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東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と人事労務系の記事が多め。

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巨匠作品が撮り放題!デトロイト美術館展@上野の森美術館の感想

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【2016年11月2日更新】

かるび(@karub_imalive)です。

個人的に、この秋、関東地区で最注目している西洋美術系の展覧会は、「クラーナハ展」「ダリ展」「ゴッホとゴーギャン展」そして、この「デトロイト美術館展」です。すでに中部(豊田市美術館)、関西(大阪市立美術館)で開催が終了し、日本巡回展のフィナーレを飾るのがこの上野の森美術館で10月7日から開催されている東京展。

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様々な角度から楽しめる工夫のこらされた展示構成は、期待以上の満足度でした。以下、感想を書いてみたいと思います。

1.混雑状況と所要時間目安

行ってきたのは10月12日(火)朝9時30分です。写真撮影OKとなる最初の週だからなのか、平日朝一なのに軽く並んでいることにちょっと驚き。

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芸術の秋らしく、入場して30分も経つと大盛況に。3連休明けの平日朝イチとは思えません。土日ならさらに混雑が想されますので、会期中はできるだけ早めに行っておいたほうがいいかもです。

展示点数は52点と少なめなので、さらっと見ようと思えば1時間程度、写真と撮りながらじっくり楽しむなら90分程度あれば良いと思います。

2.実は閉鎖の危機にあったデトロイト美術館

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(Wikipediaより)

デトロイト美術館(以下、DIAと記載)は、1885年に設立された、伝統ある名門の公立美術館です。アメリカの「六大美術館」とも称され、開館以来古代エジプトから現代アートまで65,000点を超える膨大なコレクション量を誇ります。デトロイトの市民にも幅広く愛され、日常的に通い詰める地元の愛好家も多数いると言われます。

実は、DIAは2012年~2013年にかけて、その膨大なコレクションの流出と美術館閉鎖の危機にありました。地元自動車産業の不況停滞に伴う税収悪化から、デトロイト市の財政破綻が免れなくなったためです。DIAのきらびやかなコレクションを売却・放出することで、財政危機を乗り切ろうとする動きが表面化しました。

最終的には、調停に入った弁護士、キュレーターらが奔走し、市民からの寄付や各財団からの資金拠出が間に合ったことにより、DIAの運営母体がデトロイト市から切り離され、DIA及びその美術品たちは間一髪で流出をまぬがれることになりました。

日本からも、トヨタ自動車とその関連企業など20社が、ささやかながら約2億円の寄付を実行しました。自動車産業つながりでデトロイト市と姉妹都市として提携している豊田市のお膝元ですし、危機の一因は70年代後半~80年代の日米自動車貿易摩擦にもありますからね。

この時の一連の寄付がきっかけで「返礼」の意味も兼ね、今回の展覧会が実現したのかもしれません。(※公式にはアナウンスされておらず、裏がとれないのでこれはあくまで推測です)

3.デトロイト美術館展とは

そんなわけで日本にやってきたのは、デトロイト美術館が所蔵する珠玉の西洋絵画群52点。「なんだ、52点か少ないな・・・」と一瞬思うかもしれませんが、その内容がヤバいのです。約65,000点の収蔵品から厳選された52枚の絵画は、まさに西洋絵画の歴史に名を残す巨匠三昧であります!

入館して最初の1枚目からいきなりルノワールで始まり、つづいてデトロイト美術館が多数所蔵するドガが来ます。そして、クールベ、ピサロ、モネ、ゴーギャン、ゴッホと教科書に出てくるオールドマスター達が怒涛のように続きます。

2階に上がると、ドイツ・フランスの近代絵画群が。目に飛び込んでくるのはまず、カンディンスキー。キルヒナーやノルデ、ルオーを見て、最後の部屋ではモディリアーニ、セザンヌ、ピカソ、マティスが複数枚お待ちかねです。

西洋絵画好きなら全作品ハズレ無しの名品群なので、もう52点でお腹いっぱいです。しかも、曜日によっては全作品写真撮り放題なので、自宅に帰ってからも画像で見返せるというおまけつき。すごくないですか?

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4.デトロイト美術館展の5つの楽しみ方

公式HPにもありますが、本展は、美術館で「見る」だけの展覧会ではありません。「触る」「聞く」「読む」など、様々な角度から楽しめるように工夫が凝らされていました。

4-1:楽しみ方①:写真が撮り放題の大盤振る舞い!

ゴッホ「自画像」が大人気f:id:hisatsugu79:20161011164830j:plain

光に強い油絵が多いデトロイト美術館では、写真が撮り放題。本展覧会でも、会期中、月曜日、火曜日は、本国のルールに則って全写真撮影OK(ただしフラッシュや動画は不可、一部作品はSNS等への掲載不可)となります。海外からの企画展で撮影フリーな美術展はそうそうありませんので、名品たちをカメラに収めておきたい!という人はチャンスですね。

4-2:楽しみ方②:展示作品に触って楽しむ!

もちろん、本物にはさわれません。出口~物販コーナーの間の通路に置かれた、本展覧会のために精巧に複製されたデジタル複製画が対象です。凄いのは、単に平面に印刷されているわけではなく、原画の筆触や油絵のうねり、立体感も精巧に再現されているということ。だから「触って楽しい」のです。

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上記は、ゴッホの絵にペタペタ触る来館者。ゴッホ晩年の作は、タッチが荒々しく、うねるような筆使いは触ってみるとやっぱりインパクトがあります。会期が終わりの方になったら、手垢で黒ずんでそうですが・・・(笑)

東京国立博物館のVRシアター(トッパン・シアター)も凄いですが、作品にじかに触って絵画を楽しむというデジタル技術の発達も画期的です。できればルオーのすんごい厚みのあるやつに触りたかった(笑)

4-3:楽しみ方③:音声ガイドは鈴木京香+原田マハ

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もちろん、音声ガイドもありました。担当しているのは俳優の鈴木京香。年齢の割に声がシックで落ち着いた解説は、作品への集中力を高めてくれそうです。解説部分とかぶっている部分が多かったから、個人的にはもっとマニアックでも良かったかな。

プラス、元キュレーターとしてアメリカで働いた経験がある作家、原田マハによるボーナストラックが2編ついており、展覧会と連動した小説「デトロイト美術館の奇跡」で取り上げた絵画、セザンヌ「画家の婦人」の解説と、DIAでドイツ表現主義系の絵画を力を入れてコレクションした名館長、ヴァレンティナーの功績についての解説を聞くことができますよ。

4-4:楽しみ方④:デトロイト美術館展実現までの奇跡のストーリーを楽しむ

上述した通り、デトロイト市の財政破産に端を発するDIAの美術品流出危機は、最終的に各財団等からの大口の寄付や草の根での募金活動により回避され、収蔵品は守られました。このドラマチックな経緯を、今展覧会にも出展されているセザンヌ「画家の婦人」にまつわるストーリーと組み合わせ、美しく小説にまとめあげたのが、原田マハ「デトロイト美術館の奇跡」。先行して「芸術新潮」誌に集中連載されていましたが、東京展でなんとか単行本の発売が間に合いました。

このストーリーを読むと、2016年に「デトロイト美術館展」が開催できたのは小説のタイトル通り、「奇跡」だったのだな、とわかります。展覧会実現の心あたたまるサイドストーリーとして、展覧会を楽しむ重要アイテムです!

4-5:楽しみ方④:図録を楽しむ

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また、今回は図録の出来も非常に良いです。何よりコンパクトで見やすいのです。美術館の解説パネルや音声ガイドより一段と丁寧なわかりやすい解説が、絵画とセットで1枚ずつ見開きごとについています。会場限定での購入ですので、ぜひ。

5.きらびやかな巨匠たちの絵画からお気に入りを10枚紹介!

ゴッホ、セザンヌ、ルノワール、マティスなど次から次へと巨匠たちの絵画が続いていく中で、個人的に特に心に残った絵画を紹介しますね。全体的に、鑑賞者の目を引き付けて離さない「力のある」絵画が多かった印象です。

5-1:ルノワール「座る浴女」

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南仏へ移住した後に描かれた、ルノワール晩年の作品ですね。腰より下の下半身が異常なほどに豊満でふくよかな、作家にとって理想の裸婦像を追求した一枚。

5-2:ドガ「楽屋の踊り子たち」

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踊り子の絵を何枚も描いたドガですが、何故か本番のバレエシーンではなく、練習中だったり、本作のように着替えシーンだったりが多いのですよね。画面中央の女の子は、大事な商売道具のコントラバスに無造作に足をかけて靴を脱いでいます(笑)「生活のためにあたしは踊ってるんだよ!」・・・みたいな。ドガ、凄い観察力です。

5-3:クールベ「川辺でまどろむ浴女」

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キリスト教にちなんだ聖女ではなく、生身の現実に生きるリアルな女性を写実的に描いたクールベ。泉に足を浸して、寝ているような安らかな顔に、ふくよかで健康的な肉体は、いつまでも見ていたくなるような、非常に引き付けられる魅力がありました。

5-4:ゴッホ「オワーズ川の岸辺、オーヴェールにて」

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ゴーギャンと喧嘩別れし、酷くなった「うつ」を治すために静養中の郊外で描いた一枚。のどかな田園風景なはずなのに、全面寒色系でヒステリックまでに強い筆圧で塗りたくられたキャンバスからは狂気がぷんぷん臭ってきます。

これを仕上げた数週間後に、ゴッホは亡くなりました。思い詰めたゴッホの心の中を映し出した迫真の一枚でした。写真だとわかりにくいから、ぜひリアルで絵の前に立って見てほしいです!

5-5:ドニ「トゥールーズ速報」

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アール・ヌーヴォーを想起させる優美な装飾性と平面性に目を奪われました。元々新聞「トゥールーズ速報」のために制作された広告の絵画版ということで、絵画というより図案的な美しさが印象的でした。足が浮いて、どこかへ軽やかに飛んでいきそうな女性の優雅さがすてき。 

5-6:カンディンスキー「白いフォルムのある習作」

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完全な抽象画へ移行する直前のカンディンスキーの絵画。かろうじて何か具象物を描いていることがわかりますが、色彩の鮮やかさやにぎやかさ、躍動感はカンディンスキーの個性が出ている作品。不思議と気に入りました。

5-7:キルヒナー「月下の冬景色」

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キルヒナーの心情をキャンバスに叩きつけたかのような、圧倒的な原色で覆われた絵画です。ピンク色に怪しく光る木々とテカテカの水色で覆われた険しい雪山、さらにオレンジ色の空は、非現実的な一種の夢の世界のようでした。

しかし、描いた本人は至って冷静で、「今朝早く、素晴らしい月の入りを見ました。小さな桃色の雲の上にある黄色の月と済んだ深い青色の山々、本当に素晴らしい情景でした」と友人に書簡を当てています。な、なるほど・・・。

5-8:セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」

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セザンヌといえば、りんごの静物画とこの山の風景画なわけですが、木々と空の風景の境目がわからないくらい溶け込んでいる独特の幾何学的な筆触がみごたえ十分。ピカソもマティスもこれを見て勉強したんですね~。

音声ガイドで紹介された「自然の中のすべてのものは、円と円錐と円柱によって形作ることができる」というセザンヌの名言が印象的でした。

5-9:モディリアーニ「女の肖像」

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これまで、モディリアーニの絵は何が良いのかイマイチピンと来てなかったのですが、実物を見て、さらに音声ガイドで「最小限のディテールで、最大限の人物表現を表した」20世紀最大の肖像画家だ、という説明を聞いて、妙に腑に落ちました。

5-10:マティス「窓」

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マティスがキュビスムに最も作風を近づけた1916年の作品。一見うま下手にしか見えないのですが、妙にしっくり落ち着き、作品から「飽きが来ない」のは、構図の妙やマティスの絶妙な色彩感覚のなせる効果なのでしょうか。展示されるあらゆる空間に自然に溶け込んでいそうな、平和な雰囲気のする作品でした。

6.まとめ

点数は少なめですが、1点1点が歴史的に価値のある巨匠の名作ぞろいで、非常に見応えがある展覧会でした。西洋美術好きなら、絶対行っておくべき!

上で写真を沢山貼り付けましたが、所詮はスマホカメラのクオリティ。やっぱり直接絵画と向き合い、絵の持つパワーを五感で感じてほしいです!

そして、じっくりみたら、記念に写真撮影もガッツリ楽しんでみてください。仕事の合間など、平日に都合が付く人は是非。間違いなくこの秋お勧めな展覧会です!

それではまた。
かるび

開催情報 展覧会名:「デトロイト美術館展」

※中部・関西地区の展覧会は終了
※写真撮影は、会期中の「月曜日」「火曜日」限定
会期: 2016年10月7日(金)~2017年1月21日
会場:上野の森美術館
公式HP:http://www.detroit2016.com/
Twitter:https://twitter.com/DIA_JPN

※会期中、東京都美術館「ゴッホとゴーギャン展」との相互チケット割引があります。上野の森美術館チケット売場で「デトロイト美術館展」の当日券を購入する際に「ゴッホとゴーギャン展」の観覧券(半券可)提示することで、「デトロイト美術館展」の当日券が100円引きとなります。詳細はこちらから。
東京展 [開催概要] | デトロイト美術館展

※また、「ゴッホとゴーギャン展」の拙レビューはこちらです。もしよろしければチェックしてみて下さい。 

また、10月15日からは、上野の森美術館のすぐ横の、国立西洋美術館にて「クラーナハ展」がスタートしました。中世ドイツ・ルネサンスの巨匠の作品には、今回展示されているピカソなども影響を受けています。「西洋美術展」をはしごするなら、こちらもぜひチェックしてみて下さい。間違いなくお勧め。

おまけ:今回の展示会の予習/復習で役に立ったもの

本文中でも紹介しましたが、もう一度貼っておきますね。120ページ程度とコンパクトな作品なので、2時間もあればしっかり読めてしまいますよ。原田マハは「ジヴェルニーの食卓」「楽園のカンヴァス」など、西洋のアート作品と絡めた小説を描かせたら本当に上手ですね。淡々とした描写の中に静かに感動が広がる作風が好きです。