あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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美術館で納涼!企画展「水を描く」(山種美術館)は夏の涼しさをたっぷり感じる展覧会!【展覧会感想・レビュー】

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かるび(@karub_imalive)です。

2018年の夏は、7月に入ってから連日、全国各地で体温を超える最高気温を記録するなど、外に出るのもつらくなるような異常な暑さが続いていますよね。そんな中、美術館の中で別世界のような涼しさを体感できる企画展「水を描く」が、7月14日から山種美術館で開催中。早速行ってきましたが、冷房の効いた快適な館内で、涼し気な水辺の風景を堪能できて、心からリフレッシュできる良い企画展でした!さっそく体験レポートをまとめてみたいと思います。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

1.山種美術館は丘の上!夏場はタクシーかバスがおすすめ!

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広尾の小高い丘の上にある山種美術館。渋谷駅・恵比寿駅など複数の最寄り駅がありますが、どの駅からもそこそこ歩きます。ただ、それがいいんですよね。毎回歩いて美術館へ向かう道中、すこしずつ展覧会への期待が胸のうちでふくらんでいく高揚感を味わうのも、山種美術館の展覧会を味わう僕なりの儀式(?)みたいなものでした。

が、今回は勝手が違いました・・・。暑い!!

渋谷駅の16番出口に降り立つと、外はうだるような暑さ。さすが東京砂漠。コンクリートジャングル。16時を回っているというのに、殺人的な暑さに、歩くのを断念・・・。2016年の春以降、企画展のたびに毎回欠かさず徒歩で山種美術館へ通っていたのに、はじめてタクシーを使ってしまいました(笑)

密かに敗北感に苛まれながら、山種美術館に到着。そこで出会ったブロガーさんに聞いてみたら、やっぱり夏に限っては歩きよりも「バス」か「タクシー」を使って来る人が多いみたいですね。なんだ、みんなもそうだったのか・・・^_^;

ということで、来館する時はぜひ無理なさらず、熱中症と水分補給には十分気をつけてくださいね!

2.美術館の中は別世界!冷房の効いた館内で涼やかな夏を楽しむ!

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しかし美術館の中に一旦入ると、そこは快適に冷房が効いた別世界でした!ロッカーに荷物をおいて、トイレで顔を拭いて落ち着いてから地下の展示室へ入ると、待っていたのは、海・滝・渓流・雨・田園など、近現代の日本画の名手たちが描いた「水」の風景画がずらりと約50点!(※すべて山種美術館所蔵)

いや~、身も心もしっかりクールダウンできました!

3.企画展「水を描く」の内容と3つの見どころ

企画展「水を描く」は、徹底的に日本美術に描かれた「水」に注目した展覧会です。別途頂いた報道資料を引用すると、

豊かな水源に恵まれた日本では、水は常に人々の生活とともにあり、美術作品においてもさまざまに表されてきた。水が見せる表情は多くの画家の創作意欲を掻き立てたのだろう。水を描いた絵画には、画家たちの優れた技巧や多彩な表現をみることができる。

とあるように、今回展示されている江戸時代の浮世絵や近現代の日本画では、多士済々の作家たちが、それぞれ個性的な筆致で「水」を描いています。

「水」は、日常空間にありふれた物質ではありますが、ある意味世界を形作る根源的な存在でもあります。それだけに、各作家も格別その描き方には工夫をこらしたのかもしれません。つまり、本展は様々な「水」その個性をたっぷり感じつつ、夏の涼しさを体感できる展覧会になっているのです。

そこで、僕の感じた本展の見どころを以下の3つに絞ってピックアップしてみました。

見どころ1:巨大作品で表現されたダイナミックな「水」の流れ

今回の展覧会では、展示スペース一杯にどかーんと並べられた巨大な作品群が目を引きました。大きい作品は、やっぱり迫力も違います!

まず、目が釘付けになったのが、川端龍子《鳴門》です。

鳴門海峡に渦巻き、水しぶきを上げる荒々しい水流の様子が、巨大な屏風絵一杯に描かれた傑作です。川端龍子が屏風に叩きつけた情熱というか、エネルギーみたいなものがびんびんに感じられるすごい作品。2017年に山種美術館で開催された夏の川端龍子展で見て、強烈な印象が残っていただけに、またすぐに作品に再会できてよかった!

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川端龍子《鳴門》

どうですかこの水の流れの表現!細部まできっちり描きこまれた川端龍子の「会場芸術」堪能してみて下さい! 

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川端龍子《鳴門》部分拡大図(4点いずれも)

つづいて、荒々しい海を描いた橋本関雪《生々流転》。めちゃくちゃ長いです!六曲二双の画面(24面)いっぱいを使って描かれた海の情景は、先日、「横山大観展」でも話題となった、横山大観の40mを超える同名タイトルの巨大作品を連想させました。

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橋本関雪《生々流転》

つづいて、季節は夏を通り越して、紅葉に染まる秋の奥入瀬渓流を描いた、涼し気な巨大作品《奥入瀬(秋)》。こちらも、ずばり注目したいのは渓流を流れる水の流れです。

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奥田元宋《奥入瀬(秋)》

拡大してみてみましょう。写実的で、まるで油絵のようですよね。紅く染まった晩秋の紅葉の中で、泡飛沫を上げて流れ落ちる白い水流が、ひときわ涼し気な様子に映りました。

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奥田元宋《奥入瀬(秋)》部分拡大図

見どころ2:迫力満点!千住博の描いた巨大な「滝」

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2018年の夏、「滝」をモチーフに、大阪でチームラボとのコラボ作品が好評展示中の千住博ですが、「水を描く」展でも展示後半で、大々的に千住博作品がフィーチャーされています。2018年春に展示された「桜」をテーマとした作品も良かったですが、今回も非常にパワフルで印象的な作品。

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千住博《ウォーターフォール》

しぶきを上げて直角に激しく落ちる白糸の滝は、涼しげというより荘厳で神秘的な雰囲気が漂っています。見ているだけで身も清まってくるような、強烈な清々しさを体感できる作品。千住博が由緒あるお寺から次々にオファーが舞い込むのもわかります。やはり千住博の作風は、仏教美術と相性がいいのだなと実感できました。

いっそ、絵の中に入り込んで修行僧のように滝行してみたいです(笑)

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千住博《フォーリングカラーズ》

そして、その隣にあるのが、アンディ・ウォーホールの作風を彷彿とさせる、原色系で塗り固められた5枚の滝の写実絵画です。真横に一列に並べられた同じデザインの滝の絵画は、モチーフをコピペで表現する琳派的な「美」も少し彷彿とさせました。

しかしこうして大胆に色を変えて描かれても、荘厳な雰囲気が保たれつつもどこか涼し気なのは、「滝」の持つ自然の力なのかもしれません。

見どころ3:たくさんの画家たちについて深く学べる展覧会

山種美術館の展覧会に来るたびに思うのが、「解説が丁寧だなぁ~」ということ。特に今回のような、あるテーマを軸に企画された所蔵品展の場合、1つの展覧会でたくさんの作家が紹介されているのですが、嬉しいのは、ひとりひとりの作家のプロフィールに対して、詳細な解説パネルが完備されていること。

▼充実!所狭しと並べられた解説パネル!f:id:hisatsugu79:20180728175246j:plain

山種美術館では、大御所から知られざるマイナー作家まで幅広く所蔵アイテムを取り揃えていますが、毎回楽しみなのが、まだ知らない作家の作品との出会いなんです。「おっ、この作家すごいな・・・。で、どんな人なんだっけ」とふと作者に思いを馳せた時、ちゃんと解説パネルや音声ガイド等で作家の来歴を確認できるので、本当に心強いんですよね。

▼主要作品には音声ガイドがほぼ全て用意されているf:id:hisatsugu79:20180728175307j:plain

また、美術館イチオシの重要作品に対しては音声ガイドもあるし、作品成立に至ったエピソードや作家本人談まで紹介されていることもあるんです。色々な角度から手を変え品を変え解説してくれるので、ガッツリ学びにもなりますね。これは嬉しい! 

4.個人的に非常に気になった作品たち

スパイダーマン?宮廻正明の描く緻密な「ネット」

展示を見始めてすぐ、「おおっ!」と思わず目を見張ってしまったのが、宮廻正明《水花火(螺)》。宮廻教授といえば、先日東京芸術大学の退官を記念して開催された大回顧展で初めて作品をまとまって観る機会があったのですが、細部まで丁寧に描きこまれた職人的な作品へのこだわりが強烈に印象に残っていました。

本作も、水辺でいつものように作業をする漁師を描いた何気ないモチーフ・・・のはずなんですが、宮廻氏が描くと、やっぱり独特の味が出るんですよね。

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宮廻正明《水花火(螺)》

ちょっと拡大してみましょう。タイトルにあるように、まるで花火のように360度にバァーッと広がった投げ網は、網というよりまるでクモの糸って感じです。画面中央に描かれた男も、なんだか特種なコスチュームを着ているように真っ白に描かれていて、怪しさ満点。常人離れした投網のスキルに、「和製スパイダーマンか?!」と思わず心の中で突っ込んでしまいました・・・。

▼アメコミ・ヒーローのような漁師f:id:hisatsugu79:20180728175831j:plain
宮廻正明《水花火(螺)》部分拡大図

でも、もうちょっと寄って見てみると、また別の面白さや凄みが出てくるのが宮廻氏の作品の特徴です。本当に丁寧に、丁寧に描かれているんですよね。見て下さいこの網の描き込みと、点描で表現された透明感のある水面の様子を・・・。これを描きこむだけでどれだけ時間と労力を投入しているのか・・・。

この個性、本当にクセになります。

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宮廻正明《水花火(螺)》部分拡大図

川合玉堂の十八番!水車のある風景!!

山種美術館の所蔵品展では毎回と言って良いほど出展される近現代日本絵画の巨匠・川合玉堂の作品。その中でも、僕が特に好きなのが、玉堂が好んで何度も描いた水車のある風景です。今回、水車が描かれた玉堂の風景画が、《渓雨紅樹》《水声雨声》と複数堪能できたのは嬉しかった!

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川合玉堂《渓雨紅樹》

是非、近づいて水車に注目してみてください!

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川合玉堂《渓雨紅樹》部分拡大図

日本の古き良き田園風景を彷彿とさせ、叙情性あふれる玉堂の作品、しっかり堪能させてもらいました! 

涼しさを通し越して厳寒の海が楽しめる?!加山又造が描く夜の海岸!

写真撮影禁止のため、撮影した画像としてお届けできないのが残念なのですが、それでも是非見て欲しいのが加山又造の名作《波濤》月夜の岸壁に荒々しく打ち付ける波濤の表現は本当にいつ見ても見飽きません!

イメージ図として、2018年4月~5月にかけて恵比寿で開催された「Re又造展」の記念写真撮影用の看板に印刷された、構図が似ている作品《月光波濤》の写真を貼っておきますね!

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参考:加山又造《月光波濤》(※本展には出展されていません)

どうですかこの迫力。山種美術館所蔵の作品《波濤》もこれと全く同じ迫力・冷たく妖しい魅力が詰まった作品です!

5.グッズや和菓子でも「涼」を堪能しよう!

まずは必ずチェックしたい展示にちなんだ5種類の和菓子

展覧会が開催されるたびに、展示中の作品をモチーフとして、毎回期間限定でCafe椿のカフェメニューに5点の新作和菓子が登場します。

今回は、以下の5点が登場!

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いつものように、着想の元となった展示作品については、展覧会場の解説パネルに明記されています。下記のマークを探してくださいね。ちなみにこの表記、ブロガーからの提案が取り入れられて、昨年からわかりやすくつけられたマークなんです。ブロガーに優しい山種美術館、大好きです(笑)

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毎日眺めたい「東海道五拾三次クリアファイル」

続いて、気になったグッズをいくつか紹介。

まず最初にこれは面白い!と感じたのが、歌川広重(初代)の描いた東海道五拾三次の作品全てがサムネイル的に印刷されたクリアファイル。

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こうしてみてみると、東海道五拾三次には、「雨」や「海辺」など水のある風景が多数出現しているんですよね。浮世絵が好きな人は毎日眺めても飽きないアイテムだと思いました。

売れ筋なのは「手ぬぐい」「絵はがき」

やはり夏らしく、ハンカチとして体の汗をぬぐったり、水筒などをくるんで持ち運んだり、様々な場面で使える「手ぬぐい」が最近のグッズの売れ線なのだそうです。僕も中高生時代、部活の剣道でよく使ったな~。

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また、本展の代表的な作品を収録した「絵はがき」もよく売れているそうです。人に贈っても良いですし、アルバムや額縁に入れて繰り返し自宅で眺めるのもいいですよね!

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そうそう、前回の特別展「琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―」で久々に制作されたTシャツですが、かなり売れていて在庫僅少となっているようです!!

夏らしいデザインは、まさに今が買い時!売り切れる前にぜひぜひ!!

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6.混雑状況と所要時間目安

今回の展覧会は、いわゆる「特別展」ではなく、所蔵品展にあたるため、そこまで大仰に混雑することはないかもしれません。ただ、ゆっくり見たいのであれば午前中や午後15時以降がおすすめです。時間帯によっては、川端龍子や千住博の巨大作品を独り占めできるかもしれませんね?!

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見て回るための所要時間はおおよそ60分~90分あればOKでしょう。ただし暑いので、一旦館内に入ったら帰りたく無くなるかもしれません。作品を一通り見終わった後、涼しい展示室内で体のほてりも収まったところで、カフェを楽しむところまでセットで考えるなら、120分~150分程度は余裕を見ておきたいです。

7.まとめ

ヒートアイランド・東京都心にありながら、美術館の館内に入るとまるで避暑地に来たような感覚をたっぷり感じられる企画展「水を描く」。館内で展示されている名画の数々を見ていると、色々な水の音が今にも聞こえてきそうな気がしました。風流な日本の「夏の涼」を感じられる、タイムリーな企画です。2018年の酷暑の夏に、何度でも訪れたい展覧会でした。おすすめ!

それではまた。
かるび

展覧会開催情報

◯美術館・所在地
山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36
◯最寄り駅
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅 2番出口より徒歩約10分
JR渋谷駅15番/16番出口から徒歩約15分
恵比寿駅前より日赤医療センター前行都バス(学06番)に乗車、「広尾高校前」下車徒歩1分(降車停留所③、乗車停留所④)
渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車、「東4丁目」下車徒歩2分(降車停留所①、乗車停留所②)
◯会期・開館時間
2018年7月14日(土)~9月6日(木)
*会期中、一部展示替えあり
10時00分~17時00分(入場は30分前まで)
◯休館日
毎週月曜日
※但し、7月16日(月)は開館、7月17日(火)は休館
◯公式HP
http://www.yamatane-museum.jp/
◯Twitter
https://twitter.com/yamatanemuseum