あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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川端龍子展は超ド級のスケール感!その圧倒的な個性を堪能してきました!【展覧会レビュー・感想/山種美術館】

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【2017年7月29日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

 6月24日から山種美術館で始まった「川端龍子ー超ド級の日本画-」展を見てきました。明治後期~第二次大戦後まで長く日本画画壇の最前線で活躍した日本画家、川端龍子の没後50年を記念して企画された回顧展です。

その作品の確かなクオリティ、スケール感、独特の発想力、引き出しの多さ、どれを取っても素晴らしい画家でした。一言で言うと、見ていてその「個性に圧倒された」展覧会でした。一見の価値アリですよ!!

さっそく、以下感想・レビューを書いてみたいと思います。

※本エントリで使用されている写真画像については、あらかじめ主催者の許可を得て撮影したものとなります。何卒ご了承ください。

1.川端龍子展について

川端龍子って誰なの?

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川端龍子(1885-1996)
引用:大田区立龍子記念館HPより

川端龍子(かわばたりゅうし)は、明治末期~昭和高度成長時代まで、息長く活躍をした近現代の日本画作家です。その作風は、ゴージャスで型破りで独創的。

若い時、新聞や雑誌の挿絵画家などで生計を立てながら、まず洋画家を目指して油絵の道に進むも、途中から日本画へ転向。若い時は明治期の巨匠たちの薫陶も受け、院展に参加する折り目正しい正統派日本画家でしたが、保守的な画壇では収まりきらず、方向性の違いなどから、1929年に院展を脱退し、自らの主催する日本画団体「青龍社」を設立。(なんでも、横山大観と折り合いが悪くなってしまったという裏話も・・・)

そこからは、まさに川端龍子ワールドが炸裂!緻密で写実的な円山四条派のような作風から、マンガのようなゆるいタッチの人物画、巨大な屏風絵など、バラエティに富んだ作品を残していきます。

龍子は、大衆に広く訴える絵画を目的とした「会場芸術」という概念を提唱し、その作品は、大胆・奇抜で、どんどん大型化していきました。

12年ぶりの本格的な回顧展 

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そんな川端龍子ですが、知名度としては今ひとつ高くありません。明治期以降の日本画家はまだまだ埋もれたままのもったいない作家が沢山いますが、この川端龍子も残念ながら一般人への知名度はほぼありません。

実は、12年前に江戸東京博物館で「生誕120周年 川端龍子展」という回顧展が一度開催されているのです。しかし、会期も38日間と非常に短く、入場者数も江戸博にしては若干寂し目の35,000人弱と、マニア以外には今ひとつ浸透しませんでした。若冲のようにブレイクするのはなかなか難しいのですね。。。

試しに自分の友人などに聞いてみましたが、だいたいこんな感じ。

・伊藤若冲・・・「知ってる!いいよね!!」
・横山大観・・・「うーん。名前だけなら。」
・川端龍子・・・「誰それ。知らない。」

結局こういう回顧展は、何度も数年おきにやっていかないとなかなか知名度って上がっていかないんでしょうね。だからこそ、今回12年ぶりに展示環境の素晴らしい山種美術館で満を持して開催されることにはすごく意味があると思います!盛り上がるといいな!!

企画展連携先の美術館「大田区立龍子記念館」

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引用:大田区立龍子記念館HPより

今回の「川端龍子ー超ド級の日本画ー」展が開催されるにあたっては、山種美術館で保有しているコレクションをベースとした上で、複数の国内の美術館から貸出を受けています。中でも展示物の約半数を借用しているのが、「大田区立龍子記念館」。

龍子記念館は、「自分の作品を飾る展示スペースが欲しい!」と熱望した川端龍子が、自ら生前に企画して、1963年に設立されました。当初から運営を行ってきた社団法人青龍社の解散にともない、1991年から大田区が「区立龍子記念館」として運営を引き継いでいます。

東京都内の閑静な住宅街にある個人美術館ですが、日本画を扱った美術館としては、実は山種美術館よりも歴史が古いんですよね。今回の企画展では、前後期合わせて全部で29点の貸出を受けています。

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2.展覧会の3つのみどころ

2-1.とにかくスケール感がでかい!

絵画・彫刻などのあらゆる美術作品に言えることですが、単純に「でかい作品は見ごたえがある」と思います。そして、川端龍子の作品は、とにかく巨大な作品が多い!

たとえば、この作品。山種美術館の奥の壁一面を全部使って展示された、中国の名所「香炉峰」のある山地を飛ぶ巨大な戦闘機です。

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川端龍子「香炉峰」(1939)/大田区立龍子記念館

ジャンルとしては、いわゆる第二次大戦中の戦意発揚を狙った日本独特の戦争画。ですが、こんな絵は戦争画で見たことがありません(笑)絵も馬鹿でかいのに、さらにその絵に収まりきらない飛行機の機体(笑)ヤケクソのように日の丸がデカく描かれたり、尾翼部分が全部赤く着色されて、否が応でも日本の国旗を強く思い起こさせられます。

ちなみに、絵に描かれた戦闘機のパイロットは、川端龍自身をモデルにしていると言われます。部分的に拡大してみると、確かに川端龍子自身に似ているかも・・・

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「香炉峰」(部分図)

いや、それともこっちかも・・・。このすました表情は、「紅の豚」のポルコ・ロッソを強く想起させました・・・。

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『紅の豚』(c)1992 Studio Ghibli・NN

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川端龍子「鳴門」(1929)/山種美術館

つづいて、こちらの作品。青龍社を立ち上げ、初めてのグループ展「青龍展」第1回を記念した意欲作です。江ノ島の海の写生を元にして、鳴門海峡の渦潮を「想像して」描いたものだと言われています。近くに寄って見てみると、物凄い「動き」や「うねり」、「スピード感」を感じさせるような筆使いが印象的です。ちょっと部分図を見てみましょう。

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「鳴門」(1929)部分図

この絵だけで、龍子は役3.6kgの群青色の岩絵具を投入したのだとか・・・。でかい絵は書くのってエネルギーだけじゃなくて、お金もかかるんですね(笑)

2-2.確かな腕前!

川端龍子は、会場映えする作品を好んで製作したからと行って、決して大味な作品で良しとしたわけじゃありません。大きくてもきっちり細部まで作り込みますし、通常の作品においては、私淑した円山四条派のスタイルを踏襲した、正統派の写実的な作品も多く残しています。

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川端龍子「鯉」(1930)/山種美術館

例えば、川端龍子が繰り返し好んで描いた「鯉」は、どの作品も本当に精細で上手!この「鯉」も中期の作品ですが、急に腕前を上げ始めた時に描かれた傑作です。 

3-3.引き出しの多さ、奇抜な発想!

そして、驚くのはその引き出しの多さ!時期によって作風が大きく変わっていくカメレオンのような作家はいますが、川端龍子も、その生涯において様々な引き出しや発想を持った画家でした。

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川端龍子「夢」(1951)/大田区龍子記念館

普通は日本画ではあまり描かれないようなミイラの絵です。しかも、そこに蛾が舞っている・・・。速水御舟の代表作「炎舞」との関連性が指摘されていますが、むしろ僕は西洋絵画的な文脈で蛾が「魂」「不死」「夢」を強く暗喩しているように見えました。凄く面白い絵です。

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川端龍子「龍巻」(1933)/大田区立龍子記念館

「龍巻」と題名がつけられた本作は、逆さになった海の生き物たちが海流に翻弄されつつ、その中をサメが泳いでいくものすごく変わった構図。制作途中で、上下逆さまにしたら面白いかな?と着想し、そのまま逆にして完成させたという逸話があります。

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「龍巻」(部分図)

これ、特にサメのお顔がかわいいんですよね。獰猛な感じよりも、海の中を楽しんで遊泳しているように見えるんです。このあたりは、若い時に挿絵作家として確立したセンスなんだろうな~と思って見ていました。

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3.その他気になった展示

ほぼ全作品見どころたっぷりなので、紹介したい作品は山ほどあるのですが、後もう少しだけ、特に印象に残った展示を取り上げたいと思います!

3-1.灼熱のデスメタラー、不動明王!!

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川端龍子「火生」(1921)/大田区立龍子記念館

それまでの日本画にはあまりなかった構図の不動明王像。モデルは、高野山明王院の通称「赤不動」です。どこかとぼけたような空気をまといつつ、全身から鬼気迫るエネルギーをほとばしらせる赤鬼のような不動明王。斬新すぎるポーズは、独特な味わいを産んでいます。

一方、この絵にどこかで強い既視感を覚えたので、この感じなんだろうなぁ~とずっと考えながら見ていたら、わかりました。この鬼はメタルバンドのドラマーにたたずまいが似ているんです!

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元メタリカ/ラーズ・ウルリッヒ
引用:Twitterより

「ドラム!川端りゅうし~!!」「いえー!!!」みたいなそんな場面に見えて仕方がない!!手に持っているのは剣ではなくドラムスティックだと思って下さい!

3-2.めちゃくちゃ達筆な川端龍子!

美術評論家の山下裕二先生が、よく使われる「筆ネイティブ」という言葉。物心ついた頃から、毛筆を日常的に使ってきた明治期までの日本画家は、絵を描く際にも、線にも迷いがないし、筆さばきのレベルが違うんですよね。そういう意味では、川端龍子は昭和中期まで生きた、まさに最後の「筆ネイティブ」な画家のうちの一人なんじゃないでしょうか。

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川端龍子/短冊「駆けっこに」ほか/大田区立郷土博物館 ほか

見て下さい、この上手な筆さばき!学芸員さんは多少クセがある、と言っていましたが、ものすごく達筆で素敵な字だなぁと、展示ケースでひと目見てしばらく動けなくなってしまいました。

3-3.過去に習得した技術を大切にする姿勢も素晴らしい

川端龍子は、たとえ新たな画風を獲得しても、以前まで使っていた技法を決して捨てること無く、いつでもそれを引き出しから取り出して使うことに躊躇がありません。だから、技巧的な作品を残したと思えば、微妙に西洋絵画風だったり、あるいは、マンガ絵風だったり、いろいろな引き出しをいっぺんに使える画家でした。

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川端龍子「百子図」(1949)/大田区立龍子記念館

たとえば、この作品。現代でも「癒し系イラストレーター」として通用しそうな、柔らかいマンガ/挿絵のような子どもたちの乗った像の絵です!

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「百子図」(部分図)

柔らかい筆使いと合わせて、本当に器用に色々とこなせるのだな、と感心してしまいました。保守的な日本画の大家なら、絶対こんな絵を晩年に発表したりしないですよね?色々なものにとらわれない自由な精神と、若い時から培ってきた様々なスキルを縦横無尽に引き出してアウトプットできる柔軟さが素晴らしいと思います。 

4.混雑状況と所要時間目安

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前回の「花*Flowwer*華展」では期間中32,000人の来場者があったという山種美術館。しかし、まだまだそこまで混雑する程ではないので、期間中は土日を含めてゆっくり見れると思います。

前期・後期で展示替えが一定数発生するので、ここは是非前後期で2回足を運んで、コンプリートしておきたいところですね。

5.是非立ち寄りたいカフェ

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 山種美術館といえば、何と言っても館内1Fに併設された「カフェ」の素晴らしさ。毎回の企画展で展示される代表的な作品にちなんで用意されるオリジナル和菓子が素晴らしいです。僕の尊敬する美術ブロガー、Takさんが上梓した「カフェのある美術館」にもガッツリ特集されています。 

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毎回用意される5種類のオリジナル菓子ですが、今回は5種類あるうち、特にこの鳴門をモチーフとした青い菓子、「涛々」がメチャうまでした!試食コーナーで残り1個となっていたところを頂いたのですが、たくさんあったら絶対バレないように2つ食べてた!

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そして、店員さんにおすすめメニューを聞いてみたのですが、この夏の一押しは「冷やし豆乳そうめん」とのこと。こちらを頂いたあとに、オリジナルの和菓子をセットでいただくと、展覧会で集中した頭もスッキリしますね。

6.関連情報 

Eテレ「日曜美術館」で放映決定!(2017/7/16)

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山種美術館の企画は、コンスタントに毎年1回以上は「日曜美術館」や「ぶらぶら美術・博物館」などのアート番組で取り上げられています。今回の「川端龍子展」が7月16日の放送回で特集される予定です!

特集以降は、若干混雑するので、できるだけ清涼な展示空間を独り占めしたい!という人は、放送前に行っておくのがいいかもしれませんね。 

7.まとめ

つくづく思うのですが、明治期~昭和前期までの日本美術や工芸の作家たちって、一部のメジャーどころを除くと、世間から忘れ去られた人が本当に多いのですよね。この川端龍子という画家も、その圧倒的な個性や確かな技術、作品のインパクトから言うと、もっともっと評価されていい日本画家だと思います。

少なくとも、単純に見ていて「楽しい」画家なんですよね。是非、ド迫力の作品群を冷房の利いた抜群の環境で楽しんでみて下さい。行って非常に満足した展覧会でした。おすすめです!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2017年6月24日(土)~8月20日(日)
*会期中、一部展示替えあり
(前期: 6/24~7/23、後期: 7/25-8/20)
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
月曜日(但し、7/17(月)は開館、7/18(火)は休館)
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/index.html
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum