あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【日本画ファン必見】藝大コレクション 2019・第2期展示の見どころを一挙紹介!【展覧会レビュー・感想・解説】

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かるび(@karub_imalive)です。

東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展2019」に行ってきました。これまでも開催されたら必ず足を運ぶようにしていたのですが、今回はなんと、東京藝術大学の熊澤先生のご厚意で、なんと厚かましくも第1期・第2期とも、個別に取材させていただくことができました!

そこで、本レポートでは、展覧会後半となる【第2期】の展示内容についてレポートしてみたいと思います。明治~昭和にかけて活躍した日本画家たちの珠玉の作品群が味わえる、素晴らしい展示内容となっていました!

藝大コレクション展 2019について

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大学美術館の頂点に立つ、東京藝術大学大学美術館。大学美術館としては破格の約3万件もの所蔵品を誇る、日本屈指の美術館なのです。

同館は、設立以来ハッキリした収蔵方針を掲げ、作品収集にあたっています。具体的には、以下の3つのどれかに当てはまる作品・資料が藝大美術館の重点収集対象となります。

・藝大生の学習、研究に役立つ美術品や資料
・藝大生の卒業制作
・同時代を象徴するような作品

たとえば第1期でも展示されていた、同館を代表する所蔵品である国宝「絵因果経」。岡倉天心が藝大の前身にあたる東京美術学校を設立した時、学生の研究資料として天心が購入したことで収蔵されました。以来、130年以上にわたり、絵因果経は同館の「宝物」としてたびたび熱心な藝大生によって作品制作の参考として模写されたり、研究されたりしてきました。最近だと、有名な現代日本画家・ 千住博が学生時代に熱心に絵因果経の研究に取り組んでいたというエピソードも残っています。

さてそんな東京藝術大学大学美術館ですが、所属する教授の退任記念展などをはじめ、毎年相当多くの展覧会が開催されています。そのため、同館の誇る豊富な所蔵作品を披露する肝心の所蔵品展がなかなか開催できないという悩みもあるようで・・・

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小村雪岱の卒業制作作品!これは珍しい!
小村雪岱《春昼》1908年 東京藝術大学蔵

だからこそ、年に1~2回開催される「藝大コレクション展」では、ここぞとばかりレア作品や代表作品が凝縮されて展示されるため、どれ一つとして「捨て作品なし」の好展示になるのです。 

今年度の「藝大コレクション展2019」は、第1期展示については好評のうちにすでに終了。前期展示では、池大雅の代表作《富士十二景図》全12点が奇跡的に集結した他、東京藝術大学・東京美術学校にゆかりのある作家たちの中から、原撫松・南薫造・三宅克己・牧野義雄などイギリスへと留学した洋画家の名品を特集。その詳細レポートは、僕がお世話になっているこちらの「和樂Web」で書かせてもらいました。第2期については、一緒に取材に同行していただいた和樂Webで活躍するライター・笛木あみさんやGooいまトピで山口さんが渾身のレポートをアップしてくださっていますので、こちらもおすすめです。


笛木さんの原稿がアップされたら、こちらに「和樂Web」での第2期についてレポートも紹介しますね!

第2期展示のオススメ注目ポイントを紹介!

第1期から引き続き展示されている作品もありますが、本レポートでは、特に第2期の展示内容の中から、特に注目したいポイントを5つに絞って紹介したいと思います!

注目点1:画面青すぎ!松岡映丘が切り開いた、新興大和絵

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特集:東京美術学校日本画家の作品群

日本で古来から描かれてきた絵画の伝統技法「やまと絵」。近世以降は「土佐派」「住吉派」など、幕府や朝廷の御用絵師として活躍する「やまと絵」を専門とする流派も江戸末期まで活躍しました。

しかし、明治維新を迎えて状況は一変。文明開化によって生活や文化が急速に西洋化していった日本では、美術界も大きな影響を受けます。特に伝統的な日本画を描いていたメンバーたちは、なんとか新しい時代の「日本画」を生み出そうと苦闘します。

その中で生まれた一つの潮流が、松岡映丘(まつおかえいきゅう)によって提唱された「新興大和絵」です。映丘は、本作《伊香保の沼》で「やまと絵」の伝統的な画題に取材しつつ、西洋美術の学習によって得られた写実的なアプローチや、遠近法、陰影表現を大胆に取り入れ、新しい時代の「やまと絵」を生み出そうとしました。

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松岡映丘《伊香保の沼》1925年 東京藝術大学蔵

特に画面を見てすぐに気づくのが、本作《伊香保の沼》での緑=「緑青」と青=「群青」の際立つ存在感です。従来の「やまと絵」にはなかった明るい画面と、より西洋絵画に近い風景表現は当時の画壇に衝撃を与え、多数の追随者を生み出しました。

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ひたすら青と緑で埋め尽くされた、やりすぎ感あふれる画面!
狩野光雅《那智》1919年 東京藝術大学蔵

本展では、松岡映丘が主催した「新興大和絵会」メンバーや、彼に影響を受けた後進の画家たちの作品に焦点をあてて紹介しています。

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山口蓬春《市場》1932年 東京藝術大学蔵

中でも面白かったのが新興大和絵の「自由すぎる」アプローチ。たとえば、伝統的な山水や貴族風味の庭園風景にこだわらず、異国情緒あふれる、旅先で取材した人々の生活情景を描いた山口蓬春《市場》を見てみましょう。

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山口蓬春《市場》部分図 1932年 東京藝術大学蔵

男性は烏帽子、女性はおさげにして、ほぼ全員が白い着物を着ています。異国情緒あふれる平壌の市場が伝統的な日本画の技法「吹抜屋台」を使って描かれています。

注目点2:藝大ならではの微笑ましい風俗画とは?!

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三浦文治《動物園行楽》1931年 東京藝術大学蔵

新興大和絵によって、有職故実や歴史・神話の縛りから解き放たれて、より自由になった「やまと絵」ですが、その極みともいうべきユニークな作品が、三浦文治《動物園行楽》です。

なんと上野動物園の風景と、動物園に集う群像を、伝統的な名所絵スタイルを援用して俯瞰的に描いているのです。

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三浦文治《動物園行楽》部分図 東京藝術大学蔵

動物園の檻の中にはちゃんと象や鳥なども描きこまれており、動物園にはサラリーマン風、家族連れ、幼稚園児、カップルなど様々な人々が丁寧に描写され、動物園の前の道路には馬車やクラシックカーなども走っています。また、空には名所絵らしく、ちゃんと水平に広がる「かすり雲」が漂っているあたり、芸が細かくて笑ってしまいました。

多分にパロディ風味漂う本作ですが、細部まで一切手抜きなく、しっかり描きこまれている作品です。作家さん本人はきっと大真面目に作品に取り組んでいたのでしょう。

隣にもう1作品上野動物園をリアルに描いた作品も展示されているので、上野付近の身近な生活風俗を描くのは藝大生の伝統なのかもしれませんね。

注目点3:名作続々!日本画の歴史を作った明治の巨匠たち

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名品:日本画特集

第2期では特に明治~戦前にかけて、新しい日本画の歴史を作ってきた巨匠たちの代表作品が集結。藝大美術館の他館にないアドバンテージの一つとして、巨大作品でも十分展示が可能な、非常に高い「天井高」が挙げられますが、本展では特に他館ではスペースの都合上掛けられないような大作が並んでいました。

いくつか紹介してみましょう。

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横山大観《四季の雨》1897年 東京藝術大学蔵

横山大観が「朦朧体」を始める直前に描いた作品。「竹林」の四季を色数少なく水墨画風に描いていますが、注目したいのは「春」を描いた一番右の作品。

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横山大観《四季の雨》部分図 1897年 東京藝術大学蔵

画面中央に「沼」が描かれていますが、ちょっと色、黒すぎません?柴田是真の漆絵を連想させるようなビビッドな漆黒で、黒光りする春の水面を表現しようとしています。実験精神あふれる横山大観ならではの斬新な試みだと思います。

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小堀鞆音《武士》1897年 東京藝術大学蔵

こちらは、本展でも登場している明治期の「やまと絵」系作家の系譜において松岡映丘の先輩格にあたる小堀鞆音(こぼりともと)。有職故実を踏まえ、日本神話や軍記物といった歴史に丁寧に取材した作品を多数残しています。

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小堀鞆音《武士》部分図 1897年 東京藝術大学蔵

しかし本作はでかいです。まるで平安・鎌倉時代の四天王像を描いた仏画のように意志の強そうな表情が描かれ、迫力満点の卵顔が印象的です。モデルとされた源為朝は言い伝えによると身長2m近くあった(?!)らしいですが、小堀鞆音は本作を描くにあたってわざわざ厳島神社に奉納された源為朝の遺品を見に行ってイメージを膨らませたのだそうです。

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橋本雅邦《白雲紅樹》1890年 重要文化財 東京藝術大学蔵

こちらは狩野芳崖とともに、狩野派の末裔として明治時代の日本画壇を引っ張った橋本雅邦の作品。左下の木々や山々の輪郭、岩肌などに狩野派伝統の画法を残しながら、西洋画から遠近表現を取り入れた新時代の「山水画」とも言うべき作品。雅邦は、本作のように急峻な山がそびえ立ち、滝があり、川が流れるダイナミックな構図の作品を多数残していますが、本作はそのサイズ感も含めて今まで見た中で屈指の出来と言える代表作です。・・・と思ってキャプションを見たらやはり。重要文化財に指定されているのですね。

近世的な「江戸絵画」と明治以降の「日本画」の橋渡しをするような、過渡期的な位置づけとして活躍した橋本雅邦の作品の特徴が非常によく出た作品で、感慨深く見入ってしまいました。

注目点4:伝説の官営会社・起立工商会社の凄い下絵

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起立工商会社工芸図案 東京藝術大学蔵

日本が本格的に参加した1873年のウィーン万国博覧会に合わせて設立されたのが、日本の伝統工芸を海外に輸出することを目的とした「起立工商会社」(きりゅうこうしょうがいしゃ)です。

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ちゃんと英語でポスターが描かれています。

ニューヨークにも支店が出店され、現地で広告ポスターも制作されました。

同社は、開国・明治維新以来、外国人に好評だった高級な陶磁器や漆工芸などを専門に扱い、殖産興業のために少しでも外貨を稼ごうと、政府主導で設立された国営企業です。

起立工商会社には、宮川香山、小川松民、白山松哉、池田泰真、塚田秀教など当時最高レベルの名工たちが続々と集結。わずか17年間と活動期間は短かったものの、日本工芸史において重要な役割を果たしました。

本展で展開されているのは、同社が残した「作品」ではなく、工芸作品を制作するための「下絵群」です。

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起立工商会社工芸図案 東京藝術大学蔵

こうした「下絵群」は、最終作品のための「資料」という位置づけなので、それ自体は作品ではありません。西洋絵画展で、作品とセットで展示される巨匠たちの「素描」や「模写」的な位置づけにあたるようなものだと思っていただければ。でも「なんだ、超絶技巧作品が置いてあるわけじゃないのか」とがっかりするなかれ。確かにこの下絵群、きちんと軸装されていたり額縁に入っていなかったりするのですが、実に見どころ満載なのです。

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起立工商会社工芸図案 東京藝術大学蔵

どうでしょうか?細い筆を使って線描主体で描かれているのですが、どれも非常に丁寧かつ写実的に描かれ、彩色も細かく施されていますよね。これ自体平面作品として十分鑑賞が可能なレベルです。

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起立工商会社工芸図案 東京藝術大学蔵

中にはこういった工芸作品へ絵付けがなされる本番時に対する注意書きが施されたものもあり、純粋に「資料」として楽しむこともできますよね。

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鈴木誠一が手がけた、竹林に群れる鳥たちを描いた下図
起立工商会社工芸図案 東京藝術大学蔵

驚きなのが、こうした下絵を手がけた作家たちが、現在では完全に忘れ去られてしまった「名もなき知られざる作家」によって手がけられていたということ。

図案を手がけた作家として判明しているメンバーの中には、最近ブレイクした小原古邨の師匠・鈴木華邨や鈴木其一の次男、鈴木誠一、琳派の末裔・山本光一といった、マニアであれば辛うじて認知しているであろう名前もあることはあります。しかしこうしたハイエンドな輸出品用の下絵群が、名もなき作家達によって支えられていたのだなと思うとぐっとくるものがありました。

展示されている下絵群を見ていると、少なくとも素描レベルにおいては彼ら無名の作家も、現代まで名を残した同時代の巨匠たちと遜色ないように見えます。改めて、明治期以降の日本画作家たちの層の厚さ、意外なレベルの高さに驚かされました。

注目点5:第2期から登場する洋画家の傑作も要注目!

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左:ラファエル・コラン《田園恋愛詩》1882年 東京藝術大学蔵
右:黒田清輝《婦人像(厨房)》1892年 東京藝術大学蔵

洋画に関しては高橋由一《鮭》や黒田清輝《婦人像(厨房)》、ラファエル・コラン《田園恋愛詩》など第1期から通期で展示されている名作群が引き続き楽しめる他、第2期から登場する作品もいくつかあります。特に注目したいのが以下の2作品。

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五姓田義松《操芝居》1883年 東京藝術大学蔵

明治維新後、まっさきにフランスへと渡航し、本場で西洋絵画の技法を学んだ五姓田義松(ごせだよしまつ)の作品。よーく見てみるとところどころ塗り残しがあって未完成な作品なのですが、写真もまだちゃんと普及していなかった時代に、外国人の顔や体型、服装などの特徴をよくつかみ、老若男女それぞれを描き分けた群像表現の確かさはさすが。

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山本芳翠《西洋婦人像》1882年 東京藝術大学蔵

もう1点は山本芳翠《西洋婦人像》です。留学時代に描いた作品とのことで、オープニングを飾る黒田清輝が《婦人像(厨房)》で現地で付き合っていた当時の恋人を描いたように、この女性も山本の彼女だったのかなと、思わず帰宅してからWikipediaで調べたら違ってました(笑)この絵のモデルになった女性はジュディット・ゴーディエという作家でした。Wikipediaには

著者のジュディット・ゴーティエは、詩人テオフィル・ゴーティエの娘。幼少から自宅サロンでフランスを代表する芸術家、作家らと交流をもっていた。カチュール・マンデスと結婚し、ピエール・ロティ、ヴィクトル・ユーゴー、リヒャルト・ワーグナーとは恋人関係にあった。

とあります。恋人候補に山本の名前はありませんでした(泣)しかしゴーディエさんモテモテですね。山本の隣にはサージェントがスケッチしたゴーティエの素描も展示されていますし、フランスの社交界では音楽家や作家、画家といった文化人の間では交流合コンが盛んだったんだなと感慨深くなります。

まとめ!

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館内展示風景(第2期)天井高が非常に高いので、大作もラクラク展示できるのが藝大美術館の良いところ。

いかがでしたでしょうか?第1期、第2期とそれぞれ取材させて頂いたのですが、どれも選びぬかれた作品ばかりで個人的には大満足でした。

特に明治期以降の作品では、巨匠の代表作を惜しみなく展示しつつも、普段なかなか展示されないような美術史の陰に埋もれがちな作家にも光を当てようとしている展示姿勢が素敵でした。

沢山の意外性あふれる作品が展示されている「藝大コレクション展2019」。ぜひ、お気に入りの作家を見つけてみてくださいね。意外な作家と出会える素敵な展示が待っています!

それではまた。
かるび

図録代わりにオススメ「東京藝術大学大学美術館所蔵 起立工商会社の花鳥図案 明治初期の工芸品構想」

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Amazon、楽天では5月27日から発売予定ですね。東京藝術大学大学美術館のミュージアムショップでは先行してすでに発売中です。

起立工商会社の下絵展示を監修した黒川廣子氏による著作。起立工商会社の下絵図案を特集した最新の解説書です。

展覧会情報

展覧会名:「藝大コレクション展 2019」
会場:東京藝術大学大学美術館
会期:第2期:2019年5月14日(火)~ 6月16日(日)
公式サイト:https://www.geidai.ac.jp/news/2019051576959.html