシーン。最初の15分はほぼ会話なし。
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

本作は、第二次世界大戦の予備知識がなく、事前に予告編を見たり、レビュー記事を読んだりして映画本編の雰囲気を掴んでいない鑑賞者には、かなり厳しい映画です。

まず、映画中で「今、何が起こっているのか」という説明がほとんどありません。主要キャラ同士の会話もほとんどなく、特に序盤はまるで昔の無声映画を見ているような感覚になります。ストーリーは映像を見て理解するしかなく、目を皿のようにして片時もスクリーンから目を離せないのです。

さらに、頭を抱えてしまうのは、その複雑な物語構成です。映画では、3つの異なるタイムスケール・タイムラインにある陸・海・空の出来事を描いているのですが、場面の切り替えがかなり早くて、ついていけないんですよね。映像を見て「何が起こっているんだろう」と理解する前に、次のシーンへと遷移してしまうので、消化不良なまま進んでいきます。

物語が進行していくにつれて、陸・海・空のそれぞれの主人公たちの時間軸が近くなっていき、クライマックスで全部つながるのがわかるのですが、1度目を見終わった時点では、物語や衝撃映像を楽しむ余裕もなく、全くカタルシスを感じなかったです(笑)打ちのめされて帰宅し、短絡的に「つまらない。駄作?」と思ってました。

復習を済ませ、IMAXシアターで2回目にチャレンジ!

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案の定、僕のような消化不良気味のレビュワーも多く、ちょっと安心したのですが、後で「全編の70%以上を、70mmのIMAXカメラで撮影している」ことがわかり、しまったー!!と地団太を踏みました。(なぜかというと、IMAXに最適化した映像は、普通のスクリーンでは縮尺比の関係で、上下20%位が切れてしまうから)

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通常の2Dシアターでは上下20%が切れている
引用:Dunkirk (2017) Page 83 - Blu-ray Forum

案の定、Filmarksで高評価を下しているユーザはみんなIMAXで見ている人なんですよね。

・・・ということで、「よし、IMAXシアターで見てから、それでもつまらなかったらマイ駄作認定としよう!」ということで、IMAX2Dで2200円奮発して再度鑑賞。

すると、IMAXだと映像の迫力、音響の凄さ、臨場感が段違いだったのです。

映像も凄いんですが、体に響くような駆逐艦・戦闘機のエンジン音、それとシンクロする不穏な劇伴音楽など、特に「音響」の違いが凄い!また、背景知識を山のように頭に入れて臨んだこともあり、2回目はしっかりストーリーも追えて、満足できたのです。良い映画って、やっぱり2回、3回見ないと良さがわかりませんね。リベンジして良かったです。

では、「ダンケルク」は他の映画と何が決定的に違っているのか?どこが新しかったのか?

2回目の鑑賞を終えてして気付かされたのは、本作が非常に特殊で「新しい」戦争映画だったということ。

近年の戦争映画では、1998年の傑作「プライベート・ライアン」をお手本として、勇敢な主人公がヒロイックに行動し、勝利をつかむストーリーをベースとして、残虐・グロ描写も辞さない生々しい「悪の」敵軍との過激戦闘シーンまでが、テンプレート的に描写されることが多かったと思います。

しかし、本作は全く違っていました。何が違うかって言うと、例えば、、、

・主人公たちの戦闘シーンが全くない
・血も全く流れない
・敵のドイツ軍兵士の姿が全く描かれない
・映画中で善悪の価値判断がなされない

そうなんです。描かれたのは「丸腰での撤退作戦」なので、敵襲や過酷な自然環境の中、主人公たちがこの撤退戦を「どう生き延びて」「どう協力しあうのか」という「サバイバル」に焦点が当たっているのです。だから、それ以外の要素は思い切って抽象化されています。死体からは意図的にカメラが退いていきますし、「海上」ということもあり流血シーンも全くと言っていいほどありません。

そして、劇中でセリフが極端に少ないのです。まるでサイレント映画のようです。その分、観客は必死でストーリーを理解するために画面にかじりつかなければならないので、疲れます。本作は、ノーラン監督作品中では最短の106分ですが、1度目を見終わった後は、まるで150分くらいの長さくらいに感じました。

戦争映画というよりサスペンス映画、場合によってはホラー映画のようなタッチで描かれた本作。非常に斬新で新しい戦争映画となりました。実験的ではありますが、この「新しさ」こそが、アメリカの大手評価サイト等で絶賛された原因なのだろうと思います。

生き延びようと必死な兵士や、名も無き英雄たちの活躍など、見どころ十分でした

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引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube

初見ではわかりませんでしたが、2回目の鑑賞で気付かされたのは、生き延びようと必死な兵士のもがく姿が細部まで丁寧に描かれていたことです。

映画冒頭は、特に「これからサバイバル映画が始まるんだ」と言わんばかりの細かい演出が光ります。

喉の渇きを癒やすため、水道のホースから直接水を飲み、誰かの残したシケモクを拾って火をつけようとし、空から撒かれた伝単(ビラ)を、大便処理用にポケットに乱雑にねじ込む冒頭のシーン。

さらに、ビーチに出たトミーは、フランス軍兵士のギブソンが死体からイギリス軍の装備を取り出しているところを見つけます。意気投合した二人は、負傷者を担架に乗せて病院船に運び込み、そのまま紛れて船に乗り込もうとしますし、上官に追い払われても、あきらめず桟橋の下に隠れて乗船の機会を伺います。

その後、主人公のトミーは、なんとか帰国する船に紛れ込むことができましたが、今度は、乗った船がことごとく雷撃や爆撃に遭って沈み、その都度命がけで船を乗り換えて生き永らえるのです。死と隣り合わせの生き地獄のような戦場で、兵士たちの「生」への渇望を感じられる、凄まじい映像でした。

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民間人も兵士と一体となって参加した撤退作戦
引用:Dunkirk - Trailer 1 [HD] - YouTube

兵士たちのサバイバルが克明に描かれる一方で、さり気なく描かれたのが名も無き英雄たちの尊い自己犠牲精神でした。自らダンケルクへ救出に向かう民間人や、燃料切れで帰投不可となるのも辞さず、仲間の船を守ろうとした戦闘機のパイロット、帰着する兵士たちに道端で声をかけ、炊き出しを自発的に行った市民たち・・・

誰に誇ることもなく、自分たちにできる利他精神を淡々と発揮して、撤退戦に協力した、無名の兵士や市民たちが多数いたからこそ、30万人以上の将兵を救い出す大成功が導き出されたのだと思うと、目頭が熱くなります。

決して、VR的な映像没入体験だけがこの作品の特徴ではないんですね。通常の戦争ドラマでは見過ごされる「小さなドラマ」が、しっかりとした歴史考証を経て作り込まれているのです。 

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5.映画「ダンケルク」に関する10個の疑問点~伏線・設定を徹底考察!~

本作は、劇中でのセリフも少なく、全体として何が起こっているのか、背景知識なしではほとんど理解できません。いわば、現場に放り出されたイギリス軍の若手兵士に近い意識状態を疑似体験できるわけですが、そうは言ってもモヤモヤが残りますよね(笑)そこで、本エントリでは、作品をより深く理解し、味わうために、物語の焦点となる10点のポイントに絞り、掘り下げて考察してみました。本編のネタバレ部分が多少入りますので何卒ご容赦下さい。

疑問点1:「ダンケルクの戦い」とはどんな戦闘だったのか?

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赤=イギリス軍、青=フランス軍、黒=ドイツ軍
引用:http://www.iowtodunkirk.com/operation-dynamo/

1940年5月24日~6月4日にかけて、フランス北岸で戦われたドイツ軍VS連合国軍の戦いです。1939年にポーランドを制圧して勢いに乗るドイツ軍は、1940年4月、フランス軍の独仏国境に敷いた防衛網「マジノ線」を迂回し、北側のベルギー側「アルデンヌの森」を抜けて一気にフランス・イギリス軍をダンケルク周辺へと包囲し、追い詰めました。

四方を屈強なドイツ軍の地上部隊に囲まれ、逃げられるのはもはや海しかない状況で、これが本作で描かれた、イギリス軍による起死回生の撤退作戦「ダイナモ作戦」につながっていきます。

疑問点2:イギリス遠征軍の撤退作戦「ダイナモ作戦」とは?

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ドーヴァー城内に設けられた作戦司令室
引用:Dover Castle - Wikiwand

最高司令官だったラムゼイ陸軍中将が、司令室として使ったドーヴァー城の発電機室(ダイナモ・ルーム)にちなんで名付けられた撤退作戦です。ドイツ軍がダンケルクまでわずか16km地点まで包囲網を狭める中、目標救出数を45,000人と設定し、5月26日に作戦が開始されました。

市街地で後衛として防衛戦を守る約4万人の英仏軍がどれ位持つのか、どう大量の人員を効率よく運ぶのか、目処が立たない中での手探りでの作戦スタートだったようです。

疑問点3:最終的に何人撤退できたのか?また、なぜ撤退作戦はこれほど上手くいったのか?

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引用:Charles Cundall - Wikiwand

記録によると、最終的に338,226人がダイナモ作戦で救出できた兵士の総数でした。当初見込まれていた、目標45,000人を大幅に上回る大成功となりました。映画にあった通り、撤退作戦前半ではイギリス兵の回収が優先されます。

しかし、国際的な世論に配慮したチャーチル首相の指示もあり、作戦後半ではフランス兵が重点的に救出された結果、最終的に140,000人近くのフランス兵がイギリス本土へと渡りました。

撤退作戦が大成功に終わった理由としては、気候条件が良かったことや、ドイツ軍の敵失によるラッキーな側面もあったようです。具体的には・・・

5月26日以降、ダンケルクを包囲したドイツ軍の地上部隊がヒトラーの命令により突然作戦を休止したこと。ヒトラーの軍事センスの欠如や、彼がそもそも後日のパリ占領作戦に執心していたため、ダンケルクに無関心だった、など諸説あります。
撤退期間中、ダンケルク周辺の海域が深い霧に包まれる日が多く、ドイツ空軍の作戦が取りづらかった。逆に、通常かなり荒れ気味のドーバー海峡は波が穏やかで、小型船の航行がしやすい状況だった。天候条件が全てイギリス軍側に有利に働いたのです。

疑問点4:どのように撤退作戦を実行したのか?撤退に伴う問題をどう解決したのか?

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遠浅で波が高いダンケルク。大型船が近づけない。
引用:Dunkirk - Survival Teaser - Warner Bros. UK - YouTube

ダンケルクからの撤退作戦においては、ドイツ軍の妨害以外にも、以下の2点が問題になったとされます。

・ダンケルクが遠浅の海岸なので、大型船の入港が難しい。
・ダンケルク周辺の海域に、ドイツ軍により大量の機雷が敷設されていた。

このうち、1つ目の「遠浅」問題は、映画でも描かれていましたが、唯一無傷で残った東防潮堤を、空爆されるたびに工兵が補強・死守して、桟橋を確保するとともに、本土から徴発した小型民間船が、ダンケルク沖で停泊していた駆逐艦との間をピストン輸送することで解決されました。

映画で描写が省略されましたが、当初、ダンケルク周辺にはドイツ軍が敷設した大量の機雷が、撤退作戦の最も厳しい障害になりそうでした。しかし作戦直前に、イギリス軍に従軍するカナダ人の技師が、ダンケルク周辺に敷設されたドイツ軍の磁気機雷を無効化する技術の実用化に成功しました。これにより、ほとんどの機雷が無害化され、安全にダンケルク周辺の海域が通過できるようになったのです。

疑問点5:なぜ本作では敵軍の姿がほとんど見えないのか?

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上空から迫りくる爆撃。顔は見えない。
引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

イギリス軍兵士にとって、撤退作戦中に出会う本当の敵は、迫り来る戦車や歩兵隊などの「目に見える敵」ではなく、映画で見た通り、空からの爆撃、機銃掃射、潜水艦、機雷など、全て「目に見えない敵」だったからです。次にどこから、何が襲ってくるのかわからない・・・まさに恐怖ですね。また、ノーラン監督が劇伴音楽で「時計」チクタク音を多用したように、後ろから迫りくるドイツ陸軍から逃げるための「時間」との戦いでもありました。

だから、本作ではこの撤退戦の特徴を最大限描ききるために、ドイツ軍の姿を画面から消す演出を敢えて取ったのでしょう。

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疑問点6:ラストシーンでドイツ軍に捕まったファリアはその後どうなったのか?

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引用:Dunkirk - Official Main Trailer - Warner Bros. UK - YouTube

ラストシーンで、ガス欠でダンケルク海岸に不時着したファリアは、乗っていたスピットファイアに火を付け、ドイツ軍の捕虜となりました。その後はどうなったのでしょうか?

これは想像するしかないのですが、ちょうどこの時撤退できなかった4万人のイギリス兵同様、捕虜になった後はアウシュビッツのような強制収容所へ送られたり、強制労働に従事させられたりして死亡したのかもしれません。

実は、史実ではファリアと似たようなケースがあります。同じようにガス欠でダンケルク海岸に着陸した連合軍のパイロット、アラン・クリストファーは、ファリアと違い、捕まえに来たドイツ兵を殴り倒してその場を脱出し、イギリスへと自力で生還したそうです。その時の様子は、「Nine Lives」という書籍になって出版されています。

疑問点7:ラストシーンのあと、第二次世界大戦の戦況はどうなったのか?

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引用:ナチス・ドイツによるフランス占領 - Wikiwand

実は、ラストシーンのすぐ1ヶ月もしないうちに、フランスはドイツにあっさりと降伏してしまいます。ヒトラー率いるドイツ軍は、フランス軍の構築した防衛戦「マジノ線」を突破し、電撃的にパリを占領。装備・兵力ともにドイツ軍に劣るフランス軍は、1940年6月には降伏し、フランスに親ナチスの傀儡政権が樹立されました。

ついで1940年7月以降、ヒトラーはイギリスにも空爆を開始し、上陸作戦を実行します。しかし、撤退作戦の大成功で、チャーチル首相以下、徹底抗戦への士気が高まっていたイギリスは、ギリギリのところで本土決戦を防衛してピンチを切り抜けました。以後は、連合軍にアメリカが参戦したことによって形勢は徐々に連合軍側に傾いて行きます。

しかし、イギリスにとっては「ダンケルクの戦い」で撤退作戦を成功させ、約20万人の遠征軍の将兵を無傷で温存できたことが、精神的にも物理的にも、占領される水際でドイツ軍を撃退する力になったのでした。

疑問点8:ラストシーンでトミーが読み上げた新聞記事の内容は実話なのか?

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引用:Wikipedia「We_shall_fight_on_the_beaches」より

映画内で、ラストシーン直前にトミーが列車の中で読み上げた新聞記事の内容は、1940年6月4日、撤退作戦の終了を総括して、チャーチル首相が議会で行った演説からの抜粋でした。内容を一部抜き出すと、こんな感じです。

We shall go on to the end. We shall fight in France, we shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our island, whatever the cost may be. We shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender, and if, which I do not for a moment believe, this island or a large part of it were subjugated and starving, then our Empire beyond the seas, armed and guarded by the British Fleet, would carry on the struggle, until, in God's good time, the New World, with all its power and might, steps forth to the rescue and the liberation of the old.

簡単に意訳してみると、こんな感じです。

我々は最後まで戦い続ける。フランスで戦い、海で戦い、強くなる自信と力をもって空で戦うだろう。そしていかなる犠牲を払っても、我々の国土を守り抜くだろう。海岸で、上陸した陸地で、そして郊外や市街地、丘の上でも戦い続ける。我々は決して降伏しない。そして、決してそんな瞬間はないと信じているが、たとえ我々の国土やその大部分が征服され、飢えたとしても、大英帝国は決して戦いを止めない。全ての力と意志を持った新世界が神のご加護をもって救済を行い、古い世界を解放する日まで。(Wikipediaより)

本当に凄い文面ですよね。「ダンケルクの戦い」直前、65歳にしてようやく念願の首相の座が回ってきたチャーチルは、周囲の側近たちが弱気になる中、「徹底抗戦」を主張して一歩も譲らず、国民を力強いスピーチで鼓舞し続けたのでした。

疑問点9:この映画の登場人物は実在した人物なのか?

本作で描かれているのは、名も無き人々が、必死で生き延びようと行動し、協力し合った名も無き人々に焦点を当てた群像劇です。だから、映画内のセリフでちらっと言及されたチャーチル首相とラムゼイ陸軍少将以外は、基本的には架空の登場人物です。

ただし、パイロットのファリアには、上述したように似たような経験をした史実上の人物がいましたし、ケネス・ブラナー扮するボルトン海軍中佐も、撤退作戦を指揮した上級将校を何人か寄せ集めた合成キャラだと言われています。

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ムーン・ストーン号のモデル?「Sundowner号」
引用:Wikipedia「Charles_Lightoller」より

中でも、マーク・ライランスが演じた遊覧船の船主、ミスター・ドーソンは、当時66歳で救出作戦に自ら保有するヨット「Sundowner号」で救出作戦に参加した退役軍人、チャールズ・ライトラーをモデルにしていると言われています。

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ドーソンのモデル「チャールズ・ライトラー」
引用:Wikipedia「Charles_Lightoller」より

ライトラーもまた、劇中のドーソン同様、イギリス空軍に所属した長男を戦死で失っています。彼は、映画同様、Sundowner号に彼の息子、若い船員と3人で乗り込み、ダンケルクで130人の将兵を救いました。また、その帰路で、ドイツ空軍の機銃掃射を受けましたが、巧みな操船技術で爆撃を回避したエピソードも残っています。このエピソードも映画内で再現されていますね。

疑問点10:今もイギリス人の間で引き合いに出される「ダンケルク・スピリット」とは?

ダンケルクからの撤退作戦の大成功は、国民的な熱狂をもって賞賛されました。チャーチルの再三の称揚演説も奏功し、これ以後しばらく、イギリスは戦時体制下、「ダンケルク・スピリットを忘れるな」という掛け声の下、国を挙げて不眠不休で懸命に働いたそうです。実際、1940年~1941年のイギリスの鉱工業生産は飛躍的に伸びたとのこと。

以後、「ダンケルク・スピリット」は、イギリス国民にとって苦難・困難を乗り越える時のスローガンとして今までよく使われている有名なフレーズとなったそうです。

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引用:Private Eye | Official Site 

つい先日、EUからイギリスが離脱(撤退)する国民投票直前でも、離脱派の議員や評論家達は「ダンケルク・スピリットで行動しよう!」と煽っていましたね。ちょっと意味が違うような気もしましたが・・・

6.映画パンフレットが素晴らしい! 

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本作は、映画本編を単に見るだけでなく、ノーラン監督の映画制作においての工夫・ポイントや、「ダンケルクの戦い」をめぐる基礎知識を入れておくと、もっと深く楽しめるようになります。

今回は、映画パンフレットが本当に素晴らしかったです。ノーラン監督へのインタビュー、ストーリーや背景知識の解説、評論家のレビュー記事もハイレベルですし、ノーラン作品を徹底解説したまとめが素晴らしい出来。

▼読み応え抜群のコーナー「ノーラン解体新書」
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▼登場人物紹介や物語の背景説明もバッチリ
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是非、劇場へ行ったらパンフレットを購入してみて下さいね。一応、Amazonでも出品されていますのでリンクを置いておきますね。

7.まとめ

本作は、1度見ただけでは、混乱して頭が整理されないまま「つまらなかった」となってしまうかもしれません。しかし、我慢して何度も丁寧に映画を見ていくと、広大なフィールドを使いつつも、名も無き英雄たちに注がれたミニマム視点で、丁寧に映像・ストーリーが練り込まれた秀作であることがわかってきます。

実験的な要素が多く詰まった作品でしたが、ノーラン監督の作家性が色濃く出た、個性的で新しい戦争映画でした。スルメのような映画です。是非、どこか一つでもいいので自分なりの面白さが見いだせるまで、ぜひ繰り返し劇場(IMAX)でチェックしてみて下さい!

それではまた。
かるび

8.映画をより楽しむためのおすすめ関連映画・書籍など

詳しくて読みやすい!実話ドキュメンタリーの傑作「ダンケルク」

映画「ダンケルク」で描かれた撤退作戦は、「ダンケルクの戦い」のほんの一部でした。本書では、映画「ダンケルク」で扱われた撤退戦をメインに取り上げつつ、1939年、ドイツのポーランド侵攻あたりから、じっくり史実の時系列に沿ってドキュメンタリータッチで「ダンケルクの戦い」の全てが語り尽くされます。内容も新しく、映画「ダンケルク」の描写が頻繁に本文で引用され、映画内での映像表現と対比しながら読み進められます。ノーラン監督への超ロング・インタビューも収録され、まさに映画ファン向けの良書でした。翻訳書ですが、文章も非常に読みやすいしおすすめです!

ベネディクト・カンバーバッチ主演!BBCドラマ「ダンケルク」

英BBCが、よりイギリス軍視点でダンケルクからの撤退を描いたドラマ作品です。こちらでは撤退作戦に伴うドイツ軍との戦闘も生々しく描いています。正義=イギリス軍、悪=ナチスと割り切った勧善懲悪的な描き方は、映画「ダンケルク」と好対照(笑)ですが、ベネディクト・カンバーバッチの出番も結構多く、BBCが作っただけあって、結構出来は良いです。是非、別の視点・観点からダンケルクの戦いを見たい!という人には良い作品です。