かるび(@karub_imalive)です。
2月4日から三菱一号館美術館で開催中の「オルセーのナビ派展」。素晴らしい展覧会でした。印象派と現代美術の橋渡しをする過渡期の19世紀末に、フランスで生まれた前衛芸術運動の一派「ナビ派」の日本初の総合回顧展となる今回の展示は、おしゃれで、かわいくて、ちゃんとわかりやすさもある親しみやすい展覧会でした。
1888年~1900年頃のわずか10年ちょっとの間に、ゴーギャンに影響を受けたフランス人画家達が、どんな絵画を描いていたのか、まとめてチェックできる良い機会でした。
以下、早速展覧会の感想を書いてみたいと思います。
※なお、写真はブロガー内覧会のときに、主催者の許可を得て撮影しています
- 1.「オルセーのナビ派展」混雑状況と所要時間目安
- 2.ナビ派ってどんな人達なの?~3分でわかるナビ派解説~
- 3.「オルセーのナビ派」展とは
- 4.ナビ派の画家たちって、どんな人がいるの?
- 5.個人的に気になった展示
- 6.グッズ・物販コーナーも充実!
- 7.まとめ
- 「オルセーのナビ派展」関連書籍
- 展覧会開催情報
1.「オルセーのナビ派展」混雑状況と所要時間目安
ブロガー内覧会の時にお邪魔したので、厳密には混雑しているかどうかはチェックしてきてはいません。ただし、会期前半にテレビ局などの特集番組が組まれるはずなので、会期後半の土日はそれなりに混雑を覚悟したほうが良いかも。
それほど展示スペースが広くないので、ゆったり見たいのであれば平日に行くのが良いかと思います。
展示点数は80点ほどですが、どれも見応えがあるので最低でも90分は確保しておきたいところです。僕も、ブロガー内覧会で120分ありましたが、もう少し時間が欲しいくらいでした。
2.ナビ派ってどんな人達なの?~3分でわかるナビ派解説~
「オルセーのナビ派展」と言われても、まずは「ナビ派」って誰だよ?って話になりますよね。印象派や、そのあとのゴッホ、ゴーギャンは知ってるし、20世紀に入ってピカソやマティスはわかるけど、「ナビ派」って言われると、急に何かマニアックな感じがしてきてしまいます。(僕の感覚だけですか・・・)
そんなマイナーな「ナビ派」ですが、ブログ冒頭でも書いたとおり、印象派以後の画家たちが19世紀末(1888年頃~1900年頃まで)に、アカデミー・ジュリアンで学ぶ仲間たちを中心として新しく結成した前衛的な絵画の一流派でした。
ナビ派結成には、去年「ゴッホとゴーギャン展」でも大きく取り上げられたゴーギャンが大きく関わっています。1888年、ポール・セリュジエが、フランス北部ブルターニュ地方で、画家たちの聖地となりつつあったポン・タヴェンを訪問した時からそのストーリーが始まります。
当時、ポン・タヴェンでは、ゴーギャンやベルナールらが、すでに印象派や写実に基づくアカデミー的な絵画からは大きく外れた、平面的で心に浮かんだ心象風景を大胆な色使いで描いていく「総合主義」という画風を打ち立てつつありました。ゴーギャンを慕い、ポン・タヴェンに集っていた仲間たちを、ポン・タヴェン派と呼ぶこともあります。
そんな中、セリュジエもゴーギャンと一緒に戸外で写生した時に、その熱血指導?を受けることになりました。その時の会話も残っています。(Wikipediaより)
「あの樹はいったい何色に見えるかね。多少赤みがかって見える? よろしい、それなら画面には真赤な色を置きたまえ……。それからその影は? どちらかと言えば青みがかっているね。それでは君のパレットの中の最も美しい青を画面に置きたまえ……。」
その時に完成した絵画が、「オルセーのナビ派展」にも出展されているこの作品「タリスマン」です。以後、この小品は、彼らナビ派の原点・聖典として文字通り彼らの「護符」(タリスマン)として大切に扱われました。
ポール・セリュジエ「タリスマン」
ゴーギャンの大胆な筆使い、色彩感覚に度肝を抜かれ、すっかり魅了されたセリュジエは、その日パリに戻ってから、興奮覚めやらぬ中、「タリスマン」を片手に、アカデミーとは全く違うその作風を仲間に伝えました。
それに共鳴したモーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイアール、ピエール・ボナールらは、ヘブライ語で「預言者」を意味する「ナビ」派という新しい前衛絵画グループを立ち上げました。
以後、彼らはポール・ランソンの自宅へ定期的に集まります。作品を互いに批評したり、秘密結社のように彼らだけに通用する独自用語や制服、しきたりなども作り出して、結束を高めるのでした。
ナビ派では、「絵画とは、2次元の平面に描かれるものだ」という絵画の大前提を改めて強く意識しつつ、
・明るく平面的な色調
・写実主義を否定し、装飾的な心象風景を描く
・簡素でかわいい画風
といった、これまでの印象派やポスト印象派にはなかった作風を模索して、19世紀末の最先端の前衛的な芸術を作り上げました。
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3.「オルセーのナビ派」展とは
これまで、ナビ派の絵画がまとまってグループ展としてがっつりとりあげられる機会はなかなかありませんでした。散発的には紹介されていましたが、「◯◯美術館展」みたいな展覧会で、モネやルノワールら印象派だったり、ピカソやマティスなど大物の影で、脇役として数枚ナビ派の画家たちの絵画がひっそりとかかっているくらいでした。(つい先日も、各地を巡回した「デトロイト美術館展」で、ドニやヴァロットンが1点ずつ出ていましたね)
これは日本だけじゃなくて、お膝元フランスやヨーロッパなどでも、つい20年~30年前までは、ナビ派の芸術はその程度の扱いだったのです。
ところで、美術界において、ある画家や流派が再評価されるには、誰かに強力にプッシュされて、アートファンに注目される機会がどうしても必要となります。日本でも、21世紀に入ってから大ブレイクした伊藤若冲や、2016年にプチブレイクした鈴木其一らは、美術館での革新的な総合展示会がそのきっかけとなりました。
同様に、美術史の片隅で忘れ去られていたナビ派が徐々に再評価され、ブレイクするきっかけを掴むことができたのは、現在のオルセー美術館館長、キ・コジュヴァルの功績によるところが大きいと言われています。
コジュヴァルは大のナビ派好きで、館長就任以来、ナビ派所属の芸術家達の絵画を世界中から強力に収集してコレクションを強化していきました。コジュヴァルの美術館改革は今も進行中で、印象派絵画を収拾展示する為に運営されていた「オルセー美術館」を、ナビ派を始めとした「象徴主義」画家たちの殿堂に変えつつあるといいます。
また、コジュヴァルは、自らライフワークとしてカタログ・レゾネを編纂しながらも、収拾したナビ派のコレクションを中心にドニやヴュイヤールといったナビ派の画家たちの個別の大回顧展を開き、世界中に企画展として巡回させて、ナビ派の認知度を徐々に上げていくことに成功しました。
日本でも、2014年に三菱一号館美術館で開催されたヴァロットン展は大成功を収め、新たにファンを開拓したといいます。
ヴァロットン「ボール」
今回、三菱一号館美術館で開催された「オルセーのナビ派展」は、オルセー美術館が所蔵するナビ派の画家たちのオールスター作品が揃いました。「◯◯展」と言いつつ、本当に◯◯が描いた作品は数点しか展示がない、よくある西洋絵画のオールドマスター系とは違い、出展された約80点全てが勝負作品なこの展覧会は、本当に貴重でハイレベルな展覧会であるといえます。
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4.ナビ派の画家たちって、どんな人がいるの?
(引用:三菱一号館美術館、特集ページより)
「オルセーのナビ派展」では、ナビ派メンバーに深い洞察を与えた、ゴーギャンやベルナールら、ポン・タヴァン派の画家たち(総合主義)と、ナビ派の主要メンバーを大特集しています。
1888年、ゴーギャンに直接指導を受けて開眼したポール・セリュジエを筆頭に、彼のアカデミー・ジュリアンの友人であったモーリス・ドニ、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、ポール・ランソン、ケル=グザヴィエ・ルーセルが結成時メンバーとなりました。AKBじゃないですが、「第一期生」といったところでしょうか。
その後、彼らの友人筋だったり、学友だったりといったところから、フェリックス・ヴァロットン(スイス出身)、アリスティード・マイヨール、ヨージェフ・リップル=ローナイ(ハンガリー出身)など、あとからナビ派に参加したメンバーには、外国人もいました。あるいは、ジョルジュ・ラコンブのように、絵画だけでなく、彫刻も手掛けたナビ派メンバーもいました。
一人ひとりの短評や解説は、三菱一号館美術館の特集Webページが非常に有用なので、リンクを貼っておきますね。
ナビ派にまつわる作家たち|オルセーのナビ派展:美の預言者たち ―ささやきとざわめき|三菱一号館美術館(東京・丸の内)
5.個人的に気になった展示
ポール・ゴーギャン「<黄色いキリスト>のある自画像」
(引用:National Gallery of Australia - Home)
自画像ですが、後ろの黄色いキリスト像は、まさにゴーギャンの心象風景そのもの。総合主義を切り開いたゴーギャンらしい1品で、展覧会の最初は、ナビ派に手ほどきをしたゴーギャンのこの絵画から始まります。
ケル=グザヴィエ・ルーセル「人生の季節」
人生の季節と題して、春夏秋冬4つの季節を、4人の婦人像で書き表した作品。まぁ冬と夏はわかるのですが、春と秋はどっちなんでしょう?妙に気になった作品でした。
モーリス・ドニ「ミューズたち」
比較的小品が多いナビ派の作品の中で、大型の部類に属する作品。背景に溶け込むように平面的に描かれた女性が魅力的な、イラスト的作品。紅葉シーズンに絵葉書などにぴったりフィットしそうな優雅な作品でした。
エドゥアール・ヴュイヤール「公園」シリーズ連作
小部屋一部屋を全て使って展示されたヴュイヤールの「公園」シリーズ。明るい色使いに牧歌的な風景が落ち着きます。こうやって飾ると、窓からそれぞれの風景が見えているようで視覚的に面白いです。
ピエール・ボナール「庭の女性たち」シリーズ
(引用:https://www.wikiart.org/en/pierre-bonnard)
「日本かぶれのナビ」と仲間内で呼ばれたボナール。浮世絵のように極めて平面的で、イラスト的な婦人像を描いた連絡シリーズ。1枚1枚の絵画のサイズが縦長で、江戸期の美人画のようです。
エドゥアール・ヴュイヤール「ベッドにて」
ナビ派を結成後、ドニやヴュイヤールはスピリチュアルな神秘主義へと傾倒していきましたが、顔の上にある「T」型の物体は、十字架なのだそうです。
6.グッズ・物販コーナーも充実!
今回は、内覧会ということで物販コーナーの写真も撮影することができました。食べ物・飲み物系が非常に目立ちましたね。個人的には、ナビ派の面々のかわいいイラストがいい感じのTシャツにかなり心動かされました。
Tシャツ
「大人の塗り絵」付き絵葉書
たくさんのワイン!!
いろいろな調味料など!
定番の書籍類・図録もあります!
7.まとめ
つらつら長く書いてしまいましたが、ぜひ、三菱一号館美術館に足を運んで、現場でナマの作品とじっくり対面してみてください!
オルセー美術館が保有する19世紀末に若手芸術家達が切り開いた流派「ナビ派」の 珠玉のコレクション群をまとめて見れる、素晴らしいチャンスを是非お見逃しなく!僕も、会期中最低あと1回は行く予定です!
それではまた。
かるび
「オルセーのナビ派展」関連書籍
ナビ派については、ようやくこの展覧会をきっかけに陽が当たってくると思われますが、展覧会に合わせて、色々とナビ派の関連書籍が発売されています。簡単に紹介しておきますね。
Kindle版「オルセーのナビ派展」図録!
紙媒体の図録はもちろん三菱一号館美術館で販売されていますが、Kindle版も合わせて発売されました。これは画期的ですばらしい!!正直、僕の住むウサギ小屋な都心の狭いマンションにはもう図録を置くスペースがないので、僕は断然Kindle派です。速攻ポチりました。これで、いつでも好きな時に楽しめる!
「かわいいナビ派」
展覧会を見ているとすぐに気づくのですが、装飾的・平面的で大胆なデフォルメされたナビ派の絵画はどこかイラストやマンガに通じるところがあって、本当に「かわいい」のですよね。「かわいい◯◯」シリーズで特集されるのも納得です。
何気にこの東京美術のかわいい◯◯シリーズは、表紙のゆるい感じに反して、中身の解説記事は意外に骨太なので大好きです。おすすめ。
美術の窓 2017年3月号
国内でナビ派研究では第一人者である、三菱一号館美術館館長、高橋明也氏も原稿を寄せ、ナビ派総力特集が組まれています。ナビ派誕生のエピソード、美術史におけるナビ派の位置付け、ナビ派のアーティストたちの各特集に加え、ナビ派を幾つかのキーワードでわかりやすく、かつマニアックに説明しています。これはオススメ!
展覧会開催情報
オルセーのナビ派展の詳細情報です。これだけのコンテンツなのに、国内に巡回しないのはもったいないなぁ!
◯展覧会名・会場・会期
三菱一号館美術館「オルセーのナビ派展」
2017年2月4日~5月21日
◯最寄り駅
JR東京駅/JR・地下鉄有楽町駅/地下鉄二重橋駅/より、それぞれ
徒歩数分
◯開館時間・休館日
9時30分~18時00分(入場は30分前まで)
祝日・振替休日除く金曜、展覧会会期中の最終週平日は20:00まで
休館日は毎週月曜日
◯公式HP・Twitter
http://mimt.jp/
https://twitter.com/ichigokan_PR